アドニスたちの庭にて

    “温かいお手をどうぞvv”

 


 仰々しい靴といい装備といい、ただでさえ不慣れで不安定な足元だってのにね。それで氷の上に立つなんて、思えば大変な話ですよね。知ってるかい? 氷って、地球上で最も摩擦の少ない物質の1つなんだって。いつも思うんだが、そういう時の“最も”ってのは訝
おかしい言い回しじゃねぇか? そうですよね、最上のものって形容詞なのに、それが幾つもあるなんて。あれじゃないの? 数値的に甲乙つけがたい、僅差のものが多すぎるとか。それか、同じ条件下に揃い難いもの同士だから、どっちが上だと競わせることが不可能だとか…。
“凄いなぁ。何でも話題にして、しかも何歩でも深くまで、豊かな内容のお喋りへって掘り下げることが出来るなんて。”
 何へでも造詣が深くていらっしゃるお兄様たちのお声が連ねておいでの蘊蓄話へ、凄いな〜、博識でおいでだな〜なんて、ついつい意識が逸れたせいもあったのかも。独りではまだ満足に立って歩くのさえ出来ない身だったのにね。だから、

  「………っ! ひゃあっっ!!」

 バランスが崩れて、それからは あっと言う間。体が宙に浮いたというか、足元から軽々と吹っ飛ばされたような感覚に攫われて。自分が上げた声がエコーをまとったまま、周囲のざわめきに呑まれるのを追えたのは。思っていたより冷静だったから…と言うよりも、それほどまで注意力がとんでもない方向へずれ込んでいたからだろうと、後になってから恥ずかしくも自己分析出来た、小早川さんチの瀬那くんであり、
「セナくん?」
「大丈夫ですか? どこかぶつけてはいませんか?」
 お尻にかかる長さが祟って、愛らしい玉子色のモヘアのセーターの裾をちょっぴり濡らし、小さな弟くんがお見事に引っ繰り返ったことへ。それは素早く気づいて下さり、てきぱきと駆け寄って下さったお兄様たちの中に。頼もしさとそれから、セナへの傾倒度では負けるものなしな、雄々しき黒髪のお兄様がおいででなかったのは、
「進〜、セナくんは大丈夫だから。焦ってお前までがコケるんじゃないぞ〜〜〜。」
 広いリンクの上の、少し離れた向こう側にて。そちらさんも手摺りからその手が放せない状態にあったお兄様だったからに他ならず。さすがに、いかにもなへっぴり腰ではないものの、さっきもそりゃあ凄まじい音を立てて“ど〜んっ☆”と尻餅をついていた彼であり、
「チビはともかく、あいつまで滑れなかったとはねぇ。」
 交際術に社交辞令、はたまた電子機器の操作などなど、繊細なことへとことん不器用な分への帳尻合わせで、スポーツなら何でも来いだと思ったんだのにね。単純骨折した身からのリハビリ中ですという風情にて、日頃の威風堂々としている彼からは少々想像が追いつかないほどの覚束ない歩調のまま、手摺り磨きにあたってる姿がどうにも不思議でしょうがない。意外なことにも限度があるぞと、眉を下げての呆れ半分に苦笑をして見せた蛭魔さんの傍らで、
「初心者なんだからしょうがありませんよ。」
 ウチの学校ではスキーやスケートは特に必修じゃあありませんしねと、高見さんが擽ったげにやはり苦笑をし。そんな彼らの視線の先、このリンクに常勤しておいでのインストラクターのお兄さんからの指導を受けつつも、気になりはするのだろうこちらへしきりと視線を向けている、シャツへと重ね着た濃色のトレーナーにワークパンツというそれはそれはシンプルないで立ちの、頑丈そうな体躯のお兄様へは。フードから襟までを縁取るラビットの毛並みが疾走することで起こる風になびいてそれもまた優雅な印象のまま、バランスの取れた長身を軽快になめらかにすべらせて近づいた桜庭さんが、手振りも交えて何事かを懇々と話しかけている模様。
「大方、こっちを気にする余裕があるなら、一刻も早く上達してセナくんの杖代わりになってやりなさいって、発破をかけに行ったってトコでしょうよ。」
 クススと笑った高見さんも、細い肩をすくめて見せた蛭魔さんも、それはお上手にすべれる方ばかりであり。ただでさえ目立つ容姿の方々なのに加え、何の不安もない安定した足元にて、ひょいひょいと移動なさったり転びまくりのセナを支えて下さったりを苦もなくこなしておいでなものだから。さっきからのずっと、リンクのそこここで華やかなお声を上げて遊んでいる、主に女性客たちからの注目が引っ切りなしに集まってもいて、
「ほれ。お前も頑張って、せめて立てるようになんな。」
「あ、は・はいっ!」
 手を差し伸べて下さったところへと掴まったまではよかったが、踏ん張った足への力のかけようが悪かったのか、
「あっ、や…っ、ひゃあっ☆」
 膝さえ真っ直ぐ伸びないままに、同じ場所にてお尻をすとんと落としてしまったセナくんもまた、上達するまではなかなか手古摺りそうな初心者さんであるらしく。
「俺らにも声かけたのって、ホント、正解だったなお前。」
 あっちもこっちも両方ともがこの樣じゃあ、帰るまでちゃんと巡り会えるのかさえ覚束無いぞと、苦笑混じりに仰せの蛭魔さんへ、
「あやや…。////////
 そんなそんな滅相もないっ、コーチしていただこうと思ってのことじゃあなかったんですようと、頬を赤くし、懸命に言い訳しかかる小さな弟くん。とはいえ、そんなお言いようも、最初の一言さえ出ないままに、
「ひゃっっ!!」
 またまたエッジが氷に搦め捕られて…すってんころり。一向に立ち上がれないまんまな彼なのへ、
「…ちょっと休憩しましょう。」
 そう言って高見さんが肩越しに振り返ったのは、リンクへと下りる入り口であり、彼らが立ってた位置の本当にすぐ間際にあったりする。降り立ってから結構時間は消化していたものの、1mも進めてはいないセナくんだったからこそのお声かけであり、
「気分を変えた方がいいのかもですしね。」
 普通に“立つ”ことへ必要な重心バランスさえも、すっかりと忘れてる彼みたいだったからと。涙目になってた小さい弟くんの二の腕を取り、引き寄せた体を半ば支えるようにして、それは手際よく“陸”へと引き上げて下さったのでありました。






             ◇



 皆様とはお久し振りの顔合わせだってのに、のっけからのいきなりバタバタしまくりな彼らでございましたが。白騎士学園高等部の名物生徒会を、つい先秋まで担っておられた皆様方、桜庭春人さんに進清十郎さん、高見伊知郎さん、そして…表立っては謎の麗人、実は実は生徒会の隠密役を完璧にこなしておられた“陰の功労者”であらせられる蛭魔妖一さんという、お姿も成績や功労、肩書きも、それは華麗で目映いばかりの顔触れの方々がお揃いな面々と。それからそれから、ひょんな経緯からそんなお兄様方と行動を共にし、愛らしくも働き者な“マスコット”としてお手伝いをしていた弟くんの、小早川瀬那くん、というご一行。もしかせずとも校史にも残るに違いない、優秀な人材揃いの尚且つ綺麗どころたちというそんな彼らが、珍しいことにも学校の外にて顔を揃えている此処は、桜庭さんのご実家が傘下に収めて経営しているスポーツセンター系列の、大きな大きなスケートリンクだったりする。JR沿線、しかも快速停車駅の間近という勝手のいい立地なその上に、建物自体が結構な大きさのこの会館の、殆どの部分を占有している広々としたこのリンク。冬だけでなく一年中、それはコンディションのいい銀盤を常設しているというところから、フィギュア部門の有名選手などが、ワールドGPのツアーを前にしての調整やオリンピックのための強化合宿での練習にと使ってもいることでも、その筋では有名なのだそうで、
「それでなくとも、冬季五輪がいよいよのカウントダウンですしね。」
 会員指定の日でも結構な混雑になるほどに、一般の利用客も例年以上というから、スケート人気はここでも歴然としている現象であるのだとか。今日も今日とて、カラフルなフリースやサテン地の、ジャケットやウィンドブレーカー姿のお客様たちでキャッキャとにぎわうそんな中にあって、一際 目を引くこちらさんたちは、決して“オリンピック・イヤーだから…”と便乗したクチではないのだけれど、
「だったらだったで、もっと自分の得意なジャンルでのデートと運ぶもんだろ、普通。」
「で、でーとだなんて、そんなっ。//////////
 真っ赤になって、あたふたと。躱すための言い訳さえ思いつかないそのまんま、慌てふためく様子がまた可愛い小さな弟くんの、照れからではなく寒さから、真っ赤っかなままだった頬へと手のひらをそっと伏せてやり、
「判ーかったから、ちっとは落ち着け。」
 今度こそは…優しく微笑って下さった、金髪痩躯のお兄様。彼もまた、その色白な頬へとほのかに朱を散らしていて。いくら暖房が効いていても、氷が間近い場所柄から、仄かに寒いのが差してのことか。今は細められたる切れ長の瞳の、そこへと浮かべる表情の柔らかさが、何とも言えず優しく甘く。日頃は謎めきの雰囲気とともにクールに冴えた態度でもって、人を睥睨しては挑発的でばかりいなさる方なのにね。思えばセナくんへは、いつもいつもこんな風な、優しい眼差しをそそいで下さる方でもあって、
「声をかけたのは、あんのサクラ馬鹿だってな。」
 専門職のお兄さんの腕前を疑った訳ではなく、ただ、口数が少なすぎる取っ付きにくい生徒さんの相手は大変に違いなかろうからという気遣いから。インストラクターのお兄さんを手伝って、進さんの練習の補助を買って出ている桜庭さんが、此処からだと対面にあたる遠くに見えており。意識して派手な動作を見せずとも、抜きん出た容姿や躾の行き届いた優美な所作は、人の目を引き寄せるには十分すぎる要素であって。リンクの形に沿って、回遊魚みたいに周回している女性客のグループなどなどが、彼らの傍らに差しかかるとスピードをつい落とすのへと気づいてか…こちらさんも微かに微かに眉を寄せた、金髪美麗な悪魔様、
「三学期に入れば、本格的に受験シーズンへ突入で、三年の俺らは殆ど学校にも来なくなる。あの朴念仁はそれでなくとも鈍いのに加えて、目の前に居ない者への気遣いなんて思いも拠らないほどだろうから、お前への構いだても激減するに違いないって決めつけてやがってな。」
 つくづくとお節介な野郎だよなと笑ってから、
「それで、此処への招待券が山ほどある、なんて言い出したんだろう?」
 嘘はついてないけれど、いかにも見え見えな“お気遣い”でもあって。だからこそ、
「でもなぁ。お誘いの方は断ったって良かったんだぜ?」
 こうまで苦手なお遊びなのだし、しかも桜庭からのお誘いってことは、セナと進との二人っきりでの逢瀬って格好にはならないだろに。こういうお誘いがかかったことはあくまでも“切っ掛け”にして、そこからの連想で“ああそうだ、ずっと逢えないままではセナくんも寂しかろう”と進が思えば重畳なんていう。そんな程度の、つまりは“ヒント代わり”の口実に過ぎなかったのにね。
「お前の方から“皆でスケートに行きたい”なんて、具体的なところを言い出したんだってな?」
 薄手だが防寒作用が抜群だという特殊生地の、タートルネックの黒地のカットソーに、さほど重たくはない加減にダウンの入った小粋なデザインのブルゾンを重ね着た蛭魔さんの、それは撓やかな腕が伸びて来て。まだどこか子供の気配も色濃い小さな手にて、ココアの入ったカップを抱え込んでいたセナくんの、つややかな癖っ毛をその指先へもしゃりと搦め取る。リンクを見渡せるボックス席になった喫茶コーナーまで撤退していたこちらさんたちは、話の肴にというよりは、そこにおいでの誰かさんが癇癪を起こさない程度にと時々氷上へも視線をやりはするものの、手元においでの小さな弟くん本人の方が、よほどに可愛くて からかい甲斐もあるからと、こちらにばかり集中しておいでであり。なんでまたそんな、突拍子もないことを言い出したかねぇと、それがどうにも腑に落ちなかった蛭魔さんであったらしいが、
「だって…あのその。////////
 自分のお口からは言いにくいらしき彼の心情を紐解けば。自分を見守って下さっている直接のお兄様の清十郎さんは、たとえ大学へと居場所をお移しになられても、どうしてもお逢いしたいとセナくんが呼べば駆けつけて下さりもするだろう。だがだが、それじゃあ他のお兄様は? 同じ白騎士の大学部へ進学なさる桜庭さんや高見さんだとて、それぞれにお忙しい身になられるのだろうし、蛭魔さんに至っては、アメフトで有名ながら…白騎士からはちょびっと遠い大学へと進学が決まっていらっしゃる。春になったらもう、そう簡単には逢うことが適わぬ人となってしまう方々だからね。
『それで、是非とも皆さんで…って言い出したらしいんですよ。』
 そういう気遣いへは一番に気が回る、高見さんから諭されて、そうかそういう可愛いことを言う奴なのかといたく感じ入ったらしき金髪の悪魔様。恋人さんよりもセナくんの方へと逢いに、大学へと進まれてもちょくちょくお顔を出して下さるようになるのだが、ままそれは後日のお話。
「まあ、もう少ししたら進の野郎がそこそこ滑れるようになろうから。」
 何ならこのテーブルの周りで、まずは靴に慣れておこうかと。そんなことを言い出して可愛らしい後輩くんをますます真っ赤にしちゃった、ちょっぴり意地悪な蛭魔さんだったりするのであった。






            ◇



 さすがは運動神経抜群の仁王様。ほんの数時間の体当たりレクチャーのみにて、手摺りも要らないその上に、その懐ろのお手元へ、オクラホマミクサーあたりのダンス・パートナーのようにエスコートしたセナくんの手を引いて、そのまま延々と滑っていられるほどという、とんでもない上達ぶりをご披露下さり、
「こりゃまたとんだ“歩行器”だな。」
 やっぱりへっぴり腰になりかかるセナくんの、その細腰へと添えられた手が、片手で軽々と彼を自分の胴へと押しつけており。それでもって…セナくん自身の体重が、本人の足元へは殆どかかっていないような抱えようになっているから恐ろしい。
「…それってもはや“スケート”じゃないような。」
 そうですねぇ。
(苦笑)
「まあまあ。少しずつ手から力を抜いてって、足元を慣らせばいいじゃないの?」
 やっとのこと、一緒に楽しめるという態勢になれた二人なんだもの、お邪魔しちゃあ悪いでしょと、桜庭さんが場を宥めてそれから。それでは行こうかと、手を取り合ってすべり始める“本命さん同士”のお二人であり、
「…やっぱ“スポーツ馬鹿”だよなぁ。」
 最初を覚えてっか? あいつ、リンクへの入り口でまずは見事に引っ繰り返りやがってよ、危うく後に続いてた俺まで下敷きにしかかりやがったんだぞ? 忌ま忌ましいと口許を歪めた蛭魔さんへは、
「何だよ、妖一。セナくん持ってかれて寂しいの?」
 くすすと笑った桜庭さんが揶揄
からかうような言い方でのお言葉をかけたが、
「…ああそうさな、寂しいな。今から追っかけてって攫って来ようか。」
「妖一さんてば…。」
 そこで図星を指されたことへと ぐうの音も出なくなって言い淀まずに、しゃあしゃあと言い返す方が強腰だっていう、何ともややこしいバランスの絶妙なやり取りを聞きながら、
“負けず嫌いはお互い様なんですよね、お二人とも。”
 高見さんが苦笑を堪えておられたのは言うまでもなく。そんなこんなでごちゃごちゃなさってる方々を覗いていても実りはないしと、現金ながらももう一方へと視線をば転ずれば、

  「…本当に凄いですねぇ、進さんて。」

 蛭魔さんが言ってた“歩行器”という表現が、悔しいけれど本当に絶妙に当てはまる。判りやすくも抱え上げられている訳でなく、足はちゃんと氷へ接しているから、あのね? 自分できっちりと滑れているような気分を重々満喫出来るほど、それはしっかと、それでいて余裕たっぷりに、セナくんの肢体を支えきれているお兄様であり、
“今日初めてスケート靴を履いた人だなんて、嘘みたいだよう。”
 つーい・つーいとそりゃあなめらかに、しかも懐にかばってるセナくんの歩調というもの、把握してあげてのフォローをきちんとこなせているエスコートっぷりは、さっきまで手摺りから離れられずにいた彼を見ていた人はおろか、直接の特訓を手掛けていたインストラクターのお兄さんまでもを唖然呆然とさせたほど。
“…まさか、オーナー一族の桜庭様がお連れになられた、チェック係の方だったとか。” きちんと利用者の身になって、たとえ初心者が相手でも親身になっての指導が出来る技量がある人が、指導員としてお仕事にあたっているかと、隠密調査に来られた人であり、実は彼もまた、プロ級にすべれる指導員の人であったんではなかろうか。あわわ、俺、ちゃんと指導してたよな。そりゃあ、ちょっとはあのその、周囲をすべってる女の子たちが彼の方をばっかり注目していたから。全然すべれない奴なのにきりりとしてる精悍な顔立ちってのは得だよなとか、なのに“可愛いvv”なんて囁かれてるなんておかしいよななんて、少しも思わなかった訳じゃあなかったけれど。態度には出てなかったよな、俺、一所懸命やってたよなと、自問自答してたりなんかしていたから…相変わらず、ほんに罪作りなお人たちな訳で。
(笑) そうまで周囲の度肝を抜きまくりの“奇跡”を起こした、やることは至って地味なのに、やっぱりお騒がせなお兄様はといえば、
「目標があったからな。」
 そのままフィギュアのペア部門として音楽が流れ出したって不思議じゃあない、背後からのくるみ込み態勢は…やっぱり立派な“歩行器”っぽく。そんな補佐を続けながら、進さんが静かに応じてくださって。
「間近い目標が目の前にあると上達も早いというが、こうまで早く身につこうとは思わなかった。」
「…目標?」
 大好きなお兄様の広くて深い懐ろの中。やさしいフォローにすっぽりとくるみ込まれていながらという、言ってみれば夢のような態勢にあったからだろうか。最初の内こそ、それでもやっぱり転ばないかと心配して、足元へばかり集中していた意識が、ようやく少しほど緩んで来たらしく。何のことを仰せなの? と、それは愛らしく見上げて来た弟くんへ、

  「小早川とこうやって居られるようにっていう目標だ。…目的、かな?」
  「あ…。/////////

 彼もまた得意ではないながら、それでもせっかくお誘いに応じてくれたのにね。自分の示した爲體(ていたらく)は、あまりにも不甲斐ないほどだったので、これは是非とも今日中に、上手にこなせるようになり、他の皆の手から弟くんを奪還せねばと。…何だか後半部は、セナくんが皆さんに略取でもされていたかのようなお言いようだったが、そのくらいに歯痒かった進さんだったということでもあって。
“あ…えと。////////
 あのね? セナの小さな手を包み込んでる進さんの大きな手の温かさとか、セナの肩へとくっつくほど間近になってる進さんのお胸とか。今になってやっと、そうまで至近にいて下さってるってことに気がついて。
「…あっ☆」
 焦ったそのまま、体のバランスが崩れたらしく、踵がすべってたたらを踏んで、後ろへと倒れ込んだその身を、やはり軽々と支えてしまい、

  「小早川が転んで上げる声が聞こえるたび、早く早くと気が焦って。」
  「……………☆ /////////

 はやや〜〜〜。/////// お願いしますから、こんな間近になった時に、その凛々しい深色の眸で真っ直ぐ見据えつつ、そんな甘いお言いようをなさるのは………。////////

  「だ〜か〜ら。何でああいう、気が利かない抜けたことを言うかな、あいつはよ。」
  「そうですか? 進にしてはなかなか気が利いてましたよ?」
  「はっ。大方、サクラ馬鹿に吹き込まれたまんまを言っただけだろよ。」
  「あ、酷っどーい。その呼び方は辞めてって、いつも言ってるのにぃ〜。」

 やっぱりな〜。どうやらそういう“受け売り”であったらしいです。朴訥な仁王様と可憐で可愛らしい弟くんの、なかなか進展しない道行きへ、ついつい焦れた誰かさんが余計なことを吹き込んだらしく。ますます前途多難な気がしたのは、果たして筆者だけでしょか? 何はともあれ、間近い春より一足早く、二月といえばの甘いイベントさえ蕩かして。それはそれは甘やかな温もりと幸せを、しっかと体感しちゃった、小さなセナくんだったりしたようですよvv





  〜Fine〜  06.2.08.


  *お手をどうぞという言い回しを、
   いつもいつも“お手を拝借”と書きそうになる、
   生来からのお調子者でございます。
(おいおい)

  *何ででしょうか、唐突に思い立ったのが、
   スケート場にて集合しちゃうお兄様たちというコンセプトだったのですけれど。
   そういや“受験生”なのに余裕ですよねぇ。
(苦笑)
   何でもこなせそうなお兄様たちですが、
   それぞれに苦手があっても良いんじゃないかということで、
   進さんは精密機械の他に、実はスケートも未経験だったと。
(笑)

   ちなみに、他に候補に上がったのは

     @泳げない A自転車に乗れない B音痴  でした。
(う〜んう〜ん)
   

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