『マリア様がみてる』というコバルト文庫の小説がアニメになって放送されておりますが。池田理代子さんの『おにいさまへ…』を知っている世代には、何だかちょっと擽ったいというか。でもでも、ところどころに、強気で芯の強い…自立心旺盛な女の子たちの姿勢も詰め込まれているのが新鮮というかで、今のところは結構ほほえましく観ているのですが。(陰湿ないじめとか悪質な噂ネタとか出て来たら即効で縁を切る所存。)
――― これって"あの人たち"でやったら笑えないかな
…もとえ(笑)
案外とハマまらないかなと、ちょっと考えてみてちゃいまして。
舞台となるのは、名家や資産家の子息たちが集う学校。幼稚舎から大学までの一貫教育による、質実剛健、清廉潔白な人物養成を謳い上げる総合学園。…ここで"仏教の学校"だとすると何だか華やかでなくなるような気がするので(っていうか、それだと まんま"神龍寺"だし)、こちらもやはりミッション系の男子校ということで。制服は濃紺のファスナータイプの詰襟。(ちなみに、初等部・中等部はブレザーと棒タイ。)男子校なのだが清潔で明るく、雅で優美な施設に校舎。(いえ、男子校への偏見がある訳では…。)ミッション系だからステンドグラスに飾られた聖堂もある。ガラス張りのロココ調温室だとか、壁にマロニエの伝う野外音楽堂、もみじの古木を望める茶道室なんてのもあり、洋館のような作りの旧い別館が生徒会室で、現在の生徒会長さんは桜庭春人さんという華やかな美貌の君。元は華族の出だという財閥の跡取りで、時々は芸能活動もなさっておいでの有名な方。副会長さんは進清十郎さんという物静かな凛々しい人で、実家は某茶道のお家元。ご本人は高名な剣道道場の師範代を務めている猛者でもある。執行部代表が高見伊知郎さんという方で、こちらもまた高名なお家柄の長男坊さん。しかも高校生のチェスの世界での世界チャンピオンという秀才さんだとか。異例なことに、お三方とも まだ2年生で、されど、上級生の方々からも不平は一切ないとのこと。
…で。
『マリア様〜』には"スール"なんていう姉妹関係が出て来まして。上級生が見初めた下級生を"妹"とし、校内での保護監督を担い、礼儀を教え、人との関わり方や何やを指導する。
――― はしたないことをすればお姉様が恥をかく。
考え方としては古めかしいけれど、これが一番手っ取り早いのも事実であり、殊に、生徒会を担ってらっしゃる3人の"薔薇様"たちの妹は、そのまま"後継者"としての特別な存在であるがため"蕾つぼみ様"と呼ばれて一般生徒からの憧れを集めているのだが。
薔薇様。じゃあ、桜庭くんが赤薔薇様で、進さんが白薔薇様、高見さんが黄薔薇様なんだろうか。…ちょっと笑える。菊にしたらもっと笑える。こらこら キンセンカにしたら早口言葉みたいで…って、おいおいキリがないぞ。まったくだ お兄様が見初めた対象がそのまま"後継者"になるというのは、男の子の世界ではちょっと無理があるというか、派閥闘争とか若しくは封建的な方向へ歪みそうなので、それはなしという事で。何だか覚束無い風情なのが心配だから目をかけてやりたい後輩だとか、はたまた"恋人"とか"情人"だとかいうステディな相手を、それとなく広めるよな意味合いの下に…校章を交換し合うような、儀式というか校風はあるのかも。
早い話が
"こいつは俺のもんだから、苛めるんじゃねぇぞ、手ぇ出すなよ。
異議申し立て、文句のある奴は、まずは俺にかかって来んかい!"
という宣言代わりに、学年によって色の違う校章を交換し、もうお兄様がいますよ、弟がいるからごめんなという表示をしている。(表示って…。) 別に年の差がなくとも構わない。それだと交換しても"表示"としては判りにくいのだが、同学年内でのそういった動向、関心のある者の耳目へは放っておいても伝わり広まるものだから、特に問題はないままにされている…のだが。
――― もしかして問題が起きるとしたら、
彼がその第一号ではないかと秘やかに囁かれている人物がいて。
生徒会の健やかに華やかな皆様方とは全く違った次元にて、ミステリアスな存在として秘かに有名なのが、それは臈たけた麗しき容姿をした蛭魔妖一という2年生。外部からの中途入学者で、金色に染めた髪にピアスという、いかにも派手で不良っぽい風体をしているというのに、スポーツ万能で成績は常にトップクラスから落ちたことがない。何でもどこやらの研究所のお墨付きの天才少年だとかで、授業は適当にこなしていても大丈夫ならしく、他にも色々と謎な部分の多い美青年。制服も着崩しており、校内の思いがけないところでふらふらと…大概は一人でいる姿がまた、どこか孤高の気配があって印象的。
ただ、あまり芳しくない噂もあるのだそうで。その妖麗な美貌で上級生たちを多数籠絡していて、運動部の猛者たちを思うがままに牛耳っている…だとか、教師の中にも崇拝者が何人かいるので、授業に出なくても成績が保証されているのだ…だとか。最近時々生徒会棟に姿を見せてもいるのは、とうとう会長様に取り入ろうとしているのかも…なんて、一部で言われてもいて。あああ、まるで“サンジェスト様”みたいじゃないですか…vv (違うってと突っ込んでくださる方が果たしているのでしょうか。)
◇
そういった環境下に進学して来たのが、幼稚舎から持ち上がり組の小早川瀬那くんで。いかにも純粋培養されて来ましたという雰囲気の、少ぉし晩生おくてっぽい無邪気な1年生。…オプションの大きなリボンはやはり必要だろうか。(笑) すこぶる愛らしい容姿に、ちょっとばかり物怖じしやすいところが仇になって、初等科時代は"いじめられっ子"でもあったのだけれど。高学年に上がった頃から中等部時代にかけては どうしてだか。さほど渦中に巻き込まれることもなく、穏やかなままに過ごして来れた。
『何だお前、気づいてなかったのか?』
それって誰かが陰ながらフォローしてたんだよと、クラスメートの雷門くんが言う。彼は外部入学生なので、何がどうとか誰がどうという深い事情まではよくは知らないらしいのだけれど、いつだったか部活の後の先輩たちの会話に聞いたことがあるという。今年の1年には結構可愛い子が何人もいるだろう、うん多いよな、弟候補って感じの子だろう? …だけど。そういう子って下手すると取り合いにならないか。いやいや、何でも誰だったかには 中等部時代から目をかけてる奴がいるってよ。狙ってる奴らにしたら そいつの話も知ってるだろから、取り合いってのになる前に、その子の頭の上での話し合いって運びになるんじゃないか…って言ってた。それってお前のことじゃないのか?
思い当たるところがないままに、だって誰も申し出ては来ないしさと、そんなの別の子の話だよとセナもすっかりと忘れかけていた頃。授業や校舎、行事に先生。高等部のあれやこれやにも慣れて来て、ゴールデンウィークには新入生歓迎を兼ねた"青葉祭"っていうのがあるんだよと、優しく教えて下さったのが生徒会長さん。どこの部にも入らないままのセナくんに、校庭やら校舎の中で時折お声をかけて下さり、何だったら執行部に入らないかい? 放課後、毎日のように君に会えるのはボクも嬉しいし、なんて言って下さったりもして。そんなちょっかいが何となく光栄だし心地いい。彼の明るい気性に触れるのが、というのもあるが、それよりも。その傍らにいつもいる、凛と冴えた眼差しの人が。何だかとっても気になるセナだから。同じ学校のしかも同じ"持ち上がり組"なのだから、初等部でも中等部でも先輩さんだった筈なのだけれど、物静かながらも目立っていた人だったから、ずっとずっと身分が違い過ぎて接点などなかった。でもね、朝早い道場で、毎朝のこととして熱心に剣道の練習をしてらしたのを、自分も毎朝こっそり見ていた憧れの人。その方の間近にいられるのなら、桜庭さんから構われるのも楽しいかなと、微妙にズレた贅沢を味わっているセナ少年だったが…。
ある日のこと。はっきりしないSという人から"至急逢いたし"とメールで呼び出されたのが、喫茶店かなと思っていたら繁華街の場末のクラブ。初めて来た怪しい場所であり、勝手も判らず、あややどうしようと困っていると、
「…何でお前がここにいる」
場違いも甚はなはだしいと、見かねて声をかけてくれたのが…こちらさんはしっかり場慣れした雰囲気の姿をした蛭魔さんであり。事情を話すと、綺麗な眉をしかめつつ どこか感慨深げなお顔になってから、
「ともかくお前は帰れ。迎えを呼んでやるから。」
携帯を使って呼び立てたのが、何と生徒会長さんと副会長さん。いいな、きっちりと送ってやれよ、この甲斐性なし…と、蛭魔さんがきつく言いつけたのが、こんな場所にあっても重厚にして荘厳な威容を帯びたままな、黒髪の君だった。
蛭魔さんに言いつけられたその通り、お家まで送って下さった進さんではあったけれど。途中で一言も言葉を交わさぬままという道中であり。叱られなかったその代わり、どうしてあんな場所にいたのかという弁明も出来なくて。
"あんな場所をふらふらと歩いているような、いけない子なんだなって進さんから思われちゃったかも知れない。"
誤解なのに、それさえ告げられなかったと。すっかり気落ちして、しょぼんと肩を落としたまま、誰もいない音楽堂にいたセナへ、
「こんなとこでまた逢うとはな。昨夜から奇遇が重なるこった。」
声をかけて下さったのは、あの蛭魔さん。やっぱりこの人は不良さんなのかな。あんなところで、しかもボーイさんたちとも仲よさそうにお話ししていたしと、ちょっとばかり怖々と肩をすぼめるセナだとあって、
「あのクラブはウチの親父の系列会社が経営してんだよ。」
だからって未成年が出入りして良いという理由にはならないが、まま、騒ぎさえ起こさなければ大目に見てもらえる…というところかと。そんなこんなと話していたところへ、こそ〜りと忍び寄って来た人影があり、
唐突に蛭魔さんへ抱きついた襲撃者の正体は…。
"あ、凄い。桜庭さんを拳骨で叩いた。"
憧れてるシンパシィが、学校の内外を問わず、老若男女を問わず、政財界の社交界に山ほどいる人なのに。でも、これって…つまり?
「そだよ♪ 妖一はボクの恋人なんだ。
だもんだから、あの生徒会の館にも時々遊びに来てるんだしね。」
いけしゃあしゃあとそんな言いようをする桜庭さんであり、
「あんま公表はしてねぇけどな。」
恋人などという甘い呼び方は嫌いならしく、それでも やれやれしょうがないなと開き直ったのか。不本意なんだけどななんて言って、こちらは不機嫌そうなお顔を見せる蛭魔さん。何でも高等部の入学試験を受けに来た彼を見てあっさり一目惚れした桜庭さんだったそうで、
「だから入学して来てくれて凄っごく嬉しかったし。そいで早急に周囲の邪魔物は全〜部、徹底的に取り去った上で、アタックしまくってさvv」
こいつ、この顔に似ず やることが手酷いらしくてな。何でだかクラスの中でも急に休む奴とか増えたな〜、声かけてくれてた先輩さんもこのところ見ないな〜って思ってたら、次は猛烈にしつこい"まとわりつき"が始まってよ。ったく、俺の脅しすかしの方がまだ、判りやすい分だけマシだって…と、恋人さんにここまで言われても動じない。
「だって妖一のこと、誰かに取られたくなかったんだものvv」
「そーかい、そーかい。」
素っ気なくあしらわれてもニコニコしたまま。…でも、いつもの笑顔より何倍も甘くて綺麗だったから。
"そか、いつもの笑顔は別物なんだ。"
しかも、そんな怖い何かが隠れていた訳で。この年齢の集団ともなれば、ただ明るい気性だというだけで人心掌握するのは難しい。カリスマ性も勿論お持ちなのだろうけれど、権謀術数も多少はね、心得てるんだよんと、だからそうまで爽やかに言うんじゃないって。(笑)
「妖一のことは進も高見も知ってるんだ。」
「だからって言ってもだな。ガッコの中では周りに気ぃつけんかといつも言ってるだろうがよ。」
こうやってセナにもバレてしまったろうがと閉口する蛭魔へ、
「だってサ、妖一ってば詰まんない噂立てられてて、しかもそれを一向に訂正しないじゃん。」
だからボクとしては、むしろ こうやってはっきりさせたいのと宣のたまう桜庭さんだが、
「あのな。実は弱み握って牛耳ってますだなんて公表出来ねぇだろうがよ。」
蛭魔さんは、実は…所謂"諜報員"ぽいお仕事をなさっているのだそうで。各クラブの実情を細かくチェックしていたり、良からぬ噂の実態を調べたり。はたまた、人知れずそういったネタを収集しては、乱暴者が集まりやすい運動部あたりを陰ながらコントロールしていたりするのだそうで。
「でもサ、でもサ。そこんとこをよく判ってない奴に襲われたらどうすんの? ただでさえいつも独りでいる妖一なのに。力づくされたらとか…それを思うと、もうもう僕は心配で心配で…。」
ははあ、そういうことだったんですかと。蛭魔さんがまとっていた"謎めき"も、判ってしまうと微笑ましいカモフラージュだったんだなって、ついつい擽ったげに微笑ってしまったセナへ、
「微笑ってる場合じゃねえぞ、お前。」
「はい?」
「そうそう。
あんなところに呼び出されただなんて、どういうコトだか判っているの?」
二人掛かりで忠告されて、
「どういう…って?」
キョトンとしてみせるセナだったが、
「だから。
妖一が保護してなかったなら、
誰とも判らない人間に人気のないところへ連れ出されてたかも知れない。
もしくは補導されてたかも知れないって事だよ。」
「………あ。」
初夏の風吹く翠の校庭。まだ青き若人の集う学舎にて、何も知らない稚いとけないセナを巡って、妖しい陰謀が音もなく渦巻く。未だ告白していない…某氏いわく"甲斐性なし"な不器用さんとセナくんの恋の行方は?
to be continued.(おいおい、続くんかい?)← し、信じないように。
*続きも書かんとこういうお馬鹿を書いていた罰が当たったか、
途中で操作ミスをして
原稿が半分消えるというアクシデントに見舞われました。(泣)
こんな腐女子な話にお付き合い下さってどうもです。
なお、間違っても続きとか書き下ろすつもりはありませんので、念のため。
お遊びですよ? ね? お・あ・そ・びvv

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