待ち合わせ。
 

 学生の彼らには"松の内"とか"仕事始め"なんていうものにはまだ縁がなく。年が明けても8日9日辺りまでは悠々と冬休みの真っ最中。そんな中、3日のライスボウル…学生NO.1と社会人NO.1とが戦う、日本のアメフト頂上決戦の中継をうっかり録画し損ねたと、しきりと残念がってた小さなランニングバッカーくんへ、
『しゃあねぇ奴だな、VHSで良いのか?』
 モン太くんに、しかもメールでこぼしただけで、他にはまだ誰にも話してなかった筈のそれをどうやって知ったのやら。頼もしきご隠居様が突然のお電話を下さって、ダビングしたのをやるから学校前まで出て来いとの仰せ。あややと恐縮しつつも、もう一回観たかった想いには蓋も出来ずで。(立命館大学の18番のQBさんが、自分でも走って決める大活躍だったんですようvv)ご指定のあった時間に とこてこと、冬休みの学校まで足を運んだ瀬那くんだった。特に会社や事務所などがある町ではなく、どちらかと言えば住宅地なせいだろうか。泥門高校が休みだとなると、妙に人通りも少ない閑散とした雰囲気が、駅前通りや商店街には満ちてもいる。
"まあ、まだお正月なんだしな。"
 三が日の明けた5日の月曜ではあるが、会社員の方々以外はどうしても…10日辺りまでは正月気分も抜けないというもので。朝方はきんと冷たい外気だったものが良い日和に緩んで来たのか、マフラーが暑く感じるほど、どうかすると暖かい中を目指した校門前には、
「遅せぇっ。」
「す、すみませんっ!」
 黒っぽいスリムなデザインのコート姿で、見慣れた金髪をやっぱり威勢よく尖らせた先輩さんが、鋭い目許を吊り上げて待っていた。でもさ、蛭魔さんチって、実家にしても独立先にしても此処のご近所ですもんねぇ。
(笑) それを知ってはいたっても、きりきりと怒鳴られるとつい条件反射が働くのか、ひゃあ〜〜と身を竦めて駆け寄ったセナを、ふんと息をつくと…頭の上から爪先まで、ジロジロと眺め回した先輩さんで。
「あ、あああの、明けましておめでとうございますっ。」
「ああ、目出度いな。」
 たどたどしいご挨拶へ、クスッとやわらかく笑った蛭魔だったのを見て。ぽかんとしてから…ハッと身を竦める。それから慌てて、手ぶくろに包まれた小さな両の手のひらを、自分の首条、マフラーを上から覆うように素早く持ってく正直者。そんな自分の動作を見てから、

  「…ほほぉ。」

 あらためて目許を眇めた蛭魔さんの反応に、
「あ…えと? ////////
 あれあれれ? …もしかして もしかして。さっきのは"それ"を見つけた蛭魔さんだったからじゃあないのかな?と、恐る恐る伺うような視線を向ければ、
「俺はただ、休みの間に怠けてて あちこち弛
たるんでないかってのを見回してただけなんだがな。………そっか、そういうことも やっとったのか♪」
 ちょいと意地悪そうな、にんまりと笑ってのお言いよう。途端に、
「…っ。////////
 自分の早とちりに"はややっ"と、首を竦めて真っ赤になる。そうまでも分かりやすいセナなのを見やって、
"ホンットに可愛いよな、こいつ♪"
 今度は からかうそれでなく心からの苦笑を、その口許に甘く浮かべた蛭魔さんであったりする。いつぞやその首元へと見つけた鮮やかなキスマーク。それをまたもや見つけて、彼と誰かさんのお付き合いの熱さを揶揄して来た蛭魔なのかと焦ったセナだったのだろうに。そして、ということとなると、結構艶っぽい話題の筈なのに。どうしてだか"幼
いとけない"雰囲気でいっぱいな、それは愛らしい含羞はにかみよう。こういうところが憎めない、本当に可愛い奴だよなと、殊更に和んだお顔になった先輩さんであり。湯気さえ出かねないほどに真っ赤になっているものを、さすがに…こんな野暮でベタな話題で苛めても可哀想かとでも思ったか、
「テープも渡すがな。ちょっと付き合え。」
 くいっと細い顎をしゃくって見せて、凭れていた校門から背を浮かす蛭魔さんで。
「???」
 何だろうかと小首を傾げつつ、それでも素直についてくセナくんなのである。…何だかんだ言ってたって、実は実は大好きな先輩さんなんだよね、セナくん♪






 二人が足を運んだのは、駅の向こう、今は少々冬枯れの気配に沈んでいる緑地公園の傍らにあるファミレスの喫茶コーナーである。いつも大きな恋人さんとトレーニングデートの際に通ってたお店なので、セナにもお馴染みの慣れた場所であり。アイボリーのコートを脱ぎながらテーブルにつくなり、何のレーベルも付いてはいないビデオテープを差し出されると、セナくん、ぱぁっと頬を輝かせた。だってホントに面白い試合だったし、上手な人たちの試合は色々とお勉強にもなる。今、BSで放映中の、NFLのプレーオフも欠かさず観てるんですよと屈託なく笑ったセナくんで。昨夜のタイタンズ戦、最後の最後まで同点で来て、40ヤード以上あったキックで3点差をつけて勝ったのだけれど。あれはホントに凄かったですよねと一丁前なことを語る幼い口調が、何とも擽ったくて…なのに心地良い。
「王城は今日から練習初めなんだそうだが…奴から聞いてるよな。」
「あ、はいっ。」
 コーヒーとそれから、ホイップクリームの載ったホットアーモンドが運ばれて来たのへ、最初にいつもやっているまま、その生クリームを一匙だけ掬って味わって。その甘さに"うふふvv"と、銀のスプーンの端を唇に咥えたままで満足そうなお顔になる。無防備・無邪気なお顔がまた愛らしく、
"あの朴念仁でも一目惚れする筈だよなぁ。"
 いやあの、蛭魔さん。セナくんがこうまで打ち解けたのは、随分と後になってからなんですがね。
(笑) 奴といういささか乱暴な一言だけで、それが大好きな進清十郎さんのことだと判ったセナくんは、
「蛭魔さんも訊いてたんですか?」
 お返しとばかり、同じ王城に籍を置く、彼の方の恋人さんのことを聞いてみたのだが、
「奴からじゃねぇよ。」
 むしろ忘れてたって、今朝方届いた進からのメールで慌てて飛び出して行きやがってよと、ちょこっと不機嫌そうに訊いてもないことを付け足して下さる。…ということは。
"………あやや。////////"
 桜庭さん、蛭魔さんチへお泊まりしてたんだなと、真っ赤になって俯いたセナを見て、
「…っ。////////
 ハッとしたように自分の迂闊な言いように気がついて。頬だけでなくピアスをした耳朶をまで赤くし、ふいっとそっぽを向いてみる、こちらもこの話題となると…まだまだどこか可愛らしい先輩さんなのだった。
(笑)

  "…う〜ん、抜かったな。////////"

 好きだよ、うんボクもだと、ピュアで温かな気持ちをお互いに差し出しあって。静かで誰もいない夜の底にて、例えば肌に直接触れずとも…額をくっつけ合ったり視線をからませ合うだけでも、ほこほこと擽ったくも暖かくなれる不思議な感情とその作用。それに満たされる至福やら快感やら、この身にへと覚えたばかりのそんな甘い陶酔に、正月ボケ以上に呑まれているような気がして。そこで、お元気な後輩さんと逢って、少しでも気分を引き締めようと思った蛭魔さんだったらしいのだが…人選を誤ったような気もしないでもないと感じたのは、果たして筆者だけでしょうか。
(笑) 気を取り直して、
「ちゃんと"自主トレ"の方は やってるのか?」
 真面目なお話、自分たちの"本分"についてを訊いてみる。すると途端に、
「やってますよう。」
 ちょこっと"心外だなぁ"と言いたげに、唇を尖らせて見せるセナくんで。それこそ、恋愛とは別物。その辺の切り替えというか、別け隔てはちゃんとしている。ましてや、この春からは…彼ら先輩格の方々とは"アメフトつながり"では逢えなくなる環境下になってしまうのだ。彼らが大学へと進学するのに加えて、今度は自分が"受験生"となりフィールドから一時的に遠のかねばならない。昨年は夏の総合合宿などがあり、また、学業方面への余裕ある方々ばかりだったこともあって、随分と構っていただけたけれど、自分は到底同じようには構えていられない。しっかりと受験勉強に打ち込まなければ、望む先へは進めまい。とはいえ、だからと言って何もしないのでは体が鈍
なまる。習得物は何につけてもそうなのだろうが、特にスポーツの鍛練は…1日の停滞が数日分の退歩につながる。苛酷なゲームに必要なまでの体力の保持と、瞬発力や反射の鋭い切れ。そしてそして、忘れちゃいけない自慢の脚力。最低でもこれだけはちゃんと維持出来なければと、この蛭魔さんが直々に考えてくれたメニューを、長期休暇に入るたび、毎日きちんとこなして来たし、これからだって続けるつもりだ。
「そっか。」
 なら良いと、ぽそんと椅子の背に身を持たせ掛ける先輩さんであり。大きな窓の傍らという席だったから、降りそそぐ冬の陽光が柔らかく彼を包んで…、
"ふや…。"
 何だかほわりと心が和むような。優しい筆で描かれた一幅の絵画を見ているような、そんな気分をセナにも持たせた構図である。鋭角的な目許口許を無表情の沈黙に沈ませて、膝を高々と挙げての脚を組んだ、つんつんと尖らせた金髪頭の高校生…と来ては、いかにも不良さんみたいなんだのに。淡い色調の虹彩を浮かべた目許は静かで、薄い肉づきの口唇は清楚な知性を浮かべて沈黙をたたえており。陽光に暖められた金の髪に負けぬほど、その繊細そうな頬や額を包む白い肌にも温かな輝きが含まれて見えて、何とも優美な"佳人"である。
"お元気に弾けてる時とこうやって黙ってる時との落差が…また開いたちゃったみたいですよねvv"
 そんなにも影響受けてるんですねと、微笑ましげに思った後輩さんだったけれど。こらこら、セナくん。あなただって…いじめられっ子だった頃の、どこか卑屈でもあった面影は もうどこにもないというのにね。これで"アメフト"なんていう、荒々しくも男らしいスポーツをこなし、しかもその実力を"一線級"と称賛されているプレイヤーたちだとは到底見えない綺麗どころのお二人を。晴れ着や一丁裏で着飾ってた人たちを見飽きた筈の店員たちが、肘で突々き合っては ほうっと溜息混じり、うっとり眺めていた静かな正月明けの午後なのでございました。











  aniaqua.gif おまけ aniaqua.gif



【今日は、セナくんと逢ってたんだってね。】
「…お前の情報網ってのは、一体どういう手合いがニュースソースになってんだ?」
 取った電話からすぐさま零れて来た開口一番のこのお言いようへ、また何かややこしい焼き餅かなと警戒した妖一さんだったが、
【それは秘密vv
 くすくすと小気味よく笑ったところからして、今回は機嫌を曲げてまではいないらしい。今日は王城でのトレーニングの後で早速のお仕事があったとかで、今は自宅に戻っているらしき桜庭くんであり。年の暮れからこっちをずっと一緒にいたものだから、こうやって電話を通じて話しているというのは何となく。物足りないというのか、体の片側が急に肌寒くなって………寂しいというのか。そんな気分がしてならない妖一だった。それは相手も同じだったか、
【今、どこにいるの?】
「実家だよ。もうじき親父やおふくろが戻って来るからな。」
 ドアを開け放った先の廊下では、メイドさんやら男衆の方々やらが忙しそうに駆け回っていて、
「あっ、こら、キングっ。」
 そんな人々の足元を、訳も分からず一緒になって駆け回っていたシェルティくんが、とうとう加藤さんに捕まってしまい、
「坊っちゃま、ちゃんと見張っていて下さいまし。」
 こちらまでが監督不行き届きを叱られた。
(笑) それはともかく、
【そっか。…じゃあ、学校が始まる辺りまでは当分逢えないね。】
 残念そうに声が沈んでそう呟いたのへ、
「その頃って言ったら、お前、そろそろ受験本番だろうがよ。」
 呆れたように言い返す。そうまで切羽詰まって来たのに、何を見当違いなことへ残念がってるかな、と、そんな言い方をした妖一へ、

  【ボクには妖一の方が大事だもん。】

 すかさずの、しかも堂々と揺るがぬお言いよう。伸びやかなそのお声に重なって、明るい色合いの柔らかな髪とか、彫りの深い、すっかりと大人びて来ていたお顔だとか。大きな手のひら、頼もしい胸元などなどをふっと思い出し。ついでに、
"えと…。/////"
 それらに素肌で包まれていた時のことまで思い出してしまって、体が熱くなって来て。
"…う。////////"
 言葉に詰まったところへと、
【………今、赤くなってたでしょvv
 あまりにタイミングよく、そんなことを言われたものだから。
「うるさいよ。」
 容赦なくプチッと切ると、すぐさま またかかって来た。
【もうっ、何で切るんだよう。】
 何だか楽しいやり取りへ、ついつい時間を忘れそうになる。肘かけ椅子に腰を下ろしたその膝に、よいしょと抱えた仔犬が時々邪魔をして、ぴろんと顔を舐めてくるのをメッと叱りつつも、何だか話題が尽きなくて。それでもそろそろかなりの頃合い。向こうも気を遣ってくれてか、


    【じゃね、またね。】
    「ああ。」
    【あ、ちょっと待って。】
    「? なんだ?」
    【…愛してるよ、妖一。】
    「………っ。/////
    【また真っ赤になったでしょvv
    「バカっ!」


 あははと笑って今度こそ"じゃあね"と軽やかな声とともに切れた通話。手元の携帯を彼の分身であるかのようにしばし見下ろし、くぅんと見上げて来るキングを腕にぎゅうと抱えると、そのやわらかな毛並みに頬をくっつけて。
「…ったくよ。お前の兄ちゃんはどうしてあんなに、何でも気持ち良いのかな。」
 おおう。とうとうキングの"兄ちゃん"扱いですかい。
(笑) …じゃなくってですね。実際に傍らにいなくとも、繰り出す話題や話し方、その伸びやかな声までもが、耳に心に気持ち良い。これはもしかしなくとも、相当に重症かもしれないと。危惧しながらも…口許がほころんでしようがない、限られた人たちにだけは"悪魔"でなくなりつつある妖一さんであったりするのである。






  〜Fine〜  04.1.5.



  *何ということもない情景話でございまして。
   こういう仕立てのお話って、最近あんまり書いてなかったなあと。
   おまけの方に熱が入ってしまった辺り、
   しばらくはこっちのお二人の話がメインになりそうかもと、
   自分でも困ったもんだとか思っております。
(笑)
   こんな奴ですが、どうか今年もよろしくです。


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