sweet sweet monologue

 

  ――― その姿もその心も、それはそれは凛々しくて雄々しくて。
 

    射抜くような光を帯びて、冬の碇星みたいに冴え冴えと凍った眸。
    装備をまとった立ち姿は悠然と威風堂々。
    だのに俊敏な身ごなしは、まるで一陣の疾風のようだった。
    必死で逃げを打つのへ一瞬にして追随して来る様は、
    恐ろしいまでの威圧感や迫力さえあって。
    まるでセンサーのついた稲妻みたいだと思ったものだ。
    事実、見据えた相手を仕留める手際は完膚無きまでに容赦なく。
    今は大好きなその大きな手が、正直言ってとってもとても怖かった。


  ――― うん、そう。最初はもうもう怖いばかりな人だったのにね。





            ◇



 ぴっという短い電子音。メールを送信し終えて、しばらくそのまま。小さな両手で捧げもった携帯電話をまじっと見つめる。日頃から使い慣れてるそれが、今だけはあの人のお部屋の窓か何かででもあるかのように思えて。何だかほんのり、切ないような気分になったセナである。

  "…進さん。"

 進清十郎さん。お名前を初めて聞いたのは先輩さんからで、あの怖いもの知らずな先輩さんが"化け物みたいな奴だ"と事ある毎に散々に言うものだから、一体どんな恐ろしい人なんだろうかと…それは怖くって。
"凄い人には違いなかったものね。"
 思い出して"くすす"と微笑いつつ、腕を伸ばすと電話を傍の机の上へと置いて。体を戻したそのまま、腰掛けていたベッドへぱふんと倒れ込む。階下からはかすかにテレビの音。両親が居間でバラエティ番組か何かを観ているらしい。もう寝るからと部屋へ上がったセナだったが、時計を見やれば…まだ10時を回ったところ。どうしようか、このまま寝ちゃおうか。でもでも、明日は進さんに逢えるからってちょっと興奮してるしな。

  "…そんな久し振りってこともないのにな。/////"

 これは間違いなく、嬉しくての"ドキドキ"だ。ほんの1年で、変われば変わるものだなと思う。
"最初は怖かったくせにさ。"
 そうだった自分へ向けて"失礼な奴だよな"という苦笑が洩れる。そんな自分だったのも仕方ないよなと思いつつではあるけれど。
"…だってさ。"
 アメフト初心者だったし、それでなくとも小心で非力で。そんなまでに小さな小さな自分にとっての進さんは、体の大きさだけでなく…その身に孕んだ気魄の物凄さや、そのくせ水も漏らさぬ徹底ぶりにて、冷然・的確に対処するそのプレイの完璧さが、あまりにも高くて分厚い壁のようで。此処はお前のような未熟者が立っていていい場所ではないのだと、その冷然とした眼差しが、強き自負に満ちた睥睨が、そんな風にこちらを責めているような気さえして。その次元の違いが何だかひどく怖かった。
"それだけ、真剣な人だったんだな。"
 誰が相手であれ、片手間仕事や油断なんてしない。アメフトというものとそのフィールドが、彼にとっては自分を高める場であり、ともすれば崇高でさえあったから。それと、
"ちゃんと向かい合ってくれたんだものね。"
 先入観なく、見たもの感じたものをそのままに。セナが素人だってことはすぐにも判った彼だろうに、小手先であしらおうとなんかせず、真っ向から立ち向かって来てくれたし、きちんと力量を測った上での全力で、真摯に相対してもくれた人。

  "あんな凄い人が。/////"

 初対決となった試合が終わって。それからさして日も置かぬうち、偶然に出会った場で正体をあっさりと見極められて。

  "………なんで判ったんだろう。"

 人を顔や声ではなく"体格"で把握している彼なのだろうか。冬場になったらどれが誰やら判らなくなるとか。(by『さざめく花園』加藤知子さん/笑)それは凄いとまたまた驚き、そんなこんなから………最初はすっかり畏縮してたセナだった。

  "なんでボクなんかに逢いに来るんだろって、本心から不思議だったし。"

 ボクが"アイシールド21"だっていうのはもう判った進さんなのに、まだ何か知りたいことがあるのかなって。別に睨まれても脅されてもいないのに…そういう人ではないって判ってたのに、何だか圧倒されて、理由
ワケもなくびくびくしてた。

   ……………それが。

 こんな凄い人から構ってもらえるのがだんだん嬉しくなってきて。男らしいところ、頼もしいところにそれは素直に憧れて。こうありたいなぁと思っていたのが、いつしか…そういう理屈もどこへやら。一緒にいるだけでワクワクし、こちらを見やってくれるとドキドキし、手を取ってくれたり間近へと引き寄せられたりした日には。もうもう全身が浮いちゃうくらいポーッとする。傍にいることで…自分の目で耳で一つずつ。どういう人なのかを一つずつ。ホントは優しいとか朴訥だとか、実はちょっぴり不器用だとか、一つずつ知るごとに、楽しくて嬉しくなって。ほわほわと幸せだなって思えてしまうようになって。

  "…ボクってこんなにミーハーだったっけ?"

 寡黙で真摯で真っ直ぐで。ちゃんと礼儀を知ってる謙虚な人でもあるけれど、根本的なところでは男らしく、いつも静かな自信にあふれていて。時に途轍もなくマイペースではあるけれど、その分とっても頼もしい人。何ごとへも堂々と振る舞うところが、何とも雄々しくて。大きな手と長い脚の、懐ろが深くて温かな、広い背中の…大好きな人。

  "大好きな…って。/////"

 自分で思い浮かべたフレーズなのに、

  "だから憧れてるっていうか、その…尊敬…はオーバーかな。うっと…。/////"

 ドキンとしつつ"えとえっと… /////"と何か言い訳を探してる。具体的なフレーズに照れて、掻き消そうとしてる往生際の悪い自分。もうすっかりと、この場にいなくたってこんなほども翻弄されちゃうくらいに夢中なのに。そんな自分の気持ちに、でもだけど、時々は悪あがきしてしまうセナであるらしい。

  "だって……。"

 頼もしくて男らしくて、そして…恐らくは自分のこと…。

  "好いてくれてる…?"

 そうである…らしいかな?と、思うのはやはり自惚れだろうか。好きだと告白したその時に、彼の側からも好きだよと言ってもらえて…。でもね、進さんは優しい人だから。

  "それに、さ。"

 自分の気持ちもね、時々ちょっと判らなくなる。ドキドキするほど大好きなのはホント。でもでも、それって。一番好きな、大切なお友達っていう方の好きなのか、それとももしかして…。誰にも取られたくないようっていう方の、ちょっと我儘な"好き"なのか。

  "なんかさ…。"

 なんかさ、なんか…後の方の"好き"なような気がするんだ。この胸の奥の方で、小さな小さなもう一人の自分がじたばたしてるのが判る。あの大きな手で撫でてもらうと蕩けそうになる、深みのあるお声で囁かれるとワクワクする、良い匂いのするお胸に抱っこされるとドキドキする、進さんのお顔を見ると"きゅう〜んvv"と甘えん坊なお顔になる、もう一人の自分がいる。

  "でもさ…。"

 それをそのまま、形にしちゃっても良いのかな。意識しちゃっても良いのかな。進さんにはご迷惑ではないだろうか。無邪気に懐いてきた下級生を蔑
ないがしろには出来なくてって、そういう構い方のままなのだとしたら。いつか…そんなつもりはないよって、身を引かれちゃうかも知れないのかなぁ。

  "……………。"

 ちょっぴり困惑、でもでも甘酸っぱい"嬉しい"の方が断然いっぱい。たった一人の人にこんなにも夢中。ねえ、これってやっぱり…ただの"好き"じゃないのかな? …う〜ん、う〜ん。まだよく判んない。とりあえず、


  "明日は一緒に梅を観に行くんだよね…♪"


 何故?どうして?なんて、切なくもぐるぐると考えてたのは…どこへやら。頭の下から枕を引き抜くと、両腕で胸元へ掻い込んだそのまま"ぎゅううっ"と抱きしめて。早く明日にならないかなと、思わず知らず口許がほころぶ、小さなセナくんだったりするのである。………そうだね、楽しみだね。明日が…♪




   〜Fine〜  03.3.18.


   *前話の『白の日にて…』で
    唐突にキスされちゃったセナくんだったですが、
    あれって、セナくんの側からはどう思ったもんだろうかねと。
おいおい
    筆足らずだったことを反省して補筆のつもりで書き始めたんですが、
    なんか…前日のお話になってしまいました。…あれ?(ダメじゃん)


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