遊歩道沿い、萌え出した若葉の様々な翠を抱えた梢から降りそそぐ、光のモザイクみたいな木洩れ陽を受けて、やわらかい色合いに温められた髪。時折吹き抜ける涼風に遊ばれて、フワフワとなびいたり躍ったりする軽やかさがまた、彼の少しほど甘くて幼い顔立ちには程よく似合っていて。つい。手が伸びて、指先にからめてしまう。細い質の猫っ毛は、ふわりと軽くて、でも指通りは良いみた…いってって☆
「………あ。」
髪に触れられてというよりも、
「痛て…っ。」「…っ☆」
髪へと触れようとした不躾な手が、横合いから即座に叩はたき除のけられた対処の大仰さへと、驚いたようにその大きな眸を見張ったのが、泥門デビルバッツの俊足ランニングバッカー、小早川瀬那くんで、
「何すんだよ。」
男性の、しかもスポーツマンの持ち物にしては随分と綺麗な手を引っ込めつつ、痛いだろうがと恨めしげに目許を眇めたのは、庶民派アイドルとして人気急上昇中の芸能人にして、王城ホワイトナイツのワイドレシーバー、桜庭春人くん。そして、
「ああ、痛いように叩いた。」
当たり前だろうがと大威張りで胸を張って言ってのけるのが、やはり王城ホワイトナイツの誇る"最強最速"ラインバッカー、進清十郎さんである。全員が高校生で、しかも"アメリカン・フットボール"という同じスポーツに日々精励しているのだが、体格・性格、気性や得意分野、etc.…。よくもまあこれほどと驚くくらいに個性の違う青年たちであり、全くもってつくづくと、ポジションによる専門分野の細分化のはっきりしたスポーツであることよ。
「それは…。」
「ちょっと違うよな。」
「ああ。」
さっきまで何だか揉めてたくせに、こんな時だけ妙に息が合うんだね、あんたたち。(笑) ………まま、それはともかく。学校の授業はお休みの土曜日だったが、それぞれに部活動の練習はあって。双方ともに午前中だけのそれだったので、それじゃあ…と、
『お昼ご飯を一緒に食べよう、それから少し、街を歩こうか』
いつもの週末と同んなじ予定をメールし合ったのが、このサイトでは毎度お馴染み、小さなセナくんと大きなのっぽの進さんという恋人さんたち。ところが、そんな様子を敏感に嗅ぎ取ったらしき、ホワイトナイツのアイドルさんが、例によってくっついて来たがため、何かとごちゃごちゃ賑やかに沸いてしまう、いつもとは少々雰囲気の違ったおデートになってしまっている。いつもなら、まずはセナくんだけが屈託なくお喋りをし、やがてはお互い言葉少なに見つめ合って、以心伝心のまま、ふんわりほのぼの甘いムードに耽るのが常の二人だのに。
「だってサ、セナくんの髪ってやわらかそうで、つい触ってみたくなる髪なんだもん。」
「断りもなくやって良いことではない。」
「何だよ、それ。人んコト痴漢みたいに言ってサ。」
桜庭が一人増えたというだけで、いきおい進まで饒舌になり、倍以上に賑やかになる相乗効果の不思議さよ。さすがは合気道も嗜たしなんでいる進さんだからか、コツというものを心得ていて。それはなめらかに伸びて来た大きな手が、桜庭さんの手を"ぱしんっ"と叩いたその瞬間は、あまりに素早く、生憎とセナくんには全く見切れなかったのだけれど。まるでつまみ食いを窘められたような格好になったからだろう。桜庭は不満たらたらという体になり、
「酷いよな、す〜ぐ腕力に訴えてさ。」
ねえ? と同意を求められて、だが、
「えと…。/////」
どう答えたもんかと、セナとして大いに困ってしまう。すると、アイドルさんはそのきれいなお顔の表情をここぞとばかりに尖らせて、
「あ、セナくん、いけないんだ。いくら進のことを特別扱いしててもね、良いことと悪いことはちゃんと正しく判断しなくちゃいけないんだよ?」
「妙な言い掛かりをつけるんじゃない。」
「言い掛かりなんかじゃないさ。セナくんに甘やかされて、このまま暴君になっちゃうつもり?」
「訳の分からんことを言い出すな。小早川も困っているだろう。」
「どうだかね。」
さすがは芸能人…という評は、この場合は当てはまらないのかも知れないが。なかなかに口の達者な桜庭であり、しかも進がまた、いちいち鮮やかな応酬をするのが…セナにはちょっと意外。話しかけられたことへ傲岸にも無視をするような人ではないけれど、所謂"軽口"へこうまで即妙に切り返すのは、恐らく桜庭とのやり取りにだけ。姉のたまきからの似たようなからかいのお言葉へも、理解不能だと言いたげに首を傾げている場合の方が断然多く、
「…なんか。ボクのことダシにしてませんか?」
楽しそうだなぁと思ったその気持ちがつい、口を衝いて出てしまい、
「?」「セナくん?」
ほぼ同時に…王城ホワイトナイツが誇る春蘭秋菊おいおい、二人揃っての視線を向けられ、
「あ、あああ、あのっ、えっと…っ!/////」
ごっごめんなさいっと、焦ったようについ謝れば、背の高い二人は顔を見合わせてから、小さなセナくんのふわふわと柔らかな髪を、両側からそれぞれにぽふぽふと軽く撫でてくれた。
「小早川がなんで謝る。」
「そうそう。ごめんね、喧嘩腰で言い合いなんかしちゃって。」
こんなごっつくて恐持てする奴が乱暴な口利いたら怖いよね…なんて、またまた桜庭さんが要らないことを言い足して、
「…いい加減にせんと、力づくで家へ送り返すぞ。」
「へへ〜んだ、やれるもんならやってみろよ。」
大きく出た割に、セナの小さな肩の後ろに回って見せる桜庭さんだったりするので、
"………う〜〜〜ん。"
なんと言いましょうか、これってやっぱり"ダシ"にされてるんじゃないのかなと、小さな胸の奥底にて、そんな風に思ってしまうセナくんだったりするのである。
おまけ 
「あのあの、進さん。」
「?」
「もしかして、あの、桜庭さんて、進さんのこと、お好きなんじゃないですか?」
「………付き合いは長いが。」
「ですから、あのあの。お友達としてじゃなくって……………あの…。」
「………………小早川。」
「はい。」
「頼むから、見当違いな勘違いだけは せんでくれ。」
「えっと…はい。」
〜Fine〜 03.6.5.〜6.6.
*すみません。
何が書きたかったのか、途中で判らなくなりました。おいおい
だって3巻を読んでしまったんですもの。
セナくん、容赦なく進さんから投げ飛ばされてるし。
よっぽど脅威だったんだね、セナくんの足が。
(個人的には、
『王城に揺さぶりは効かん』と言った直後、
まんまと揺さぶられてる太田原さんに
"………"って顔してる進さんがツボなんですが。/笑)

|