料峭
りょうしょうの朝に…
 



やっとカレンダーも新しくなって、やって来たのは三月弥生。
春だなって言ってもいい頃合いになったのにネ。
そうそう甘くはありませんということか、
明け方が物凄く冷え込む日はまだまだ続くみたい。
前の日に天気予報でそうと分かってるような日は、
エアコンのタイマーをセットして寝るのだけれど、

  “…あれれ?”

鼻の頭が少しだけひんやりするものだから、
今朝はエアコンをセットするの忘れてたのかな?
そんなことを思い出しながら、少しずつ少しずつ目が覚めていく。
お部屋の中は随分と明るくなっていて、朝になってはいるみたい。
お顔はちょっぴり冷たかったけど、他は全然寒くない。
むしろヌクヌクと暖かくって、
油断しちゃうとまたまた眠くなっちゃいそうで。
「ふにゃ…。」
えっとえっと。今日は何か予定ってあったのかな。
学校への登校日…じゃなかったし。
R大に行く日…でもなかったしな。
あれれぇ? でも何か、何かあったような気がするんだけど。
何だったっけな、う〜んと え〜っと。

 “……………。”

難しいこと考えながらいるとね、
思い出さなきゃって事であればあるほど、眠さが増すから不思議だよね。
だってお布団は暖かいし、特に起き出す理由はないみたいだし。
いや…何かがあるみたいではあるんだけれど。
思い出せないもんだから、思い出せないってことごと、
寝ちゃってうやむやにしちゃおうなんて
狡いことを思うボクなのかもしれなくて。


  ……………………………zzzzzzzz。


気持ちが良いなぁって漂ってたらね、何かが髪を撫でてくれてね。
いい子いい子って、何だかもっとずっと小さい子供へみたいな、
そんな構い方をしてくれる大きな手があって。

 ……………えっと。


   ――― あっっ☆


ばちぃって、やっとのことで目が覚めた。
そうだ、そうだった、うん。///////
昨日はネ、あのその…進さんがセナくんのお家まで遊びにいらしてて。
お話が尽きなかったものだから、遅くなってしまった進さんに、
あのその、泊まっていただいたんだった。
だって、あのね? …えっと、あのその。///////
お話とかしながら暖かい懐ろにずっとずっと入れてもらってたら、
宵になるにつれて離れるのが寂しいようって気分になっちゃって。
そんな我儘言い出したのを、やさしく聞いて下さった進さんだったの。
でもでも、進さんは毎日の練習を欠かさない人だから、
どんな日でも例外なしで、早く起きなきゃいけないのかも。
そうだ、そう思って、
早く起きてご飯の支度とかしなくっちゃって思ってて…。
遅ればせながら思い出し、
今からでもと慌てて起き出そうとしたのだけれど、

  ――― ぐいって。

それは温かな懐ろの深みへ、易々と引き込まれたのへと、
セナくん、ついつい頬を真っ赤にしてしまう。

  「あやや…。//////

広い広い進さんの懐ろは、
頼もしくて暖かくて、いい匂いがして大好きで。
でもね、まだ慣れるというところまで馴染んでないのかな、
こんなにも明るい中で、それも横になっててっていう格好で間近になると、
さすがに お顔がカ〜〜〜ッて赤くなる。///////
でもね、でもね、
大きな手のひらが髪をもしゃもしゃと撫でてくれて、
よ〜しよ〜しって宥めてくれるとね。
ちょっとだけ強ばりかけてた肩からも力が抜けて、
落ち着いて耽れるようになるのvv

 「今朝は寒いみたいですよ?」
  こしょこしょって囁けば、
 「料峭というものだな。」
  はや? リョウショー、ですか?

知らない言葉だったので、繰り返すみたいに呟いてみると、
「春の寒さが身に染みることをそうと言うそうだ。」
こういう字を書くんだと、
二人のお顔の前へ少しだけかぶさった格好の布団の裏に指を添わせて、
少し大きめに書いて見せる進さんで。
進さんトコの道場の師範をなさってるお爺さま、
実は俳句の会にも入ってらして、
それでこういう言葉を季節の折々に口にされるのだそうで。
「昔の人も寒いうちから“春”って呼んでたんですね。」
昔の暦は少しほどズレていて、
だから、例えば“弥生”は今の四月の初めだったそうなのに、
でもでもまだ少しは寒かったりしもしたから、そんな言葉があるのでしょうね。
そんな風に言ったらね、
進さん、そぉって髪を梳いてくれて、
「小早川は何でも知っているのだな」って、
そんな風に褒めてくれるんだよ?///////
たまたまですようって言いながら、でも。
凄っごく凄っごく嬉しいのvv
まるで、小さな子供が大好きな先生から褒められたみたいで、でもね?

  ――― ふや。///////

学校のセンセーは、あのその…キスとかはしないよね? ///////
もうちょっとだけ こうしてても良いですかって。
恥ずかしかったけれど頑張って訊いてみて、
お返事の代わりにきゅうって腕の輪っかを縮めて下さったのへ
セナくん、にゃ〜んvvと甘えて見せて。
春の寒さの“料峭”なもんだからと、ちょっとだけ朝寝坊。
春も待ち遠しいけど、寒いのもちょっとは良いかもしんないなんて、
小さなセナくん、
小さな胸の裡
うちにて、余裕の発言をなさっていたりするのでしたvv




  〜Fine〜

  *本当に待ち遠しいのか怪しいもんです。
(苦笑)


 
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