Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “今年は甘いかしょっぱいかvv” 
 


 二月に入ったその途端、居座り続ける粘着質な寒気のお陰様。都心でも雪の日が珍しくなくなっている今日この頃だが、それでも滅多にない気候には違いなく。お天気の案配が滅多にないことになってしまうと、それから影響を受ける物事もずんと出る。野菜の出来にも被害は出ようし、梅や桜の開花状況はどうなるのかしら、すぐにも来よう春休みの卒業旅行には、万が一を考えたら飛行機利用の旅程は避けたほうがいいのかなぁ…などなどと、先々へも不安材料を投げかけかねな


 「てぇ〜〜〜いっっ! どけよっ!!」

 あらあら、乱暴な。まだ枕
ツカミの部分が終わってないってのに、何てことを。どんなにお寒い朝でも“子供は風の子”ということか。ダウンのジャケットに内側が起毛仕立てのスラックスという、見栄えより機能優先の“極寒期登校仕様”のいで立ちに身を固めた金髪坊や。ランドセルを背負った身を少しほど屈めての丸めると、長いめのお廊下を奥向きから玄関目掛けて“だだだっ”と駆けて来るのだが、

 「甘ぁ〜い。」

 その前へ立ち塞がってる存在が、ほ〜れっと軽々受け止めては抱きかかえてしまう。放せ降ろせとあんまり暴れるものだから、しょうがねぇなと家の中へと向かせて降ろしてやると、そのまま隙をついて出て行こうとしかかる坊やを、やっぱり妨害しての捕まえて…を、さっきから10分以上も繰り返している父子であり。一体どこの闘牛士
(マタドール)養成学校でしょうか、此処は。
「妖一、あなたも。そんなしてたらますますのこと、熱が上がるでしょう?」
 見かねたお母様がキッチンから顔を出し、窘めるようなお声をかけて来たものの、

 「だって、かあちゃん…。」
 「どっちが正しいかは一目瞭然だろうがよ。」

 どっちも譲らない強情っ張りなところが一番似通ってる困った二人。蛭魔さんチの家長殿とその総領息子が、朝も早よから性懲りもなくバトルを繰り広げておいでの模様。但し、熱というフレーズで“はは〜ん”とお察しの方もおられよう。常ならきりりと冴えて闊達な、それはそれは理知的で凛々しい金茶の目許が、今朝は何とも頼りなく潤んでいる妖一くんであり、

 「ヨウちゃん。今朝のところはお父さんが正しい。今日は学校お休みしなさい。」
 「…今朝のところはってのは何なんだ。」

 ちょっとちょっと聞き捨てならないんですけれどと、目許を眇めたヨウイチロウさんはこの際あと回し。エプロンの裾辺りで手を拭いつつ、キッチンから出て来たそのまま。ひょこりと身を屈め、お膝に手をつき、お顔を覗き込んでくれているお母さんへ。この悶着も要因なんじゃないかと思わせるに十分なほど、今や真っ赤っ赤な頬をして、はあはあと急くような息をしてまでいるのに、
「やだやだ、ガッコ行くんだ〜っ。」
 それでも行きたいの〜と、全力で駄々を捏ねて見せる困ったちゃんで。
「今日って何か特別な授業でもあるの?」
「む〜〜〜。」
 いや特に変わったものはないみたいだぞと。お父さんが自分の手帳に書き写しておいでの、坊やの時間割やら今月の行事やらを確認し、
「給食も白身魚のフライと食パンと、マカロニとキャベツのコールスロー風。まさかプリンが目当てだなんて言わねぇだろうしよ。」
 そこへはさすがに、
「………違う。」
 んなワケないだろという恨みがましげな上目遣いになっての、それでも正直に返答を返した坊やへ、
「だったら。ヨウちゃん、お母さんからもお願い。今日はお家でいい子にしていてちょうだい。」
 見るからに風邪を引いていてもこの元気というのは、ある意味で心配要らないということだろが。だからって、悪化するとしか思えない“外出”をしてどうするか。それでなくとも滅多に熱さえ出さない…丈夫だからというよりも、この年齢にして自己管理がちゃんと出来ている末恐ろしい子なのに、それがこれって何事かと。これでもご両親ともども、実は随分と案じておられ、
「今日はお休み、いいな?」
 ランドセルごと、再びひょいっと抱き上げられたのが、またしてもお父様の懐ろへ。いくら子供だとはいえ、もう四年生で身長だって140センチ近くはあろうという育ち盛りさんを。大した負担じゃあんめぇよとばかり、よしよしとお子様抱っこしたお父上へ。こちらさんもまた“離せ降ろせ”をしかかったところが、

 「…ヨウちゃん。そんなにお母さんの言うこと、聞けないの?」

 こんなに真っ赤なお顔になって、熱だってあるのでしょうに何でまた。いかにも苦しげな顔の坊やを目の前にして、とうとうこちら様も目許が潤み始めたお母様とあっては、
「あ…や、えと、あの…。」
 あややこれは不味いと一気に意気消沈したところが、相変わらずにお母様には弱い妖一くんらしい反応で。お母様にしてみれば“叱ってらっしゃる”だけなのだろが。その目許に光った涙こそが、坊やには最終兵器も同様の威力を発揮する。他でもないこの父上が、何の連絡もないままの不在だった間、どんなに大変だろうが泣き言は言わなかった気丈なお母様だと知っているから。だからこそ、そんな彼女が泣くだなんて、どれほどの親不孝をしていることかと。小悪魔坊やの唯一の弱みとなり、胸の裡
うちの一番やわらかいところを直撃してしまうらしく。
「ね? 今日1日だけ。学校はお休みして様子を見ましょ? ね?」
 すがるような眸をしての、ね?と訊かれては。
「…うん。」
 そりゃあまあ頷くしかないでしょう、この場合。とは言うものの、学校云々と言ってるくらいで、今日は平日、お母様もまたお勤めのある日だ。それでも“じゃあ、お雑炊でも作りましょうか”とキッチンへ戻りかかるのへ、

 「ほら。後は俺が見てっから。」
 「え?」

 坊やを抱っこしたままのお父様、にっぱし笑って顎でしゃくるようにして促したのは、奥の間、広げられたままな三面鏡のあるドレッサーの方へ。大元を正せば、出勤のための身だしなみの途中だったお母様であり、その手を止めて朝食のお給仕をと取り掛かったところで始まったのが“ガッコ行く〜〜”の大騒ぎ。
「出掛ける時間まで少ししかないよ。」
「でも…。」
 熱を出してる妖一くんを置いて、出掛ける訳にはいかないと言い淀むお母様だが、
「何言ってるかな。こういう時こそ、俺に任せなきゃ。」
 これでも“主夫”してんのにさ、あ・でもまだ見習いかな? 色白なお顔にいや映える、玻璃玉みたいに透明な、切れ長の目許を柔らかく細めて、ちょっぴりお道化て見せての余裕の態度。
「母ちゃんと約束したんだ、妖一もまさかこの上、こっそり出てくなんて姑息な真似はしなかろうしさ。」
 なぁと、あくまでも朗らかに訊く父上へ、
「………うん。」
 こんの野郎が母ちゃん盾にしやがって卑怯だぞ…なんてなことはおくびにも出さず、あくまでも“いい子”のお返事を返すしかなくて…。




  「じゃあ、お母さん行って来るけど。」

 何かあったら、いつでも携帯に連絡してねと。何度も何度も念を押し、何度も何度も振り返りながら、それでもお出掛けしてったお母様の陰が。模様ガラスの嵌まった格子戸の向こう、すっかりこんと消えるまでは、何とか大人しくしていた妖一くんだったのだけれども。

 「………で?」
 「何だよ。」

 ランドセルは没収され、上着を脱がされたそのどさくさ紛れに、日常使いの携帯もそりゃあ見事に取り上げられて。已なくのこと、子供部屋までの送還に甘んじ、ベッドに寝かしつけられたところで。部屋から出て行かない父上が枕元から訊いてきたのが、

 「惚けてんじゃねぇよ。
  お前がこんな風邪拾ったのは、何処のどどいつが無理さしたんだって訊いてんだ。」
 「う…。」

 うわ〜〜〜。そう来ますか、お父様。さっきまでの穏やかそうな美丈夫ぶりも何処へやら、坊やによく似た、いやさこちらが本家本元か。切れ長の目許は、冴えた眼差しが刺すほどに尖っており、
「まさかあの、アメフト大学生じゃあなかろうな。」
「…違げぇもん。」
 お、返事に微妙に間が空いてんじゃんか。少しは関係あると見たぞと、やはりやはり鋭くも見通したお父様だったものの。そんなこんな思った“間”を、今度は坊やのほうが読み取ったらしい。
「ホントに、ルイは関係ねぇの。」
 がばちょと布団をめくっての起き出したもんだから、
「ああ判ったっての。」
 熱のある子を興奮させてどうするかと、ここでようやくクールダウンにかかった父上。坊やの小さい肩を宥めるように撫でてやり、いい子だから寝ておくれと布団を直せば、
「〜〜〜。」
 何とか憤慨が収まったか、大人しく横になり直した妖一坊や。枕に頬を埋めて、しばらくほどは黙っていたが、

 「…ガッコ行かなきゃ、同じように心配されっかも知れないじゃんか。」
 「ほほぉ。」

 どうやらあのお兄さんが優先されているらしいという話の順番は認めたくはないが、それでも何か語り出そうとしているというのは察せられ。からかいや激発はせぬようにと、自分へ言い聞かせつつ、お父さんは頑張ってみることにした。

  ―― 寒空に外をほっつき歩きでもしたか。
      違う。あ、でも。
      んん?
      ルイには内緒で、商店街を行ったり来たりした。
      商店街を?

 うんと頷く坊やが…ちょっぴりと。その視線を揺らめかせたのは、もしかして。

  “この時期の商店街、ねぇ。”

 お相手のお兄さんには内緒というのも、いいヒントではなかろうか。まだまだやわらかな額も頬も愛しいばかり。布団から出してたお顔を指の長い手ですりすりと撫でてやり、

 「一個だけ訊いていいか?」
 「…何だよ。」
 「毎年、何かしらのチョコ、用意してるのか?」
 「な…っ!///////

 慌て出す坊やを前に、
「判んねぇと思ったか、この未熟者。」
 ふふ〜んと偉そうな居丈高、反っくり返って見せたものの、どうせなら大きな的外しであってくれた方がよかったのにねと、お父さんの心境はややもすると複雑なそれで。……まあねぇ。何が哀しゅうて、男の子なのに男の子へのチョコを用意する話を聞く羽目になるものか。いや、そういう言い方は差別に当たるかも?

 「とりあえず。
  出来合いのを迷っての風邪を引いたってのが真相らしいが。」
 「ううう………。///////

 有名パティシェのクリスマスケーキみたいなもんで、ネットでのお取り寄せってのは考えなかったのか? それに気がついたのが遅すぎてよ、いいのは全部売り切れてた。そっかぁ、そりゃあまあ女の子のパワーにゃあ勝てんわなぁ。
「母ちゃんに作ってもらうとか?」
「それはダメだ。」
 なんで? ケーキも料理もプロ並みだぜ? でもダメ。他のはともかくバレンタインのは、

 「父ちゃんのを作るべきだから。」
 「おおお。///////
 「…おっさんがぶりっ子ポーズはやめろ。」

 自分にそっくりだから尚のこと腹が立つと。小さな拳を振り上げたのへ、苦笑を向けてやり。

  「だったら、こうしようじゃないか。」

 まだ話してなかったか? 母ちゃんに料理を教えたのは俺なんだ。言った途端に え〜〜〜っ?!と叫んだ失敬な息子へ、おいおいという一瞥をくれてやってから。そういう訳だから、今年のチョコは、父ちゃんが作ろうじゃないかと、何だかとんでもない方向へ話が一気に進んでしまい。はてさて、当日はどうなることやら。とりあえず、

  「風邪を、とっとと治しな。」
  「うん。///////

 間に合うといいですね、あれもこれも。
(苦笑)





  〜 どさくさ・どっとはらい 〜


  *相変わらず、妙なお父さんですいません。
   要は蛭魔さんが二人いるという扱いにすりゃいいだけのことなんでしょうが、
   そんな恐ろしいこと、
   一介の善良なおばさんにどうして出来ましょうや。
(おいおい)
   とはいえ、純粋な子煩悩とは言いがたい我儘なところなんかは、
   頑張ってみた成果なんですが、いかがなもんでましょ。(いや、訊かれても?)

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv

ご感想はこちらへvv

戻る