Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “桜色の春に” 
 


 暖かくなるのはイんだけど花粉はイヤよねなんてな、寒くなくなったからこそのお悩みの声が聞かれだし。梅に菜の花、お節句に寄り添わす桃の芽吹きが話題になって。この春のトレンドはプリント柄のワンピースとか、ミュールは去年のキラもの以上のゴージャスなのが流行りそう…なんてな話題が、女子の間を飛び交って。高校野球も始まり、桜前線の北上が目に見えてのこととなり。陽気もぽかぽか、でも風はまだ少し素っ気ないかなという頃合いの、弥生、三月の終盤辺り。

 「うわ〜〜〜っ♪」

 ビルの隙間からちらほら覗いて見えてた海が、建物という障壁がいきなり途切れたその途端、いよいよのこと視野を大きく塗り潰したところで、テンションはとうに ぐんと上がっていたけれど。明るい空の下、沖合の海のおもてが細かい光の粉をまぶしたみたいになっていて。海の色自体も冬場の藍色から群青に明度が上がってて。見ているだけでワケもなくワクワクして来たもんだから、ついのこととて声が上がっての、そして。

 【〜〜〜〜。】
 「…なんだよぉ。//////
 【何でもねぇよ。】

 振り飛ばされぬよう、ぎゅむとしがみついてた大きな背中が、くくっと収縮を見せたことから。ツーリングではもはや常備グッズと化している、ハンズフリー
(?)のインカムフォン越し…のみならず、彼らを包む走行風を押しのけてまで届いたらしき坊やの雄叫びへ、ゼファーのライダー氏が思わずながらの苦笑を洩らしたの。今度は坊やの側へも伝わって。照れ隠し半分の凄みへ、何の話だと途惚けた相手へますますのことムッとも来たが、

 「〜〜〜。////////

 タンデム状態のしかも猛スピードで、湾岸高速道路を移動中という、今のこの状況じゃあこれ以上の意趣返しも侭ならず。

 「もういい。////////

 イヤーカバーのついたタイプのヘルメット、それで覆われた頭をとんとその背中に押しつけて、今はそれで善しとする。別に囃し立てられた訳じゃあない。大方、坊やの素直な感情の吐露を微笑ましいと思っただけだろう。それへまで怒るようでは、それこそこっちの底が浅いということになる…と、そんな風に感じ入ったり、

 “あ〜あ、俺も所詮はガキだよなぁ。”

 そんな言いようをして感慨深くなったりしている坊やだったりし。……いやいや、あんたはまだ、やっと2桁へ繰り上がったばかりな分しか、人生の蓄積がないお子様には違いないんすけど。
(苦笑)





 お久し振りですねのご登場をいただいたのは、相変わらずのでこぼこコンビ。蛭魔さんチのヨウイチ坊やと葉柱さんチのお兄さん。大学生のお兄さんの側は、通ってる学舎施設で催される入試の兼ね合いもあってのこと、夏休みといい勝負なほど長い目の春休みとやらに、とっくに入ってたのだけれど。あいにくと坊やの方は、まだまだ小学生だということで、先日やぁっと終業式を迎えたばかり。

 「ルイ、こっちだぞっ!」
 「へいへい。」

 目的地に着くと、現地では小回りが利かなくて却って足手まといな大型バイクを、まずは駐車場に収めてから。特に当てもないまま、いつものコースを歩き出す。川崎はアメフト振興をうたうスタジアムがあるせいか、横浜よりも手前という地の利もあって、結構足を運んでいる彼らであり。今日の来訪も、主目的はその川崎球場でのイベント目当て。いよいよのスポーツシーズン到来と謡い上げたいか、大学リーグの春の交流戦への伏線もどき、結構有名なチームのエキジビションマッチがセッティングされており。これを観ずしてどうするかと、何へもあまり熱くはならぬ小悪魔坊やが、ネットで特等席をわざわざゲットし、今日という日を指折り数えて待ってたくらい。とはいえ、そちらは夕刻から開催されるものであり、それまでの昼日中はフリーの身。ならば、せっかくの春催いを堪能しようと、早い目に来ておいてのお散歩と洒落込んだ訳なのだが、

 「ひゃあっ。」

 見晴らしのいい公園まで出て来ると、広い港を見下ろせる眺望と吹きつける潮風とに、さっそく歓声を上げる金髪の坊や。風が強いのは先刻承知でいたけれど、今のは予兆もなくっての、しかも飛びきり強かったから。絹糸みたいな柔らかな髪が、容赦のない風に叩かれ煽られ、くしゃくしゃと掻き乱されてしまってる。とはいえ、小さな白い手はというと、そんな頭よりも咄嗟に目許を庇っているところが、まだまだ子供というか、若しくは男の子だからというところか。そんな彼の真っ赤なスカジャン羽織った小さな背中へ、大きな手のひらが添えられる。そんなことがあるはずはないのだが、風をはらんでブワッと膨れた背中がそのまま、エアーパラシュートみたくの浮力を得ての軽々と、この坊やを攫ってゆきそうに見えたせい。

 「あ?」
 「ああ…いや。その…。」

 このくらいの風じゃあ吹っ飛ばされやしないのにと、やっとのこと、その突風が収まったのと入れ違い、キョトンとした視線を向けて来た坊やへと。ああそうだよなと苦笑混じりの言葉を濁しているお兄さんだったりし。

 “…やっぱ小せぇのな。”

 自分の手が大きいということもあろうし、風を孕んだスカジャン越しだったせいもあろうが。すぐには掴み取れなかった肩が、その分もあってあまりに小さく頼りなく思えてのこと、少々ぎょっとしてしまった葉柱で。よくよく考えりゃあ当たり前、まだ小学生の妖一なのだし、かてて加えて、元々のガタイの基礎も、どうやら自分とはタイプが違う。彼にそっくりな父上が、強靭なそれには違いなかろうが、それでも随分とスリムな体躯をしてなさり。ああこの子もああなるタイプなのだろなと。何とはなしに、理解というか把握をしていた筈だのにね。

 『なあなあ、俺、昨日計ったら143あったぞ?』
 『ほほお、そうは見えないがそんな重いのか。』
 『ばか、体重じゃなくて身長が。』

 もしかして 100なかったかも知れないほどおチビさんだったのになぁと。初めて出会った頃よりはずんと大きくなったこと、実感したばっかだったから尚更に。それでも小さくて儚いんだと、妙な形で実感させられた訳であり。

 「ルイ?」

 動じた延長、急に立ち止まってしまった連れだと気がついて。陽を透かしてその底をまで見通せるような、出来のいい玻璃玉みたいな金茶の双眸で、案じるように見上げてくる坊やへと。

 「すまんな。ちょっと、その…腕とか固まっちまってたらしい。」

 ずっとバイクん乗り詰めだったからと誤魔化せば、何だそりゃと小馬鹿にするよに言い返されて、
「もうそんなトシか? そろそろ四輪
(ハコ)に乗り換えた方がイんじゃね?」
「何だよ、それ。」
 いいトコの坊ちゃん嬢ちゃんが高っかい外国車ねだるのを、親がまたホイホイ買ってやるのはサ。経済力とか見栄もあろうが、それ以上に、事故ってもドラーバーは怪我しにくいからだって聞いたことあるし…と。相変わらず妙なことにばっか詳しい小悪魔様が、小憎らしいお言いようを振らせて下さり。
「はいはい、そうかい。」
「何だよ、その返事。」
 俺はルイのことを心配してやってだな。そうとは到底聞こえなかったがな。判りやすいような言い方してやっただけだ。そうかい、ありがとよ。何だよ、目許眇めて言い返してんじゃんか…と。見様によっては十分に、大人の側が大人げないばかりな口喧嘩にしか見えない応酬だったが。それこそそこへと気づいてか、
「〜〜〜。」
 む〜んと先に口を噤んだお相手へ。言い負かしたぞと言わんばかり、ふふんと鼻高々なお顔になった坊やのお顔こそ、何だか不思議と…一番に子供っぽく見えもして。もしかすると手のひらの上で転がされてるのは、やっぱり坊やの方なのかしら。普通はそう見えて当然の年の差なんでしょうけども。彼らの場合は、知れば知るほど色んな部分のバランスが…どっちが大人で割り切れてるか、どっちが無垢で真っ直ぐか、言い切り切れない複雑微妙な相性をしているもんだから。

 「ほら。行くぞ、ルイ。」
 「ああ。」

 ルイは俺について来りゃいいんだよなんて、偉そうに振る舞っているのは、いつも坊やの方だけど。でもねあのね? 時々ね?

 「…♪ ////////

 手と手をつないでぐいぐい引っ張るなんて、普段だったら“ガキじゃあるまいし”なんて鼻で嗤ってる筈なこと。でもね、だけども。ルイってば、子供相手だと手を上げられないって性格してっからさ。いかつく見える恐持て、なのに、振り払われたことなんか一度もないもんね…と。それが嬉しくてと、それはそれは嬉しそうなお顔になってる小悪魔坊やであり。そして、

 “あ〜あ、何をにやけてんだかな。”

 日頃の“してやったり”という笑い方も、今じゃあそれなりに可愛いと思えるが。そんなの物の比ではないほどに、細められたる玻璃の目許や、幼い歯並びが覗くほどほころぶ口許が、愛らしいやら目映ゆいやら。そうまで愛らしく、素直に微笑ってるお顔を見せてくれるのが、やっぱり嬉しいお兄さんだったりし。


  ―― あ、今桜が散ってたぞ。
      桜か? まだ早くね?
      間違いねぇ、桜の花だったもん。
      よ〜し、だったらその大元の桜がどこにあんのかをまずは探そうや。
      おおっ。


  ……… どっちもどっちだ、あんたたち。
(苦笑)





   ◇  ◇  ◇



 先にも述べたが、最終的な目的は宵から始まるというアメフトのエキシビジョンマッチ。午後からも実業団チーム所属の高校生クラスのゲームがあるらしいのだが、そっちまで観ていると集中力や体力が保たないだろからと。そこへまで意見が合う辺り、どんだけアメフト馬鹿なんだかというお二人でもあり。数日前に寒の戻りかちょっと冷え込んだのを、相殺して余りあるほどのいいお日和の中、まだ数時間ほどは間があると、関係イベントの出店を冷やかしたり、ショッピングモールまで足を延ばしての、春仕様のあれやこれやを覗いて回ったりしたその末に。おやつ代わりのフライドチキンとホットドッグで小腹を満たして、さて。場末じゃあなかろう緑地帯に出たので、海へと向かってゆるやかな傾斜になってるその土手で、ごろりと横になっての食休めへと洒落込んだ。他にも春休みというお出掛けの人出はあって、そんな人々への休憩の場にもなってるらしく。も少し下の方にはドッグランでもあるものか、リードのついたレトリバーやシェルティ、ダルメシアンなどが、主人を引き引き降りてゆく。
「やっぱ今度来るときゃ四輪
(ハコ)だな、ルイ。」
「あ? まさか、キングも連れて来よってか?」
 そちらさんは寝転びまではしないまま、尻尾を千切れんばかりに振るわんこを眺めてる妖一くんの横顔から。言葉にまではしていないところ、あっさり掬っての言い返している葉柱のお兄さん。小さい体で、でも元気一杯のシェルティくんを思い出したらしい坊やだってことくらい、察しがつかなきゃ蹴られてるという相性の彼らだが。

 「………。」
 「…? ルイ?」

 ふと。妙な静けさが立ったことに気がついて、おややぁと肩越し、後ろ手についてた手の向こうを眺めれば。薄手の革ジャンに包まれた長い腕、肘から高々上げての頭の後ろへ回し、手枕にしていたそのまんま。それはそれは安らかに、くうすうと眠ってしまった相方だったりしたもんで。

 “ありゃりゃあ。”

 東京から此処までのツーリングが堪えたのかなぁ? 試合までどっかで休んだ方が良かったのかなぁ。帰りは遅くなるだろからって、何処って言ったか、都議のおっちゃんが別宅にしてるマンションを一泊するのに使わしてもらうとかって言ってたけれど。

 「…。」

 広々とした視野の中、一番の主役はやはり、港の俯瞰と沖合に広がる海とで。結構距離がある筈だのに、それでも手が届きそうに見えるのは、ずっと遠くまでを見通せるほど遮るものがないせいか、それともそれだけ大きな存在だからかも? そんな壮大な風景を眺めておれば、時折、吹きつける潮風があって。自分の髪が舞い上げられるのは気にならないけど、傍らのお兄さんの黒髪が、せっかく決めてたのにぱさぱさ乱されてると、あれあれと つい手が出てしまう。吊り上がってる三白眼、瞑っちゃうとさすがに迫力も減るな、とか。胸幅とか凄げぇあるんだ、とか。その辺りは今更なことだから、いちいち感じ入ったりしないけど。

 “…やっぱ、ルイももう年なんかなぁ。”

 体力も集中力も要るのは、大型バイクの運転もアメフトの試合も同じこと。でもでも、こんな…寝ちゃうほど消耗しちゃったとはなと、そこんとこにはちょっち感じ入ってしまった坊やだったようであり。座ったまんまで じりとにじり寄り、小さな手をそぉと伸ばすと、
「…。」
 髪をちょいちょいと直す所作に紛れさせ、見下ろしたお顔の頬とか額とか。触れるかどうかというすれすれの距離残して、その輪郭をなぞってみたりし。変な顔〜と思っちゃみるが、だったら視線が外せない自分の審美眼ってどうよと、セルフ突っ込み入れてみたり。放っぽっとかれても退屈しない術を…ケータイ以外に持ってるところが、お子様とは思えぬほど只者じゃあないぞ、小悪魔様。そして、

  “…う〜ん。”×@

 周囲に少なからずいらした他の行楽客の皆様も、ちょっぴり変わった取り合わせのこの二人には、何とはなくの注意を向けておられたようで。兄弟にしちゃあ年の差があり過ぎ、かといって親子にしちゃあ近すぎる。若い叔父さんと甥っ子かしらん。それもなあ。そもそも血縁関係があるように見えないぞと。ちょっとした判じ物扱いされかかってたらしくって。そんなところへ、

 「…っ。」

 ポケットの中、む〜んと震えたはマナーモードにしといたケータイ。ありゃりゃと気づいて、だが、寝てるの起こすとまずいと思ったか。さっと立ち上がって少し離れるところがますますのこと徹底しており…あんたらどっちが子供なの。
(笑)

 【あ、ヨウちゃん?】
 「…なんだ。」
 【つれないんだ。ヨウイチロウ、一緒じゃないの?】
 「父ちゃんは家だ。」
 【え? だって、今日のエキシビジョンマッチ。】
 「おお、後輩さんが出るんだってな。でも来てねぇよ。
  母ちゃんがちっと具合悪いんで、無理から寝かしつけての番してる。」
 【…おやま。】

 そいや何日かいきなり寒くなったもんね、判った、じゃあお見舞いがてら栄養価の高いもんでも差し入れて来るわ。そうと告げると、すぐさま切れた辺り、

 “川崎に来てるってのは読んでたらしいが。”

 単なる推量のみならず、ケータイのGPSへの逆探でも使ったか…と。そこまでの周到さを持つ相手だということ、必ず織り込む用心深さが何でまた必要なのか。油断は禁物だぞよと坊やに刷り込んだこと、そのうちいつか、ヨウイチロウさんから怒られるぞの、こちらもお久し振りの歯医者さんからの電話を切って。はぁあと吐息をついた坊やがひょいと視線を上げたれば。

 「……え?」

 この自分が“起こしてはならない”と気遣って、わざわざ場を移したそのお兄さんだってのに。何の拍子か目を覚ましてしまったらしく、上体起こして辺りをきょろきょろと見回しているじゃあないですか。
“…まさか。”
 その様子の覚束無さが、何というか、その。ああまでの威風堂々とした風体のお兄さんには、全くの全然 似合わないほどに、どこか頼りなくも見えており。それが、そうであることが、何でだろうか、坊やの胸の内をちょっぴり擽る。

  ―― 俺んこと、探してるの?////////

 ねえ、いないのが心配? そりゃまあ預かり物の坊やではあるけども。どんだけ行動力がある子かは重々承知だろうにさ。もちょっとだけヤキモキさせてやろっか。ああでも、ケータイで電話掛けて来られたら終しまいだよな。そんなとこで何してるって、怒られちゃうかな。くすすと微笑って駆け出して、最後の一歩でその懐ろへとダイビング。

 「どわっ!」
 「何だよ、こんくらい余裕で受け止めな。」
 「いきなりだったから、ビックリしただけだろが。」
 「ふふ〜ん?」

 どう聞いても恋人同士の会話だぞ、お二人さん。微笑ましいの域を越えると、神奈川では特に厳しい“青少年何とか条例”に触れるそうだから、度を越さぬように気をつけてねと、余計なお世話の出歯亀も今日はここまで。春の陽気よりも熱っぽいのにあてられ、甘さに胸焼けして倒れるお人を出さぬよう、どうかお気をつけての休日を過ごして下さいましネvv




  〜Fine〜  08.3.22.


  *何だか変てこりんなお話になっちゃいましたね、すいません。
   こちらのお二人も、相変わらずですよということで。

  *それと、他の進セナやラバヒルもそうなんですが、
   この辺りから、彼らの年齢は上げないことと致します。
   そろそろ そうしとかないと、
   10年後篇にあっと言う間に追いつきそうで。(そんな理由かい・苦笑)

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv

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