Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “青葉風 躍って” 
 


からり晴れた空の青から降りそそぐ陽に暖められて、
陽あたりのいい斜面
(なぞえ)には桜の若木が植わってて。
吹きつける風に梢が躍り、しきりにゆらゆらと揺れている。
萌え初めの若葉と同じくらいに、枝もまた柔らかいのか、
その撓
(しな)い方は上下へと たうとうように優雅。
まるで舞踏会に招かれたレディのお辞儀みたいだと、

 “ルイだったら言いかねねぇかもな。”

泣く子も黙る暴走族の頭目で、
顔や体躯だってごつくて恐持てなくせして、
妙なところでロマンチストな彼であり。
人の顔色とか伺う必要がなかったって意味で育ちがいいからか、
それとも

 “…無いものねだりってヤツなのかな?”

だって やっぱ似合ってない。
力みの強い三白眼に、鋭角的で精悍な、そりゃあ男臭い面立ちしててサ。
上背だって凄げぇあるし、
肩も背中も腹も、堅い筋骨がぎゅうぎゅうと引き絞られてのまといつく、
いかにも喧嘩だの格闘技だのをやってますって雄々しさだしで。
本人もそれが判っているからこそ、
可愛いもの綺麗なものへと、ぼんやり見とれこそすれ、
そんなお言いようを口にまではしない彼だと知っている。
だって

 “…だって伊達に付き合い長くねぇしvv”

そのお付き合いの中で、自分でそれと気づけたことだから、と。
そんな答えへ帰着したことが、何とはなしに嬉しかったか。

 「♪♪♪〜♪」

何だかほんわり浮かれてしまった、小さな坊や。
桜だろう立ち木から視線を外すと、
場内の路肩を縁取る細い縁石の上、小さな御々足を一歩ずつ慎重に踏み出し、
平均台を渡るような歩きようをしてみる。
運動神経のいい身なので、
どんどんと距離を稼いでの危なげなく、歩み進めていたのだけれど、

 「…くぉら。」
 「お。」

ひょいと、背後から伸びて来た腕に、
脇もて軽々抱え上げられてしまい、
「何すんだよ、ルイ。」
「何すんだじゃねぇだろが。」
危ねぇだろうがと続けかけた声が、
傍らを通り過ぎてった、
遠距離輸送用だろうデコトラの、重々しい通過音に踏み潰される。
ここはインターチェンジの駐車場だから、
ああいう大型車も多数停まってるし出入りもしており。
そんなところで微妙なバランスでふらふら歩いてたらば、
風に撒かれたりもしかねずで、
まま確かに危ないには違いない。

 「〜〜〜。」

そんな理屈はさすがに判るのか、
むうとむくれつつも…腹立ち紛れに邪険に振り払うような、
そんなホントの子供っぽさは見せないで、
「…判った。」
だからもう離せと、
下からながらしっかとした目線で訴えて来るところが、
相変わらずの子供らしからぬ鷹揚さだったりし。
はいはいと足元を地面へ慎重に降ろして差し上げれば、
くるり素早く振り返り、
提げて来たポリエチレンの袋へ
早く昼飯寄越せ…という手を突き出した、ヨウイチ坊やだったりする。




 ◇  ◇  ◇



今年もGWはアメフトの試合で潰れた。
ハードなスポーツだから、
高校野球の地区予選ばりに連日試合があった訳じゃあないけれど。
それでも準備としての調整や何やが、
試合の前日にも後日にも必要だったから。
ただでさえ飛び石状態だった今年の連休は、
個人的な用事用の休みとしては1日たりとも消化出来なくって。
ゲームの翌日は殊に、何とはなくグダグダして過ごしてしまってた葉柱さん。
それでなくとも、ヨウイチくんチには数年振りに父上がご帰還あそばしており、
隙を見ちゃあ愛しい坊やと遊ぶんだと狙っておいで。
だから別に、自分が構ってやらんでもよかろうと構えていたくせにね。
そんな連休のすぐ直後の週末の過ごしよう、
ドライブに出掛けねぇかと、
ずんと早い頃合いから打診をしていたお兄さんだったりし。
いいぞというお答えをいただくまで、
ちょっぴり気が気じゃあなかったのは此処だけの内緒。
(笑)
どこへ行こうかと訊いたおり、それとなく“何やって過ごしてた?”と訊いたらば、

 『TDLと八景島シーパラだけは止せって言っておいたがな。』

何が悲しゅうて、
日頃の倍は厚みが増えてる人込みにわざわざ突撃敢行せにゃならんと。
普通は親の側が言いそうなことを口にして、
出端を挫いて差し上げた上で、
それでも…広々とした緑地公園と隣り合う景観も素敵な、
地元の少しほど郊外の某水族館へ運んだそうで。
そしたら、

 『ちびセナと進と桜庭が来てたのと鉢合わせてな。』

そりゃあ賑やかな団体の行楽になっちまって、
人目は引くわで、結構大変だったと、
それにしちゃあ まんざらでもなかったってお顔で語って下さった。
“うんうん、何よりじゃねぇの。”
まあ確かに、
芸能人の桜庭とそれへ引けを取らぬだろう偉丈夫の進まで揃っては、
周囲からの人の眸を引くには十分だったろし。
この坊やのお父上というのもまた、
こんな大きな子供がいるようには見えない美丈夫だったりするから、
一体何の番組の撮影かしらと、
大量の視線の集中砲火を浴びたろこと、想像するに如くはなく。

 “…それでなくとも。”

この坊やからしてが、
黙ってりゃあ十分“美少年”の範疇ど真ん中な風貌には違いない。
売店は混み合っているから待ってなと、外に居残らせた彼へは、
妙な言い方になるが、わざわざ目視で探す必要がなかったほど。

 『ねえねえ、あすこにいる子ってモデルさんか何かかなぁ。』
 『え? あ、ホントだvv 可愛いねぇ。』

壁一面がガラス張りになってたその向こう、
駐車場内のどこに居るかは、
他の方々が代わりに注視しての見守っててくれたようなものだったからだ。
いかにも待ちぼうけですというポーズ。
小さな双手を背後へ回して後ろ手に組み、
若葉をたわわにまといつけてた桜を見上げてた様子は、
小さな仔猫みたいに愛らしくもどこか可憐だったため、
主には女性客からの注目をたやすく集めてて。
時折風をはらんで膨らむスカジャンは、
一丁前にキッズブランドのロゴ入りの。
それが絶妙に映える、ほっそりとした背中とそれから、
柔らかで きめの細かい、
やわやわなしんこ細工みたいな小さな手や細い首条。
自分でそれが似合いと判っていての確信犯的に選んだらしい、
半ズボンからするんとすんなり伸びた、
凹凸の陰もなく、アザひとつない白い御々脚の、
何とも言えない頼りなさはどうだろか。
金茶の眸を据えたお顔の造作の愛らしさ、
陽を吸って眩しい金の髪、風に散らして立ってる姿が、
瑞々しいまでの翠を背景に、異様なくらいに目立ってて。

 “先々では すこぶるつきの美人になんだろな。”

今からこれだもの、先ではもっと苦労させられそうだよなと、
苦笑が絶えないルイさんみたいだったけど。

  ―― だけども、あのね? 葉柱のお兄さん。

オープンカフェ風のテラス席、
風を飲み込むコイノボリもかくやとばかりの大きくお口を開いて、
エビカツバーガーへかぷり食いつくお顔さえ可愛いと思えるのは、
坊やのこと、容姿がどうのこうのというのを置いといても
愛しくってしょうがないって思ってるからなんだよ?
気がついてる…のかなぁ?
(苦笑)




 ◇  ◇  ◇



 『あんね? 先週の方のGWは進さんのおーえんに行ったんだよ?』

ヒル魔くんも葉柱さんのおーえん行ったんでしょ?
そいでね、そやって忙しくって、
セナんこと遊びに連れてってやれなかったからってゆってくれて、
そいで今日は進さんとおデートなのぉvv…と。
桜庭っていうおまけがいてもそうと言い切った小さなセナは、
お昼を一緒に食べた後、公園の奥にこの春から開設されたっていう、
犬や猫が放し飼いになってるって触れ合いゾーンへと別れてった訳だけど。

 『〜でね? 〜〜なのvv////////

そりゃあ可愛らしい声を上げ、いかにもはしゃいでたおチビさんが、
自然な動作で上げた手を、

 『…。』

すぐ傍らにいた堅物な仁王様、もとえ、進清十郎さんが、
何の衒いもなく…その大きな手を降ろしてやっての、
ふわりと包み込むように握ってあげたのが、

 『…お。』

見送ったヨウイチ坊やには、何でだか 少々印象的だった。
人出が多かったから迷子にならないように?
だったらいっそ、ひょいっと高々、抱え上げればいい。
もう四年生だとはいえ、セナはヨウイチくんよりももっと小柄な子だし、
何より、彼自身が進からのそういう扱いを嫌がらない、
どこか無邪気なところのある子だし。
だっていうのに

 ―― セナから進へ、進からセナへ

差し出し合った、差し伸べ合った手と手、
きゅうって握ったその過程からして、そりゃあ自然で…温かそうで。
どうしてだろうか、いつまでも忘れられないままになってて。

 “そういや、さ。”

俺、ルイと最近 手ぇつないだの、いつだっけ。
こっちからルイの腕を捕まえて、
巻きつけるみたいにして、しがみつくみたいにして抱きかかえて。
そやってないか、ここんとこ。
“だってよ、人一倍長いんだもんよ。”
それに何か、手をつなぐってのはこっちが凄げぇ小さい子みたいで。
勝手にどっか行く恐れがあるからって、
それこそ迷子にならないように、
捕まえとくために つないでるみたいだって思ってて。
あと、妙にべたべたしてるカップルとかの、
これみよがしなスプレイ行為みたいでサ。
何かダセェって思ってたから、
それよかマシって、こっちから抱きついてたんだけどもさ。

 “…それってサ。”

ある意味で、否応無しだよなと、今の今 気がついた。
イヤなら振りほどくって手もあるんだ、
そうしないルイだってことは、
まんざらじゃあないってことなのかも知んない。
でもさ、そんくらいのこと邪険にするほどのこっちゃないって、
そんな余裕から好きにさせてる…放っておいてるだけなのかも。

 「…。」

テーブルに置いてる手に、何とはなくの視線が留まる。
でかいよなぁ。指も長いし。
アメフトボール、余裕でひと掴みだもんなぁ。
下手すりゃ指のまた使って、3つ4つ同時に持てんじゃね?
あ? それは無理?
いやいやご謙遜を、縦に掴んだら2つまでは楽勝なんじゃね?
今更なんでまたそんな話 振るんだって?

 「…いいじゃんか、別に。」

可愛らしくも両手で頬杖ついてたテーブルから、
お顔を上げての立ち上がり。
それよか そろそろ行こうぜと、相方を促す。
アメフトがメジャーになって来たのはいいけどよ、
川崎球場まで行くのに、早く出ないとどうかしたら渋滞になんのはどうよ。
やれやれと肩をすくめる、小さな、されど辛口なご意見番様へ、
ごもっともとの苦笑を返しつつ、

 「お…っと。」

バイク専用レーンに停めておいたゼファーまでの途中、
いきなり吹きつけた風に思わず立ち止まった坊やだったのへ、

  ―― ほれ、と。

掴まんなって延ばされたものがあって。
そりゃあ無造作に、でも、何てのか…微妙に間が良かったもの。
こやって間近になったら尚のこと、迫力の増すでっかい手。
凄げぇな、俺の顔、片手で隠し切れんじゃね?
そういうの言いたかったけど、
それと同時、いやいや、もっと素早くのこと。

  ―― あのね? こっちからも手が出てた。

意外と乾いてて暖かくて、
頼もしくって…大好きなルイの手。
離さないよって言う代わり、
離さないでって言う代わり、
ぎゅうって掴まえられたのへ、こっちからも握り返してる。
もしかしたらば、
うろちょろすんなって言う代わりだったのかも知んないけど、
そんな野暮には気がつかない振りをして。
その代わり、こっちからもあのね?
バイクに近寄ったらもう離さなきゃいけないの、
凄っごく残念だったの内緒にして。


  ――― あ・ヤベ、顔が笑う。//////////
       な、なんでもねぇよっ。
       ルイこそ何だよっ。
       手ぇつないでんのにその上、
       いちいちこっち見下ろしてんじゃねぇよっ!/////////






  〜どさくさ・どっとはらい〜 08.5.10.〜5.11


  *ちょこっとお久し振りの子ヒル魔くんと総長さんですvv
   いやもう、こちらのお二方は、
   もはや“宿六亭主と古女房”という空気さえ醸し出しそうな、
   そんな呼吸と化しておりますゆえ、
   何をやらせても新鮮味というものがないかもしんないとか、
   そんな風に案じておりましたが。
   何の何のvv
   復古です、回帰です。
   流行やブームは鮭のように戻ってくるのです。(どんな喩えだ。)
   とうがたったカップルには、最初の段階が新鮮に思えてくるもんなんです。
   小学生つかまえて“とうがたった”なんて言ってるサイトだってこと自体、
   問題大ありではありますが…。
(笑)

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv

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