小学生なら尚のこと、
本当は学校へは持って来ちゃあいけないものというのが結構あって。
まんが雑誌やお菓子に、おもちゃ。
腕時計や、いかにも高価な文具も禁止。
最近は物騒な世情だからということで、
校内では使わぬことを前提に
携帯電話を持ち込むのこそ大目に見られてもいるものの、
携帯ゲーム機なんてのは以っての外で、
おませな女子なら色つきリップやヘアケアグッズ、ピアスやマニキュアなどなども、
こっそり持って来ているらしきそれら、
先生方が抜き打ちで持ち物検査し、取り上げるといういたちごっこが、
いつの時代にも恒例で。
先生にいかに見つからないようにするかへと、
子供なりの知恵をさまざま働かせもするのだけれど。
どっこい、先生がたの方は方で、
これまでの蓄積という武器があったりするので、
どんなに巧妙に隠したところで、
国税局の方々が課税逃れの隠し金を捜し当てるのよりも容易くて。
案外と堂々と持ち込んだ方が……
「だからセナくん。そんな大っきなぬいぐるみは、あのね?」
「だってセナ、お昼寝にはマンボウさんが要るの。」
「五限以降は昼寝することが、もはや前提になってるな、こいつ。」
いや、やっぱ規則は守らなくっちゃねぇ。(苦笑)
◇◇◇
他人のことは言えない、
小さなお膝の上、ぱかりと蓋のモニター部分を開いて、
ノートPCと睨めっこしている誰かさん。
校庭の一角、陽あたりのいい芝草の上でのことであり、
特にこそこそしてもいないところは、
セナくんの抱き枕といい勝負なほど堂々としたもんで。
“だってガッコでもぱそこんの授業、あるものねぇ。”
いやそれはだって、設備として置いてあるのを使うのでしょうに。
まま、そこは、
教育委員会からも“特殊英才教育対象”とか何とかいう、
教育上の奔放自在を妨げぬようにとのお墨付きの出ている坊やなだけに。
そして…特別 意地悪や乱暴を仕掛ける子でもないながら、
独特の空気を醸して制御してでもいるものか、
あんまり同級生がまとわりつきはしない子なだけに。
他の子供らが群がったり、羨ましがって騒いだりするようなら問題もあろうが、
奢侈の誇示や娯楽目的ということではないことが明らかなのでと、
周囲の大人の皆様も微妙な“見て見ぬ振り”で通して下さっており。
「…何してるの?」
唯一の例外にあたるお友達、
そりゃあ無邪気でなのに不思議と小悪魔くんを怖がらぬ、
小早川さんチのセナくんが。
枯れ葉を蹴散らかすのに飽きてか、傍らまで寄って来る。
彼のほうはお迎えを待つ身で、
王城高校の学園祭での看板娘としてかつぎ出されるらしい、
アメフト部マスコットのセナくんへの衣装の採寸があるのでと、
大っきなお友達の進さんが、やって来るまでをいい子で待っていたのだが。
『ヨウちゃん? いいや、話してなかったけど?』
心配だからついててあげてと、桜庭が頼んだ訳でもなかったらしくて。
なのにね、一人で待ちぼうけは寂しかろと、
こうしてついててくれてる、本当は優しい子。
「……。」
お返事はないままで小さな手はキーボードの上。
わざわざなんて、そんなつもりじゃねぇと言わんばかりで、
自分はセナには関係なく居残ってるんだと言わんばかりで。
お耳には携帯オーディオからのイヤホンつけてて……でも片っぽだけだけど。
“聞こえてゆクセにね♪”
だってさっき、そこの段差でコケそになって、
はやや〜って声だしたらば、
それ聞いてハッてお顔を上げた蛭魔くんだったの、知ってるもの♪、と。
こちらからとて付き合いは長いからという蓄積から、
素のお顔だってお見通しだよんとばかり、
小さなセナくん、はにゃんと笑う。
「…へくち☆」
「おいおい、ちゃんとカーディガン着てな。」
はしゃぐうちに小汗をかいたからか、
ランドセルの傍らへと脱ぎ去られてた玉子色のカーディガン。
小さなクシャミのお声が、やっぱりちゃんと聞こえてて、
風邪ひく前に着ておきなとの、短いお達し。
うんと頷いて言われた通り、小さな背中へかぶったカーディガン。
あれあれれぇとお袖の入り口を探して、
自分のしっぽを追いかける子犬のように、
くるくると回ってしまったのもお約束なら。
「あーあー。ほら、葉っぱがついてんぞ?」
置きっぱにしていた間にくっついたらしい、
枯れ葉をはたはた、はたいてやるヨウイチくんなのもいつものことで。
……………と。
不意に鳴り響いた音が一つ。
重低音がビートを利かせた、グラムロックのスタンダードで、
「はにゃ?」
セナも知ってる。いや曲名じゃあなくってさ。
この着メロ、ヨウイチくんが誰からのへと設定しているのかを。
ぎゅわぎゅわ、ぎゅんぎゅん、
あれれ、こんなだったんだ、このお歌の先の方。
…ってゆぅか。
「蛭魔くん、お電話出ないの?」
いつもなら、こんな長いこと聞かないうちにも途切れてた。
だって蛭魔くん、どんなにカバンの奥のほうに突っ込んでても、
あっちゅう間に取り出しちゃうのにね。
特にこのお歌の時だったらサ、
いつだって さいこーしんきろくだのにね。
だってのに……?
「〜〜〜。」
なんでだか、蛭魔くん、なんかムキになってキーボード叩いてるし。
あ、さっきまで連勝してたのに、ソイティア。
そこ置いたら続かないって、セナにも判るよ? どしたの、ねえ?
「……いいんだよ。」
だってこれって、あ………切れた?
だってこれって、葉柱のお兄さんからの時のお歌じゃなかった?
御用があって掛かってきたんじゃないの?
蛭魔くん、いつもだったら何んもかんも放って優先してるのに?
「たまにゃあな、焦らしてやった方がいいんだよ。」
今度はフリーセルなんだ。あ、でもその3はそこじゃないと思う。
あ・ほら、負けですが出た。
「〜〜〜〜〜〜〜。」
変なの。蛭魔くん、いっつも失敗しないで続けちゃうのに。
もう飽きたとか ゆってたのに。
あ…………。
遠いとっから聞こえて来たの。
きぃ…んってゆう、ちょっと高い高いなバイクの音。
気のせいじゃない証拠に、
「…。」
蛭魔くんのお耳もちょこっとだけひくくって震えたもの。
そいでそいで、
「…ったくよっ。」
校門前にぎゅあんて停まったオートバイ。
そこから降りて来たお兄さんが、
ちょっぴり怒っているものか、
苦い苦いお薬飲んだみたいなお顔でこっちへ来るのが見えた。
真っ黒な髪の毛を撫でつけてて、
あれってやっぱり葉柱のお兄さんだよねぇ?
「ヨウイチ、何で出ねぇかな。」
「…。」
「電話入れただろがよ。」
「………。」
ちらっとこっち見たお兄さんだったので、
うんうんと頷けば、大きな肩ががっくり落ちる。
「呼び出し、鳴ってたらしいじゃんか。」
「うっせぇな。」
いつの間にかちびセナとツーカーか?
進に知れたら関東大会で血祭りにされっぞ?
物騒な冗談、言ってんじゃねぇよ。
そもそもお前が呼び出しに出ねぇから…
「昨日出なかったのはどこの誰だよっ!」
「だから、婆ちゃんの見舞いで病院に行ってたって言っただろがよっ。」
「そんでもっ。
履歴確かめて、すぐんでも折り返しかけてくりゃいいだろがっ!」
「用があった訳じゃねぇって、
今朝のメールじゃあ、そう言ってたじゃねぇかよっ!」
……ありゃりゃあ。もしかしてこりは、
「何なに、また痴話喧嘩してんの? あの二人。」
「桜庭。セナの前だ。」
見とれるあまり、自分へのお迎えに気がつかなかったセナくんで。
そのお迎えのお兄さんたちもまた、少々呆れるほどに、
性懲りのない頻度とレベルの痴話喧嘩。
「大体、ヨウちゃんて日頃は結構大人なくせにさ。」
葉柱くんが相手となると、
急に年相応に拗ねたり駄々こねたりするんだよねぇと。
困ったことだと言いながら、
でもね?あのね?
桜庭さんのお顔は嬉しそうだったりするんだの。
喧嘩はいけないことなのにね。
ねえ? 進さん。
セナと進さんは、喧嘩なんてしないものねぇvv
でもね、お電話に出ないと
あっちゅう間に飛んで来てくれた葉柱のお兄さんは、
ちょっとカッコよかったのvv
これって蛭魔くんには言ったらいけないのかなぁ…?
〜Fine〜 08.10.28.
*あ、しまった。ルイさんたちが高校生の Ver.になっちった。
まあいっか。(こらこら)
何かちょこっと判りにくいお話になっちゃいましたね。
たまには知らん顔してやるのも手だよということで、
ちびヒルくんのツンデレぶりを書きたかったんですけれど。
ウチの小悪魔様、ツンの方向性が間違ってないかい?(苦笑)
めーるふぉーむvv


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