Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    Father's Day 
 


昔はせいぜい、
デパートや酒屋あたりがチラシの隅っこに謳ってた程度だったものが。
さすがは情報化時代ということか、
今時は高級有名ブランド店でも“プレゼントはいかが”という
小じゃれたディスプレイを設けていたりするものだから、

 「あ、そうか。今日って父の日じゃん。」

立ちあげたPCで何をか検索しようとしかかってたらしい小悪魔様が、
画面に出たポータルサイトの囲みのあれこれへ、
今頃 気づいたというような声を上げている。
ちなみに此処は、
バイクでお迎えに来てもらった葉柱のお兄さんのお部屋で、
昨日の土曜に僅差で勝った微妙な試合の解析を、
これから色々と手掛けようと構えかかったところ。
「何も今ここでやんなくてもいいじゃねぇか。」
というか、
昨日のゲームの解析を翌日に持ち越すなんて、
この坊やにしてはちょこっと珍しい。
勿論のこと、応援にと張り切るし、データ収集も怠りはしないが、
それでも実際にピッチで駆け回る訳じゃなし、
何より、数値にはしにくい感触のようなもののレベルを断ずるには、
興奮とか冷めやらぬうちが一番だからと、
大概はその日のうちにまとめてしまっていたのにね。
そして、そういう意味合いから訊かれているという含みくらい、
坊やのほうでも察しているようで、
「だってさ。」
メモるのを忘れていたらしい、
昨日の試合会場の、気温と湿度と、時間経過別の風向きとをチェックしつつ、

 「家に帰ったら とーちゃんがまとわりついて離れねんだもんよ。」
 「ほほぉ…。」

まったくいい年して困った親父だぜと、
駄々っ子に手を焼く大人のような言いようをする坊やだが、
聞かされた葉柱はといえば、返事に困って苦笑するばかり。

 “気持ちは判らないではないからな。”

どんな背景や経緯があったかは訊いてないから知らないし、
この先も掘っ繰り返す気なんてない葉柱だけれど。
その、久々の再会の場に居合わせて、何とはなく感じたのが、
恐らくは単なる放蕩なんかじゃない、拠んどころのない事情から、
7年もの長きにわたって、
大切な家族から離れざるを得なかったお父様であるらしく。
自分の子供の一番可愛いときに、一番甘えた盛りのときに、
その傍らにいてやれなかったことがどれほど辛く口惜しかったかは、

 “いや、俺も子供はいねぇからよくは判らねぇが。”

判りはしないが察しは出来る。
何せ その当の坊やと、数年越しのお付き合いをして来ており、
確か3つの時にいなくなったと聞いたから、
丁度 今の時点で姿を晦まして、
この子と逢うのを7年我慢しろと言われるようなもの。
「…っと。違うって、半角入力っと。」
広々としたベッドの上、
すんなりした御々脚を双方、綺麗なハの字になるよう投げ出して。
慣れた様子でPCのモニターに集中しているのでと、
遠慮なくそのお顔を見やったならば。
「…。」
軽やかな淡い金色の前髪の陰に、賢そうな白い額が透けているのとか。
作業に気を取られ、無心になってる伏し目がちの目許の仄かな翳りや。
やはり集中するあまりに警戒がお留守になってる口許、唇が、
つかず離れずとなってのちょっぴりほど開きかけてる愛らしさとか。
半袖Tシャツは着るくせに、タンクトップは大好きなくせに、
前開きシャツの半袖はダサイからって、
オーバーシャツとしてしか羽織らないそれを、
引っかけてるのの襟元から覗く、華奢な首に細い肩、薄い胸。
ピアノでも弾いているかのように、
キーボードの上を優雅に躍ってる行儀のいい指先…と、
今でさえこんなに可愛らしくて、
そこらに無防備に放しとくのは危なくてしょうがないってのに、
これの3つや4つの頃といったら、

 「凄んげー可愛かったって、阿含が五月蝿ぇのなんのって。」
 「…っと。」

何でこんなにも間合いよく、
葉柱のお兄さんが内心で思ってたことへと応じられた坊やなのかと言えば、

 「ルイの考え方はとっくに把握してるかんな。」

大方、父の日の話を持ち出したんで、
ウチのとーちゃんのことでも考えてたんだろ?
そいで、じぃって俺んこと見てやがるからサ、
こ〜んな可愛い子を放っぽり出してたんだよな、
別れた頃なんてもっとずっと小さかっただろうにって。

 「違うか?」
 「…大当たり。」

しししと笑って見せる辺りは子供っぽくなくもなく、
そんな風だから決して可愛げがないって訳ではないのだが。
どうしてこうも、合理主義っつか、情緒がないっつか、

 “素直じゃねぇというか。”

慣れがないから戸惑ってるだけなくせに、と。
葉柱としては、そこのところがちょっと気掛かり。
久々に帰って来た父上が、
まるで居なかった間の分まで埋めたいかのごとく、そりゃあ構って下さるものを、
反抗期のお子様よろしく、鬱陶しいなと無情にも払いのけてばかりいる。
いやまあ、確かにそういう年頃でもございましょうが。
そんなことをどうこう言う前に、
物の考え方なぞそこらの大人以上に大人びていて、
ネットでの株売買、デイトレで結構な小遣い稼ぎもしているというから、
半端なそれではないはずで。

 ―― 冷静にして聡明果断

そんな子だってのに、何でまた。
相手へ適当に合わせず、大騒ぎして逃げ回るのか。

 “照れ隠しだってのがバレバレじゃんかよ。”

こういうトコが可愛い奴だよなと、
日頃は力んで鋭い三白眼だってのを、
ついつい細めて和ませてしまってたりすると、

 「…何ゆるんでやがるかな。」
 「別に。」

ほ〜ら、鋭い眼光が飛んで来た。
大体だな、昨日の中盤のありゃ何だ。
ルイが相手チームのランを止めんのに立ちはだかるのはまあいいとして、
その後の対処が毎回後手後手だってのは、いつになったら直るんだかな。
せめて3つ、いやさ5つはパターンを用意して、
そのどれへでも0.5秒で切り替えて移行出来るようになっとかねぇと、
今期の3部はどこも、
ベテラン世代が一気に抜けて機動力あるのと総入れ替えになるだろから…


 「聞いてっか? ルイ。」
 「聞いてる聞いてる、髪の毛引っ張んなっ。」

断りなく少しほど伸ばしてたのも気に入らないか、
わさりと間近へ腰掛けて、近づいたのをいいことに、
その裾 掴んで容赦なく引っ張る坊やで、

 “勝手にカットしても怒るくせによ。”

いたたと大仰に痛がって見せ、それで気が済んだか手を放して下さったので、
すかさず…声を掛けておく。


  「今日、これから散髪しに行くんだが。ついてくっか?」
  「おお。これまとめたら後は暇だからついてってやる。」
  「そんじゃそのついで。」
  「?」
  「俺も久々に親父へ何か贈りてぇから、一緒に選んでくれねぇか?」
  「う…。」


花束とか菓子って柄じゃあねぇしな。
着るものは あれでおふくろがコーデュネイトしてっし、
酒は高いのを飲み慣れてるだろし、
煙草は辞めたって言ってたからライターとかも意味ねぇし。
何が良いんだかさっぱり判らねぇんでな。
間近になったお顔をもっと寄せ、上目遣いにお伺い。
途端に…坊やが“う〜〜〜っ//////”と困り顔で唸ったのは、
そのまた“ついで”に、
坊やのお父上へも何か贈る腹積もりなのが見え見えだったから。
しかも、そんな企みがありますというの、
坊やがきっちり読むだろというのも織り込み済みであるらしく。

 “くそ〜〜。/////////

先読みして指摘すれば、何を言い出すかなと途惚けりゃいい。
床屋も買い物もついてかないと、放り出しても良かったが、
「いっそ、ちょーんっと短くしちまおっかなぁ。」
毛先を摘まんでそんな言いようをするお兄さんには、
「〜〜〜。////////
だってずっと一緒にいるんだもの、みっともない頭になられちゃ困る。
それでなくともルイの髪は細い質なんで、
中途半端に短くし過ぎるとまとまりが悪くなるから、
ついてって“此処まで”と指定してやらなきゃなんない面倒な頭で…とか何とか。
う〜〜〜っと唸りつつ、胸の裡
(ウチ)での算段を転がし、

 「…判った。」

小さな肩ががっくり降りて勝負あり。
ほれほれ、早くデータをまとめなと急かしつつ、


 「そーいや、ヨウイチロウさん、甘いもの平気か?」
 「何だよ、なんでウチのとーちゃんにまで気ィ遣うかな。」
 「ほら、バレンタインにチョコもらったからそのお返しもあるしよ。」


珍しくも一本取ったせいだろか、妙に嬉しそうな総長さんだったりし。
ああでも気をつけないと。
そんな珍しいことなんかがあったりしたらば、
明日の関東地方は朝から大嵐になるかもしんないよ?

 「…っ。」

縁起でもないこと言うんじゃねぇと、
八つ当たり半分に坊やから睨まれたところで、





  〜どさくさ・どっとはらい〜  08.6.15.


  *そういえば、蛭魔さんのお父さんの名前が明らかになったそうですね。
   幽也さんって…、
   なんか息子に“妖一”って名づけても不思議じゃないよなお名前ですが。
   ちなみにウチのこのシリーズでは、
   セナくんチのタマと同様、
   ヨウイチロウさんで通させていただきますので、悪しからず。
(笑)

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv

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