Little AngelPretty devil
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

     “秋へのいざない?”
 


悪夢のようなこの夏が、
それでも朝晩は涼しい風も吹こうかという態勢に変わりつつあり。
ああ、どんな苦しみにも終わりがくるのが今生なのだな。
諸行無常を唱える思想は、来日してまだまだ日も浅いけれど。
四季の移ろいに馴染み深い日乃本の民らには、
するすると入り込みやすいから広まるのも早かろ…とは、
神祗官補佐という官職にお就きな身である、お師匠様のお言いよう。

 「いやに清々しい言いようをすると思ったら、
  仏教に花を持たせる格好の自虐ネタかよ。」

 「平安時代にない言い回しはやめとけ。」

呆れるあまり、半目になった葉柱さんのお言いようへ、
へっへーと楽しげに笑ってダメ出しを、もとえ墨をつけるお師匠様は、
悪態をついてるというに、何とも朗らかで、且つ楽しそうであり。

 『ま、あいつほど暑さに強い奴でも
  音を上げ掛かった暑さだったからな、今年のは。』

大妖で しかも、
冬場より夏こそ活躍の場というトカゲの惣領様でもある葉柱さんは、
寒さに弱いお師匠様を案じるのは常にしてらしたが、
暑さへの対処というの、この夏初めていろいろ訊いて回ったそうで。
枇杷の葉の茶が暑さ負けに効くとか、
桃の葉を浸した湯に浸かると汗の切れがいいとか、
滲み出すほどの汗をかいたら塩も舐めねば貧血を起こすとか、
スイカやウリは体の水気の循環をよくするので
水を飲むのと同じよに たんと食べたほうがいい…などなど。
賄いのおばさまへも
さりげなく助言をしていらしたようであったので。
今年の殺人的な夏を、
それでも何とか、倒れもせずに乗り越えられたのは
そういった陰のお力添えのお陰なのかも知れなくて。

 『そういや、
  他の屋敷じゃあ仕丁や雑仕らが倒れちゃ新しいのが雇われて、
  ところが、勝手が判らずおろおろするうち、
  新米までもが具合が悪くなって…って話をよく聞いたが。』

ウチの連中は雑草根性逞しいから、
それでなかなか倒れんのだなと鼻が高かったんだが、と。
何とも微妙、そんなお言いようをなさるということは、
それとなくのお心使い、ちゃんと見抜いておられたということらしく。

 「…ということで、瀬那は進を護衛につけて南の門をあたれ。」
 「はいっ。」

盂蘭盆会も中元も過ぎての今、
収穫への準備や、はたまた買い付けの下見へと、
一般の働き者な民らはそろそろ忙しくなるせいか、
夜中の徘徊は上達部たちの専売特許に戻りつつあり。
怪しいものを見たり、祟られるような悪さをしたりというのも、
そういう…中途半端に金と学がある階層の連中ばかりとなるがため。
妙なものを見た、運気が変だ、これは何かに憑かれたやも知れぬと、
元凶への心当たりと、それへの対処をちゃんと知ってる困った層が、
頼ってくる頃合いでもあるものだから。

 「そうなんだよな。
  真夏のうちだと健全な衆の生気が多いから
  ややこしいのが迷い出るこたぁ少ないし。
  見たとしたって、忘れるに限るって方向しか選択肢もねぇからの。」

基本、国事行事の盆の式だけしか仕事はねぇはずなのに、

 「この夏はまあまあ忙しかったったらありゃしねぇ。」

涼めぬ夕涼みの中を、
笑えぬ妖異退治に何度も奔走させられたの、
忌々しげに思い出しつつ、

 「涼しいだけマシと思う他ねぇわな。」

市中のあちこちで見かける人があるほどの、
やけに行動範囲の広い鬼が出るとかいうのを封じるべく、
八角形の遁甲盤を片手に、今宵は封印の大太刀を背負っての出陣であり。

 「…で、何で白拍子装束なんだ、お前。」

白い水干に緋色の小袖と緋袴はいて。
頭の上へは立烏帽子。
腰に太刀を差し、男衆の成りを真似たのが多かったそうだが、

 「なに、巫女姿では相手も警戒しようが。」

いかにも人が悪そうに、
口元引きつらせてくくっと笑った蛭魔だったが、

 “妖異以外も釣れたらどうすんだかな。”

春をひさぐ手合いがいつから見られ始めたかは知らないが、
本物の神職がこんな時間帯に、
人気のなくなる大路をふらふらしてはないはずだから。
月明かりしか明るみのない中、
浮かれた貴族の青二才に誤解をされてもしょうがなく。
神祗官補佐づきの侍従としては、
妖魔のみならず、
不良貴族の子弟まで弾き飛ばさんといかん、
忙しい頃合いでもあるわけで。

 「おーし、月見の下見も兼ねて、
  鬼退治に出向くぞ、野郎どもっ。」

  「おー。」 × @

水干姿だけはお揃いの微妙な二人が、
こっちも屈強さだけお揃いの、お供のお兄さんたち引き連れて。
宵の都大路へ繰り出した初秋のとある晩。




まさかに、翌日の宮中にて、
結構 権勢者だった大権門のご子息が、
女遊びでの百人斬りというしょむない悪事のその途中、
やっと5本の指がふさがる記念となるはずだった
行きずりの白拍子にどつき回され、
お外が怖いと
勢いよく引っ込み思案になってしまった騒ぎがこそこそ広まり。

 『ま、ほどほどにな。』

今帝から直々にご注意受けて仕舞った蛭魔さんだったのは、
さすがに前の晩からでは判らないことだったんだけどもね?(爆)






   〜Fine〜  13.08.26.


  *何かすぐ前のと雰囲気ダブりましたな。
   まま、こういうお仕事がデフォな人たちなので、
   そこはご容赦ということで。
   (切れのいい活劇を書きたい気持ちは山々ですっ。)

   いやもう、雨が上がった途端、朝晩涼しくなりましたね。
   それだけで幸せ、嬉しくてしょうがないお手軽な奴ですvv
   歴史にちゃんと残してほしいですよね、今年の異様な夏。
   過ごしやすくなった途端、
   寝付きよくなってる意味ない奴です、しっかりしろ。
   秋の名作を頑張らんか。
   (でも、秋の夜長にもの書くと
    どっかの天部の企画会議なみに、
    中身がへべれけになりかねんのだが…。)笑。


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