Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “十日月夜”
 


殺す気かという炎暑は、まま、
意地の張り合いには自信があったから、
負ける気なんざ毛頭なかったが。
陽が落ちてからも
まったりとした暑さがまるで引かなかったのには
正直閉口させられた。
こちとら、宮中勤めは適当でもいいが(おいおい)
宵や夜中に出張る方の“お務め”は、
冗談抜きに真剣本気であたらにゃならん身だからで。

 『何でまた、この蒸し暑いのにあちこち出張って
  要らんことするからな、貴族のガキどもはよっ

望月さえ茹でた瓜に見えるよな、
そういうふざけた晩に出歩いちゃあ、
余計な妖異の尾を踏んでくれる
上達部のガキとか続出してくれたもんだから。
今年は例年の夏より
破邪封印の務めは多かったような気さえする。

 『いっそのこと京の都を完全封鎖しちまおうか。』
 『お師匠様、無茶言っちゃいけません。』

あれほど蒸して苛々して、
体の内から滲む熱を持て余していたのは、
ほんのつい先日のことだのに。

 小袖越しの仄かな温みに
 もっと擦り寄りたいと思えたり。
 手のひらの乾いた温かさが、
 何となく愛しいなと思えたり。


 「……………おい、俺もしかして死期が近いのかも知れん。」
 「何の話か 全然見えんのだがな。」




     ◇◇◇



冗談は さておくとして。(笑)

酷暑の夏だったが、
それと同じほど雨もたいがい降った夏だったので。
知行地のあちこちが無事かどうかを確かめるべく、
紙で作った鳥の“式(神)”を濡れ縁から空へと放っておれば、

 「こんな時刻に放っても役を果たすのか?」

そろそろ夕刻、
生きた鳥ではないから夜陰でも視力の不自由はなかろうが、

 「夜露に湿って落ちやせぬか?」
 「あのな…。」

そんなやわな式ではないわと、
その雄々しき式神の代表でもある
トカゲの総帥殿へ斜に構えた視線を投げて。
今宵も出陣の予定あってのこと、
白い小袖に白袴という、禊斎(けっさい)のための拵えでいた彼だが、
一応の儀式は済んだのか、
ああ暑いとぞんざいに懐ろをくつろげるのが、

 「〜〜〜お前なぁ。」
 「あんだよ。」

まだまだ暑いんだからしゃあねぇだろがと、
それでも、重ねた下の帷子まではめくらぬところに
何とかホッとする黒の侍従さんであり。
そしてそして、

 “暑いうちは指一本触れて来なかったくせしてよ。”

寄って来たらば容赦なく蹴るくせに、
それを恐れてじゃあなくっての
蛭魔の寝不足のタネを極力減らすことしか
念頭になかったらしい“彼”だったのが、
ええもう むかついたったらありゃしないという。
大ざっぱで荒々しい術師様にしては、
随分と細分化されたご不満も含ませての、
斜に構えた態度だったらしくって。

 「今晩のはそうそう手古摺る相手でもなし。
  済んだらちょいと月見と洒落込まねぇか?」

 「…月?」

十五夜にはまだ日があるがと、
そういうのの専門家へ質すのも気が引けておれば。
濡れ縁の上に立っている分、
ちょっとだけ上背が勝さっている蛭魔が、
ひょいとその身を前へと倒して、内緒話の構えを取って見せ、

 「?」

何だ何だと、それでも素直に傍へ寄り、
耳打ちしやすい位置へまで近寄って差し上げれば。
撫でつけた黒髪の下に覗く耳元へ、
薄い口元近寄せて、

 「月が明るくない方が都合いいだろが。」
 「………う"。///////」

お前、禊斎した意味あんのかそんな煩悩まみれでよっ。
おおや何の話かな、具体的には何っにも言ってねぇのによ、と。

 「……子供の喧嘩ですね、ありゃ。」
 「うや? おやかま様とおとと様、ケンカ?」

何とはなく洞察が利くよになったセナくんと、
まだまだ全然意味が判らぬらしいくうちゃんと。
稚いお子様がみてるんだから、
そういうややこしいごちゃごちゃは
お控えなさいと言うかのように。
庭の一角、ツバキの茂みが夕風にざわわと揺れて、
咒弊の端切れか、
さらわれて飛び上がり、秋空へ吸い込まれてった黄昏前…。





   〜Fine〜  13.09.14.


  *来週の19日が十五夜ですね。
   さすがにそろそろ
   晩の気温くらいは落ち着いてほしいものです。
   台風が近づいてるとのことですが、
   もうあんまり荒れないといいな。。


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