Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “新月間近な宵に”
 


あれほど暑かった炎暑のこれも名残りか、
日ごろも水嵩は少なく、
よほどの洪水にでもならねば埋まらぬだろう広々した河川敷が、
ますますと枯れた広野のようにも見える。
茅だろうか、風に遊ばれてかさかさと乾いた音を立てて擦れ合うのが、
風流を通り越し、三途の川へと誘なう囁きのようにさえ聞こえて。

 「南のほうでは、
  気の早い野分にくすぐられた雨が結構降ったらしいのにな。」

ただし、そっちはそっちで
途轍もない氾濫になりかかったらしく。
工部の幼なじみが、橋や街路の修復への手配や何やへ、
半月以上経つというに、今もてんてこ舞いしているとか。
昼のうちは、陽盛りにおれば まだまだじりじり暑いが、
さすがに秋ではあるものか、
宵の風は随分と冷えたそれへと転じており。
狩衣の袖から下がる提げ緒が揺れ、
結い上げてなんかいない金の髪がさわさわと掻き乱されて。
白い細おもての頬やおとがいを隠す様は、
群雲がいたずらして
月の輪郭や輝きを曖昧に覆う様にも似ているような。
厚手の絹を用いているのだ、
そうは軽くないはずの狩衣の袖が大きくひるがえったのへ。

 「…おい。」

痩躯じゃああるが芯は強靭、
そうと知っていても放っておけず、
つい延ばした手が衣紋越しに腕を掴めば。

 「何だ、月の細い晩は心細いのかよ。」

今宵の月はもう随分と細くその身を削っており、
明日かその次の晩には新月と呼ばれて夜陰に没す。
それでも月は月なのか、
この、色白な青年術師の横顔を、
大妖で眼力も強い葉柱には
十分すぎる明るさで照らし出しており。
この国の和子にはあり得ぬ、金の髪けぶらせて、
肌のうちへ淡い光を灯しているかのような
神懸かりな麗しさといい。
冴えた面差しの、
なのにどこか嫋やかな艶を含んで妖冶なところといい。

 “どっちが妖異か判らねぇな、こりゃ。”

聞かれたらまずは一蹴りされそうな言いようを
胸の内にて転がして。

 「体を冷やしちゃあ詰まらねぇだろが。」

秋は秋で、行事も多いし祭りもあっての、
そんな騒ぎに誘われるものか
邪妖も結構現れる頃合い。
消耗につながる無益な馬鹿は控えなと、
夜更けの散歩に出た蛭魔を迎えに来た彼であり。
命令や指示、助言などなど、
差し出口は まずは嫌う臍曲がりな術師だが、

 「……迎えに来たなら、それなりの用意もあんだろな。」
 「???」

そちらからも延ばされた手が、
こっちの黒づくめな衣紋の衿の合わせを掴んだので、
ああと察しもついた大妖の君。
一番上になっていたこちらも狩衣の前を開くと、
そこへすべり込んだ盟主殿ごと取り込んで。
茅の草むら、一際鳴らした風が来たりた頃にはもう、
二人の陰もどこかへ消えての、
乾いた夜陰が垂れ込めているばかり……。





   〜Fine〜  13.09.29.


  *京都では有名観光地で被害も出て大変だったようですね。
   あの渡月橋が
   ああまで水に浸かってるところなんて初めて見ました、私。
   桂川も、河川敷がああも広かったの、意味あったんですね。
   酷暑ばっかりだった関西に、
   何でそうも極端な降り方するかと、
   ほんに今年のお天気はどうかしてるとしか
   言いようがありませなんだ。
   こちらの陰陽師様がいたなら、
   少なくとも妖異の影響だけはカットするべく、
   結界張り巡らせてくださったんでしょうにねぇ。


 めーるふぉーむvv
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