Little AngelPretty devil
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

     “そういう季節”
 


日本でも夏の帰省でお馴染みのお盆は、正確には“盂蘭盆”といい、
もーりんが最近すっ転んだ某“聖☆”でも逸話が出てくる、
目蓮(モッガラーナ)さん由来の故事に ちなんだ
紛うことなき仏教の節会だが、
平安時代にはもう、宮中で帝が供物を供えて拝する行事になっていたそうで。
元々あった道教の“中元”と習合してのこと、
七夕の次に巡る行事とされたという。

 「宗教上の理りが先か、
  迷って出た奴の目撃例が多かったのへの
  筋の通った説明が先かってとこだがな。」

昼間のあまりの暑さから、
年がら年中 陽が落ちてから活動する やんごとなき階層のみならず、
一般の民までもが
涼しさ求めてか、もしくは熱帯夜に苦しんでか、
宵も寝ないで(寝られないで?)つい夜更かしするのがこの時期で。
暑い時期である それも一因、
陽が落ちてもいつまでも白い暮れどきや、
宵が晩へと塗り変わるのにも結構な時間が掛かり、
藍に染まっても まだまだ建物や木々の陰が余裕で見分けられる、
そんな夏の夜だけは。
暗いし寒いから何も出来ない、じゃあ寝てしまえという他の季節と違って、
夕涼みだと外を出歩く者も多かったため。
そんな人らを当て込んでの
茶店や物売り商売が生じたり、祭りが多かったのと相前後して、
怪しいものを見たと言い出す声だって自然と多くもなろうし、
それがお互い様の生者同士でも、そこは見通しが悪いから、
ここいらでは見ない奴だったとか、
いやいや、先に亡くなった隣の伯父さんに似てたとか、
そんな話へ尾鰭がついて、
あっと言う間に納涼怪談噺にもなりやすかったろうし。

 「布教のための方便か、
  これはどういう現象なのですか?と問われたのへ、
  いやそれが実はな?と
  もっともらしい宗教的な逸話を“盛った”奴だっていたろうからの。」

 「お師匠様…。」

自身はどちらかといや神道関係者だからとでも言いたいか、
平気の平左でそんな恐ろしい揶揄も口にする、
毎度お馴染み、神祗官補佐役の蛭魔様。
金色の髪に乳色の肌、切れ長に冴えた双眸は金茶色という、
どの宗教を持って来ても
果たしてお目出度いのだか怪しいのだか微妙な風体なのを。
真摯にして前向きな気概にて 妖冶に美しい姿とし、
更に凛と引き締める白地の厚絹の装束をまとい、
背には破邪の弓を負うての、

  さあゆくぞ、待ってろ妖異っ、という

それは勇ましき戦闘態勢、もとえ、
聖なる“お務め”の装いで固めておいでで。

 「で? どこの廃屋だ?
  未練たらしいのが盆も待てずに這い出たってのは。」

こちとら、武者小路の爺さんに顎で使われまくりで、
昼のうちも忙しいんだよ、この時期はよと。
こめかみに定着しつつある、血管浮いてますマークもくっきりと、
既にお怒りには着火状態なんだぜ仔猫ちゃんと言わんばかりの状態で。
今宵のお出まし先を、
そちらは黒い衣紋をまといし、頼もしい侍従の君へと確かめておいで。

 「山野辺の涸れ河原の奥向きだな。此処を上がってった先の…。」

一応の地図を広げ、大まかに道を示す葉柱も、
この程度の余熱状態は、今更なせいか案じもしない。
むしろ黙りこくって考え込んでいたりしたならば、

どうしたのだろうか、もしやこやつの血縁関わりな相手とか。いやいやそんな話は聞いてない。それとも、まさかまさかの天下国家転覆へのお誘いでも掛かっているとか。いやいやそれだったら、どっちにも加担せずの完全に他人事と構えた上で、大上段から成り行きを見物してかかるだろう、一番胡散臭い位置を保守しつつ、そのくせ もしも、帝が苦衷に置かれたり はたまた逆臣側に已を得ず狩り出された身内がいたりしたならば、そこで初めて策を弄して何とか庇おうとするだろう面倒臭い野郎だし、と。

そりゃあもうもう、色々と案じて差し上げたに違いないので、
くれぐれも冷たい間柄なのねという誤解はなされぬように。

 「…なんか外野が鬱陶しいんだが。」
 「蒸し暑いのはお互い様だ、勘弁してやれや。」

さらりと流した葉柱だったのへこそ、微妙にかっち〜んと来かかったけれど、
反射的にちらりと見やった横顔は、
辺りの樹木の青い夜気を含んでのことか、
輪郭も冴えてのそれは怜悧に涼やかで。

 “………。”

蜥蜴たちの総帥という地位を、面倒なこったと微妙に疎んじていつつも、
人一倍の仲間想いで、義に厚く。
眷属以外だろうに瀬那や葛の葉まで全力で庇う、
そりゃあもうもう判りやすいお人よしで。

 しかもしかも

そりゃあ偉そうな、しかも陰陽師という天敵のこの自分へ、
日頃は恐れることなくの対等の口利きをしてもいるくせをして。
正式な誓約をしてもない相手だ、捨て置いてってもいいというに
その身を楯にしてでもと命懸けで守ろうとするわ、
絶対絶命なのに何故呼ばぬと、その土壇場に割り込んで来ちゃあ激高するわ。

 “おいこら、敵は後ろだ後ろって場面も結構あったもんな。”

こらこら、素直じゃないぞ おやかま様。
神道側の人間でありながら、
それ以上に実証主義者なので、
運とか神とか実は信じちゃあいないのだけれど。

 “こいつとの間柄に限っては…。”

縁とか機運とかあるもんだなぁと信じたくもなる
巡り合わせの妙に随分と助けられてるし、
ではと、自分から求めてのものだと言い切るのもまた、
微妙に気恥ずかしいものだから。

 「腐れ縁ってのは本当にしぶといもんだよな。」
 「何だよ。つか、いきなり蹴ってんじゃねぇよ。」

成敗の場所が遠いのは俺のせいじゃねぇっつの、
ほれ、瞬歩で向かうから手ぇ出せ…と。
無体な仕打ちも何のその、
その御主には手際良く運ぶのが一番と知っておればこそ、
いちいち泥臭くごねもせず、
ささと次への手配をさらり打ってしまう やり手振りへ、
何だかなぁとの苦笑をこぼしつつ、

 “今日はしゃあないが、
  もっと何でもない依頼ン時に
  もっと泥臭ぇのがいいとかごねてやろうか。”

相変わらず、
可愛くない企みをその胸中にて楽しく構築しておいでの術師殿。
でもねぇ蛭魔さん、
まんざらでもないって微笑い方をしてるんじゃあ、
夜目の利く葉柱さんには何割か読まれまくりかと思うのですが。
そして、そういうのを後世では“ツンデレ”っていうんですよと、
その後世でも変わりなく丸いのだろう望月が、
特別な咒術で夜陰へ紛れた二人の姿、
微笑ましく見下ろしてござったそうな。



   〜Fine〜  13.08.06.


  *明日は“立秋”だそうですよ、お客さん。
   朝晩に涼しい風が立ち始める頃合いだそうで、
   気のせいでも気の迷いでもいいから、
   そんなお言葉にそぐう一瞬が来ればいいのになぁ…と
   メルヘンな幻想に逃げたい今日このごろです。
   激しくも切れのある活劇を書きたいんですが、
   いかんせん集中力が保ちません。
   もうちょっと待っててね。


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