Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

     “あめあめ・こんこの 帳の中で”
 


 「あめあめ・こんこ、さあさあ、ざざあ。」

出鱈目な節と音階で、幼い声が何やらのお歌を紡いでいる。
お外は昨日から雨催い。
そういう時節じゃああるが、
この年の梅雨はちょっと奔放が過ぎるというか、

 「周防や出雲では、
  秋の野分かというほどの暴れようだそうな。」
 「それはまた。」

風も強くて海も荒れた大嵐が暴れたかと思や、
今度は延々と途切れない雨が続いているとか。
近郊とは言えぬその上、そのような奇禍の最中の土地のこと、
本来はなかなか判らぬ実情のはずだが、
名うての陰陽師であり、学問以上の術もこなせるその手腕により、
宙へ式神を飛ばしてのこと、
すぐのご近所の出来事と等しい級で把握している蛭魔であり。

 「雨が必要だった頃合いは、
  何の呪いかと思うほどのかんかん照りだったのにな。」

それが今は、
このままでは稲穂も育たぬのではなかろかというほどに、
陽が顔を出さぬままの雨続き。
それにばかり振り回されず、学問やら文明やらも高めんと、
喰うに困らぬよう、心豊かに暮らせるよう、
どんなに人の和子が優れた術を見いだし広めても。
自然の為すちょっとした気まぐれには
相変わらずに翻弄されているのだから世話はない。
これも天の采配とし、行いを正して天から祝福されてのこと、
善きことが降りますようにと持ってゆくのが宗教ならば、
何のこれしきと へこたれず、
遠くから近くから、現象を見据え将来を見据えて、
試行錯誤を繰り返しつつ真理を得んとするのが、人の和子による学術で。

 “お堅い理屈や、忍耐は苦手だが…。”

それでも、そういう自力本願は嫌いじゃあないなと、
今の今はまだ、八百萬の神々への悪あがきでしかないそれらへも、
こそりと支援を施してもいる蛭魔だそうで。
人には非ずな存在を感じることが出来るお人が、
そうでありながら、
整然とした理屈でそれらを含めた森羅万象を統括しようとする
学問へも手を貸すなんて。
それこそ彼の臍曲がりっぷりの最たるところなのかも知れぬと、
苦笑に口許綻ばせたは、葉柱だったか阿含だったか。

 「さあさあ・ざあざ、あめこんこ。」

朝から降りも強くなった雨だが、
そんな中を天から降りて来た坊やは、
今日はお友達と一緒ではないようで。
広間の板張りの上、
飴色の毛並みも愛らしいふさふさのお尻尾が、
ふわりはたりと躍っては、御機嫌な様子を映しておいでなので、
納得ずくのことではあるらしい。

 「こおちゃんは、天の御殿でお留守番なんですて。」

そもそも天狐の子である くうちゃんと違い、元は野狐のこおちゃんは、
大怪我を救われた秘術や回復にと口にした天世界の食べ物の影響から、
普通の山野にいる狐とは微妙に異なる身となっているものの、
長く地上に身をおいていると、そのまま元の野狐へ戻ってしまう。
それもまた自然なことじゃないかと思えなくないけれど、

 「一旦手をかけたなら最後までって、
  そこのところは徹底してるんだろうよな。」

勿論のこと、本人が強く望めば道は選べもするのだろうが、
天世界に関わったがゆえ、その成長が獣のそれから逸脱してしまったは事実。
そのような身と変化させてしまった以上、
まだまだ思考が幼い子供の級であるに、
此処で野に放つのは残酷すぎるという判断が下されているようで。

 “まま、天からすりゃあ、人も狐も同じくくりなのかも知れぬがな。”

どちらも、限りのある命を宿した身の
“愛しい小さき者”に過ぎぬのかも知れぬ。
知恵があるのが小賢しいと構えられても剣呑だから、
別とされるのと どっちがいいとは言えないが、と。
小難しい理屈を扱っている自分に気づき、
そこは おっとと自力の自制。
目の前の雨で思考が塞がれてのこととはいえ、
柄じゃあないなと苦笑をし、

 「くうよ、大数珠玉で遊ぼうか。」
 「はややぁ♪ あしょぼ、あしょぼvv」

余り材を真ん丸に削って穴を空け、
そこへ紐を通して遊べるようにと、
工部の知己が作ってくれた大粒の数珠玉。
手間暇を思えば
貴族の和子でもなかなか手が出ぬだろう貴重高価な代物使い、

 「ほいよ、3粒でどうだ。」
 「はや、くうも3つvv」

子供の遊びの紐通しを、だがだが
手を触れないでの空中でやってのけるのだから、

 “玉藻様も朽葉さんも、
  こんなことやってるって御存知なのかなぁ。”

もしかせずとも、人の世界で学ぶことじゃあないだろにねと、
日頃は無邪気な瀬那くんだとて、苦笑が絶えぬ不思議な風景であり。


  雨が等しく蓋をした
  人の和子と天世界の和子とが同座する不思議な箱庭。
  世間からも世界からも引き離されての
  やさしいひとときを遊びなさいと
  見守られているかのような雨の午後……。




   〜Fine〜  13.07.30.


  *どよんという曇天や雨が続くと、
   時間の感覚とかも薄くなりますね。
   昼に近づくにつれ、
   炙るようなかんかん照りになってくのもうんざりですが、
   めりはりのないまま、
   じわりと湿って蒸すばかりってのも結構きついです。
   これでまだ七月なんて うそ〜ん。
   つか、これって戻り梅雨なんだってね。
   もうすぐ八月だってのに梅雨…。


 めーるふぉーむvv  
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