Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

     “まだ緑”
 


そろそろさすがに梅雨に入るのか、
涼しい風も吹きはするが、
それが止まると何とはなく、
蒸し暑いという単語が頭をよぎる。
体の中からも温気のようなものが、
むんと滲み出しての、そのまままとわりつくような、
そんな暑さが居座るようになって来て。
とはいえ、

 「降るなら降るで、
  どどーっと景気よく降りゃあいいのによ。」

気の短い蛭魔がとうとう牙を剥いての憤懣をこぼしたのも、
こたびばかりは頷ける。
むんと蒸し暑くはなったが、あまり雨粒のほうは落ちて来ない。
白っぽい灰色の雲に 空が一面覆われるような日もあったが、
それでも結局、雨は降らずで。
夜が明ければ、曇天だったのは何かの間違いだったかのように、
その前の日の晴れが戻って来ていたりし。
どんな猛暑になっても、
さすがに快適とは言わないながら、
それでも寒いのほど苦手ではないらしいお元気な蛭魔としては、
このどっちつかずなお日和が、
い〜〜っとなって落ち着けないのだろう。
手入れもしないままの荒れた庭にも、
ドクダミやオダマキなどという根性のある草の花がお目見えし、
初夏の青々しさが増していて。
ただ、それほどまでに丈夫で知られる花でさえ、
水が足らぬか、焼けたようになってる株があるのが可哀想。
だがだが、わざわざ柄杓や手桶で水を運んで撒くのは、
それが瀬那くんが見かねて手がけんとしたことでも、
いかんダメだと、返事も待たずに桧扇が飛んで来るほど。

 「甘やかすんじゃねぇよ。」
 「ですが…。」
 「お前がいねぇときは誰がやるんだ、それ。」
 「う…。」

いやいや、そのくらいなら私がという
仕丁さんとか雑仕さんとかいないじゃなかったが。
それがまた甘やかしなんだよと、
どこからともなく、
柄杓がこんこん・すここんと降って来たので、
もっと暑くなる真夏ならともかく、
今はまだ やってはいけないことに計上されている始末。
そのくせ、
明らかに水が足りないせいで
若葉がしょんぼりしている梅の樹なんぞを
イライラ見やっては、
あああ、とっとと降らねぇかと、空へ毒づくのの繰り返し。
ちなみに

 「うん。
  あめこんことか おてんきてんてんとかまでは、
  たぁもさまも出来ないて。」

天狐のくうちゃんも“何ともしがたい”と仰せだったので、
これはもう、天のご機嫌次第な話なようであり。

 「…おーい。何か眉間のしわが増えとらんか?」

蜥蜴とは厳密には種類が違うはずなのだが、
水辺に住まう 赤腹こと蠑(イモリ)の大将という
知己だか係累だかの見舞いに出掛けていた葉柱が。
そろそろ日暮れという、
風も涼しくなって来た頃合いになって
お顔を見せたものだから。

 「うっせぇな、自分だけ涼んで来やがってよ。」

 「邪妖の住処へ、
  何でまた陰陽師を連れてかにゃならんのだ。」

さっそくの毒づき合いへ、
どっちの憤懣の種類も判るぞどうしようと、
どきどきしつつ
濡れ縁でのご対面を見守っていたセナくんとくうちゃんは。
冷やした麩菓子がありますよとツタさんから誘われて、
庫裏の方へと向かってしまい。
時折、名も知らない鳥が、
ちきいきいきいと高い声で鳴いて渡ってゆく気配だけが
遠く近くに響いていた、広間前だったのだけれども。

 「………ん。」

とんとんとんと、手のひらで
自分が片膝立てて座っていたすぐ傍の板張りを、
軽く叩いた蛭魔だったのへ。
此処へ来いという合図と見越し、素直に運んで腰掛ける葉柱で。
昼の間は蒸し蒸しと垂れ込めていた温気も、
今はさすがに引いての吹く風は涼やかで。
水の傍まで出向いていたからか、
側に座った男からも、何やら水の香りが届く。
冴えた横顔の凛々しさも、
すんと切れがあっての好もしいし。
すっきりと整えられた黒髪も、
その深い濃色が何とも落ち着いていて涼しげで。
ああそういえば、こいつってば、
いろいろ着込んでいたとても……

 「……それはもしかして何か土産の催促か?」
 「もっと色っぽいことは言えねぇのか。」

人と逢いに行ってたワケではなかったせいか、
小袖に袴という至って簡略な格好だった葉柱の。
その小袖の合わせへ、横合いから手を入れた蛭魔だったのへ、
こういうあっけらかんとしたやり取りが交わされる辺り。

  まあ まだ明るいし…と、
  どちらからともなくの苦笑が洩れて

ぽそんと、蛭魔の側から頼もしい肩へ細い肩を寄り添わせ。
暑くなったら 蹴り飛ばすんじゃね?とか、
蹴るのは寒かろーが やっとるだろがとか。
くっついておればこそ届くよな小声でぼそぼそと、
誰ぞに聞かれては癪なこと、
若しくは 勿体なくて聞かせられぬことをば、
語らい合ってるお二人で。
陽が落ちれば まだまだ、素肌には寒い風も来る。
どうか睦まじくお過ごし下さいますように……。




   〜Fine〜  13.06.10.


  *トカゲは爬虫類でイモリは両生類。
   ヤモリは爬虫類ですが、足に吸盤があるそうですね。
   なので、壁や天井に張り付くことが出来る。
   あんな似てるのに違うのかぁ。

   じゃあなくて。(笑)

   今以上に暑くなったら
   くっつくのがうざくなるんだろうな、お館様と、
   思ったものの、
   そういやウチの蛭魔さんは
   割と暑いのに強かったと思い出しまして。
   ……強いけど文句は言うんですぜ、やっぱり。(笑)
   葉柱さんも蹴るんですぜ。
   本当に我儘なんだからvv


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