Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “さざんかの紅”
 


春の半ばの青時雨や夏の嵐とも、
最も強かろう秋の野分とも違う、
木枯らしが吹いてやっと思い出すよな、
本格的な冬の北風が
頻繁に、容赦なく吹きつけるような
そんな頃合いとなりつつある。

 「炭櫃(すびつ)も火鉢も本格始動だの。」
 「そうですねvv」

炭櫃(すびつ)というのは、
所謂“囲炉裏”ほど
本格的な煮炊きをするものではない、
あくまでも暖を取るための小ぶりなそれだが、
それでも床板を切って縁で囲って作る 炭の炉で。
畳を敷き詰める習慣がまだ登場してはないこの時代、
既に高床を取っていたとはいえ、
それでも板張りの床から這い上がる冷気に対抗するのは
大変だったと思われて。

 「まあ、ウチは
  綿入れ布団もあれば、羊のしょおるも活用しとるがな。」

葉柱さんの縁故経由、
大陸より西の文化を先取りの、どえらい反則技ですけどね。(う〜ん)
広々とした板張りの広間を、自分の居室としているお館様。
鞭のように無駄なく絞られた痩躯なのが災いしてか、
実は寒いのが苦手なお人なので、
あんまり屋敷の手当てなどには構わないものの、
防寒には手を惜しまない傾向が強く。
その結果が、あばらや屋敷には不似合いな、
唐渡りの調度の数々だったりするのだが。

 「外へ持ち出せる手のもんは少ねぇのな。」

獣の毛皮を引っかぶってたのでは、
標的もさすがに警戒しようから、
封滅の務めには持って行けぬではないかと、
相変わらずに無茶を言う術師殿だったりもし。
とはいえ、じゃあ
寒いからと討伐の依頼を引き受けぬかといや そうでもなく。
そこにも微妙な、沽券にかかわる云々が働くものか、
そろそろ年も暮れようかって忙しい折によと、
何だかよく判らぬ愚痴をこぼしつつ、
それでもお出掛けなさるのだから、
結構勤勉なお人なのかも知れなくて。




 「今 此処へ降臨したまえ、雷帝の忿怒。
  そして、あまねく邪気をことごとに祓いたまえっ。」

渺々たる枯れ野に立ち、
嫋やかなその身を薙ぎ倒さんと吹きつける
北向きの風に衣紋をたなびかせながらも。
瘴気でも吐き出しそうな陰鬱な雲が垂れ込める空へと、
凛とした声にて咒詞を宣し、
咒符を挟み込んだ指先を天へと向けて、
敢然とした態度で邪妖へと相対す。
無辜の幼子に憑衣している存在をのみ狙い撃つ、
特殊な力と特殊な念咒。
途轍もない力を降らせては、宿り身になっている和子まで傷つく。
だがだが、ならばと複雑高度な咒を練っていては、
相手の核が和子の体内で逃げ回り、
結果、支配力を強めてますますと剥がせなくなる。

  あくまでも迅速に、だが、
  巧みな制御で狙いを外さぬように

大太刀や剣戟を振るうのではないが、
深々と突き立つ槍のよな鋭い一撃を。
それも、人体へは何ら脅威を与えぬ、
陰の念術を選んでの攻勢でと。
直接の対峙はほんの数合、
そんな短い間合いであっさりと、
相手の性質から対処への段取りまで組み上げる。
そんな即妙で適切な英断が下せるのも、
宮中随一の知識量と、奥深い経験値あってのことで。
茅の群れをからからと鳴らして吹き抜けた突風に乗り、
天穹から降り落ちた稲妻一閃。
術師殿の金の髪を
大きに逆立てさせた風に紛れての降臨を果たすと、
そのまま標的の幼子へと貫き通り、

 《 …っ!》

鉾のように先の分かれた雷撃が、
まだ帯上げも済まぬ童の身から
小鬼の邪気を突き刺しての追い出すと、
真後ろにあった岩へと縫い付ける。

 《 う…く…っ。》

 「いかな もがいても無駄だぜ。」

単に天から招いた存在ではない。
降り落ちる際に蛭魔の手元を経由させており、
危険と紙一重という絶妙な接触をもうけたのは、
指先に構えていた咒符を取り込ませるため。
はっと我に返って、
見守っていた親御の元へ駆けてった坊やに
髪の一筋ほども影響を与えぬよう、
そして、

 「その代わり、お前は絶対に逃さぬよう。
  とりかえばやの性を込めたからの。」

 《 くっ。》

さあ、手っ取り早く済まそうぞと、
頭上へ振り上げた白い手には、
後方から絶妙な息の合いようで飛んで来た、
封魔のための破邪の弓。
肘を上げての背へと延ばした手の先で、
自身への護符も兼ねていた白木の矢を引き出すと、
弓につがえて、その弦をきりきりと引き絞る。

 《 う…。》

まだ何も放たれてはないというに、
術師の鋭い視線が矢より先に邪妖を捕らえていて、
その場から動けるような隙を与えない。
ひゅうびゅうと風なりがする中、
衣紋のたもとをはためかせつつ、
ぎりぎりと強く大きく引き絞られた弓は、
風の中のかすかな風穴を縫うように宙を翔ると、
大人が腰掛けに出来そうだった岩へ見事突き立ち、

 《 ぐがぁあぁぁあぁぁっっ!》

小鬼とはいえ随分としたたかで、
幼子に宿り、油断した大人らから生気を啜っていた悪事ごと、
河原の岩へ封じられてしまった訳だが。

 「よっし、終わりっ。」

曇天の中とあって、陽も差さない寒い中だ。
寄生されてしまった和子とその親御へは、
先に説明もしてあったので、
後は瀬那に任せておけば、
安心なさいとの結末を説いてることだろう。
実務担当の蛭魔としては、真っ直ぐ帰るつもり満々ならしく、
先程 破魔の弓を放った侍従殿が歩み寄るのを待って、
肩越しににんまり微笑って見せたが、

 「お前、もしかしてその下へ羊のすとおるを…。」
 「おうよ。」

衿元の合わせ、指先でちょいと引っ張れば、
狩衣の下、小袖を重ねたその下に、
厚絹や綿入れではない薄手の柔らかそうな生地が見え。

 「肩に掛ける格好で着込んどるぞ。」

お陰で暖かいったらないと、ご機嫌の様子なのは ままいいとして。

 「…いや、よくないだろ。」

それだとて獣の毛から作った布だぞ、
邪妖に嗅ぎつかれる恐れは毛皮と変わらぬ、と。
さすが、持ち込んだ人だけに、
その辺りへの懸念も細かい葉柱さんだが、

 「あんまり着込むと
  身動きが侭ならんのだから しょうがなかろ。」

こちとら獣より性の悪い妖異が相手なんだから、
着物も武装の一環って解釈になんだよと。
どんな手だって厭わない姿勢を胸を張って表明なさる術師殿。

 「だがなあ…。」
 「うっさいなっ。もう帰るぞ、」

これ以上は聞く耳持たんと、
そっぽを向いてしまった金髪白皙の主人を前に、

 “そんな薄着なのに軽やかに動き回れるなんて、
  さては妖異かとそれこそ誤解されんかな。”

葉柱さんの懊悩はそういう方向のものだったようで。
でもま、大丈夫ですよぉ。
もはや宮中では、
今帝を巧妙にたぶらかしたキツネ扱いなんですし。

 “…ぬあんだと?”

あわわっ、
お師匠様 稲光を背負っての三白眼は怖いです。(笑)
は、早くお帰りにならないと、
そんな装備をしていても風邪引きますよっ?






   〜Fine〜  13.11.25.


  *東北では、このくらいの時期に
   “雪起こしの雷”というのが鳴るんだそうですね。
   今年は ほんに、
   天変地異というか、
   異常なお天気、空模様が多かった一年で。
   雷も結構暴れたですが、
   そういう決まりものでないのも暴れてるのかなぁ…。


 めーるふぉーむvv  
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