Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “年の瀬ぱたぱた”
 


あの夏場の尋常じゃあなかった暑さは、夢か はたまた幻か。
息を吸うだけで胸の中に熱気が躍り込むのが判るくらい、
とんでもないほどの暑さだったのに辟易しつつ。
そのせいもあったものか、
陽が落ちてからという宵になって
待ってましたと這い出す余裕のあった貴族の馬鹿息子共が
羽目を外してやらかしたそれ、
邪妖や妖異がらみの因縁のあれこれを、
収拾つけにと奔走させられ、
面倒が多かったこと この上なかった頃合いから半年。

 「冬まで、格を極めるこたぁなかろうによ。」

それでなくとも内陸の盆地、
暑い寒いが結構な桁となる京の都だというに。
なかなか秋らしくならねぇなと思っておれば、
大雨と共にがさがさがさっとやって来て、
木々の色を塗り替えたら
あっと言う間に“いざさらば”した感があったのを、
あれよあれよと見送るその肩へ。
こちらさんは駆け足でやって来たらしい次の季節が、
予兆をすっ飛ばしてのいきなり、
将軍もおわす本陣ごと罷り越したという感じ。
先触れ無しとは何と非礼な、風流をたまなしにしおって…なんて
他人事のように言ってられる上達部らは、
屋敷に籠もっていても何不自由なく過ごせるのだからまだいいが、
生活そのものに多大に影響する下々には
堪ったものではない この寒波の襲来でもあって。

 「そうなんですよね。
  それでなくたって年越しの準備がいっぱいあるのに。」

一年を通して少しは居座っただろう厄を追い出し、
あちこちを禊斎してののち、新しいしめ繩や榊を整えた神棚へ、
今年もよろしくと手を合わせるに至るまでの準備があれこれと。
家長様には縁起物の取り寄せだったり、
内の者には もてなしや振る舞いの準備であったり、
下の者には各所の掃除であったりと、
家じゅうが何とはなし
落ち着かぬままパタパタ慌ただしくも忙しそうになるのも
この時期には付き物の光景で。

 「でも、こういうのって、ボクちょっと好きなんですよね。」

相変わらずに幼い書生くんが
袷の袖をたすきがけしてはしょり上げるという勇ましい恰好のまま、
ほこほこと笑って言うには、

 「宗家の屋敷にいたころは、
  お手伝いもお務めも、何にもさせてもらえなくって、
  退屈というか詰まらないというかで、
  そりゃあ長い長い日を送ってましたもの。」

ずっと幼いころに その内的能力を買われ、
次代候補として分家の端っこから宗家へもらわれてった瀬那は、
だが、大人しすぎる性格を舐められてのこと、
同じような候補の子らから みそっかすと弾かれ、
さりとて 坊っちゃまには違いないので
雑用なんてとんでもないと使用人らからも遠ざけられて。
結果、手持ち無沙汰なまま、
ぽつんと一人でいることも多かったらしく。

 「片付けものとか煮炊きとか、
  皆でわいわいって手掛けてる気配だけ、
  遠くに何となく聞いてるだけでしたもの。」

 「そうか、こき使われたいか。」

今日はいいお天気なので何とか温かいからと、
陽あたりのいい縁側で、
お握りと汁ものでのお昼を取りつつのお喋りの中。
セナくんがそんな風に言って嬉しそうに笑うものだから。
ほうほう見上げた根性だの、と
かぶらの薄切りの漬物を味わいつつ、
蛭魔が ちょっぴり意地悪そうに笑って見せて、

 ならば一の蔵の蔵書の中から、
 武者小路家の印のあるものを発掘してくれぬか。

 あー、
 お師匠様 まだ返されてないのがあったのですか?

調べ物のたび、
適当に出して来て適当に投げ込むのはやめてくださいと
いつも言っておりますのにと。
気がつけば、
そのような強気の物言いが
蛭魔相手に出来るようになってもいるセナくんなのを、
他でもない当人より先に気づいておきながら。

 「まあまあ、くうも連れてけ、鼻が利くからの。」

それに免じてなんて言いようをなさるのは、
茶目っ気というより、ある意味“かわいげ”と言っていいのかも。
そんな蛭魔のお膝にちょこりと座ったまんま、

 「ちゅれてけ、ちゅれてけvv」

そちらさんも、おしもと(お仕事)があるのが楽しいか、
ハタキ代わりの笹の枝を振り振り、
ふっかふかのお尻尾を振り振り、
ぱたた・とたたと屋敷のあちこち駆け回ってた仔ギツネさん。
ふくふくとしたお顔で、アジの開きの堅いだろう頭のところ、
おせんべえのようにバリガリと齧りつつも、
お館様のあとに続けて、そんな口真似をする かわゆさよ。
年越しも年初めも、
宮中の仕事やら、仕官目当ての人々への人選やらと、
寒い中、やっぱりお忙しい神祗官補佐様だが。

 「おやかま様、あぎょんがね、
  今年も お顔だしゅかや よーしゅくって。」

 「おお、今年も冬眠せんのか、あやつ。」

 「つか、何で くうに伝言させるかな、あのやろ#」

それはネ?
葉柱さんが面白いほどいきり立ってくれるからでは?
……と、いうような、(おいおい)

 寄ると触ると笑い声が立つような相性の、
 それは朗らかほのぼのした家人の皆様がおいでな限り

面倒臭せぇなぁとか、何で俺様がとか、
一応はぶうたれつつも きっちりとお務めもこなされようし。
都や政権や宮廷がどうなろうとさほどの危機は感じぬが、
この暖かい団欒を守るためなら、
しょうがねぇなと言いつつも、全力で戦う所存に違いなく。
どたばた慌ただしかった、
にぎやかだったこの一年ももうすぐお暇するようですが、
新しい年が今から楽しみと、こっそりながらも苦笑が絶えぬ、
そんな充実の満ち満ちた、破天荒術師殿のお屋敷を、
北風も木枯らしもさして威勢は振るえずに、
通り過ぎるしかないようでございます。





   〜Fine〜  13.12.28.


  *記録的な…が、頻繁に飛び交った、
   変梃子りんな 春と夏と秋と冬でしたね。
   あ、冬はこれからか。
   ずんと寒くなるそうですね、
   皆様どうかご自愛くださいますように。


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv  

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