Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

     “そんなものより恐ろしい?”
 


季節の変わり目というのは、何かと気候も荒れるもので。
梅雨とは名ばかりの乾いた晴天ばかりが続いていたものが、
先日来からは、一気に秋になったかと思わせるほどの豪雨が続き。
近畿に限らずのあちこちで、
堰が切れたの山が崩れたのと大きな被害も伝えられ。
京の都の周縁の里々でも、
蒸し暑い中、ばたばたと倒れる人が後を絶たずで、

 『よしか、湯冷ましを一刻ごとに飲むのだぞ?
  喉が渇いてのうてもだ。
  湯冷ましも、そのたびに作り置け。
  病の素が すぐにもわいてしまうからの。』

さすがは、学問にも通じておいでの陰陽師殿が統括するお館で、
こちらでは早くからそういった事態への対処も取られていたため、
大きな騒ぎにはならなんだが、

 「夏場に水気を取り過ぎるとバテてしまうぞと
  笑う人もいるようですよ?」

 「言いたい奴には言わせておけよ。」

そうそう、一昔前はそうと言われておりましたのにねぇ。
まま、昔の日本は、
ここまで乾いた環境でもなかったのでもありましょうが。

 “それを言っちゃあ終しまいよ。”

  誰だ、あんた。(笑)

昔といえば…と繋ぐのは無理があるかも知れませんが、
昔から おっかないものを挙げるなら、
地震、雷、火事、親父、と申しまして。
こればっかりは大の大人でもギクッとするもの、
恐ろし怖いものだとされておりましたが、
さすがに最後の“親父”さんは、
何とはなく…威信のようなものが薄れて来ましたかねぇ。(う〜ん)

 「まあ、親父の話は俺に振られても判らんし。」

そんな言いようをなさる金髪白皙なお館様のお膝からは、
親父というのはお父様のことだよと教えられた、
甘栗色の髪を丸い頭の天辺近くにきゅうと束ねた、
それは愛らしい小さな坊やが はいはいとお手々を挙げて見せ。

 「くうはね、あのね、
  とと様とゆーと、おととさまと たぁもさまと二人もいるのね?」

口許たわめ、にっこりと自慢げに笑っての、
凄いでしょーvvと胸を張ったが、

 「くうちゃん、
  出来れば玉藻様の方を先に言ってあげたほうが…。」

そうだよね、瀬那くん。
選りにも選って天狐の惣領様なのにね。
ちなみに、裏山のとある主様も、
そこへ数えてほしがってるかもしれないぞ?(あはは)

 相変わらずの脱線はともかくとして。

地震や火事というのはいかにも日本らしい恐れようでして。
言わずもがなの地震大国なので、
それはそれは古い書物にまで天変地異としての記載があるものは、
よほどのこと、凄まじい揺れ方をしたんだろうなとつい思うほど、
地震といや恐ろしいものと
何の躊躇もなくの認められているのも当然のことと言え。
火事は火事で、こちらは地域にもよるものの、
昔から木材と紙を建材や内装材として多く用いる国なため、
冬場なぞは火が出るのも多かったその上、延焼被害も凄まじく。
よって、江戸の火消しは火元へ水をかけての消火より、
周辺の建物を叩き壊すことで消火活動としたほどで。
なので、家の構造に詳しく、屋根へも上がれる身ごなしの、
鳶職のいなせなお兄さんたちが受け持ったのでもありまして。
残るところの“雷”は
これもまた自然現象であるがゆえ、昔むかしから恐れられており。
ところによっては“神鳴り”と書く場合もあるほどに、
人知を越えてるどころじゃあない、
神様が下した制裁の級で扱われていて。

 「日之本に限った話じゃあないからの。
  唐や天竺、南蛮でも、
  天の神や帝が“私の眸は誤魔化せぬぞ”と、
  罰として振り下ろす鉾や槍だと言われているとか。」

 「突然 空から落ちて来ますものね。」

地震だって突然襲い来るものではあるけれど、
いかにも天罰と思わせるほどに 一点集中の鋭さゆえ、
神の仕業と広まるのも容易だったに違いなく。

 「昨夜もゴロゴロ言ってませんでしたか?」

庭先の古石へとまといつく苔が、
それは瑞々しい色彩を映えさせているのを拝めるほどに、
今日は何とか晴れ間の見える空模様だが。
梅雨が明ける寸前の置き土産というところか、
昨夜は結構な大騒ぎ、
正しくの不意打ちで、
太鼓の上へ大豆をこぼしたかのような連打のノリにて、
けたたましい大雨が降り出したり。
その上がり際の遠く近くで、
重々しい鋼の箍を嵌めた樽を転がすような雷鳴も轟いて。

 “ついつい進さんのこと呼んじゃったもんな。”

明かりもない部屋、
掛け布にしていた小袖を頭からかぶっても守りには足らずで。
物の輪郭さえ白く飲み込むほどの、
ピカリという強い光りようをした瞬間。
寝床へ ひやぁと身を縮めたセナくんだったの くるみ込むようにして、
それは頼もしい守護神様がそのお姿を現して下さっており。

 『敵襲か?』
 『え? あ・いえいえ。///////』

そんな物騒なことじゃありませんよと、
なのに呼び立てちゃったほど怖がってすいませんと、
続けかけたものの。
そこへと間髪いれずに轟いたのが、

  ぱしん、ぱらぱらぱら、がらがらら・ごとん、という

先程のより大きかった雷鳴と来て。
ひゃぁあっと悲鳴を上げつつ飛びついて来た御主だったのを、
しっかと受け止めてのますますのこと覆うようにくるみ込み。
夜明けになって雨脚が落ち着くまでのずっと、
姿を現したままでいてくれたのだとか。

 “まあ、セナちびは
  そういう繊細なところが先々でも必要な身だからの。”

怖いと思うばかりでは困りものだが、
だからと言って そこを克服した末に、
何にも感じないようになられては、陰陽師として話にならぬ。
今はせいぜい進に盾になってもらえよと、
この屋敷のうちの出来事くらいはあっさり拾えるらしいお館様、
特に説教をすることでも無しと、
そちらへは触れなんだけれど。

 「雷除けの、おまじないとかは無いのでしょうか。」

自分が怖いからかそれとも、人から訊かれた時のためか、
昼も間近いからか、
仄かに温気をはらみつつある、緑の庭を眺めておいでのお師匠様へ、
おずおずと訊いたセナくんだったのへは、

 「そうさの、
  くわばらくわばらと唱えよというのもあるが。」

自分から言っておいて、だが、クッと喉を鳴らして短く笑うと、

 「だが、それを宮中に縁のある者が重宝するのもどうかの。」
 「はい?」

どこか皮肉な経緯でもあるものか、
失笑半分に口にした蛭魔であり。
何でだろうかと あとあとに書生くんが調べれば、

 『…ありゃ。』

学者の家柄に生まれ、それは尽力したにもかかわらず、
讒言から囚われの身となった挙句、
都から遠い太宰府へ左遷され、そこで亡くなったという
平安時代の詩人にして政治家、菅原道真に関わりのある俗説だそうで。
恨みによる憤死とされている道真は、雷神になったとされており、
京の都にも怨嗟からの雷をさんざん落として回ったが、
自分の領だった桑原にだけは落とさなかったという逸話から、
くわばらくわばらと唱えると雷は落ちないと……

 “確かに、宮中の人がおまじないにって使うのは、
  ちょっと考えものだよね。”

ただの俗説だと蛭魔は笑うのだろうが、
存外、渦中の道真様の気配、感じ取っておいでなのかも知れなくて。

 先進の道理も把握しながら、
 科学的な証明がないことでさえ、
 仄かに見えているという不思議なお人。
 セナくんとしては、早く追いつきたいような、でもでも

 “そんな怖いものまで見えるようになるのは
  ちょっといやだなぁ。”

……う〜ん。
これもまた“親の心、子知らず”なんでしょうかねぇ。(笑)
そうこうしている庭先に、金気の匂いがツンとして、
ほれ雷が来るぞと意地悪そうに笑ったお師匠様だったのは、
いやいや、さすがに心の中までは読めない蛭魔さんだと思いますが


  ………ねえ?





   〜Fine〜  13.07.06.


  *進さんのお誕生日前だというのに、
   何を書いているのやら…。
   しかも、
   別のお部屋のお話の資料にと調べたことの流用ですしね。
   こうして、他では使わない蘊蓄ばっかり
   深くなってくんですよ、おばさんたら。(とほほん)

   くわばらというおまじないの由来は
   本当にそこから来ているそうで。
   実在の人物で、しかも時代が近すぎたので、
   使ったもんかどうか迷ったのですが、
   蛭魔さんなら、もしかして当てこすりから
   宮中でも言って回りそうな気がしたので、
   堂々の採用としてみました。(おいおい)
   でも、あの桜庭さんのお父様に当たる今帝が
   そんな失政はなさらないと思うので、
   前の代の帝の時代の話よね、きっと。(うんうん)

   「お前もそういう悪戯はしそうだよな。」
   「馬鹿馬鹿しい。」
   「お、そういう逆恨みはせんか?」
   「つか、そんな遠回しな嫌がらせするくらいなら、
    屋敷へ土足で上がり込んで、
    しょむない策謀巡らした張本人を直接吊るし上げてやるわ。」
   「うんうん、お前なら生前中にやり遂げようよな。」

   つか、誰ぞかを憤死させても ご本人はしないと思います。
   そんなヘマはしねぇよってね。(こら)


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