Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “雨を待ちぼうけ”
 


梅雨前の頃合いに、
そのまま夏へ一直線かというほどの
強い日照りが続くことがあり。
土地によっては早苗の育成期だったり、
土を起こした田圃に水を張る時期だったりしもするので、
あまりの日照りは幼い苗には苛酷だし、
雨が降らぬというのは他の作物も含めて迷惑千万な事態。
なので、霊験あらたかな神職や僧侶に依頼して、
雨よ降れ降れと雨乞いすることも、
平安の時代には真剣真面目な仕儀だったそうで。

 「何せ、雨風の起きる理屈が
  一部の人間にしか把握されてはおらぬからの。」

大体だ、
毎日のように外へ出て、
空を見、雲を見ている農夫のかたがたでも判らぬことを、
家へ籠もって
書物ばっかり繰ってる学者に何とかしろってのは、
俺からすりゃあ順番がおかしいってもんだがのと。
朝晩の涼しいうち、
そろそろ出來する邪妖への対処に出歩くことの方が忙しく、
そちらの、格式高き 公け方の祈祷にはあんまりお呼びがかからぬ、
神祗官補佐の殿上人、こと、陰陽師の蛭魔としては。
随分と大掛かりなことへ担ぎ出される その筋の権門の話へ、
ご苦労なことよと苦笑をしておいで。

 「そもそも、祈祷で雨が降ったりするのですか?」

陽が高くなったからこそ、庇の真下に濃い陰が出来て一際涼しく、
板張りの感触もひんやりと心地のいい そんな濡れ縁に、
朝餉のあとの食休みだと顔を揃えていた、お屋敷の主人らだったが、

 「そこがそれ、
  見識の深いタヌキならではの策謀の見せどころでな。」

経験値も高く、知識も豊富な本物の学者であれば。
周辺のあちこちに人をやり、
気団の配置や湿気、気温の変動などなどを数日ほど見た上で、
今がどれほど雨が降りやすいのか、
あと何日くらいで天気が傾き始めるか、
大まかながら割り出せぬでもないのだが、と。
それが可能ぞと言ってのけ、

 「ただし、依頼された日に“降らせる”のは、
  さすがに神ならぬ身にそうそう出来ることではないからの。」

そこで、年経た練達が繰り出すのが、
様々な小理屈だったり、
方便や詭弁、言い逃れや もっともらしい学説での、と。
何だか…怪しいものや
いっそ良からぬもののような言いようをする蛭魔なのへ、

 「…何ですか、それ。」

心地のいい風にいい子いい子され、
書生くんのやわらかいお膝に頭を預けて
うたた寝中の仔ギツネさんを起こさぬよう。
声をひそめて訊き返して来た、
相変わらずに素直なお弟子だったのへ。
切れ長の目許を薄く薄く細め、
ふふ〜んと楽しそうに笑ったお師匠様、

 「今日明日中に降らせろというのは無理な相談です。
  そうというのも、
  この土地の上空には
  ただ今どこそこの神が居座っておいでで、
  何にか臍を曲げておわすので、
  まずはそのご機嫌を伺わねばなりませぬ…というような
  もっともらしい趣旨の話を持ち出して、
  丁度いい日が来るのをじりじりと待つのよ。」

楽しい悪戯ごとででもあるかのように、
日頃に比べりゃあ そりゃあ朗らかに笑うお師匠様だが、

 「…それって、通るのですか?」

理屈が判らぬ素人が相手、
気象とはそういうものだというのは まず通じまいし、
だからこそのお茶濁しならならで、
そのような胡散臭い世迷ごとで誤魔化すかと
相手に馬鹿にするなと怒り出されはせぬかいなと。
例え話だというに、
大変なことにならぬかと眉をひそめて案じる瀬那くんへ、

 「勿論、依頼人にそれを納得させるだけの
  人望なり弁舌力なりが必要でな。」

ふっふ〜んと ますます楽しそうになる辺り、

 『ああ、そういう祈祷もどきなら、
  奴も子供のころなんぞに散々やってたらしいからの。』

あとで葉柱に訊いたところ、
けろりとあっさり明かしてくれて。

 『小金持ちの知行主や荘園の主なんぞに訊かれては、
  結構当たる雨や晴れの予言てのを
  お告げとして聞かせていたらしいし。
  金子によっちゃあ、雨乞いもやって見せたらしいぞ?』

勿論、雨が来そうな気団を読んでのことで、
無理なときは無理だと あっさり断ってたらしい小狡さだがのと。
よほどに歳経た古狸でなきゃ無理という言いようをしたくせに、
そんなご当人は、
セナより幼いころからそんな大胆な真似をしていたらしいと来て。

 『それって…頼もしいと思っていいのでしょうか。』

唖然とするしかなかったらしい、まだまだお育ちのいいセナくんへ、
さてなと どっちとも取れそうな言いようをし、
やっぱり笑って見せた黒の侍従さんだったそうですが。

 “…でも何か、
  お師匠様の場合は、ご自分の力を繰り出して
  何とか出来そうな気がするんだけどもなぁ。”

おいおい、セナくん、セナくん…。(笑)
そこのところは謎のままにしといた方がと、
宥めるように空の高みからすべり降りて来たツバメの影が、
軒の縁を掠めてよぎった初夏の朝。





   〜Fine〜  14.06.01.


  *いやまったく暑いですねぇ。
   お影様で、昼の間は何にも書く気が起こりません。
   朝晩が涼しいうちが狙い目です。
   お外での行事がある学生さんは、水分補給を忘れずに。


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv  

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