Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “青嵐と和子たちと”
 


そりゃあ妖艶富貴な桜がそこここで一斉に咲き競い、
昼のうちは緋色の練り絹を幾重にも重ねたような風景へ、
絶景だなぁと酔うだけで済んでたものが。
陽も去ってののち、月夜の夜陰の下で…ともなると、
生気を吸われそうなほども圧倒的で妖麗な花闇に気概が眩み、
そのまま山にて迷ったり、遅霜が降るほどの寒の戻りの中で凍えたり、
桜に魅入られたという謂れをするよな者らも、
稀ながら出ることがあるのが春でもあって。

 「……っ。」

やわらかな若葉が出て来た山法師の梢を揺らし、
不意に強い風がびょうと吹き抜ける。
思わぬ間合いのことだったゆえ、
わあっと眸をつむり、身動きも止めて、
ついついその場に立ち尽くして身構えてしまったは。
母屋の裏手にある蔵書用の蔵へ、
師匠が読み散らかした巻物を仕舞いに向かっていた書生くんと、
その後からついて来ていた小さな坊やたちで。

 「あわわ。」
 「あやや。」
 「あ、くうちゃんも こおちゃんも大丈夫?」

結構な強さだった突風に、小袖や袴のあそびを膨らまされてのこと。
凧のようにぐいぐいと押し出され、
前をゆく小さなお兄さんの足やお尻へ
とん・すととんと次々にぶつかる格好になったのが、
傍から観ている分には、何とも愛らしくての眼福で。

 「どこかぶつけなかった?」
 「あい。」
 「へーき。」

わざわざ屈んでくれて、お顔をのぞき込むお兄さんへ、
大丈夫ですとお返事しつつ、揃って小さな手を挙げる様がまた、
何とも言えぬ稚(いとけな)さであり、

 “ここに あの蛇野郎がおれば悶絶してたかもだな。”

見た目はそっくりな、頬っぺふかふかの愛らしい童が二人と、
そんな二人よりはずんとお兄さんながら、
だがだが属性はきっと同じで、
幼いころの姿は似たようなものだったろう、
線の細いめな風貌をした、繊細そうな少年とが、
あばら家屋敷の中でも殊に、
まばらな草が既に結構生い茂るほど 人が出入りしない場所へ
わしわしと分け入っておいでの様子は、
さながら秘境探検のとば口に立つ
小さいながらも勇ましい冒険者たちのようでもあって。
そんなおちびさんたちの衣紋をばさばさとはためかせ、
またぞろ突風が吹きつけ、

 「きゃ〜い〜。」
 「はわわ〜っ。」

飛ばされるぅ〜〜っと、小さな身を遊ばれつつ、
助けてぇという声を上げつつも、
それを代(しろ)にし、
小さなお兄さんへすがりついて遊んでいるとしか思えなくて。
寒の戻りには向かっ腹を立てていたお館様も、
この可愛らしい光景には、
広間へ和紙を広げてはすらすらと咒詞を連ねつつ、
新たな咒弊を張り替える仕儀の手を
ついと止めるほどに見とれてしまい。
皮肉っぽい笑いようしか滅多に見ないはずのその口許へ、
ふわりと滲んだのは、霞のような優しい微笑。
幼い若葉がちぎれないかというほどもの強さで、
吹きつける風はこの時期特有のそれながら、
逆にいや、そんな風さえ何するものぞ、
柔らかな存在なれど存外逞しい青葉たちだとも言えて。

 “ほんに、先が楽しみよな。”

彼らなりの健やかさで、
それは伸び伸びとしなやかに育つ和子らを重ね見て、
目映い陽の来たる初夏を楽しみに、
再び筆を走らせる、うら若き術師殿であったそうな。





   〜Fine〜  14.04.21.


  *仔ギツネさんたちのいる一景、でした。
   いやいや、きっと可愛いですよvv
   微妙に回り切らない舌でお茶目なことを言い、
   きゃいぃ〜〜vvと駆け回る ふくふくしたおちびさんたち。


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