Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “大きな寒い木の下で”
 


くどいようだが、本来の古い暦で数えておれば、
もしかしたなら
まだ年は明けてないかもしれない平安時代だが、
そこは相変わらず、
今時のほうへ合わせてお話を進めさせていただくとして。



京の都にも最強寒波が罹り越した 大寒の朝であり。
町の大路にも、雪だか霜だか
うっすらと白いものが見えるほどのしばれる級、
吐く息も凍るような、そりゃあそりゃあ寒い朝がやって来て。

 「寒いぞっ!」

何だ馬鹿野郎と、続きかねないほどの不機嫌さ。
ただ寒いねぇと言うだけでは腹立たしいものか、
吐き捨てるような言い方をし。
途轍もなく極寒の朝なのと、
そんななのに
出仕しなきゃあいけない我が身を呪いたいらしい、
呪ったら本当にごっつい祟りが起きそうな、
今世 最強の、辣腕陰陽師殿だったりし。
舎人らが仕立てた牛車には、
温めた懐ろ石の用意もあったし、
これは内緒の特別製、
大陸のもっと遠くからもたらされたそれ、
羊毛の敷物もたんと敷かれていて、
よそ様の単なる乗り物の数倍も暖かいのではあるが、
それでも憤懣は拭えぬらしいお館様、

 「こんな寒い日に何でまた国事を設けやがったかな、
  先の帝と中枢部っ

 「そんな遠くまで罵るか。」

他の雑仕らは聞こえぬ振りで通すそれ、
同じ車中の身でもあるからか、
黒の侍従のみが合いの手を打って差し上げておいで。
というのも、これで結構一月は行事が多い。
年の初めで、位官を授ける儀式も多数あるし、
女官から地方の国司の任免まである その上。
それらの間を縫うように、
白馬を曳いて来て邪を払う儀式やら、
建礼門前で破邪の矢を射ったり、
近衛や舎人らが弓の腕前を競ったり、
そうかと思や歌詠みの“内宴”やらと、
晴れがましい系の儀式が たんと続く。
役職任免云々と違い、そちらは儀礼色が強い代物、
つまりは、神祗官こそが仕切る代物がほとんどなので、

  …となれば、
  その補佐である蛭魔こそが
  実は忙しいのだ、お立ち会い。

当初は、肩書さえ面倒だとばかり、
さほどの義理立てもない相手だしと
至ってずぼらを決め込んでいたものの、

 『やれ困ったの、
  それがしも老いぼれたか、あれを忘れた。』

蛭魔殿、御存知あるまいか?
そうそう、そうであったな、さすが切れ者 頼りになると。
妙に甘え上手なところの強い
爺様、もとえ、神祗官様なその上、
最近やっと“故意にじゃあないか…”と思わせるほど、
微妙にあちこち手を抜く御仁でもあるものが、
実は世話焼きな性分も隠し持つ蛭魔の
厄介なことほど燃えるらしい、
そんなツボを絶妙についておいででもあって。

 “さすがというか、
  本物の古ダヌキは格が違うということか。”

何で俺が駆け回らにゃならぬと、
一応 きぃ〜っと怒らせはするものの。
知るかと放り出せば、
やや やはり無理であったか、
済まなんだのうと言わせかねないことばかり。
無理を言って申し訳無かったなと
先人であり上官でもある存在に
謝らせることへの罪悪感なんてものは、
ちいとも沸かない気性の蛭魔だが。(おいおい)
そうではなくて、
無理だったとされるのこそ腹立たしいだろという、
そんな気性をくすぐるよう持ってく辺りが、

 “向かっ腹が立つったらねぇっ

日頃偉そうにしていても、
肝心な国事の補佐もまっとう出来ぬとはとされ、
自分の不手際と囃されるのは鉄の心臓だから堪えぬが、
微妙にややこしいことや、本当に咒力がなければこなせぬ急変、
それを“ぱぱぱんっ”と鮮やかに畳める術はないものかのぉなんて、
ぼそりと懸念されたなら、

 ああもうっ、ほらっ、こうすりゃあ良いんじゃねぇか
 だあもう、年寄りはじっとしてなっ
 任せとくと手間暇が掛かり過ぎんだよ、と

  「…てきぱき動いてしまう
   我が身の冴えが恨めしいんだろ。」

  「うっせぇよっ

上には上がいるものだと、
蜥蜴の総帥が言わずもがななことを口にしたのは、
天然な気性からというのみならず、
せめての八つ当たりの対象になってやるべえという
故意からかも知れなかったが。
だったらお言葉に甘えてやんぜと、
そこは大人としての洞察以上に 甘えが勝る間柄。
座っていてもお膝があると、
ごつんと膝頭で 腿の中程どついて差し上げ、
痛ってぇなという文句を言わせるまでがひとくくり。
それで多少は溜飲が下がったならば まま善しということで。
極寒に乗じて人々へ仇なす妖異の成敗も兼ね、
祈祷という形でのお務めもよろしく、神祗官補佐様。


  「うっせぇなっ 言われんでも判っとるわっ!」


  きゃあっ☆






   〜Fine〜  14.01.20.


  *冗談はよせという寒さでしたね、昨日といい今朝といい。
   二重毛布を出しそこね、
   ちょっと寒い想いをした もーりんだったのは、
   さては蛭魔さんからのお仕置きだったのかなぁ…。(おいおい)


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