Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “青葉の丘にて”
 


時に意地悪な寒気が
不意打ちよろしく舞い戻りもしつつ、
それでも暦の流れは
もはや止められぬ勢いに乗り、夏に向かっているようで。
野に山に緑の濃淡がこれでもかとあふれ、
うっかり怠慢しておれば、
庭や門からの小道なぞ、あっと言う間に雑草で埋まる。

 「アジサイがまた、物凄い勢いで育っているんですよね。」

万葉集に出てくるくらいだから、
平安時代にもあったはずのアジサイは、
根付きもよければ、洒落でなくのこと なかなかに根性もあり。
冬場にすっかりと小さく萎れてしまい、
茎まですっかり枯れ果てて見えても。
春になっての梅雨前には、
これでもかっと株が勢いづいて枝を伸ばしの、
大きな葉をもりもりと繁茂させのと、
倍以上は膨らんで、場所を塞いでくれるから恐ろしい。(実話)
山寺ののり面などによく植えられたのは、
竹やぶと同じで、
その根で土地を強化してたんじゃあないでしょうかね。

 「あと三番蔵の裏手のドクダミも丈夫ですよね。」
 「おいおい、それは江戸時代からの名だぞ。」

そう。
そちらも古来からあったけど、
そうと呼ばれるようになったのは民間へ降りて来てからで、
シブキ、シュウサイというのが古名。
(十薬というのは乾かして生薬にしてからの名前です。)

 「くちゃいちゃい。」

いやいやと顔をしかめてしまうくうちゃんなのへ、
大人たちが苦笑する。
仔ギツネさんは鼻がいいから、尚のこと堪えるらしく、

 「雑仕らに言って、まめに刈らせときな。」
 「はい。」

素直に頷く書生くんなのへ、

 「薬ンなるから市場で売れると こそり吹き込みゃあ、
  我先にと片付けようよ。」

にやり笑ってそんな悪知恵をつけるところが
相変わらずなお館様だったりして。(笑)


  かの如く、
  京の都の一角の、
  場末の里にも初夏は来たりて


陽も目映く、吹く風は緑。
様々な生命の芽吹きに地上は輝き、
せせらぎの音と競うよに、
幼い揚げ雲雀のさえずりがにぎやか。
ちょっぴり山科寄りの小さな丘まで、
久し振りに駒を駆けさせたのは、
そちらの方からも地脈の流れがあるからで。
大きな湖と接しているだけに、
どんな思いがけない力が宿るかは未知数な部分も多く。
屋敷に座して窺うだけでは拾えぬものもあろうかと、
見晴らしのいい丘までを、
季節の変わり目などに訪れている術師であり。

 「まあ、さほどの変化もないみたいだがな。」

人の数がどんどんと増えつつあり、
地脈が震えちゃあ そのたびそれが人へと波及するというよな
密な関係でもなくなりつつあって。

 “だからと言って、舐めてかかるのは存外だがの。”

妙な形で歪曲した力が地下にじわじわと溜まって、
忘れたころに一気に弾けでもしたら、
それこそ妖異の大暴れどころじゃあない惨事を招く。
もっとずっと西国のよに、始終火を噴く山が近辺にない限り、
そんな天変地異なぞ そうそう起きぬと学者らは言うが、

 “人が住まわっておらぬ東国の地では、
  此処と変わらぬ地脈でありながら、
  大地が揺れること頻繁だというに……。”

人がおらぬから報告がないだけであり、
葉柱や阿含、進といった、
人より顔の広い存在から様々な情報を得てもいる蛭魔には、
現状がより細かに届くだけに。
何も知らず、訳知り顔でいる年寄りたちの言いようなぞ、
どうしても真っ当に聞く気になれぬのだが、

 そうかと言って、
 何がどう“真実か”と言って聞かす訳にもいかんのだろうなぁ。

身内に危機が降りでもせぬ限り、
大妖の存在なぞ架空の代物と決めつけてござる方々だ。
それはそれで間違ってはないけれど、
彼らの鋭い耳目で得た話だという順では、
何を世迷ごとをと鼻であしらわれるのが関の山。
言うだけ無駄だと判っているだけに、
そこが歯痒かったり腹立たしかったりする彼であるようで。

 “損な性分だよの。”

そんな連中、何なら放っておけばいいのだ。
彼を信じる身内だけ、正確な情報を生かした城塞の中へ匿えばいい。
そういう英断だってこなせよう、意志の強さを持つ彼だろに、

  この手を延べれば救えるものがあるのなら、と。

心のどこかで騒ぐ義侠心があってのこと、
結果として、何の誉れにも預かれぬ人助けに
身を削って奔走しもするのだから始末に負えぬと。
こぼれる苦笑を隠しがてら、
唐渡りの遠眼鏡で遠くを眺めやる術師のお仕事の邪魔にならぬよう、
もうすっかりと豊かに伸びた芝草の上、
大の字になって横になる蜥蜴の総帥殿であり。

 向かい合う空は正青。
 耳元でざわめくは、風に躍る草の波。

さくさくりと、そんな草の茎を踏み締める音が立ち、
風の流れをやや乱す何かが、すぐ傍らまで歩みを運び来る。

 “…?”

もう気が済んだのかな?
とはいえ、正午を境に地脈は分岐を様々に変えもする。
そこまでを見取らねばわざわざ来た意味もなしと、
こういったことへの意味合いへも、なかなかに通じて来た葉柱としては、
あと小半時ほどはのんびり出来ようと、目も開けぬまま。
退屈だ構えというのなら、叩き起こすのだろうから、
そのお楽しみを用意しといてやるのも従者の役目さねと。
気づかぬ振りでじっとしておれば、

 「……。」

振り落ちる影が、主の気配を帯びたまま やけに近づいていて。
転がる自分の傍らへ、膝をついて覗き込んでいるような…。

 “?? 何だ何だ?”

退屈だ〜と鼻でもつまむか、それとも耳でも引っ張るつもりか。
まま、こちとら 大上段からのかかと落としであっても
充分に想定のうちだったので、
どんな悪戯をかまされようが驚きゃせぬのだが。

 “…う〜ん。”

ぬかった、こうまで淑やかに間合いを取られると、
却って読めなくて落ち着けぬ。
そうこうする間にも、じわりと近づく気配があって。
こちらを覗き込んだそのまま、
しばし見聞と洒落込んでいるらしく。
これはとんだ我慢比べだなぁと、
さぁて どこで目を開けようかなぞと思っておれば、


  「ここまで焦らしたのだ、不意打ちで開眼は無しだぞ?」
  「……っ☆」


話しかけたということは、
狸寝入りはもはやお見通しだということで。
その上で、目を開けるなということは…?

 “…えっとぉ。”

まぶたの裏、陽を吸っての赤ばかりが広がっていたはずが、
ふっと陰って柔らかな香の気配。
そろりと口元へ降って来たやわらかな悪戯へ、
日頃になくたじろいでしまった総帥殿だったことは、
それこそ肌越しにありありと伝わって。

  何だ、取って食われるとでも思うたか、と

帰り道でさんざんからかわれることとなるまで、
あと半時ほど…。





   〜Fine〜  14.05.19.


  *何のこっちゃな代物ですいません。
   いやぁ、このごろお館様と総帥殿、
   あんまりスキンシップしてないなぁとか思いましてね。
   でもなんか、他のお部屋の甘甘を持って来るのも何だしなぁと、
   匙加減がイマイチ判らなくなってましてね。
   まま、たまにはお館様の方が優勢でもいいじゃん、ということでvv


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv  

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