Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル・番外編

    蘆葉の原にて
 



 河畔に一本だけ、しょんぼりと立ち尽くしてた古柳。萌え出したばかりな若い枝が、間断なく吹きつける強めの風に抵抗を見せることも出来ぬまま、容赦なくなぶられている。玉簾のような長くてしなやかな枝々を、もとどりの切れて振り乱された濡れ髪のごとく、抗う術もなく一定の方向へとばかり流されていて。まるで流れの速い瀬になされるがまま、下流へ下流へと向けて流れゆく水の様を体言しているばかりな長い藻のよう。そんな様が見て取れるほど白々と、黎明の時が訪れており。ああ夜が明けて来たのだなぁ…などと、把握出来るまでの余裕は、残念ながら 瀬那には全くなかったのだけれど。
“ふや…。////////
 昨晩から未明を通り抜けたる長時間、冷たい風に晒され続けて、頬やおでこが随分と冷え切ってる。なのに、あんまり寒くはないのは、絶対気温が冬場の晩よりも高くなってた気候のせいだけではなく。セナより一回りも二回りも大きな体躯をした憑神様の進さんが、背後に立ってその懐ろの深みへすっぽりと、小さな主上の身を取り込んでくれていたからで。でも、防寒のためというのはあくまでも二番目の目的。大地の精霊、武道の剛力と練巧とを司る彼のその素養を、小さな主人の身へとそそぎ込み、居ながらにして障壁結界を張っている。
“背中とか肩とか、温かいなぁ…。”
 人の身ならぬ存在だのにね。セナと意を通じ合った誓約が、彼へと陽界での殻器を与え、こうやって生身の人間と寸分違わぬ身として在ることが出来もする。そんなおかげで こうやって、温かい懐ろへと掻い込まれ、咒への集中が途切れかかっては睡魔に誘われ、そこからハッと我に返るほど、結構余裕のセナくんだったりするのだけれど。お館様の方はそうもいかない模様。途切れることのない咒詞を、風の中、ずっとずっと紡いでおいでで、

  「天霊地霊、火霊水霊、様々におわす八百よろずの主上。
   ならびに、もろもろの精霊守護たちに、言霊にて言上す。」

 ここ数日のうららかな好天を塗り潰し、都の空をあっと言う間に鈍色へと染め上げし妖かしの気配。厳冬から明けし季節の変わり目、春先の寒風や春一番と、皐月の嵐の狭間の今頃は。新たに萌え出づる生命力への、これも丈夫になれよという手荒な洗礼、餞
はなむけなのか。せっかくの桜に徒なす春霖やら花冷えとか呼ばれる寒の戻りやら、天候の乱れが往々にしてあるものだが。それにしたってこれは少々、季節が戻り過ぎの感もあり。寒いのが殊の外に苦手で、ともすれば自然現象にまで喧嘩を売るのを辞さないような、我らが破天荒なお館様。
『てぇ〜いっ! どこのどいつだっ! こんな鬱陶しい寒気団を大陸から呼びやがって、しかも後始末をしてかなんだのはっ!』
『………そうなんですか?』
 風とか雨とか嵐が起きるのは、何も…人間には姿を見ることの出来ない超越した存在の化身が、大ウチワで扇いだり、袋から噴き出させたり、口元を尖らせてふうふうと吹いてたり…するのではなく。陽あたりの加減とか、海の上か地面の上かの差などなどにより、温度や湿気に違いのある空気の塊たちが触れ合うことが原因で起きるのだそうで。温かい方が膨張していて軽いので上へと押し上げられ、地上近い裾の方では冷たい風がすべり込んで来ての急な冷え込みや氷雨が生じたり、押し上げられた側も側で、その勢いが早いと急激に温度が下がって湿り気が水滴となり、しかもそれらが勢いよく落下するため、やっぱり驟雨や暴風ともなう大嵐になってしまうのだとか。
“まだちょっと、ボクには詳しいところがよく判らないのだけれど。”
 理知明晰、聡明で海外からの書にも明るいお館様からの、手っ取り早くと聞かされし説明の受け売りですので念のため。………で、そんな“気団”なんて大きくて掴みどころがないもの、どれほどの修行をしても人間がそうそう意のままに出来よう筈もないのだが、
『よほどの大妖と結託だか盟約だかを結びし野郎が、恐らくは自分と…ともすりゃ連れ合いや家族やを道連れにしての、とんでもなく大掛かりな呪咒を繰り出しやがったに違いない。』
 しかも、ただ風や嵐に馴染みのある邪妖に声をかけた…というのではなく、月の満ち欠け、大潮や日和の加減を緻密に計算し、最も効果の出る頃合いを見計らい、様々な現象が交錯し合った末にこうなるようにと、きっちり段取りを組んで仕掛けたのだろうさと。そんな巧みな機知までもが憎々しいのだろう、お怒りの様はなかなかに収まらず。畏れ多くも天へと罵声を飛ばし、姿なき風へと当たり散らし、萌え出たばかりのそこいらの若芽にまで毒づき…と、さんざんな憤慨ぶりをはしたないほど見せてのち、
『…よし。居所が判った。』
『はぁ…?』
 そんなやり方で反応を浚い、相手の居場所を探査するなんて。当世に陰陽師は多けれど、こうまでの直接的で速効な手段が取れるのは、ここのお館様の他にはいなかろう。ほんの半日で癇癪を収めたそのついで、祈祷のための梵天玉串の代わりになれと、宵も深まったからと眠そうにしていたセナの首根っこを引っ掴み。否も応もなく夜陰の中、都の外れまでへと連れ出したのが…もう昨夜となる半日近くも前のこと。やっぱり風は浪々と唸りを上げるほどに強く、視線を頭上へと上げれば、春の夜空を群雲たちが追い立てられるように疾く走る様が見て取れて。都の東北、鬼門のあたり。こうまで大きな呪怨の咒を詠唱したどこぞの術師が、精根使い果たして頽れたために、召喚されし存在は…これもその術師の思惑のうちだったのか、召喚されし目的も告げられぬまま、制御されないまま闇雲な暴れ方をしたらしく。後で判明したのだが、その辺りの領に住まう民らを権力と専横とでいいように嬲っていた僭越大馬鹿な公達の一族が、この春颯の邪妖の大暴れの余燼をまんま食って、その住居や財産、ついでに面目玉までをあっさりと蹂躙されていたらしく。

  ――― まま、そんな個人的な怨念の発端だとか、
       勧善懲悪の理
ことわり、悪党が食らった天罰のお話には、
       めっきりと関心がなかったお館様だったそうだけれど。

 ご自身も天から降り下った天世界の御方であるかの如き、清明にして玲瓏たる姿を、乱れ吹く突風の中にしゃんと立て。足早に流れる雲間から時折覗く、それはささやかな月光を受けてさえ きらきら輝く金の髪が掻き乱されるのも、足元裳裾が草に埋まり、袴の淡色が夜露に濡れるのも厭わずに。薄い肩やら直垂の袖を、千切らんばかりにばたばたと容赦なく叩いては、その痩躯を突き飛ばさんと吹き来る疾風にも昂然と顔を上げ。常人には姿どころか気配さえ感じられない、自然界の大妖の、すぐ足元にて咒を唱え始めて…もうどのくらいになるものか。名もなき風の荒神よ、その猛々し勘気を直にも鎮めたまえよと。これへばかりは日頃の短気も見る影なきまま、朗々と響きし咒の詠唱も途切れずに、粘り強くも諭し続けて。

  「………諭す? 誰が。」

 ははは、はい? いや、だって。どうかお静まり下さいませと。あなた様をお呼びし奴輩は、そのあまりの威容に吹き飛んで影もなく。小さき者や民草たちは、為す術なくただただ狼狽
うろたえるばかりです…とか何とか。へりくだった上で、どかお引き取りをと説得していたのでは…。
「こんの、世界一の大威張り野郎が、そんな殊勝な真似を選ぶと思うのか?」
 おおう、葉柱さんまでもがそんな身も蓋もないお言いようをなさっては…って、あなた様におかれましては、それこそ今更な解釈・把握でしょうかね。このうら若き青年術師が、明るい春の野辺にやさしく佇む、花のように嫋やかな姿と裏腹、いかに破天荒か、いかに自己チュウかをよくよく知ってるその上で。恐れるものなど一切持たない天衣無縫の剛毅さなどなど、彼らしくて颯爽としているのが、いっそ好いたらしい素養だと言わんばかりに。苦笑を口許に浮かべ、なのに目許は和らげながら、後背は安んじて任せろと構えて見守っているような。そういう順番だってこと、ウチへおいでの皆様の中には、もはや知らぬ方とてない間柄ですものねvv
「今 誰か、笑えることを言ったか?」
 刃のように鋭き視線。風に嬲られし金の髪に頬をはたかれながらも、肩越しに真っ直ぐ届けて来たお館様であったので。邪妖と一緒に封印されても何ですので、それでは筆者はここいらで。
(焦) そんな誰ぞには眸もくれず(いやん)
「どうだ、包囲の陣は。」
 時季外れに招かれし、大陸からの冷たい気団。決して、人へと仇をなす“物の怪”とかいう存在ではないのだけれど。そうなるようにという“導き”をした、熱波寒波をささやかながら操れる邪妖めはいたようで。それを囲って“てぇ〜いっ”と何処ぞへ吹っ飛ばし、そ〜れ、お前はあれを取って来〜いっというノリで、気団の方もまた、本来あるべき位置まで北上させようという。説明だけだと単純明快で、何ともあっさりした仕儀のように聞こえるが、こちらさんたちもまた、何とも壮大なことを目論んでいることか。とはいえ、
「何とかくるみ込むまでには至ったさ。」
 袖だの足元だのが狩衣よりも軽快な、直垂に袴という彼には珍しい闊達そうな装束の肩越しに、薄い唇の片端を引き上げ、ふふんと強かそうに笑って見せた術師殿。特に咒符やら御幣を下げたしめ繩やらは持ち出さなかったが、それでもセナとその憑神をわざわざ引っ張り出したは、それだけ大掛かりな仕儀を覚悟してのこと。結界障壁を張ってる要だから、今回の邪鬼には触れることさえ出来ない存在だし、まま、進が後見にたっていれば不安はない。蛭魔自身の身の守りは、そもそも案じた試しなぞこれまでにもなかったし。今現在は昔とは較ぶべくもない大物相手の立ち会いに至る機会も多いものの、言わずとも護りをこなす奴がいるからやはり案じる必要はない。無茶苦茶ばっかりしやがってと、頭ごなしに怒られることもあるけれど、どうしてだろうか、詰まらない向こう見ずには烈火のごとく起こる同じ奴が、腹を据えてかかるよな大きな仕儀へは笑ってる。止めたって止まらないしとか、気が済むようにやんないといつまでも駄々を捏ねやがるしよなんて。それこそ下んない相手の時に繰り出す説教の、半分も口数の足りない言いようで、しょうがないなぁって笑ってたりする変な奴で。

  『護るのは俺の役目だからよ。』

 だから、前だけ向いて攻勢へ専念してろと、そうとでも言いたいのかな。
「…っ。」
 時折、長々とそよぐ草の先、大地からこぼれて来ては隙を突くかのようにこちらを狙う、霊気の鋭い切っ先が飛んで来もするそのたびに。こちらは相変わらずの真っ黒な装束、小袖と単
ひとえのその上へ、袖なしの僧衣のような半臂はんびを羽織り、足元は裾のやや絞られたる袴という いで立ちの。その袖を風を切るほどもの素早さで打ち振るい。長い腕を一閃したその威圧だけにて、蝿かヤブ蚊が相手ででもあるかのように、造作なく攻撃の手を片っ端から叩き伏せてくれる余裕が何とも頼もしく。
「暁光が現れると、夜陰の幕内へ逃げ込まれちまうぞ。」
 そうなっては、いくら自然界の精気に鼻の利く自分や進でも追跡は侭ならぬ。
「ああ。」
 そんなことになったら、またぞろ一からのやり直し。こういうことへだけは根気も続く蛭魔でも、そんな失態へと至ったれば…さすがに我慢も利くまいて。本人とてもそこまで判っているその上で、

  「祓刹羅の雄叫び、野獣
けだものの咆哮こえ
   荒ぶる颯
はやての逆巻きに、その怒りを深く知れ。
   主
ヌシは元来、此処に在ってはならぬ者。
   怨嗟の呪咒も招聘の声も、もはや聞こえぬ。
   さあ、早々に立ち去りませいっ!」

 言ってることは穏当だけれど、その身の内へぐんぐんと、充填されし覇気の大太刀、何とも鋭にして巨きなことか。周辺一帯を囲むよに、セナに…進の補助にて張らせた障壁。その内部を自身の放つ気鋭に馴染ませ、それと同時に身の内へも練り上げしは、強靭濃厚な霊気の“ちゃくら”。その有り様が左右対称なその体内の、同じ左右に橋掛けて、水平に巡りし精気の脈“ちゃくら”という環が何段か、生き物の体脈を司って存在するそうで。それらを縦へと貫きし、垂直の螺旋を意識して、それに沿わせて“念”を幾度も幾度も循環させ、たやすくは折れぬ、鋼にも匹敵するよな念咒を捏ね上げる。そんな術を根気よく、一夜を費やし捏ねていた蛭魔であったらしく、

  「蘆の葉を分け、荒瀬をまたぎ、天へと昇りし地龍の眷属、
   今 此処に、我の招きに応じて姿を現せっ!」

 この痩躯の一体どこから繰り出されしか、大気をかち割れとばかりの裂帛の気合いも鋭く、腹の底からの怒号を放てば。とめどなく吹きつけ続ける強い風に蹂躙されていた、生き物の気配なき渺々たる草原に、

  ――― かか…っ!と 降り落ちたる雷光一閃。

 辺り一帯から色彩をことごとく奪い、真っ白に叩いたほどもの強靭な閃光。からから・ぱりぱり…という乾いた大音響がほぼ同時に轟き渡ってもいたので、これは間近いと弾かれるように思わず…いつもだったならその身を竦めていたろうに。そこは頼もしい人の懐ろにあった余裕からだろう。はっとしつつも…空を見上げたセナの視界いっぱい。黎明の蒼から鈍い白へ染め変えられし大穹の、その蓋が裂けたのではないかと思えたほどもの。それはくっきりとした白い亀裂が、西から東、端から端へ一気に走ったのが一瞬だけだれど見えたから。
「凄い…。」
 ウチのお館様、雷様も呼べるんだ…なんて。小さな書生くん、ついつい感動していたりして。
「主よ、気を抜いてはならぬ。」
 逃げ腰にならなかったことを重畳とし、こちらも結構剛毅というか、なかなかに調子のいい憑神様が自身の主上へそうと助言したのとほぼ同時。湿っけた草原の河べり側を埋めていた、不揃いな蘆の葉株を掻き分けて、格別に存在感の匂う風が立った。

  《 ようもこのような陣を張りおったな。》

 先程までは何の気配もなかったのにね。何の説明もなかったようなものだけに、一体何と向かい合ってるお館様なのかしらと、怪訝に思ってもいたセナが。どっきりとその身を震わせたほど、そりゃあ唐突に。実在感ありありの何物かの気配が、同じ野原の何処かに立ち上がり。喉の奥に嫌な引っ掛かりを震わせて、わざとに鳴らして濁らせる。そんな声にての呼びかけがあったので、
「おうさ。とっととこの辺りから退去せぬから、ならばと囲い込んだまで。」
 人でなくなったのを幸い、こんな詰まらぬところよりいっそ大陸へでも連れてってもらや良かったのによと、姿のないものとの会話を始めたお館様。
「………?」
 セナがその大きな瞳をどんなに凝らしても、相手の姿は何処にも見えず。確かに気配はあるのにどうしたことかと、
「…進さん。」
 自分の身をすっぽりくるんで守って下さる憑神様へと訊いてみれば。名を呼ばわっただけで意も通じ、
「無理なのだ。」
 自分たちほど人への馴染みを持たぬが故に、風を操るほどもの力を得てはいても殻器は得なかった者。人への働きかけなぞしないのが前提の存在だから、まま、要らないには違いなく、
“蛭魔が意志の疎通をこなせるようにしたのではなく。”
 そやつを此処へと招いた何処ぞの誰か。よほどに追い詰められての深い怨嗟を、重々しくも練り込めた“気”を張ったに違いなく。そんな揺らぎに誘われてやって来ていたこの存在は、もしかしてそもそもは“邪妖”や“物の怪”とも微妙に違うものであったのかもしれない。陽の育む活気ある精気とか、夜陰がはらむ無情の静寂だとか。そういった存在、いやさ、ただそこに漫然とあったもの。
“そんなものを誘導し、自身を寄り代に捧げて一体化し、意思あるものにしてしまった…か。”
 よほどの気骨や矜持に支えられ、何とか忍んで耐えた誰かを、鬼にした憤怒や絶望、怨嗟というものがどれほどことか。人でなくなる境を越すのにどれほどの代償を立てたのかは、事情を知らぬ自分たちには分かりようがないし、敢えて知りたいとも思わないが。
「お喋りはここまでだ。」
 殻器を失っても あれる存在になって、お前様は何がしたかったのか。それが無体なことであり、まだまだ続くというのなら、

  「そんな はた迷惑に甘んじてやれるような、寛大な俺じゃあないからの。」

 ごもっとも、と。その言いようへやっぱり苦笑をした葉柱が、衣紋をひらめかせながらも、新たな咒詞を詠唱し始めた蛭魔だと気づいて。その身を静かに彼の前へと進めてゆく。一夜をかけての祈祷の末、もはやこの陣内には、ここに囲われし何物であれ 意のままを利かされぬほどもの、強くて緻密な、そりゃあ複雑な念が満ちており。後背にはセナが進と二人で立っていて、彼らを支点に張られた強固な障壁には一縷の油断もなく。となれば、我らが我儘大王様の周辺こそが、彼が攻勢を繰り出したその瞬間、もっとも気脈を薄めようからと察しての、これもまた先を読んでの位置どりをする。万が一にもそんな隙を突いて、彼へと襲い掛かる不埒な気配があったれば、身を呈してでも護るからと。今回は特に、それだけに専念している蜥蜴の総帥殿であり。とはいうものの、さほどに仰々しくも身構える訳でなし。腰に帯びたは彼の得物の闇の刀。長い鞘ごと腰へと斜めに差したる、精霊刀の把辺りに肘を引っ掛けての、ちょいと斜めに重心をずらした鷹揚そうな立ち姿は、こちらもやはり風に撒かれての衣紋のはためきがあるだけで、微動だにせず泰然としているところが頼もしいばかりであり。
“………。”
 辺り周囲に一面生い茂るは、葉脈の長い蘆とそれから、名もなき雑草の株が幾たりか。夜陰の中、吹きすさぶ風に揉まれては寂しげな声を上げてばかりいたのへと、こちらも気を張っての対抗、ただただ根気よく念を練ってばかりいた術師様。他でもないこの自分が一心不乱に集中したのだ、そんじょそこいらの導師が練った他愛のない咒と一緒にしてもらっては困る。先程の雷なぞまだまだ序の口、雷帝の振るいし鉾もかくやというよな、それは絶大な威力を持ちし攻勢を、今にも発揮してやらんと。彼らの頭上、天空に留まりし大気へ突き立ててその精気を引き摺り出すための、せいぜい鋭い切っ先を、具象化していたその筈が。

  “そんな離れなくとも大丈夫だのによ。”

 より広角的に精査をするためにか、それとも…あまりにべったり近いと、蛭魔が“鬱陶しいぞ”と癇癪を起こすという、日頃の呼吸を覚えていてのことか。顔や肩だけのみならず、難なくその全身が一瞥の視野に収まるほどもの距離を置き、こちらに肩口と体の側線を向けての“半身”に構えて立ちはだかっている誰かさんの姿へと、ついのこととて視線が留まった術師殿。足元に揺れる草むらで、少し離れたそちらの風の強弱も伺えて。常と同じに、堅く結ってはおらぬまま、それでも整えられた漆黒の髪が、だが。この強い風の中にあってはさすがに、立てておったる前髪の縁がわずかに乱れ、後れ毛をちらちらと額の隅へと躍らせており。精悍な横顔に落ちるそれを、無意識に首を振って払い飛ばすぞんざいな仕草の、何とも男臭いことか。
“………。”
 周囲への警戒から、こちらへは意識を置かぬ眸の遣りようがまた、想いが他所へあるが故の小憎らしい冷然さとも解釈出来るものだから。おいと短く呼ぶだけの呆気なさにて、こっちへ振り向かせたいような、そんな悪戯心をくすぐってやまない。そんな場合ではないのだが、それでも。自分から意識が離れている彼であるのが、何だか許せないような、そんな気がしてしようがなくて。何かしらの気配を嗅ぐためにと、意識を研ぎ澄ませているのだろう、それ以上はない真摯な表情になっているのを、何とはなく見やってしまう。いちどきに一つことしか出来ぬ不器用ゆえの実直さ、その屈強なる身の裡
うちへ、何物にもそう簡単には折れなかろう剛の気概を満たして頼もしく。何で日頃からもああいう惚れ惚れする顔でいないのかと、あまりに場違いな不平を鳴らしそうになったものの、

  「…?」

 そんな視線を向けていた蛭魔自身の放った気配を、選りにも選って嗅ぎ取った葉柱だったらしく。軽く顎を上げてから、どこか不思議そうな表情になってこっちをひょいと振り向いた、黒の侍従殿からの視線の襲来を、さりげなく…その実、やや焦りながらもそっぽを向いて避けてたり。………何やってんでしょうか、この人は。
(苦笑)
「蛭魔?」
「気を散らさすな。」
 にべもなく、短く言って眸を伏せる。ああやばかった。何してんだ俺ってば。あまりに心気を満たしすぎ、気に意識が飲まれての制御不能な酩酊
トランス状態になりかかるとは。物の怪が憑いたのへ抵抗出来ないような、年端もゆかない童っぱじゃあるまいに。様々に言い訳を並べ立て、それでもって曖昧な色合いに解けかけてた意識をしゃっきりと冴えさせ、態勢を立て直そうと思ったのだが、

  「何だよ、何か手筈でも思いついたのか?」

 視線を閉ざした仕草ひとつで、あっさり振り払ったつもりだったのが。そりゃあ無造作に近寄って来ていた葉柱であったらしくって。思わぬほど間近から聞こえた深みのある声とそれから、
“あ…。”
 強い風があっと言う間にどこやらへと吹っ飛ばしていたから、これまでは意識さえしなかったもの。何でまたこの間合いに真っ向から近づいてくるかなと、その神経を疑うほど真っ正面から来たらしい葉柱の、その背後からの風がまともに運んで来たのが…、

  “やば…っ。////////

 しまった、うっかりして…とその反応への感慨を語句で思い浮かべた時にはもう遅かった。冷たくも容赦のない風を遮る格好で、近づいて来た葉柱だったから。風が多少は途切れたその代わり、別なものが運ばれて来て。明け方のまだちょっと寒い折、綿入れの端からはみ出してた肩をむにむにと縮めながら、寄り添い直すのは誰の懐ろだったっけ? 暖かくて精悍な匂いがして。まだ起きてたのか、それとも起こしてしまったか。長い腕がごそごそ動いて、そういうことだけは要領よくも、体中のどこにも隙間のないように、寝具を確かめ、再びやわらかくくるみ込んでくれる。そんな安らぎの衽(しとね)や閨房を、本当に唐突にふっと思い出しちゃったものだから、わあと慌てたその反動、突っぱねるようにして立てた腕。それが誰か何かに当たったことで、ますますの恐慌状態を招いたか、待機状態にあったとある咒が、そりゃあもう景気よく発動してしまい、

  「………………………あ。」

 先程、それは唐突に落ちて来た雷よりも、数段威力の増したる凄まじい落雷が。漠然と周囲が明るんだどころじゃあない、触れることが適いそうな光の柱が立ったのが、くっきりと見えたほどもの破壊力をもって降って来たから堪らない。
「…凄い。」
 どういう作用か反応か、風さえ停まったほどに、静まり返った蘆の草原だったけれど。人の方が静かになってしまったのは、あまりに衝撃的な事態が起こってしまったからのこと。選りにも選って、大地を抉らんばかりの勢いでその雷が落ちた先にいたのが………。

  「…殺す気かーーーっっ!!!」

 あ、良かった。生きてましたね、葉柱さん。他でもない咒を唱えていた当事者に突き飛ばされたその上に、焦りまくりなままの意識もまた、その上へと“拒む”という気色のままに据えられてしまったものだから。間違いなく攻撃対象だという照準が彼へと絞られ、そのままの連動にて…そりゃあ大きな稲妻が天空から落ちて来たっていうのにね。ぬかるんでた地べたへ今度は彼の側が叩き伏せられたらしく、衣紋も泥まみれで、しかも
「…つっ。」
 体の節々に痛みも残ったらしかったものの、自力で跳ね起きたほどに気力は充実したままであるらしく。
“…いや、あれは心底怒っていての激発ではなかろうか。”
 そうでしょうよね、恐らくは。
(苦笑)
「凄いです、葉柱さん。」
 さすがは蜥蜴一門の総帥様、大妖だってだけのことはある?
「…まあ、蛭魔の集中力も微妙に散ってはいたのだが。」
 だから良いか主
あるじよ、咒という意識と連動したものを扱う上では、意識の集中がどれほど大切か。肝に命じてかからねばだぞと、憑神様からの注意を捧げられてた彼らだったのはともかくも。

  「何てことをしてくれるかな。それもこんな緊迫してた時によっ。」
  「無事だったんならそれで良しとしろよ、頑丈大魔神。」
  「蟲妖、蜥蜴野郎からの格上げかい。」
  「何だよ、不満か?」
  「そりゃどうもありがたいこって。」

 何で素直に“悪かった”が出ない人なんだか。もしかして煙が出てないかというほどに、衣紋のあちこちが焦げてたりする総帥殿で。思ってない時ほど実のない口調で“悪りぃ悪りぃ”って連呼するよな臍曲がりですものね。でもね。
「………。」
 頬やおでこや鼻の頭へ泥んこがべっちょりとついたお顔に吹き出しもせず。間近にあったからと触れてみた肩口。その途端に“痛たたっ”て跳ね上がったのにハッとして手を引いた。いやいやそれよりもっと前に立ち戻れば、この世の終わりのような顔をして、地へと叩き伏せられた誰かさんを、息も出来ないほどの緊張にて見守ってた彼でもあって。あくまでもこっそりと、そんな反応を見せた蛭魔だということへ。唯一気づいた存在が、この同じ空間に潜んでらしたみたいで…あのね?


  ――― 成程の。
       人の和子も色々、大地の和子らも色々。
       秘して語られぬ何ものかが、この国では様々にあるようだの。


 同族相手の深き怨嗟に身を焼いて、苦界の鬼になった者もあれば。本来だったら誅すべき相手。契約で捕まえし間柄でも、されどただ従えるのではなく。こっそりと愛おしみ、大切にしたいという意識を寄せて接するような、そんな和子もいたりして。ああ、こんな彼らにもっと早く逢えていれば良かったね。人の世も捨てたもんじゃないと、まだ頑張れたかもしれないね………。

  「……………あ。」

 時と共に止まってたところへ、さあぁっとゆるく。あれほど間断無く吹きすさんでた痛いほどだったそれとは、全く趣きの違った風が、彼らの間を柔らかく吹き抜けてゆき。頬を髪を、優しく撫でてくれたようなその感触に、ついつい皆して、後を追うような視線を向けてしまったほどで。それから、
「う…。」
 よほどに痛むのか、用心しいしい、ぎこちなく身を延ばしかけていた葉柱が、

  「…あれ?」

 何だか。妙な声を出したから。
「どした?」
「痛くねぇ。」
「ああ"?」
 あれほどの電撃が体を突き抜けたのだから、身体のあちこちが軽くはない炎症や火傷を起こしもしたろうし、彼らの心臓、生的核やそれへと連動する血管の脈路にも少なくはない負傷状態が起きてた筈が。
「おかしいな、どっこも痛くねぇんだ。」
 命に別条がなきゃあいいってもんじゃあなかろうよと、どうしてくれようかと久々に本気でこの青年へ、胸倉を掴み上げてやりたいほどもの腹を立てたほど。危なかった状況にあったのにね。そんなのまとめて嘘だったかのように、どこも何とも。探してみないと痛いところが見つからないほど、何ともなく。
「………お館様。」
 お取り込み中に失礼しますがと。無地の狩衣との可憐な春色襲
かさねの配色も絶妙な、淡色の袴の裾を夜露に色濃く染めながら。こちらは後方から、その小さな身が埋まるほどもの茂りようの蘆葉の海を泳ぐようにして掻き分け掻き分け、駆け寄って来たセナくんが、

  「進さんが、気配が去ったみたいだと。」
  「………なんの?」

 おいおい。
(苦笑) 事態がとんでもない状況へと転んだもんだから、内輪もめへと突入しかかってた一同…というか主従二人であったので。我に返ると顔を見合わせ、それからおもむろに周囲を見回してから。
「あ…れ? 本当だ。」
「だが、何にも仕掛けてないのにか?」
 てゆっか。よくもまあ、揉め出したその隙を突かれて、畳みかけられなかったもんです、はい。不本意丸出し、懐疑的に眉を寄せた術師へ向けて、
「あまりの無様さに呆れて、相手をしてられなくなったかな?」
「どの口がそれを言ってるかな、おい。」
 だって、結局、俺はお前に痛い目を見せられたのだしな。これでちびさんが風邪でも拾ってみ? 一体俺らは何をしに来たやらだって言いてぇんだよ。
「〜〜〜〜〜。」
 総帥殿からの筋の通ったお言いようへ、珍しくも反駁出来ず、恨みがましげな上目遣いになったお館様で。そんなお顔をさぁっと目映く。横合いからの光が照らし始める。はっとした皆がそちらを見やれば。草原の縁に唯一の背景、遠く望めた山々の隙間から、最初の暁光の矢が大地の縁からあふれいで、空へこちらへ、放射状に射込まれてきたところ。
「朝になっちゃいましたね。」
 冷えた筈だ〜と、小さな肩やら二の腕やらを、自分で抱き締めた書生くんなのへ、

  「…先に帰ってな。」

 ぼそりと言って、淡色の直垂をまとった背中を向けるお館様。彼だって相当にその痩躯が冷え切っていようにね。まだ何か、此処に用向きでもあるかのような態度であって。でもあのと声を掛けかかったセナが、あっと言う間に草間から姿を消したのは、進さんが気を利かせてとっとと撤退してったからで。

  「……………。」

 昨夜一晩、あんなにも吹き続けてた強い風もまた、どこへ根こそぎ持ってかれたのやら。そうなると耳鳴りがしそうなほどの静けさが、寒々しい空気をますますとよそよそしいものへと塗り替える。冬場の早朝のように、冷えて冴えた空気が張り詰めているばかりの草原を、東から射し入る暁光が端から端まで染めてゆく。ただただ音もなく、ただただ静かで。そんな静謐の中、
「…なあ。」
「んん?」
 立ち去る気配がなかなかしないのへ、背中を向けたまま。声を掛けたら、意外なくらいに穏やかな声が返って来たので…尚のこと。何をどう、言っていいものかと、言い淀んでしまった細い肩。
“…こんの強情っ張りめがよ。”
 仕損じたことがこれまでに一度もなかった訳じゃあない。たまにはこういうことだってあろう。ただ…葉柱の受けた痛みが誰にも覚えのないことであっさり消えてしまったは、もしかして相手からの情けをかけられたってことだろか? そして、それを認めたくない彼なのだろか。こんなに乾いた草むらでも、一応は河畔であるせいか。時折ながら、わずかに風も渡るようで。まだ目映いばかりな暁光の中、金色にけぶる後れ毛が、はらはらと遊ばれてる後ろ姿を、こちらも付き合いよく、じっと見やっていた葉柱だったものが。
「…っ。」
 不意に温かな何かにくるまれて、それが…あの瞬間に自分を恐慌状態へと追いやったものだと気づいたと同時。
「あ、やっぱそっか。」
 頭の上から降って来た声が…わざとらしくも間延びしていて何とも憎々しいばかり。いくら何でもこの展開だ、見透かされたと判らないような鈍臭い蛭魔ではなく。
「お前、もしかして。不意打ち受けると弱いんだろ。」
「ば…っ! そんな単純なこっちゃねぇよっ!」
 この俺がそうそう油断してると思うのかよっ。そうだよな、隙を見せるようなお館様じゃあないものな。喉奥でくつくつと低く笑って、

  「だから。
   油断してるところへの不意打ちだったから、
   尚のこと、跳ね上がるほどに びびっちまったんだよなぁ。」

  「う…っ。/////////

 ムカッと来たか、それとも。違うと反駁したかったのか。激したそのまま、身を剥がそうと身じろぎしかかった痩躯を、だが。そのまま懐ろへと封じ込めるかのようにして、余裕の長い腕がまといつく。ああ畜生め、こんなまで寒くなかったならば、こんな奴、さっき以上の踏ん張りでもって、あっさりと振り払いも出来たのに。
“………。”
 際限のない安息をくれるこの腕を、この居場所を、どうしてか…頓着なく振り払えない自分に気づく。否、腰が抜けそうなほどに怖かったこと、今になって思い出して。胸の奥が つきつきと痛む。
「で? どういう奴だったんだ?」
「何が。」
「だから……………。」
「???」
 今度は葉柱の方が言い淀み、心底 何を訊いてる彼なのかが解らずに。肩越しに背後へ、少しばかり自分よりも長身な相手を振り仰ぐと。気まずそうに視線を逸らした総帥殿。わざわざ詳細を訊くかよと、妙に含羞(はにか)むような顔になり、

  「だから。お前がついつい油断したような相手だったんだろうが。」
  「…………………………ああ。まあな。」

 おやおや。油断していたその反動で、あんな土壇場で思わず味方を突き飛ばしたほどに。この金髪痩躯の術師殿が…その正体に気づいて“そうまで油断した対象”ってのが、敵のことだと思ってた総帥様であるらしく。

  「………………あんな、」

 ボケたことを言い出すなと、でも、そんな相手だってのを笑えない。すぎるほどに朴訥だったり、会話の一段飛ばしにつけてけないほど野暮天だったりする彼が、だけど不器用だからこそ暖かい存在だと知っている。律義さから手間取っても、義理堅さが過ぎて遠回りになっても、それでも投げない根気があって。自分を信じていればこそ、誰であれ見捨てない、そんな包容力があって。ただただ身勝手で、器用さだけで要領よく世間を渡って来た自分には、そんな薄っぺらさが、どっしりと中身のある彼の前では何の価値もないようにさえ思えることがあり。だからこそ、こうやって安心させてくれる、そんな彼を。もう二度と、どこかへ失いたくはなくて。

  「あんな?」
  「おお。」
  「さっきは………ごめん。」
  「うん…。」

 肩口から背中も胸も、ほとんど全身をくるみ込んでる懐ろの中。胸元近くへ来ていた大振りの手に眸をやって。頼もしくって大好きなのに、もう少しでこれを失うところだったと思うと。

  ――― 本当に、怖くって。

「蛭魔?」
 気のせいでなければ。震えてないかと案じた葉柱が声をかければ。
「凄げぇ、怖くて。」
 胸の前へと回してた腕へ、添えられたそのまま ぎゅうと掴まる白い手の力無さよ。怖いものなぞ、1つだって無いはずの傲慢な術師殿。いつだって自信に満ちあふれ、何が相手でも容赦がなくって。その反面、誰をも巻き添えにしないようにか、何にでも誰へでも、執着せず頓着なく“切り捨て御免”な生き方をして来たせいで、物へも固執をしないまま、ずっとずっとを独りで身軽に生きて来た彼であり。よって弱みもないままに、この姿で何とも雄々しき、孤高の王者であり続けて来た筈が、

  ――― もしかして、初めて感じた“失う怖さ”というやつだった?

 だったとして、それを自分の弱みだと、思ってしまう彼だったなら、
“認められて光栄なんだか、見くびられてんなら馬鹿にしやがってって、トコだよな。”
 蜥蜴の総帥、真後ろで見えない角度なのをいいことに、こっそり…口許を歪めると しょっぱそうにしばらくほど笑ってから。ぽそりと一言、呟いた。

  「俺はそんな簡単には逝かねぇからな、安心しな。」
  「………うん。」

 小さな返事と こくりと頷いた仕草を見届け、鼻の頭をこりこりと掻いてから。さあさ帰ろう、あんまり遅いとちびさんたちも心配しようぞ。わざとに耳元で囁いて促せば、猫の仔のようにふるりと首を振り、くすぐったいと短く笑う。

  ――― ああ、帰ったらまずは湯を浴びろよ?
       なんで?
       泥まみれだ、馬鹿野郎。

 今度こそ振り向きながら、延ばして来た指先で、相手の鼻の頭をふにふにと押し潰して見せ、
「そいやお前、湯あみは苦手だったの。やっぱ蜥蜴の茹でたのになるからか?」
「うっせぇな。大体、何でまた自然界にない熱さの湯にわざわざ浸かるんだよ。」
 日本の温泉の歴史は、結構古いぞ? 葉柱さん。
(苦笑) 妙な屁理屈を言いながらも、愛しい人を抱えたままにて。その姿が風に溶け込むように、ふっと音もなく消えた後には。あっさりと無人になった、蘆の生い茂る草むらを。静かに風が渡ってくばかりなり……。






  〜Fine〜 06.4.20.


  *いえね、4月21日は、421で“ルイヒルの日”だとお聞きしたもんで。
   突貫で書くにはややこしいネタだったなあ、
   しかもぶっつけの書き下ろしだったから、
   話の行き先が自分でも判らなくって…と。
   ちょっと言い訳してみた、そんなお話でございます。
   総帥様、屋敷へ帰ったらさっそく行水です。
   広いお背
せなへ、いやいやいっそ頭から、お湯かけてもらって下さいですvv

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