Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “別のお話・U
 

 

 今年はなかなか冬めいて来ないねなんて言いながらも、木枯らしさんだってちゃんと吹いて、気がつけばカレンダーも最後の一枚となっており。

  “…わぁ〜vv

 お星様やキャンディの杖や、ガラスのボールに金銀のモール。綺麗なオーナメントが一杯下がった緑のツリーの根元には、お菓子を一杯詰めた白いファーのついた赤い長靴。真ん丸なお顔のサンタさんが、直立トナカイさんと肩を組んで笑ってるイラストが可愛らしい、自分のお部屋に掛けられた“お子様向け”のカレンダーをめくったセナくん。思わずにっこし・うふふvvと笑ってしまい、あんまり嬉しくて、しばらくの間 見とれてしまったほど。
“サンタさん…。”
 ホントはいないんだぜって、幼稚園の時に年長さんに言われて泣いちゃったな。その日の内にきっちり泣かし返してくれたヒル魔くんが、
『いるって信じてる奴んトコにはちゃんと来るから心配すんな。』
 そう言ってくれて。でもでもって愚図ったら、じゃあ手紙書けよって言ってくれて。何でも知ってるヒル魔くんはサンタさんの住所も知っていて、赤と青の縁どりの“えあめいる”っていう封筒でセナの書いたお手紙を代わりに出してくれたの。そしたらね、綺麗な絵葉書が外国から来て、いい子でいてねって えいごで書いてあったんだよ? そいで、クリスマスの朝にはちゃんと、お願いした通りのクマさんのお耳のついた ふかふかのお帽子と、こっちはおまけですってカゴに一杯のお菓子とが、ベッドの傍に置いてあったのvv

  「クいスマス…♪」

 3回と半分、1週間が過ぎたらクリスマスvv 早く来ないかなvv ワクワクしてたらママが早くしなさいって呼びに来た。あやや、いけない。ガッコに遅れる。もう工事は終わったからね、進さんも“もう大丈夫だな”ってお迎えには来てくれなくなってるの。M川さんチのクロが怖くて困ってたセナを守ってくれた、大っきな大っきな“こーこーせー”のお兄さん。あめりかんふっとぼーるの選手だからね、ホントは練習で毎日忙しい人だったのに。朝とお昼休みのランニングのついでにって、随分と遠いのに毎日のようにセナをお迎えと送りに来てくれてたお兄さん。学芸会があった日に、初めて逢った最初はネ? ホント言うと怖いなって思ったの。凄っごく大っきな人だったし、怒ってるみたいに目許も口許もきゅうって固まってて動かなくて。大人が怖くないヒル魔くんは、平気でいつもみたいに喧嘩腰の話し方していて、そんなしたら怒られちゃうようって、呼びに行ったボクまで怖くって怖くってドキドキしちゃったほどだったのにね。今はネ、全然平気だよ? あのね、進さんのお手々は凄い大きくて温ったかいのvv だからね、お手々をつないでもらうと凄い嬉しいvv でもでも、進さんはとっても背が高いから。小さいボクと手をつなぐのはちょびっと大変で。そのまま歩くのはもっと大変で。進さんは脚も凄んごく長いから、同じ歩幅で歩くの大変だからねって、すぐにひょいって抱っこしてくれて、そいからね? 進さんて呼んだら、いつでも“なんだい?”ってこっち向いてくれるんだよ? そいからね? そいからね………?////////





「わぁーかったから、ちゃんと前見て歩きな。」
 大人が着るトレンチコートみたいなデザインの、襟元のシャープな切り替えがかっこいい、一丁前なハーフコートを着た金髪頭のクラスメートが、興奮しては後ろ向き歩きになるセナへと注意を促す。この小さなお友達、可愛くて無邪気で屈託がなくて、純真無垢な“いい子”には違いないのだが、ついついはしゃぐと足元への注意がおろそかになりやすい、なんとなく“危なっかしい子”でもあるものだから。言いたい放題の我儘大王で、すぐに相手を蹴り飛ばす乱暴者とのレッテルを貼られて久しい割に、実は面倒見のいいヒル魔くんにしてみれば。怖がりなくせして自分へ擦り寄って来る彼が、可愛いんだけれど落ち着けなくて。
「まだ12月に入ったばっかじゃんよ。」
 クリスマスなんて まだうんと先の話じゃないかと、ちょっとばかり呆れたように言う、金茶の眸をした小悪魔くんだが、
「でもでも、ヒル魔くんだって。楽しみにしてるんでしょう?」
 大きな琥珀色の瞳を“ふにゃ〜んvv”と細めて、ふかふか頬っぺに愛らしいお口の端っこをきゅうと持ち上げて。それは可愛らしい笑顔で訊かれると、
「そりゃあ…まあ…。///////
 関係ねぇだろと突っぱねられなくて、ついつい正直に応じてしまった。だって今年は、ヒル魔くんのお家もちょっとだけ事情が違うから。一昨年や去年はお母さんと二人だけで過ごしたクリスマス。イブには知り合いから沢山プレゼントが届いたけれど。パーティーするからってご招待も一杯来たけれど。お誕生日やクリスマス、大晦日やお正月。そんな特別な日は、もしかしたら。

  ――― もしかしたら…帰って来るかもって思うから。

 それでつい、出掛けられないお母さんの傍にいなくちゃって思うから、どんなお誘いも丁重にお断りしちゃってた。でもね。
『楽しんでいらっしゃい。』
 実はもう、今年の予定は決まってる。ルイと一緒に東京スタジアムまでクリスマスボウルを観に行くってvv これも来期のためのお勉強だ。お母さんもね、お勤めに出てる経理事務所の忘年会がその日にあるって。だから、お家で独りって訳じゃないから、心配しないでいいのよって言ってたし。
「…お前だって同じ予定な筈だぞ?」
 無邪気ににこにこと笑ってこっちを見てるセナの様子に、他意は無かろうと分かってはいるのだが、それでも。随分と幼くて屈託がない彼と同格だと思われているようで、そこへはちょっとばかり決まりの悪さを覚えたのだろう。自分ばっかりがはしゃいでる催しじゃないぞと言わんばかりに言い足して、
「俺らは観客だけど、進は出る側なんだしな。」
 ヒル魔くんの連れの葉柱のお兄さんと違って、セナくんの大好きなお兄さんの方はそれへ“出場”する身である。関東大会で優勝した王城ホワイトナイツの正選手。だから、試合の応援に行くんだろ?と訊いてみた。ところが、

  「……………。」
  「………おい?」

 な、何なんでしょうか、この唐突にテンションが急降下しちゃったようなリアクションは。
「セナ?」
「試合、知らないの。」
 はい? 言ってる意味が分からなくて、眉を顰めながら訊き返すと、
「進さんは試合だから忙しいの。だけど大事なことだから、セナ、我慢なの。」
 随分としょんぼりしてしまう彼であり、とはいえ、あまりにたどたどしい言いようなので詳細までがなかなかに把握し切れない。
“…しゃあねぇな。”
 こういう時はの“お助けグッズ”である携帯電話を取り出すと、校門のところ、セナも付き合わせて二人して立ち止まり、とあるところのとある人物へとお電話したヨウイチくんである。







            ◇



 そろそろ黄昏が始まらんとしているのだろう。空の色自体は何とか明るいのだが、地上は随分と薄暗さを増している。照明機にも早めに明かりが灯っていたけれど、手元足元がやけに暗い。クリスマスまではこんな感じで、どんどんと陽の落ちるのが早くなる。気温も急激に下がって来たようで、寒さで汗を冷やしたり、体が縮こまって怪我をしては元も子もないからと、こうまで暮れるとさすがに練習も終しまい。
「よーっし、集合っ!」
 長いホイッスルの音で監督の前へと集められた選手たちに、簡単な注意事項が告げられて、
「筋トレ用にストレッチルームは8時まで開放しておくが…。」
 あまり根を詰めても意味はないからな、クールダウンを忘れず、ほどほどに仕上げる程度で済ませるんだぞとそんなお話をしていたところへ。

  ――― ドリュンバルバル・バイン・バウン…っと。

 お腹の底へまで響くような、重くて大きなイグゾートノイズが、ずっとずっと遠くから雷みたいに轟いて来てね。広いグラウンドを縁取るフェンスの、一か所だけ途切れたところ。小さな通用口になってる門扉の上を、ヴァンッて飛び越した鉄の塊があったから、

  「な、なんだなんだっ?」
  「強盗か?」
  「学校荒らしか?」

 そんなもんがこんな堂々と鳴り物入りで突入しますかい。
(笑) それでも、突然の乱入者には違いなく。生徒たちの保護責任者でもある監督さんが、全員を背後に下がらせる位置へと進み出て、フィールドを突っ切りこちらへと向かって来た大型オートバイを睨みつける。
「どこのどいつかは知らんがっ、フィールドを踏み荒らすのはやめないかっ!」
 さすがはこの世界での第一人者で。凄まじいまでのイグゾートノイズにも負けない、厚みのある一喝を放たれたもんだから、
「…っと。」
 フィールドの横幅を走り抜けたばかりのマシンがきゅきゅっとブレーキを噛み締めて。搭乗者が自分の足元を見、ああこりゃすまないと言いたげに頭を掻いている。そんな青年の背中辺りから、ぴょいっと飛び降りた影あり。その後から“よじよじ”と、覚束無さそうに降りて来た、やはり小さな影の手を取り、たかたかこっちへ駆けて来るのは……。

  「………セナ?」

 何事だろうかと怪訝そうに…の割には無表情のまま、そちらを眺めていた屈強なラインバッカーさんが。呟いた次の瞬間には、さすがは音速の騎士、飛び出した初速からして半端ではなくて。あっと言う間に…こっちから“眺められている側”の人になっている。そして、そんな彼に気づいたらしき小さな影が、

  「進さ〜んっ。」

 か細いけれど頑張っての声を張り、たかたか駆けてく姿が何とも愛らしくって。寸の詰まった短いあんよを、必死にとてちて繰り出して駆けてって。最後の一歩を膝を折って屈んで受け止めてやった大きなお兄さんの、練習着姿の懐ろに飛び込んだセナくん。感極まったか“あのねあのね、ヒユマくんがね…”と説明しかけて、でもすぐに、あうあうあ〜んって がんぜなくも泣き出してしまったの。
「か、かわいい。」
「いじらしいねぇ。」
 こうなるに至った事情とか何とかは全く判らないのだけれど。夕映えを背景になかなか感動的なワンシーン。ついつい貰い泣きする生徒やマネさんが見守る中で、
“…まったくもう。”
 ただ一人だけ、ここへの突入の共犯者である金髪頭の坊やから、メールをもらってて事情を知ってた亜麻色髪のお兄さんだけが、その胸の内にて苦笑を洩らしていたりするのであった。





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  『クいスマスボウルまで逢えないの。』

 あれほど楽しそうにしていたのにね。こちらから“進”と名前を出した途端に、きゅうに萎んでしまったセナくんであり。辛抱強く聞き出してみたところ、水族館に連れてってもらった日の別れ際に、進さんから言われたんだって。これからは毎日の練習で遅くなる。それに陽が暮れるのが早くなるから、同じ時間でもすぐに真っ暗けになっちゃうでしょう? だから、試合が終わるまではあんまり逢えなくなるよって。そう言われたのと寂しそうに説明して、それからね、

  『メールのお返事もくれないの。』

 もしかしてそれもご迷惑なのかなぁって。進さんが何だか物凄く遠くに行っちゃったような気がしたの。遊んでくれなくても良いの。お顔が見たいだけなのに、それもいけないのかな? セナはすぐにコケたり泣いたりするからね、進さん、一生懸命頑張ってるアメフトに“しゅーちゅー”出来なくなるでしょう?ってママは言うの。クリスマスが済んだら一番乗りで飛んで来るよってそうも言ってくれたんだから、それまでは我慢しましょうねって。良い子でいないとサンタさんも来ないぞって。ママにもそう言われたから、我慢しなきゃいけないんだけれど…。

  『逢いたいよう…。』

 くすんと小さくしゃくり上げ、それから えくえくとこっそり泣いちゃったセナくんで。ガッコに上がってから、苛められて1度だけ泣いて以降はね、これでも頑張って、コケて痛かった時以外は泣いてなかったセナくんなのにね。幼稚園からこっち、凄く頑張ってるセナくんだって知っているから。なのに泣き出した小っちゃなセナくんを、こちらも小っちゃなヒル魔くんがその懐ろへぎゅうって抱っこしてあげて。
『…ルイ、王城まで送れ。』
『あ? ああ、それは構わないが。』
 児童公園の隅のベンチに座って、セナくんのかわいらしくも切ないお話を、ヨウイチくんとは反対側で聞いてた白ランのお兄さん。いつもの大きなオートバイに乗って来たので、王城までなんてひとっ走りではあるのだけれど。
『…この子、怖がりゃしないかな?』
 コンバーチブルのスポーツカーでのカーチェイスだって“キャッキャvv”とはしゃいだほど、怖いものなしなヨウイチくんはともかくも、
『オートバイどころかママチャリにだって、乗ったことないんじゃないのか?』
 もしかして、遊園地の幼児向けのレールカーにだって乗ったことないんじゃないのかなと、そこまで危ぶんだお兄さんの言いようへ、あ・そうかと思い直したヨウイチくん。
『あのな、セナ。こいつの運転するバイクでなら、電車やバスで行くより早くに王城まで行ける。でもな、凄げぇ速いから…もしかしたらお前には怖いかもしんない。』
 どうする? そうと訊いたら、あのね。ぐしぐしって泣いてたセナくん、お顔を上げて小さな肩越し、そろぉって葉柱のお兄さんの方を見て。ちょっと怖いお兄さんなんだけど、でも…頑張ってじっとお顔を見てから“うん”って大きく頷いた。
『我慢出来る。』
『ホントか? 泣いたら途中で引っ返すからな。判ってるな?』
『うんっ、怖くないもん。』
 いや、にらめっこの話じゃないんだけれどもね。覚悟のほどを聞いてから、頷き返したヨウイチくんが、
『ルイ、このコースで行けるな。』
 ポケットから端末GPSを取り出して、地図を呼び出し“こう行ってこう”と要領よく説明を始める。金髪の坊やの指示したコース取りに、
『ここは国道入った方が良いんじゃねえか?』
 何たってこれから始めるのは法規違反の“3人乗り”だ。警察関係に見つかったらただじゃ済まないだろうし、確かこの時間帯っていや、ミニパトが巡回してたような。そんな情報までもがインプットされてるのは、さすが“やんちゃ筋の総長さん”だったが、
『ダメだ。そのミニパトって、サッチのだろ? あいつ、この時期は、焼き芋屋のおじさんの車が通る住宅街の抜け道を通って国道に戻って来るからな。』
 日頃とはコース取りが変わるんだと、きっぱり言ってのけるヨウイチくんであり。
『…焼き芋屋。』
 あり得そうなんで葉柱のお兄さんにも納得がいったものの、坊やの情報の方がきめ細かいってのが恐ろしい。何でもここいらの婦警さんたちのチャットに乱入したことがあって、それからのお友達なんだとか。
“…何だってまたこいつ、女にばっか、いっぱいコネ持ってやがんだろ。”
 ホントだね。お水のお姉さんたちの方にもコネクション持ってるらしいしねぇ。
(笑)

  『よしっ。行くぞ、セナっ。』
  『はいっ!』

 よぉしくおねがいしますっ。気合いが入ったセナくんから勢いよく頭を下げられて、ついつい“おうっ”と応じてしまった総長さん。そんな次第で…珍妙な3人乗りでの道行きと相なった彼らであるらしい。





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 金髪の小悪魔坊やから桜庭さんに届いてたメールは、

  【セナを泣かした進の野郎の人非人さが頭に来たから、
   今からセナを連れてって練習に乱入すっぞ。覚悟しとけっ!】

 と。随分とまた簡潔で荒っぽい一文であり。おおかた、言葉が足りない進が小さなセナくんを相手に不人情なことをしでかしたんだなと察したそのまま、練習前に取っ捕まえた彼に聞いてみたところが、決勝が済むまでは逢えなくなると言ったのだとか。

  『あのな、進。』

 きっとこのお兄さんはネ、アメフトに集中したかったってだけじゃないんだと思う桜庭さんで。逢えるかどうか分からないのに曖昧な期待を抱かせて、でもって逢えなかったらね、気を揉んだ分だけ ずっと余計に、セナくんが可哀想だって思ったんだろうって。ホントはそういう優しい奴だって分かってる。でもね、セナくんは小さいから。あの はしっこいヒル魔くんにも判りにくいそんな機微、ちゃんと言わなきゃ伝わらないだろうがって、言い足して。
『お前が、自分だけ誤解されるのを我慢すりゃあいいって思うような、そういう問題じゃないんだぞ? セナくんはどっちにしたって寂しい思いをする。何も言ってもらえないってのはな、自分なんかどうでも良いのかなって、そんな気持ちまで呼んでそりゃあ辛いんだ。』
 第一、そのくらいのことでお前を嫌いになるような子じゃあなかろう。だったらどうなると思う? 嫌いだもんって形で怒って吐き出せないままの、辛い思いばかりがあんな小さい子の心にたまってしまうんだぞ? 懇切丁寧にそこまで言ってやったらば、ハッとして…やっとのことで理解したらしくて。でも、逢えないのは仕方のない事実。じゃあ、どうしたら良いのかなと、考えてたようだったけれど。

  “さぁて、どんな答えを出すのやら。”

 そこまでの面倒は見ないからと、こちらも突き放して眺めてた桜庭さん。全く世話が焼けるよなと、傍観者になり切りつつも、心の中ではようやっと…安堵の吐息をついてたところが、

  「あれって、噂になってる“進のイトコ”だろ?」

   ……………はい?

 2年の先輩がそんなことを仰せになって。しかもしかも、それを皮切りに、

  「そうそう。休みになると児童公園で仲睦まじく歩ってるって。」
  「本町公園のカーニバルで、でっかい綿あめ持たされてたって。」
  「あの鉄面皮が、別人みたいに笑ってたりするんだと。」
  「秋の連休には動物園で見たって奴もいたってよ?」
  「何だそりゃ。そいつもデートだったんか?」

 皆さんが何ということもなくお口へ次々に上らせるお話の数々の多さへ、
“な…っ。”
 桜庭さんが愕然としたのは言うまでもない。小さなセナくんに一目惚れした、むくつけきお兄さんの浮かれた言動。目に余るようだと…周囲の方に何をどう解釈されてしまうやも知れないからと、時には言葉が足らない進からセナへのクッション通訳役になり、時には周囲からの壁になり。たとえ進本人から邪魔者扱いされようと めげることなく、フォロー役にと徹していた筈だったのだのに、まったくもうっ。

  “………うっかり噂になってんじゃねーよ。”

 こちとら自分の恋だってまだなのに。なんか馬鹿馬鹿しくなって来たなと、空しさを覚えたアイドルさんだったそうである。(ちょんっ)







            ◇



  「あのね、進さんもね、逢えないのは寂しいんだよって。///////

 小さなセナくん、進さんからちゃんと説明してもらい、やっとのことで嬉しそうなお顔が復活し、天使の笑顔が戻って来てね。練習もセナも大事な欲張りでごめんなって。逢えるか逢えないか、どっちか判らない日が続くと思うから。だったらいっそ、逢えないって決めて頑張って我慢しようって思ったんだって。我慢するためにって堅く思い詰めてたもんだから、メールもくれなくなっちゃたんだって。

  「セナの気持ちにまで、届かなかったのって。
   放っぽっておかれたみたいな気持ちにさせて、
   なのにそこへまで気がつかないでいてごめんねって。///////

 ごめんねって言われて、きゅ〜んってしちゃったの〜 o(><)o ///////っと。真っ赤になってのお惚気が、もう小一時間も続いている、自習時間のお教室。漢字の書き取りをしてノートを提出しなくてはいけないのだが、
「〜〜〜〜〜〜。」
 シャープペンシルを握ったその手が、さっきから一文字も書けないままに震えているヨウイチくんの、すぐ前のお席に後ろ向きに座ったセナくん。怖いもの知らずも極まれりとは正にこのこと。歯を食いしばって頑張っている金髪の小悪魔くんの気も知らず、そいでねあのねとお惚気はまだ続くらしくって。

  “う〜〜〜っ。”

 こっちはサ、昨夜は家へまで送ってもらって…それでタイムアップしちゃってさ。ルイとの時間があんまり取れなかったってのに。自分から言い出して手をつけたお節介なんだから仕方がないとはいえ、

  “メールくらい、送って来いってんだよなっ!”

 あれから勢いがついたからって、何と未明までバイクを駆ってたっていうから、そりゃあ携帯には気も向かなかったことだろう。そんなこんなで ちょびっと間が悪いこと続きだったってのにと、打って変わって今度は自分たちの方がぎくしゃくしないかが心配な、ちょっとおませな小悪魔くんと、天然天使のセナくんという何とも珍妙な組み合わせ。どうかどうか喧嘩とかしないで、いいクリスマスを迎えてね?










   clov.gif おまけ clov.gif



 ところで。意外なことにはセナくんてば、途轍もないスピードだったってのに、ちっとも怖がらなくってね。キャッキャvvって笑って、もっともっとって、いっそはしゃいでいたくらい。そんな訳で、総長さんの日課には、

  ――― クリスマスボウルの前日まで、
       チビっ子二人をバイクに乗せて王城まで行く

 というのが加わったみたいです。
(笑) いえ、セナくんを送ってくのは進さんに任せることにしたそうですが。

  「なあなあ、このままどっか連れてけよう。」
  「ダーメーだ。これ以上遅くなったらおふくろさんが心配すっぞ。」
  「う〜〜〜、ルイの意気地なしっ!」

 どういう会話だ、お二人さん。
(苦笑)



  〜Fine〜  04.12.8.


  *コミックス11巻にて、
   伝え聞きだった“富士山頂プロポーズ”のエピソードをやっと読めました。
   高見さんの嬉しそうなお顔とか、
   ひどく やさぐれかかってた桜庭くんが、
   一切合切を聞いてびっくりして。それから、
   6年待った甲斐があったなんて言われて
   どん底から一気に引っ張り上げられたみたいな様子とか。
   そりゃあ嬉しかったのではありますが。
   ………ウチだと妖一さんがそれとなく妬いちゃうかも知んないなんて、
   そう思ったところが“ラバヒル”派だって証明なんでしょうな。
(苦笑)

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