Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “彼とカレ氏の事情”
 


 昨年今年の年末・年明けは、クリスマスもお正月も週末になってたもんだから、社会人の方々には短いお休みだったそうだけれど。子供たちや学生さんには少しほど長い目の冬休みとなった。
“ルイなんて、丸々一ヶ月も休みだって言ってたもんな。”
 高校生は…全部のガッコがそうでもないらしいながら、期末考査の後は先生方が答案を採点したり追試を設けたりというのに使う“試験休み”だったりするので、義務教育課程の小学生や中学生よりもずっと休みが長い。とはいえ、
“大会に勝ち残ってたんなら、ガッコの休みなんか関係なく忙しかったんだろうけど。” 身内にも容赦はしない、なかなか辛辣な言いようを胸中に転がしながら、たかたかと速足で大通りまでの道を歩む、小さな小学生の男の子。なめらかな線がするんと降りる頬やその終着点である小さな顎先を埋めるようにしている、ダウン仕様のブルゾンの。ふかふかな襟とフードの縁は、純白のラビットのボアが取り巻いていて。時折吹きつける風になぶられてふわふわと躍る、坊や本人の金の髪の淡い色合いと馴染んでなかなかの見栄え。まだ低学年だろう小さい坊やなのに、一丁前にクールな黒っぽい私服も難なく着こなしちゃう彼だけど、今日のところは…真っ白なデザインシャツと淡い緋色のカシミアのセーターの重ね着に、フードがついたアイボリーの可愛らしいデザインのブルゾン、キャラメル色のツィードのパンツという、いかにも愛らしい装い。甲から足首にかけてが色の違う別生地の切り替えになっている、お洒落な鹿革のショートブーツの踵が、アスファルトにこつこつと軽快な音を響かせていて、いかにもな速足にて急いでいるらしき雰囲気を滲ませている。待ち合わせの約束があったのに、そこで渡す予定だった…整理した資料をDVDへ焼くのに思わぬ手間がかかってしまい、遅刻しかかっているからで、
“やっぱ迎えに来いって言っときゃ良かったかな。”
 でもなあ、そうすると母ちゃんが“いつもお世話になって”なんてお正月のご挨拶をしたがるだろし。あれでルイってば、素人さんの大人には礼儀正しいから、一通り聞いちゃうんじゃないかって思うと、ちょっとウザイしさ。そんで“こっちから出向く”って言ったんだしな。でも何か。たかが数分のことだとはいえ、自分への失点がカウントされるのは何となくつまらないもんだから。今更そんなことまで思ってみたりする、蛭魔さんチのヨウイチくんだったりする。そう。今日の待ち合わせも、あの高校生のお兄さんが相手だ。冬休みも殆どのずっと、一緒にあちこち連れてってもらってホカホカと過ごしたお二人さんで、
“クリスマスボウルに、クラッシュボウルに、ライスボウルだろ?”
(う〜ん)
 この冬は色々な選手権の決勝戦を堪能しまくったな。でも、それって あくまでも研究のためなんだし。そのデータをまとめてたから遅れそうなんだし。そうだよ、別に“失点”なんかじゃねぇもんさと自分を納得させながら、行きつけの喫茶店へまで、精一杯の急ぎ足にて、たかたか向かってる坊やだったりしたのだが。

  “んん?”

 住宅街の只中なんて場所にある、小さなレンガ作りの喫茶店。道へと向いた側の一面が格子窓みたいになっていて、その手前のところには見慣れた大型バイク。ルイがそりゃあ大切に乗ってるカワサキゼファーだ。ああ、やっぱ先に来てるって思ったと同時、その間近によって、マシンをあちこちから覗き込んでいる人影があるのにも気がついた。一応はスーツだろう、地味な服装の若い男で、よくよく知ってる持ち主本人ではないし、そんな彼の知己の中にも見たことのない顔である。
「何してんだ?」
 歩み寄りつつ冴えた声をかけると、ハッとしたようにこっちを見やり、お子様ながら…不審げに思い切りお顔を顰
(しか)めていたのが通じたか、
「…っ。」
 無言のまま、慌てて離れて行った様子が、何だか何だか………。
“? 何なんだろ?”
 余計に気になった、ヨウイチくん。葉柱が敵対関係にある不良やチンピラ…にしては、何か違う感じがした。高校生や大学生ってほど若くなかったような。でも、じゃあ“遊び人”かって言うと、そうでもない。何か独特の雰囲気があったような気がした。物腰が機敏というか、
“組織だってるとこの人間って感じだったよな。”
 ササッと素早く見切って離れてった判断と、所作の無駄のなさ。突然のことへの対処が、なのにあまりになめらかだったのが引っ掛かった。
「? どした?」
「ルイ。」
 辿り着いたバイクの前で小難しいお顔になっていたら、今度こそ持ち主が横手の路地からやって来た。店内にいたのではなく、すぐ傍らのコンビニに入っていたらしい。
「知らねぇ奴がバイク見てたぞ?」
「ふ〜ん。」
 何か悪戯でもされたかなと、気安くひょいと屈んでアクセルやブレーキのアクチュエーターチューブなどなど、丁寧に見回す彼の傍ら、
“…あれ?”
 少し屈んで体を傾けた彼の懐ろが坊やの間近にもなったのだが、そこにいつもあったものが今はない。
「ルイ、首輪どうした?」
「…俺は犬か。」
 あんまりな言われ様に、ついつい目許を眇めたお兄さんだが、
「ほら、ゴールドの首輪してたじゃんか。」
 正確には太い鎖を搓ったネックレスを首に掛けていたのが、今は見当たらない。冬用の白ランの下に着た、トレーナーの襟の中かとも思ったが、
「留め金が緩んでたんだがな、昨日の晩にないのに気がついてよ。」
 どっかで落としたらしくてな。呆気なくもそうと応じた葉柱であり、
「…うん。どこも弄られてねぇぞ。」
 日頃からも自分で整備している彼だから、見回すだけで不審な部分があれば判るのだろう。ホッとしてそのまま、立ち上がりながら傍らの坊やを抱え上げ、タンデムシートに括りつけてたお子様シートへと乗っけてやる。
「資料、持って来たのか?」
「おうっ。」
「じゃあ、一通り拝見しますかね。」
 綺麗に整理された資料を作って来て下さるものだから、苦手だったPCやDVDの操作にも手慣れて来た葉柱が、今期末の総決算をまとめた超大作のDVDを早速にも観たいと言ってくれて。やたっ、苦労した甲斐もあったってもんだぜと、くふふと笑った小さな坊や。不審な人物のことも今だけはあっさりと忘れて、セルを踏み込んだそのまま即座にかかったエンジンの響きにわくわくとしながら、頼もしいお兄さんの背中にぎゅううと、いつものようにしがみついたのであった。






            ◇



 高校生の日本一を決める“クリスマスボウル”から、関東勢大学生の日本一を決める“クラッシュボウル”に、その後の、やはり大学生の日本一を決める“甲子園ボウル”。その覇者と社会人の覇者が戦う“ライスボウル”と、大きな試合それぞれの、戦術データや選手たちの稼いだヤード数やプレイの巧拙。判りやすくまとめられた資料として観ていたのも最初のうちだけで、結局は試合のビデオとして純粋にゲーム運びを楽しんでしまった二人であり、1試合2時間ほどはかかるそれを4試合分も一気に観戦してしまったもんだから、ただそれだけであっと言う間に夕方になってしまった。
“肝心な検討とかが出来なかったよな〜。”
 純粋に好きだってのも問題だよな、反省反省と。理性的な部分では“いかんいかん”なんて思い返しているものの。ラグの上へゆったりと寝転んでたルイの懐ろに、ソファーの背もたれ代わりみたいに凭れかかって寄り添って、大好きな匂いや温みにくるまって過ごした一時は、そんな型通りの反省なんかあっと言う間に蕩かしちゃうほど楽しかったなと。お顔は正直にも にやついていたりする。帰ってすぐに、自分のお部屋のベッドの上へ放り出してたブルゾンを、窓辺の勉強用の机の椅子の背もたれへと引っ掛け直し、ついでにポッケから携帯電話を掴み出す。すると、
“…あ。”
 ポッケから一緒に出て来たのが、今日使っていたハンカチで。そこにぬすくられた小さな汚れを見て…思い出したことが1つ。
“あれって何だったんだろな。”
 待ち合わせていた喫茶店前で、葉柱のバイクを妙に細かく覗き込んでた見知らぬ男。チンピラや本物のやっちゃん関係の筋の人間だったなら、それこそ…葉柱が都議の次男だって事くらい知ってもいよう。あの時には判らずとも、ナンバープレートからなり、人に聞いてなり、それなりに調べればすぐにも判ること。悪い筋の人間と馴れ合ってるような悪徳系の議員さんではないものの、だからこそ逆に…妙な言い掛かりをつけられやしないかと思えばキリがなく。
“…でもなあ。”
 偉そうに言うよなことではないが、暴走族の頭目も張っている…なんてな葉柱の放蕩ぶりは、昨日今日始まったというよなものではない。それに父上の方だって、一昔前に“親子鷹”なんて呼ばれてた“二世議員”さんなのだそうで、地元に根付いた支持層に家ごとの人柄をよくよく知られたベテランであり。ルイのことだって皆さんよ〜くご存じだそうだし、ちょこっとやんちゃな息子がいるなんて要素くらいでその座が危うくなるような、曖昧微妙なキャリアではないとのこと。
“何で男の政治家と歌舞伎役者ってのはサ、不倫とか不行状とかが滅多にスキャンダル扱いされねぇんだろな。”
 最近はそうでもないらしいけどね。でも、不倫やご乱行の方は確かに、どうかすると“男の甲斐性”扱いされてるもんね。女泣かすなんて全然偉くなんかないのに、良い気なもんだよねぇ。………まま、それも今はともかく。
“今更そんなとこに食らいつく奴がいるってのも妙な話だし。”
 そっちじゃないと、坊やが思った理由が実はもう一つ。ゼファーの白い車体のフレームの下の方、小さな坊やから見ても低い位置だったから、気づいてないままになってるらしい黒い汚れがくっついていて。
“あれって…。”
 もう乾いていたからね、黒っぽい泥ハネか何かに見えなくもなかったけれど。何だろ?と、つい触ってみたその手がね、ルイのお家に着いて手が暖まって来たら、何だか…鉄臭くなったのでギョッとして。総長さんには見えないようにしつつ、ごしごしってムキになってハンカチで擦って取ったの。手入れが行き届いた葉柱総長ご自慢の車体には“錆”なんてどこにもないからね。油やガソリン臭いなら分からないでもないけれど、そんな…錆の匂いなんてするはずはなくて。…ということは?

  “これって、血だったのかも?”

 考えたくはないけれど、どこかで誰かと接触事故でも起こしたとか? いやいや、そんなことになったなら、ルイはきっとちゃんと対処する筈だ。ぶつかったにせよ、バイクが倒れただけにせよ、怪我した人や犬猫がいるならば、救急車を呼ぶとか病院まで運ぶとかってちゃんと手を打つ筈だもんと思いつつ。でもでも、
“あれって、交通課の調べとかじゃねぇよな?”
 そんなのに怪しまれるような、ヤバイ事なんかしてないよな? 何かでバイクを片っ端から探ってるような奴が、たまたま見てただけだよな? 恐持ての不良ですと言わんばかりな風体してるけど、見かけを裏切って良識のある良い奴なんだもんな。

  “…るい。”

 信じてるけど、でもだけど。理屈が空回りした揚げ句に喧嘩っ早くも手が出るトコがあるのも、たまにだけど…拳で完膚無きまで叩きのめして格の違いを思い知らせてから話し合いって順番になりもするのも、大所帯の族の頭目であるルイには残念ながら有り得ることだから。
“やだよ、そんなのは…。”
 一般常識と彼なりの面子とか侠気
(おとこぎ)とかいうものの順番が、分かって来たからこそ、でもね。凌ぎを削り合う“勝負”なんだという理屈が世間じゃ通用しない、ただの乱暴とひとからげな暴力には、我がことみたいにハラハラやきもきしてしまう坊やであって。そんな彼の不安なお顔に、淡いベールを掛けるよに。窓の外には蒼いお月様が声もないまま、その姿を見せていた。






            ◇



 念のためにと、交通課の警察無線を一通り聞いてみたし、その筋の業務連絡のやりとりも確認した。馴染みの婦警さんたちのチャットにも乱入し、それとなくチェックしてみて。轢き逃げ手配やバイクによる引ったくり犯など、それらしい連絡のやり取りは全くないことは確認出来た。

  “じゃあ…単なる喧嘩の仕返しだとか?”

 けどね、年末から年明けに掛けての繁華街は、カウントダウンに盛り上がっての騒ぎこそあったものの、そっちの筋の若い衆たちはそりゃあ静かだったそうで。
『ヨウちゃんたら、この頃お見限りじゃないのよ。』
 携帯で確認を取ったランパブ“らぐじゅあり”のイブちゃんから、遊びに来ないと身代わりにあの賊学の総長さんをあたしが堕としちゃうからねと、妙に鋭くも的を射た脅し文句を寄越されて焦ったりしもし。
(笑) あーでもない、こーでもないと、思いつく限りのあれやこれやを考え続けて…夜が明けてしまい、お陰様で眠くて眠くてしようがない。もうガッコの新学期は始まっており、ぼんやりした頭のままで登校したものの、
「ヒル魔くん、姉崎センセーが“メッ”て睨んでたよ?」
 センセーの真似っこをして ふかふかな頬をむむうと膨らませ、同じクラスのセナくんが、どうしちゃったの?と気にかけてくれたが、
「…う〜ん。」
 何だかお返事も覚束無くて。いつもの蛭魔くんでは、こんなことってまずはあり得ないって、よ〜く知ってるセナくんだったもんだから。
“こりは…ボクでは判りませんですっ。”
 大人の進さんに相談しなければと、ランドセルから携帯を取り出したのへは、
「余計なことをしてんじゃねぇっての。」
 がっしと腕を掴み止め、何とか引き止められたヨウイチくんだった辺り、そういう判断力はまだ何とか働くらしかったが。
(う〜ん)


  「どしたよ。昨日から何か変じゃねぇか? お前。」
  「………っ!」

 不意に。今、一番気に病んでる人物のお声が間近からしたのへと、どっひゃーと声もないまま飛び撥ねて見せたのへ、
「…お前がそういうリアクションするなんて、初めて見たぞ。」
「だろうな。」

 

ぎぃやぁ〜〜〜vv カッコよすぎます、総長vv

 

 ああビックリしたと、ドキドキしつつも何とか強腰な言いようを言い返し、
「今日は呼んでねぇだろが。」
 いつもなら昇降口に差しかかる頃合いに携帯で呼び出してる相手だが、今日は呼び出してなんかない。何にか気を取られたままにて、小学校の校門をぽてりぽてりと出て来た坊やであり、
「第一、まだガッコの授業中じゃねぇのかよ。」
「残念でした♪」
 今週一杯は短縮授業なんでな、俺らも昼までで終わりなんだよと言い返して来るお兄さん。愛車のゼファーにまたがったまんま、翼みたいに左右へと腕を伸ばしてるハンドルに自分の腕を引っかけて。ちょこっと前かがみになってる彼のお顔が、にっかとほころんだ…その屈託のない笑い方に、
「………。///////
 不覚にもドキリと、坊やの胸の中で何かが撥ねた。面差しも体格もそれなりに完成されつつあって、精悍で男臭い風貌の、すっかりと一端
(いっぱし)の男衆なのにね。時々こうやって自分にだけ、鋭い筈の目許を細めて、悪戯っぽい顔で笑ってくれるのが、
“子供が相手だから微笑ましいって思ってのことなのかな、それとも油断しまくってのことなのかな。”
 どっちにしたって、仮にも族の総長張ってる男が気ぃ抜いてるんじゃねぇよなんて思いつつ、でもね。温かいお顔だなって思って、ついついこっちまで釣られそうになる。喧嘩の最中とかアメフトの試合中とかの、怖いくらいに真剣真摯な、気魄の籠もったお顔も知っているからこそ、こんなお顔もするんだっていうのが格別に“特別なこと”に思えてね。それを向けてもらえる自分だってのが、ちょこっとだけ…嬉しかったりする。
“…チッ、俺も焼きが回ったぜ。”
 色々あって人間が丸くなったのかな。そんなになるなんて もう年だぜ、ったくよ…なんて。ついつい手のひらであおって“おいおい、ちょっと待ちたまい”と声を掛けたくなるようなこと、苦笑混じりに胸中で転がしていたヨウイチくんだったのだが、

  「…あの。」

 そんな二人が向かい合ってたところへと、怖ず怖ずと声を掛けて来た人がいる。不意を突かれて、ついでに…柄になくもほこほこと和んでた胸中まで覗かれたような気がしたか、ああん?と細い眉を吊り上げもって振り返った坊やの背後に立っていたのは…。
「…あっ。」
 昨日の今日だから まだ忘れちゃあいない。昨夜の寝不足の原因になってくれた、こざっぱりとしたスーツ姿の、あのお兄さんだったもんだから。ホラー映画なんかの殺人鬼が唐突に現れたなら、このくらいゾッとするのかとまざまざと思ったほど、一気に背条が凍りつきそうになった坊やだったものの、

  「やっぱりそうですよ。この人です。」

 そのお兄さんの背後から、別な人の声がした。おややと首を傾げるようにして、お兄さんの後ろを覗き込めば、そこには。
「一昨日はどうも、お世話になりましたねぇ。」
 背丈のちょこりと小さな、和服の似合う、それはそれは品の善さそうなお婆さんが一人、そりゃあ柔らかな笑顔でもって立っていらっしゃり。不躾に覗いて目が合ったヨウイチくんへも、寒の中に薄く射した穏やかなお日様みたいに、にっこりと笑って下さったのだった。






 お話は一昨日の午前中へと逆上る。此処のほんご近所の息子夫婦のところへ、徒歩にて向かっていたその途中、幅広な横断歩道の真ん中に取り残されてしまったお婆ちゃん。信号が変わりそうになった時に、慌てた拍子に転んだらしくて、お膝をアスファルトで擦りむいていたもんだから。すぐ間近にいた車線から降りて駆け寄ったお兄さんは、まずはバイクのハンドルに掴まらせ、自分が後に立って“歩行器”代わりに押してやりつつ、残り半分の横断歩道を渡らせてやって、それからね。バイクはガードレールへチェーンで留め置き、そこからは背中へおぶって目的地までと送ってやりかけた。小さなお婆さんは軽かったから、筋骨頼もしい体躯をした総長さんにはお易いことだったんだって。ところが、あとちょっとというところで、迎えにと出て来ていた家人らしい方々がこっちを見やって…誤解をしたらしく。
「こんな風体の俺に何か勘違いしたなってのはすぐにも判ってな。そりゃあ怖い顔をして駆けて来たんで、面倒なことになんのもなと思って、そこで降ろして逃げたんだよ。」
 そのお婆ちゃんが提げていたお土産の和菓子の入ってた紙袋の中に、留め金が緩んでたという総長さんの金のネックレスがするりと滑り落ちていたのだそうで。返さなきゃいけないしお礼もしたいと、昨日からずっと…息子さんたちがこの近辺を探していたらしい。
「バイクのナンバープレートまでは見てなかったらしくて。ただ、いつものお馴染みなカッコしてたもんだから、相談に行った交番から訊かれた交通課でも“もしかして”ってすぐにもピンと来たらしいんだが。何せ都議の息子さんだからっつって、問い合わせするにも気を遣ったらしくてサ。」
 それで私服のお巡りさんが、さりげなく近づこうとしてたらしいんだとさと。冷たいサイダーの入った大きめのグラスを差し出しながら、銀さんがそうと話してくれたのへ、
「悪いことへの問い合わせじゃなくてもか?」
 なんか妙な理屈だと怪訝そうな顔になった坊やへは、
「いや…だから。間違いだったら引っ込みがつかんだろうよ。」
「…なんだそりゃ。」
 どこか曖昧な言いようの葉柱の説明では良く判らなかったのだが、それを押しのけてメグさんが言うには、
「ルイが暴走族の、それも頭目
(ヘッド)だってのを知ってて…なのに取り締まってない、みたいなサ。本人へ、それもバイクに関してって問い合わせで接触したらば、警察って立場上、そこんところに目ぇ瞑ってられなくなるだろからね。」
 大人の世界ってのは ややこしいんだよと、自分じゃあ説明出来なかったことへ、不貞腐れたような一言を投げた総長さんへ、
「いっそ一遍ほど取り締まられちまえば良いんだよ。」
 あの喧しいマフラーは余計だろうにと、そのオートバイに恩恵受けまくってる坊やがそんなキツイことを言ったりし、

  “でも…。”

 ここも行きつけの居酒屋の、奥まった畳敷きのお座敷にて。簡素なテーブルの傍らへと腰を下ろしてたお兄さんの、大好きな温みのお膝によじ登って跨がって。白ランの中へと潜り込みつつ、
“…妙なことにならなくて良かったよな。”
 心からの安堵の想いに、人知れず零れた小さな溜息が一つほど。勝手な取り越し苦労をしていただなんて、当然のことながら誰にも話す気になれなくて。ただ、安心した途端に眠くなったのは何だか癪だったから、いつもみたいに可愛げのないこと言ってみたりしたのだけれど。
「…ふにゃ。」
 ルイの大きな手がネ、そぉっとゆっくりと。髪の中までも もしゃもしゃってまさぐって撫でてくれたもんだから。


  “………心配かけてんじゃねぇよ。”


 ああもう限界だ。ここで眠ってしまおう。ちょっぴり堅くて頼もしい、いい匂いのするルイの暖かい懐ろで。誰にも邪魔されないままに、大好きなアメフトの夢とか見よう。途中で起こすんじゃねぇぞ? 判ってんな? zzzzzzzz………。




  〜Fine〜  05.1.08.〜1.12.


  *そういえば、
   1月末にルイさんのお誕生日が来るんでしたっけねと思いまして、
   突発的に思いついて書いてみました。
   いえ、全然お誕生日を祝ってはおりませんが。
(おいおい)

  *今回も九条様からお素敵作品を頂戴いたしましたですvv
   ヘッドがっ! カッコよすぎですようvv
   いつもいつもありがとうございますvv

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