Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

  Sweet whistle
 

特にそれが癖だというものではないし、
その時その時のヒット曲というものにもずんと疎いから、
今時の唄ってのじゃあないのだけれど。
愛機の掃除だのの単純作業なんかの最中に、ふと、
興に乗ったり調子が出てくると、
我知らず、口笛を吹いていることがある。
そういう時は鼻歌が出るのが普通なんだろにと、
メグあたりからは怪訝そうな顔をされてるし、
ルイの肺活量は半端じゃあないからなんて、
褒めてんだか からかってんだかな言いようを、銀あたりにされもするけど。
これはあれだ、昔、よく遊んでくれた親戚の叔父さんが、
遊園地や海水浴なんて遊びに出た先からの帰り道、
眠いとか疲れたとか、まだ遊びたいとか、愚図り出しかかる俺をあやすのにって、
アニメの主題歌や童謡なんかを吹いてくれたの、何となく覚えていたからで。
『そういえば○○さんはお元気にしているのかしら。』
今はシンガポールの方で会社を興して忙しくしているその叔父のこと、
口笛聞くたび、おふくろが思い出すくらいだから間違いない。
やたら喧しくするなんてお行儀が悪いとか、
夕方や宵に口笛吹くと蛇を呼ぶよなんて迷信持ち出して叱るとか、
そういったこともないままに、
身についてしまったそれなんだろと、特に意識しないまんまになってたんだが、

  「………。」

おふくろが出先で声かけて連れて来た小悪魔坊主が、
すぐ傍のリビングでうたた寝していたソファーから起き上がると、
そのまま てことこ、テラスの外にいた俺んトコまで寄って来た。
今日は特に約束もなかったし、確か出掛けるとか言ってた筈で。
それではとの腕まくり、久々に徹底的にゼファーを磨いてた最中のご訪問。
いつもの如く、遊べの構えのとまとわりついて来てたのを、
こっちが済んでからだと、何とか いなして待たせてたんだけど、
途中からはこっちの横顔、黙って眺めるのに満足してか、
結構いい子でいたんだのに。

  「どした?」

すまんな、喧しくて起きちまったか?
訊けば、ん〜んと かぶりを振って。
傍らのスツールへ、跨ぐようにして腰掛けて。

  「………。」

じっとこっちを見てばかりいる。
言いたいことがあるのなら衒いなく口にする子。
言いたいけど言わない方がいいってことを抱えたならば、
そんな素振りの欠片さえ見せない、徹底した子。
それが…何か言いたげに、でも口を開かぬままだったから。

  “………ふ〜ん?”

言いにくいのならばと、こっちから訊いてみた。

  ――― 何かリクエストあるか?
       どうせルイは知らないよ。

だから何でも良いなんて、こんな時でさえ素直じゃない。
適当に、そう、ついつい吹いてたの続けると、
妙に大人しくじっと聴いてて、それから。

  「あんな? 俺の父ちゃんがサ。」
  「…うん。」

唄わせると凄っげぇ音痴なんだけど、不思議と口笛は上手くてサ。
俺はまだ全然吹けなくて、そいで悔しがってたら、
子供の音感じゃあ限度もあっから、
ちゃんとした曲を吹くなんてまだ無理だって。
も少し大っきくなったら教えてやるって言ってたんだ…なんて。

  「………。」

自分から親父さんの、こういうプロフィール以外のこと、
俺へと話したのも初めてで。
そんなつもりなんてなかったのかな、
リアクションに困ってると、
詰まんないこと言っちまったなって顔になって、
ふいってそっぽ向いたんで。
う〜んっと、だな。

  ――― ♪♪♪〜♪

選んだのは他愛のない唱歌だったけれど、
スツールから降りかけてたの、ピタッと止めて。
仔犬のお座りみたいに、いい子でじっと聞いている。

  ――― なあなあ、これって何て唄?
       何だっけなぁ。題名までは知らねぇなぁ。

俺が愚図りかかると、知り合いの叔父さんがよく吹いてくれた、と。
特にひねりもしないで正直に答えれば、
自分から訊いといて、喋ってないで続きを吹けとばかり、
唇 尖らせて、む〜む〜と急っつく、やっぱり我儘な奴で。

  ――― ♪♪♪〜♪♪

見上げた残暑のお空には、ゆらゆら回るブリキの風見。
思い出したように時々揺れては、
少しは涼しい風の吹きゆく庭先なの、お節介ながら教えてくれてて。

  “そのうち、呼ばれたと勘違いしたキングが、
   中庭の仕切りぶっちぎりでこのテラスまで来るかもな”

なんて、
ちょっぴり外したこと、内心で危惧しながらも。
冴えた音色の口笛は、途切れることなく 風を紡いで。
草いきれの中へと流れてく、葉柱さんチの午後だったのでございます。





  〜Fine〜  06.8.18.


 *これを持ち出すと筆者の年齢がバレバレになりますが、
  大昔の教育テレビの番組のテーマ曲でこういうのがあったんですよね。

    “口笛ふいて 空地へ行った
     知らない子がやって来て“遊ばないか”と笑って言った〜♪”

  『さわやか3組』みたいな、ミニドラマの主題歌だったようで、
  ドラマの方は観てなくて全く覚えてないのですが、
  この歌の方だけは何となく、今でもちゃんと覚えてました。
  匂いと唄は、無意識下で人の記憶に深く影響するそうで、
  これもその一端なんでしょうかね。
  (ちなみに、実は筆者も口笛は全く吹けません。)

  ところで、口笛を吹きながら歩くというのは、
  ポケットに手を入れたままで歩くのと同じレベルで
  あんまりお行儀のいいことではない筈で。
  それを子供向け教材番組の主題歌にしていたNHKって一体…。
(苦笑)

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