Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “お膝抱っこの 小さな閑話”
 



 雨に洗われたか、空の青はスミレ色が濃くて爽快。風はまだちょっと冷たかったけれど、陽だまりにずっといたベロアっぽい生地のセーターは、そりゃあ気持ちのいい感触だったから。小さな仔猫、暖かさには敏感な仔猫。誘われるままに歩みを運ぶ。

  「…んしょ。」

 データ入力とやらを頑張っていたPC操作に飽いたのか、窓辺の長椅子に横座りになってたこちらへ“ぱたた…っ”と駆けて来る足音がして。蕩ろけ半分の薄目を開ければ、久し振りにお膝へとよじ登り、居心地のいい広い懐ろを独占しようとする坊やと眸が合ったのへ。煙たがりもせずに待ち構え、
「へへへぇ…vv
 なんて照れ隠し半分に笑うのへ、こちらも口許を真横に引いて笑い返してやって。ぱふりと抱きついて来た、やわらかい重みや感触も、そういえば久し振りではなかったか。つい先日“割腹”した総長さんだからと、これでも気を遣って我慢していた彼だったのか。これ以上はないほど間近になった金の髪が、窓からの陽光を受けてそれは目映く綺麗だったりし、その下のこちらも小ぎれいに整ったお顔に見とれていると、

  「あんな、あんな、ルイ。」
  「うん。」
  「えっとな………。」
  「???」

 この子が一旦言いかけたことを言い淀むなんて珍しい。黙ってたいなら黙り通すし、言いたいことなら怖じけもせずにずばっと言う子だ。それが…どうだろうか。こちらを伺うような、どこか曖昧なお顔や態度をしており、
「やっぱ辞めた。」
「こらこら。」
 中途半端は却って居心地が悪いぞと、これも作戦だったならまんまと乗せられた総長さん。馬乗り状態の坊やの小さな背中に腕を回し、ほれ言ってごらんなと励ますように促せば、

  「…あんな?
   明日の日曜に“クリーンアップ作戦”っていう行事がガッコであるんだ。」

 校区内の通学路や公園に出て、道端に放置されたゴミや空き缶を掃除して回るのだそうで、ただ、
「父兄参加ので…サ。」
「そか。」
 別に一人で出てもいいし、何ならバックれてもいんだけど。ただ、そうすると姉崎センセがお母さんへ“妖一くんはお風邪ですか?”なんて連絡をするだろしな。どうしたもんかなって、考えてたら、こんなに日が迫っちゃったの。
「武蔵んことアテにしてたら、今かかってる仕事が雨とかで押しちゃって。日曜に棟上げ式ってことになっちゃったんだって。」
 こんな言い訳や前振りを並べるのも、この子には珍しく。ダメならダメで良いさとばかり、何につけ至ってドライな子だのにね。切り出すのにためらったくらいだから、断りの言葉を聞きたくないのが見え見えで。でも、そういうことだって有り得るし、食い下がれないということも判っているらしい、この彼には珍しいまでの及び腰。

  「いいぜ? 行っても。」

 もう練習にも出てるの知ってるくせに、今更何を気遣ってくれてるやらと。そのくらいにしか思慮が届かぬ、やっぱりまだまだ ちみっと朴念仁なお兄さんからのお返事へ、
「そか♪」
 打って変わって嬉しそうに笑った坊やの、ほっと安堵した表情を見てから…やっと気がついたこと。

  “…そっか。”

 断りの言葉を聞きたくないのが見え見えで。でも、そういうことだって有り得るし、食い下がれないということも判っているらしい…筈がない。訊いたからには YESを取りつけるための何かしら、ちょっとは算段するのがこの坊やではなかったか。(たとえば…ダメなんなら歯医者のお兄さんへ話を持ってくとか?・笑) 周到で巧妙で、大人顔負けなほど思慮深いくせして、自分の側の事情を優先にし、容赦しないところだけは、今時の子供らしさを忌憚なく発揮する、小憎らしい子供ではなかったか。他方、無理強いしたくないことなのなら最初から口に上らせもしない、自分へも徹底した“合理主義”をこの年齢で貫徹しちゃう、末恐ろしい子。それが感情に揺れてたなんて。そんなせいで、相手の答えへああまでホッとしたなんてのは、自分は初めて眸にした態度だった総長さん。不器用さんのいかにも不慣れな甘え方へ、今頃気づいて臍
ほぞを咬む。
「ルイ?」
「いや…。」
 何でもねぇよと にっぱし笑い、わざとに ぎゅううっと腕の輪を縮めれば、わはは、苦しいってばvvと、じたばた暴れるのがこっちにも楽しくて。

  「…あ。」

 いきなり何すんだと、一応は言い返そうとしてか、懐ろからお顔を上げた坊やの視線が、お兄さんのお顔につと留まる。どしたと訊いてもお返事はなく、ただ、

  「…お☆」

 頬骨の片側、こめかみに間近い縁辺りまで、小さなお顔が寄って来て、そこに軽く触れたは…温かで濡れた感触だったから。どうやら小さな傷に気づいてぺろりんと舐めてくれた坊やであったらしく。
「こんなとこ、どうしたよ。」
「さぁな。寝てる間に掻いたかな。」
 こっちの脚を片方またいで、膝立ちになった小さな肢体。室内だからと軽装で、緋色のカシミアのアンサンブルは淡い色みの彼には殊の外に映えて愛らしく、お膝までの半ズボンもアイボリーなのがいっそ春めいた装い。そんないで立ちのほっそりとした愛らしい子に馬乗りになられては、むむむっと叱られていても何だか嬉しくなるから妙なもの。
「しょーがねぇな。」
 まま確かにさして大きな傷でなし、それ以上は言及もよして。あらためてのように ぱふりと胸板へ伏せ直す坊やへ、

  「………あ。」
  「何だよ。」

 お前、いつだったか俺が今みたいなノリでお前の怪我したとこ舐めてやったら、もんの凄く怒らなかったか? そだっけ? そうだった。人を変態扱いまでしやがってよ。
「そんなの覚えてないな〜♪」
 歌うように応じた坊やの小さな肩や背中が、笑ってのことだろう上下しているから。これはやっぱり覚えているに違いなく。
「そうそう、セナがさ。」
「誤魔化すな。」
 いや、だから。セナがさ? こないだ可愛いこと言っててよ。抱っこされててお散歩してたら、買い物用のレジ袋か何かが飛んで来て。そこはあの進だから、反射も鋭く見事に避けて。セナにもばっさとまでは当たらなかったが、選りにも選って抱き込まれた懐ろの側に小鼻を掠ってしまったらしく。ウィンドブレーカーのファスナーの金具、当たったのへ ふにゃいと声を上げたら、

  『あのね? あのね?////////

 進さんたらね? セナのお鼻にね? あのね、えっとね?
『ちうしてくれたの〜〜〜〜vvo(><)o ////////
 その一言を言うのに、どんだけの間合いがあったかと、かわいいもんだと言いたげに、うくくvvなんて笑ってるこちらの坊や。
「ちう、ったって。相手はあの進なんだ。本人にはそんなつもりなんてないに決まってるしよ。」
 ちょいと偉そうにそうと付け足し、クッション代わりのようにしてその上へ伏せてた、お兄さんの上体から身を起こすと、
「俺なんか、ルイとちゃんとしたキスまで行ってるのにな。」
「…行ってるって。////////
 だからそういう言い方は止せっての。何だよ、純情ぶって。ぶってんじゃなく、慎み深いだけだ。族のヘッドが慎み深くてどうするよ。ウチは色々と画期的なんだ、放っとけよ…なんて、妙な言いようで応じたお兄さんへ。もしも此処にメグさんや足塚のお兄さんがいたならば、

 “物は言いようってのは、このコトですかね…なんて言われてんぞ? きっと。”

 相変わらずに大人げないよなって、笑ってやって。何だとって目許を眇めたところへ、すかさずのようにお眸々を瞑って少しほど顎を上げ、“ちうしていいよvv”のポーズを取って見せれば。

  「う…。/////////

 ほらほら、そこでたじろいでしまうから。坊やのペースに踊らされてしまうんでしょうにね。でもでも、あのね? これまでと ちょっとだけ違ったのが。


  ――― どしたよ。
       な、なんでもねぇよっ。////////


 さして変わったことはしていない。ゆるく抱きしめて腕の中掻い込んで、小さな口許へ唇で触れて。舌の先での置き土産、やわらかな唇の真ん中の内を、ちょっぴり舐めて構ってやっただけなのに。陽だまりの中、ぱぁっと朱が散ったお顔がどれほど愛らしかったのかは、間近に抱えてたお兄さんと、窓辺へ遊びに来ていたシェルティのキングちゃんだけが見ていた、秘・密vv





  〜Fine〜  06.3.31.


  *にゃんこか わんこの足跡、フットマークの壁紙を探してみたんですが、
   素材屋さんサイトをどう巡っても見つからなかったです。
   検索方法が悪かったのかなぁ…。

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