Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    別のお話・Y
 



 そろそろ桜の開花日などが、テレビの天気予報のコーナーでも取り沙汰されるようになって。天気予報といえば、花粉の飛散する量の情報が今や当たり前に報じられているのも、ちょっと前だったら考えられないことだったよねって、

  「あのね、お母さんがゆってたの。」

 昔は花粉症なんて、そんなに有名な病気じゃなかったんだって。でもでも、そんなことゆってるウチのお母さんも花粉症なの。不思議だね〜と、黒々と潤んだ大きな瞳をきょろんと見張って、お人形さんのような細い腕や小さな手で一丁前に腕組みをし、しみじみ感心している男の子。ふわふかの黒い髪はくせっ毛なのにしっとりとつややかで、こちらもふかふかで そぉっと触れたくなるような、上等なマシュマロみたいな肌の頬っぺや小鼻や、それは瑞々しい緋色の口唇がまた、そちらへ振り向けた視線を否も応もなく吸いつけて、そのまま離さないほどの愛らしさ。
「ひゆ魔くんは花粉は大丈夫なの?」
「まぁな。」
 あれは体の中に ある程度のアレルゲンが溜まらないと発症しないからな、アトピーとか喘息とかでもともとの体質がアレルギーに過敏なんなら別だが、俺らみたいな小ささでは発症ゲインにまではなかなか至らねぇんだよと、大人ばりの知識をスラスラとご披露くださった金髪のお友達の言うことが、
「???」
 しっかり理解出来ていないところは…いや、これは彼の側には罪はないと思うのだけれども。
(笑) 双方ともに、自分の体の幅よりも大きいランドセルを背に負って、陽の色が随分と濃くなった道をゆく、小さな小さな男の子たち。小学校の低学年…まだ一年生だろうかというほどにも小柄な彼らで、オーバーオールに赤いスカジャン、白地にサクランボが散っている柄のキルティングのお稽古バッグを提げている、黒髪の男の子の方が小早川瀬那くん。ちょいとルーズなタートルネックのセーターに襟と袖口がボアで縁取られたレザージャケットを羽織ったGパンの男の子の方は、蛭魔妖一くんというお名前で、金色の髪を陽光にキラキラと光らせているが、ハーフやクォーターではない、生粋の日本人なので、そこんトコよろしく。(こらこら)先日はちょこっと大変な目に遭った二人だが、一晩寝たらばもうすっかりとお元気になっていて、
「…と、やっと返事かよ。」
 歩きながら操作していた携帯電話へ、お目当ての相手からのメールがやっと届いたらしく、
「………。なんだそりゃ。」
 文面へと呆れたような声を出した妖一くん。一緒に立ち止まっていたセナくんへ、一端
いっぱしの大人のように肩をすくめて見せる。
「葉柱のお兄さんから?」
「ま〜な。朝一番に“迎えに来られない”ってメールがあったんだけどよ、遠乗りした先で雪に遭っちまって、ルイ本人は無事なんだけど、車のスリップだか玉突き衝突だかの事故とかで道が封鎖されちったんで、こっちに戻るのは夕方近くなるんだと。」
「雪?」
 そうだったんですよね、東京はまだホカホカ暖かだったらしいけれど、それ以外の地域は冬将軍の逆襲で全国的にそりゃあ寒かった土曜日で、
「ここいらも明日は降るのかもな。」
 寒いのはあんま好きじゃねぇなと、細い眉をしかめたオマセなお友達へ、
「セナは好きだよvv」
 嘘つけ、寒い日は教室からだって出て来ねぇで、女子とトランプとか ままごとしてるくせによ、ドッジボールで他のクラスとやる時に、一人でも足りねぇと僅差で負けたりするから困まんだよ。だから〜、寒いのはヤだけど雪は好きなのッ。ちょっぴり怖がりで甘えん坊なセナくんだけれど、不思議とヒル魔くんへは怖じけずに口を利く。そして、幼いのみならず体格だって一際 華奢だし、淡い金茶の瞳につんと通った鼻梁と、小さな野ばらの蕾のような口唇…という、こちらさんもそりゃあそりゃあ愛くるしい風貌をしているってのに。入学してからほんの1ヶ月にて、小学校を“全制覇”してしまったという恐るべき子供なヒル魔くんの側からも、ちまっと愛らしくて、言うこともやることもどこか天然で覚束無いセナくんのことが“お気に入り”であるらしく。先日はおサボりしたお当番、今日はちゃんと朝から出て来て、ウサギさんたちの飼育小屋を丁寧にお掃除して来た帰り道。お当番登校なのにわざわざランドセルを背負っているのは、そろそろ春休みも間近いのでお教室に置いてる私物を持って帰るのにと思ってのことで。通り道だからと迎えに行ったヒル魔くんが背負っていたからって、セナくんも真似っこしたらしいのだが、
「けど、セナはそんなにお道具置いてなかったろうがよ。」
「うん。」
 クレヨンやハサミとかが入ったお道具箱と、絵の具のセットに体育館用の上履きは、まだあと2週間近くある授業で使うし、体操服と給食当番の前掛けは、お洗濯するからって昨日持って帰ったし。きれいな色のプラスチックのチェーンリングをつないで作ったお手玉とか、カラーゴムをつないで作った長いゴム飛び紐も、まだまだ使うから持って帰れなかったしね。
「ひゆ魔くんこそ、なんでそんなに荷物が多いの?」
 それもお教室じゃないところにも隠してあったりしたんだよね。体育の用具室とか、理科の準備室とか、給食の配膳室とか…って。そんなところに一体何を、ランドセルに目一杯ほども隠してた坊やなんでしょうか。照準合わせ用の尖んがった小さな三角のツノが先っちょについた、いぶし銀っぽい金属の細身の筒とかが、ランドセルの蓋の端から はみ出してたりするんですけれど…それってもしかして。
“世の中にはな、知らねぇでいた方が幸せだってもんも沢山あるんだぜ?”
 ………はい、判りましたです。
(ぶるぶるぶる) 流し目ひとつで筆者を震え上がらせたのはともかくとして、
「これじゃ、今日と明日は遠出も出来ねぇな。」
 たとえ今日中に戻って来たルイだったとしても、明日はバイクの点検に潰すつもりなんだろし。ちゃ〜んとお相手の心積もりを把握している、この年齢でよく出来た恋人さんでもある金髪の尖んがり坊やが“あ〜あ”と退屈そうな声を出したのへ、
「じゃあ、セナと一緒に進さんと公園にゆく?」
 近所のじゃなくって、あのねQ街のちゅーおー公園だよ? 真ん中のステージで、明日はマジレンジャーのショーがあるの。セナはネ、マシュマロつーしんとか ミルモとか、プリキュアの方が好きなんだけどォ…と、そりゃあ嬉しそうに話してくれた、ご本人こそマシュマロみたいなお友達へ、
「いや…遠慮しとく。」
 メニューの子供っぽさへの敬遠もあったが、それ以上に。他人のおデートの邪魔をするほど無粋じゃないし。それに、彼らと一緒に行動するともなれば、あの堅物の進から行儀についてうるさく指導されまくるに違いないからと、謹んでご遠慮申し上げた。
「明日はここいらも寒くなっからな。出掛けるんなら、ちゃんと冬用の重装備しろよ?」
「うんっ、ありがとーvv
 小早川さんチの前で“それじゃあね”と手を振り合う カワい子ちゃんズ。春めいた陽気の中にも映える、あどけない様子が何とも可愛らしいことよねと、通りすがりの奥様方が“くすすvv”と楽しそうに微笑み合っていた。







            ◇



 さて、翌日の日曜日は。ヒル魔くんが予言したように(俺がじゃないってばよ)都心でも雪が降りしきるほどの寒い寒いお天気になった。天気予報でそうと判っていたお母さんが、そしてお昼前に迎えに来た進さんも、今日は寒くなるそうだからお外に出掛けるのはよそうかと言い出して。
「む〜〜〜。」
 せっかく公園でのショーなのに。いや、それはあんまり絶対に観たかったんじゃないんだけれど。お外で逢うとね、進さんと“鬼ごっこ”出来るのがそりゃあ嬉しいセナだったの。こっちですよ、こっちvvと、広い公園とか広場とか、ちまちま・たかたか、懸命に駆け回るセナくんを、あんなに脚の長い進さんが、なのに…足元へと身を屈めなきゃならないからか、なかなか捕まえられなくってね。あっちこっち駆け回ってから“そ〜ら捕まえた”って、高い高いって抱っこされる瞬間が凄んごい嬉しいから、あのね。寒くたって良いから、お外で遊びたかったのにぃ。お耳を覆うふかふかのイア・マッフルも、お口まで埋まるほどのマフラーも、パッチンボタンを全部留めちゃうとモコモコになっちゃう、お膝より長いダウンのコートも、全部一人で頑張って着てたのに。玄関の上がり框から、自分では降りられないくらいの重装備をしていた小さなセナくん、力持ちの進さんに抱っこされて、お部屋へ逆戻りする羽目になったのでした。


 むくむく着込み過ぎていたものだから、体が思うように曲げられず、ほてほて・ちょこりちょこりとしか動けなかったセナくんとお揃いのポーズを取ってるペンギンさんの縫いぐるみ。それがベッドで待ってた、パステルカラーで統一されたセナくんのお部屋にはね、ヒル魔くんがPCで引き伸ばしてくれた、ユニフォーム姿の進さんの、ポスターみたいに大きな大きなお写真がドアのところに貼ってある。普段ののお顔のも欲しかったのだけど、元になる写真を撮らないと引き伸ばすも何もなかろうがよと言われたので、時々携帯で撮ろうとするのだけどもね。セナには才能がないのかな、ピンぼけだったりお顔がちゃんと撮れてなかったりするので、まだそっちはお願い出来ないでいるの。前に、桜庭さんが撮ったやつっていう“しさくひん”を見せてもらったんだけど、どうしてだか、それってば怖いお顔のばかりなの。
「う〜〜っ。」
 バンザ〜イってしたセナくんから、分厚いセーターを上へと引っ張り上げて脱がせてくれてる、優しいお眸々の進さんとか。ぎゅうぎゅうだった襟に引っ掛かって、くしゃくしゃになっちった髪をそぉっとそぉっと撫でて直してくれて、
「おでこや生え際は痛くなかったか?」
 さっき引っ張られてたのが痛くはなかったかと、ちょっと心配そうなお顔の進さんとか。こういうお顔のが良いのにって ゆったらね、
『いや…それは。』
 桜庭さんが 笑いながら困ってますっていうような、真似っこするの難しそうなお顔になってしまって。ヒル魔くんの方は、いつもと変わんない澄まし顔のまんまだったけれどもネ、
『人に媚びる必要のない獰猛な動物を、芸をするまで手懐けるなんてのは、本来凄げぇ難しいことなんだよ。』
『???』
 何だかよく判らないことを ゆってたっけ。水色のネルのシャツの上、部屋着のカーディガンを羽織らせてもらって、やっと一心地ついたところへ、お母さんがココアとコーヒーとを持って来てくれた。もうしばらくしたら、お昼にしましょうねとにっこり笑ってお部屋から出てったのと入れ替わりに、スルリと紛れ込んで来たのが仔猫のタマで、
「あっ、タマだめっ!」
 タマはね、セナと“らいばる”なの。進さんが来ると、す〜ぐお膝に登ろうとするんだもん。セナがよじ登るとね、ママに“ご迷惑ですよ”って叱られる時もあるのに、タマは叱られないの。ふこーへーだと思わない? 今も登ろうとしたから、あのね。捕まえて“メッ”て叱ろうとしたんだけど。タマのお腹はやわやわしていて、背中もやあらかくて、何より…セナの小さな手には余るので、
「あ…。」
 くなりと身をよじって、やすやすと脱出成功。そのまんま、進さんのお膝に“たたたっ”て登ってしまったの。
「タマぁ〜。」
 ずるいようって、う〜う〜ってお声を出したら、進さん、タマを片手で持ち上げて、空いたお膝へセナを引き寄せて抱っこし、そのお膝へとタマを乗っけた。あっと言う間で、なのに全然…掴まれたとか引っ張られたっていうの、全然 痛かったりしなかったの。お尻の下へ素早く差し入れられたお手々だけで抱えられたのに、無理なく“ふわん”って持ち上げられたからでね。セナがそんだけ小さいからだよって ゆって、いい匂いがするお胸の中にくるみ込んで、大きな手のひらで“かわいい・かわいい”って髪の毛 撫でてくりたの〜vv o(><)o///////
『…いや、それはやっぱり進が特別“力持ち”だからだぞ?』
 ヒル魔くんはそう言って、間違っても他の大人が出来ないの、おかしいって思っちゃいけないからなと、別の日に重々念を押してくれたんだけれども。………なんたって象さんを指先でひょいですものね。
“? 何なに、それ何♪”
 いや、聞かなかったことに…。
(笑) 大きな進さんは何でも出来て、それでね、口数は少ないのだけれど、その分、セナがお喋りだから、ちょうど良いんだろうって。ん〜ん、ヒル魔くんじゃなく、これはお父さんに ゆわれたの。前にやっぱり進さんがセナのお家に来てくれた時にネ、セナの声しか聞こえなかったから、
『いつからあんなに独り言を言う子になったのかな』
 って心配したお父さんが、お部屋を覗きに来たことがあってね。今みたいにセナのこと抱っこした進さんと眸が合って…お母さんがお茶を持って来て声をかけるまで、何でか固まってたの。変なのvv
(…おいおい) そんな風で割と(割と?)お口が重たい進さんだけれど、勿論、言わなきゃいけないことはちゃんとお話ししてくりるの。今も、
「あ。」
 何か思い出したみたいな声を出して、それからそれから。まだハンガーに掛けてはいなくて、ベッドの端っこ、足元の側のヘッドボードの隅に引っかけてあった、着て来たコートを引き寄せる進さんで。
「明日は“ほわいとでー”とかいう日だそうだな。」
 そうと言いながらポケットをまさぐり、取り出したのが…可愛らしいリボンがかかっていて、つやつやの白い包装紙のかかった、平たい小箱のような包み。進さんの大きな手で掴み出された“それ”は、セナの小さな手にはやっぱり余っており、
「? 開けても いーですか?」
 お膝に座ったまま、小さな顎をのけ反らせ、華奢な首条がさらされるほどに反っくり返って頭上のお顔へ訊いたセナくんへ、進さん、クスクスと笑って頷いて見せる。小さな手でリボンをほどいて、ところどころをちょこっと破きながらも包装紙を取り去ると、中から出て来たのは平たい箱に入った、
「ちょこれーとっvv
 コンビニで売ってるのじゃなくってね、仕切りになってる箱に小さいのがずらりってお行儀よく並んでる、デパートとかでしか売ってないようなやつだったの。
「…きれぇー♪」
 赤いのとか青いのとか、色んな色の銀紙で包んであってね、丸いのとか四角いのとか、形も色々で凄い綺麗なの。お母さんの宝石箱みたいだなって、ポーッてなって見とれていたら、進さんはどう思ったのか、
「チョコレートはあんまり好きじゃなかったか?」
 そう言ってから、またコートのポケットに手を入れてね、
「こっちはどうだ?」
「はい?」
 そう言ってもう一つ、今度は淡いピンクの包装紙の少し大きい小箱の包みを取り出した。開けてご覧と手渡され、チョコの箱を置いてこっちを開けると、
「わぁっvv
 今度はネ、セナくんの拳くらいの大きさの小ビンに入った、赤、青、黄色にピンクや橙のカラフルなキャンディだったのvv 窓からの光を受けて、ホントの宝石みたいにきらきら綺麗で、やっぱりほわ〜って見とれていたらね、
「あめ玉も今一つか…。」
 そんな風に呟いて、またまたポケットをまさぐりはじめた進さんで。今度は水色の包みが出て来て、開けてみたらばクッキーがいっぱい入った、可愛らしいサイズの籐のカゴが出て来てね…。








           〜***〜


    「お前〜、それって途中から話を作ってないか?」
    「そんなのしてないもんっ。」
    「でもなぁ。いくら進が大柄だからって、
     そんなあれこれ、コートのポケットに詰めてられるかなぁ。」
    「ホントだもん。」
    「それも、甘いものばかりって、あいつ自分で買いに行ったのかよ。」
    「ホントだもんっ。セナ、ひゆ魔くんに嘘ついたことないよ?」
    「まぁな。(簡単に見破れるからだがな。)」
    「う〜〜〜。」
    「………言われてみれば、奴なら やりかねねぇか。」
    「でしょ? でしょ?」
    「こらこら、お二人さん。」
    「何だよ、桜庭。」
    「そんな妙なこと納得し合ってどうしますか。」
    「でもな〜。どっかで常識のレベルから外れてる奴だってのは否めないからな。」
    「そ、それは…。」


       こらこら、桜庭さんもそこで言い淀まない。
    (苦笑)



  〜Fine〜  05.3.14.


  *ホワイトデー話、まずは1つ。
   進さんを変人…もとえ、どっか変な人に仕立てあげるのは、
   これでも当初は随分と抵抗があったのですが。
   本誌の方でだって結構やりたい放題されてる人で、
   天才は人よりずば抜けて突出しているところがあるのを均すため、
   別なところがごっそり抉れててバランスを取っているって言いますしね。
   (……………だから?)

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