Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “鬼は外だっ、このヤロがっ!”
 



 今年に限ってお正月気分が長々と尾を引いていた…というよな格別なコトへは、めっきり縁がなかった身だったが。それでも、カレンダーをめくりつつ、もう二月かぁなんて妙に感慨深かったのは。暮れからこっちが結構忙しかったのと、一月の終盤には自分の誕生日があったので。晴れやか…とまでの仰々しい騒ぎはなかったもんの、それなりになかなか沸いた1週間だったせいもあろう。学生さんには一番短い三学期。年齢層が上がるほど、上の学校への進学への移行にまつわるものが幅を利かせるため、尚のことバタバタと忙しくなるものだが、
“そういや、今月中だったっけか? 卒業式。”
 自分らには部活でも学生としてでも直接の“先輩”は居ないも同然だったので、あんまり意識してはいなかったけれど。そういえば校内も、いつにも増して閑散としている印象が強く。進学するしないに関わらず、三年生たちが登校して来ていないせいだったのかと今頃気づいた、随分とお暢気な総長さん。少し曇り始めた昼下がり。愛機を駆って、通い慣れた道をゆく。トレードマークの白ランの裾を風に颯爽とひらめかせ…たかったところだが、ここ何日か少しは暖かだったものが、またぞろ寒が戻って来たので。いつもの“軽装”でのバイク通学は辞めさせてねと、母上からキツくキツく言われた執事さんが、車庫のシャッター前に…手足を広げての仁王立ちにて立ちはだかって下さったため。特に意地を張って強行するほどのことでもないかと、彼の側が折れてのダウンジャケット姿であったのだけれど。
“ハクがつかねぇんだよな、これだと。”
 そうですね、これではただの御用聞きのお兄さんと大差無いかも…。
(こらこら)そんな彼が相も変わらぬ“お迎え”に向かってる先にて待つ相手は、ただでさえ真下から“見下ろされてる”相性の坊や。先日もアメフトのエキシビションゲームの観戦に出掛けた時に、少々大層なロングコートを着て行ったところが、
『ジジむせぇな〜〜〜。』
 すっぱりと容赦なく、一刀両断して下さったほどで。口の悪さはあの年代の世界一かもしれない、相変わらずのトンガラシっぷりだったのへ、
“いちいちムッとしなくなってるってのも、問題なのかもなぁ…。”
 マヒしたか慣れたのか。いちいちこだわってちゃキリがないのだし、心が防衛本能を強くしての結果でそうなったのなら、彼自身の意志からのことでなし。さほど…そう、一頃に比べると、あんまり目に見えてのカッカとした態度は取らないことも珍しくはなくなっている葉柱で。同い年の子供同士でなし、むしろそれでこそ普通の対処だろうに。なのになんで、ちょっぴり浮かないお顔になったかと言えば…。

  「…っと。」

 幹線道路沿いの小学校が見えて来て、バイクのスピードを少しずつ緩める。まだ裸ん坊の山桜が校庭を巡る金網フェンス沿いに並んでおり、お昼からの授業がそろそろ始まるのか、ちょっぴり寒い校庭には子供たちの姿がない。その代わり、舗道に面した校門からは、小さなひよこさんたち…もとえ、黄色いお帽子をかぶった低学年の児童たちが、それぞれに様々な色合いのランドセルを揺らしもって、続々と出て来るところであり、
「せんせー、さよーなら。」
「せんせぇ、バイバイvv
 最近は物騒だからか、一応のお見送り。低学年担当の先生が“せめて此処まででも”と門のところに立つこととなったらしく、今日の担当は、体育の指導用なのか水色の地味なジャージを上着代わりに羽織ってた、うら若き女性教諭の、
「あら、葉柱くん。」
 こっちの素性をよくよく知ってる、もも組の姉崎先生だったりし。にこりんと笑ってそのまま“ぺこり”とお辞儀して下さるもんだから、
「あ、どーも。」
 釣られてこっちも、バイクに乗ったままで頭をぺこり。繁華街では怖いものなしという族の総長を張ってても、相変わらずに天然さんと善意には弱いお兄さんであるらしい。周囲には善良なお子たちが群れており、

  「わあ、バイクのお兄さんもやっぱりご挨拶はするんだね。」
  「そだぞ。センセがいつもゆってるじゃんか。」
  「こーつールールっていうの守らないと“めんきょ”がもらえないんだって。」
  「そか、ルールか。」

 それもどうかと思うことだが…お兄さん自体にはもう慣れてる小さなボクたちが、口々に感心しているのがこっちにも筒抜けで。

  「良い子でいないと虫歯になるんだよ。」
  「違うよぉ、もーちょーになるんだよぉ。」
  「なんだ、それ。」

 ホンマにね。誰んチですか、そんなややこしい躾をなさってるお宅は。(笑) ほらほら、ご迷惑だから離れなさい。早く帰らなきゃでしょうと、子供たちをやんわりと追いやりながら、
「蛭魔くんでしたら、すぐにも出て来ますよ?」
 というか。いつもだったら素晴らしいまでの早業で教室から飛び出してってる彼であるらしく。葉柱への連絡をつけたそのまま待っているのだが、今日に限っては姿が見えなくって。
「そこの昇降口へじゃなく、特別教室の方へと急いでましたから。」
 何か忘れ物とか、それとも…整備のために持ち帰るつもりの隠し小道具とか銃器とか
(う〜ん)を取りに行ったのかも知れませんと説明されて、
“…さすがは先生だよな。”
 正式に容認してはいなかろうけど、それでも一応はということか。結構きっちりと把握されてる坊やなのだなと、そこんところへ舌を巻く。子供たちへの配慮でか、エンジンも切ってのノン・アイドリングで待つこととなった彼へ、姉崎先生も妖一くんを待ってか、すぐにという授業はない身だからと立ち去らずにいて下さって。時折傍らを駆けてゆく子供たちへのご挨拶をしながら、何だか異様な組み合わせの二人連れが守る校門前と化してしまった。お陰で怪しい人は忍び寄れないかもだけど、怪しまれて人の目は集まるかもですね。どっちにしても防犯効果は絶大ですってか?
(笑)






            ◇



 今日だからこそのものとして仕込んであった悪戯の小道具を取りにと、総長さんへの電話をかけつつ、特別教室の一角、坊やしか鍵の番号を知らないロッカーへと向かったものの。
“あ、バイクの音。”
 遠くからのイグゾーストノイズでその到来を感知したお相手へ。何だよ、えらい速いじゃねぇか。さては今日も午後はサボってやがったな…なんて。自分が呼んどいて、しかも早く来てくれたのへと文句が出るとんでもない坊やだったりし。曇り空とはいえ、まだ多少は陽も射すのが、時折お廊下をさぁっと淡く照らし出す。そのタイミングへと通りかかるたび、小さな坊やのやわらかそうな金色の髪が明るく照り映えて。こちらも日本人離れした色白の額や、するりとした輪郭の淡いバラ色の頬へと、仄かな陰を落とす様のコントラストの、何とも可憐で可愛らしいこと。あんまり綺麗な拵
こしらえなもんだからと、たまたますれ違った先生方をにっこりと微笑ませたりもする彼だったが。
“…あれって、きっとおもちゃよね。”
“最近の工作では、課題なしで自由作品を作らせるっていうから。”
 手先が器用な子だって話も聞くし。だから、あんな…本物みたいなマシンガンの模型も作れちゃうのよねと。どう見ても画用紙やボール紙で作ったとは思えないブツの銃身が、レッスンバッグから堂々とはみ出していても。皆様、あんまり関心や注意が向かないらしい。………不審人物じゃないしねぇ。
(おいこら)
「…でね、来てたって。」
「え? あの彼が?」
 ホントはいけないことなんだけれど、たかたか・ぱたぱた、やっぱりランドセルを弾ませもって、お廊下を走って走ってやっとのこと、低学年用の昇降口まで辿り着けば。門の前から戻って来たらしいお見送り当番の先生方の何人かのお声が、壁のようにそびえ立つスチール製の下駄箱の向こうから、丁度聞こえて来たところ。この小学校では女性教諭の数が多くって、殊に低学年の担当は半分以上が女性の先生。此処からでは姿が見えないものの、妖一坊やにはお馴染みの先生がたの声がしており、
「今日は白のダウンジャケットだったわね。」
「あの学ランだと、さすがに寒いのかしら。」
「バイクだしねぇ。」
 ああ、やはり。どうやらルイのことを話しているらしいと、思った途端に息をつく。安堵の吐息が半分と、それから。
“………。”
 別に誰が何を話してようと、自分が気にすることではないのだし、情報としての価値があるもの以外、誰かの立ち話なんてものへはあんまり関心のアンテナも向かなかった筈なのにね。
“…なんか恥ずかしい真似とか、しちゃあいなかろうな。”
 それが心配だから、そう、自分へもお鉢が回って来かねないことだしなと、殊更に自分へ言い訳しつつ。上履きとスニーカーとを履き替えながら、お耳を澄ましていたならば、

  「けど、いつ見てもなかなかの男ぶりじゃない?」
  「え〜? そうですかぁ?」
  「ケーコ先生、守備範囲が広いから。」
  「何言ってんのよ。目鼻立ちとか整ってるわよ、彼。」

 お…?、と。坊やの小さな手が靴紐の上で止まる。耳をもつんざく乱暴極まりないイグゾーストノイズをばらまいて、いかにもな服装をし、挑発的にあたりを睥睨しもって伸し歩く、今時流の愚連隊。相手を怯ませるのが快感だとばかりに、臆病そうな相手を目ざとく見つけ、柄悪くもがなっては震え上がるのを嘲笑う。一応は都議の息子さんらしいけど、そういう種類の連中のお仲間がいるどうしようもない不良だろうなんて、せいぜいそんな風に把握されてんだろうと思っていたのに。下駄箱の向こうにて展開されてる会話のネタ、すぐそこまで来ているらしい総長さんに関してのお話にしては、何だか…思わぬ方向へと向かっていないか?

  「街で見たことないからですよう。」

   ――― そうそう、結構 柄悪いぞ、ルイってば。

  「ケーコ先生、ヒル魔くんと一緒にいる時の彼しか知らないんでしょ?」

   ――― む。何だよ、その言い方はよ。違いっての、何か知ってんのかよ。

  「あら、でも、あの子と一緒じゃあなかった時でも、
   そんなに怖そうな、いかにもな雰囲気じゃあなかったわよ?」

   ――― そんなん、どこで見たんだよ。

 …ヨウイチくん、ちょっと混乱しております。褒められてもムッと来るし、さりとて腐されても収まらないし。ほんに ややこしい人へ懸想したもんです。

  “…っ、だ、誰が懸想なんかしたよっ!/////////

 凄いなぁ。懸想したって言い方でも判るんだ。あんたホンマに小学二年生か?
(笑) 妙にお話しへと聞き入ってしまってて、靴の紐からさえとうに注意が逸れてた坊や。耳だけへと全神経で集中していたところへ、

  「姉崎センセと馬が合うなんて、
   気が優しい人だっていう何よりの証拠だしね。」
  「まあ、それはそうでしょうけど。」

 そんな発言が飛び込んで来たその途端、こっちの物音が聞こえようがどうしようがどうでもいいとばかり。勢いよくも立ち上がったので、その反動で簀の子ががたたんっと鳴ったほど。

  “…ぬぁんだと〜〜〜っ!”

 迎えに来いって呼んだのは俺だぞ俺。だってのに何やってやがんだ、あいつはよと。無意識のうちにも、靴の紐を結び終えてたそのまんま、歩き出しかけたその耳へ、じゃらりという音が届く。ああそうだ、これを忘れてた。手にしたレッスンバッグを見下ろし、スカジャンのポッケからは、携帯電話サイズのケースを掴み出す。からら・がちゃがちゃ、何かしら粒状のものが大量に入ってそうなそのケースを、にんまり笑って確かめて………。






 もうほとんど通る児童たちの影も無くなった校門のところには、ジャージを肩に羽織ったカッコの、坊やたちの担任の先生が立っており。
「あらあら、これなんかも可愛いじゃないですか。」
「…そうっすか?」
 確かに。まるで頬を寄せ合ってでもいるかのようなその構図は、二人の仲がよさそうにしか見えはせず。姉崎先生が何だかとっても楽しそうなお顔になっており、片やのお兄さんは、眉を下げての“参ったなぁ”という、渋いお茶でも飲まされたような。こういうシチェーションとか会話は苦手なんだがと、いかにもな困り顔をしていたのだけれど。…でもあのね? 坊やにはそれが、微妙に嬉しい喜色を含んでもいる時の、微妙なお顔だって判ったから。

  “…あんの野郎が〜〜〜。”

 それは愛らしい野ばらの蕾と形容されて久しいお口が…少々斜めにひん曲がり、少しほど力んだ溌剌さ加減も、今はまだ大きな丸みによって可愛らしいと形容されてる金茶の瞳が…その丸みをそれはシャープに尖らせて。ただ表面が白いだけでなく、深みのある印象を振り撒く色白な頬に…ますますの朱が走り。お人形さんのように形やバランス、そして所作までもが整った小さな両手には…黒光りする鋼の塊ががっつりと握られ、そして。

  「るいっ!」

 要領を得てよく通るその発声は、一体どこで身につけたそれなのやら。鋭くも短く叫んだその声が消え切らないうちに、校庭に響いた音があり。道路工事などで使われる削岩機のような。もしくは、鉄鋼をつなぐ鋼の鋲を打ち込むリベット器の作動音にも似た音とも聞こえたようなそれだったけれど。
「だ〜〜〜〜っ!」
 標的にされた側にはもっとずっと馴染みがあったから、正確なところというのがすぐに判った。
「おまえっ! それ、ヘッケラー&コックの○○年もののサブマシンガンじゃねぇかよっ。何でお気に入りのそんなもん、ガッコまで持って来ていやがるっ!」
 そんな物騒なもの、坊やが持ってるって事は知ってたのね、あなた。しかも“お気に入り”なんですか。ふ〜ん。
「うっせぇなっ! 今日は不埒な奴を撃っていい日なんだよっ!」
「ああ? 何判んねぇこと、言ってやがるかなっ!」
「他でもねぇ自分の胸に聞いてみなっ!」
 言い終わらぬうちにも、再びの射出音が過激に鳴り響き、
「わっ! こらっ! ゴーグルなしの相手へ撃つなっ!」
 ゴーグルがあったら構わないのね、あなたたち同士の間では。それでのことか、
「こらって! 先生にも当たんだろーがっ!」
 慣れのない人には、たといBB弾でもやっぱり怖くて危ないことだ。バイクにまたがったままでいたための已
やむを得ずのこと。何が始まったのかがいまだ判らず、呆然としている姉崎先生へと素早く手を伸ばすと。二の腕を掴んでぐいっと引き寄せ、出来るだけ露出部のないようにと腕を回して掻い込みながら、その深い懐ろに庇いつつ。強く抱き込めることで身を縮めさせて、狙撃者と化してる坊やへと背中を向ける。ぎゅぎゅうぅっと力強く抱きしめているその上に、自分に当たるのは構わないとした“盾”の構えだと、見るからに判る庇い方だったもんだから。坊やの心のどこらあたりを抉ったかは…判る人には判り過ぎる仕打ちでもあって。

  「ルイの馬鹿っっっ!!」

 あ〜あ。
(笑) とうとう、怒鳴った“襲撃者側”だった坊やが、そのまま踵を返すようにして、校舎内へと駆け込んでしまった。それを見やって、
「あっ、待てっ!」
 いつにも増してワケ判らんぞお前と、バイクから降りてそのまんま、先生はその場に置き去りにして、坊やの後を追ってった総長さんだったりし。
「…あ、これ…。」
 葉柱のお兄さんの携帯、持ったままだったことを思い出す。お友達からのお電話がかかって来てね。ぱかっと開いたその待ち受けが…なんと、あの小悪魔坊やのそりゃあ愛らしい笑顔の写真だったから。こんなお顔をするんですねぇとビックリし、他にはないんですかと、ついつい“見せて”っておねだりをしてしまったのだけれども。
“何か告げ口でもしているように見えたのかしら。”
 こんなほども激しく怒るなんてねと。足元やバイク回りに散らばった“弾丸”を見回していた姉崎先生。でも、途中で“あららぁ?”とその大きめの瞳を丸くしたのが、

  「…これって、豆だわ。」

 成程な〜。一応は“豆まき”なんだね、あれ。
(おいこら) とはいえ…いくらモデルガンででも、学校内での銃の乱射だなんてのは、やっぱりあってはいけないことだから。(まったくだ) そのまま学校中使っての鬼ごっこになったこと、すぐ後で教頭センセから烈火のごとく叱られたりもする彼らであったりし。そしてそして、

  「なんて判りやすい痴話喧嘩なんだかね。」

 子供には覚えさせてはいけない言い回しを、ついついしちゃったアイドルさんへ、
「うや? チワワの喧嘩ですか?」
 その腕へと抱え上げられていた小さな坊やが、ふかふかな髪を揺らして慌てたように辺りを見回す。どこにいるですか? おや、セナくんもチワワが好きなの? 大好きです〜vvvv じゃあ、今日は撮影現場でいっぱい逢えるから楽しみにしててねと、それは上手に誤魔化した、お帽子にサングラスで簡単に変装していた桜庭のお兄さんであったりし。
“あれじゃあ、僕との約束はしっかり忘れてんのね、ヨウちゃんてば。”
 今日は撮影のバイトがあるよと、昨日も確認のお電話とメールを入れたのにね。何だかいやな予感がしたもんだからと、わざわざ迎えに来てみれば…この騒ぎ。いやまあ、頭っからサボるつもりはなかったらしいけど、

  “一丁前に焼き餅焼いてまあvv

 確かに。あの綺麗な先生と葉柱くんとが、小さな携帯を揃って覗き込んでたなんてのは、和気藹々とした、いかにもラブリンな構図にも見えたから。それでの坊やのあの反応なんだろなというのが、事情通には何とも判りやすい光景というか経緯の流れであったりし。一応は時と場合、場所と相手を選んで。こういう“公共の場”なんてトコでは、最低限の“猫”っての、かぶって通すはずの妖一坊やが。そんなの全部吹っ飛ばし、ああまで判りやすく怒っただなんてね。
“そんなにも好きなんだねぇ、葉柱くんのこと。”
 本人は相変わらずに否定するけど。ムキになればなるほどに、肯定してるってことになるのにね。ほら、いつぞやだってさ。

  『ジジむせぇな〜〜〜。』

 皆でアメフト観戦に行った時のこと。総長さんの大仰だったコート姿を、すっぱりと容赦なく一刀両断していた坊やだったけれど。それと同時に…総長さんだけは近間すぎて気づかなかったらしいこと。一緒にお出掛けしてたお友達たちへは、ちゃ〜んと見えてたとある瞬間っていうのがあって。お兄さんのそのコートのあそびの分を、坊やの小さな手がこっそりと掴んでいたんですってね。
“こっそりってのがね、健気じゃないですか♪”
 着慣れないコートだったからこそ気がついてなかったお兄さんであり、それへと…ちょっとばかりホッとしていたヨウイチくんでもあったみたいで。バレたらバレたでからかいの延長に紛れさせ、そのまま“えいえいっ”て引っ張って誤魔化してしまうつもりだったのかもしれないけれど。そこんところが“かわいいなvv”なんてところまで、ついつい洞察しちゃった桜庭さんだったそうで。
「しょうがないなあ。じゃあ、セナくんにだけ来てもらおっか。」
「え?え? でも、いいですか? ヒユ魔くんのおしごと。」
「構うもんかい。忘れ切ってるヨウちゃんが悪い。」
 車のところに進も待ってる、早く行かないとあいつが来てもっとややこしいことに成りかねないしね。くすすと笑った桜庭さんが、キリよくくるりと背中を向けた、小学校の校舎内ではでは、

  「いい加減にしやがれっ、こらっ!」
  「やなこったっ!」

 曲がり角へと差しかかるといちいち振り返っての銃撃を浴びせ、あっかんべ〜っとわざとらしくも舌を出して。そのままくるりとお兄さんには背を向け、あらためて すたこらさと走り出す。悪戯や罵倒に辟易し、もう知らないとそっぽを向くよな、他の大人と同じような反応をしないし、諦めない。他の子供が相手ならともかくも、この坊やからのちょっかいには必ず食いつくのが、葉柱のお兄さんの一番に魅力的なところだからね。
“大人げねぇのvv
 でもでも、そんな“大人げのなさ”が、そのまま自分への好奇心なような気がして。だからね、セナくんは“怒られないか、怖くはないのか”と不思議がるけど、自分はこういう喧嘩腰も嫌いじゃない。
“…もしかして。”
 そう、もしかして。お兄さんの側でもね、そんなところ、とっくに気がついているのかも。今更素直になんてなれない坊やの、これが精一杯の甘え方だと判ってて、でも。丁々発止と受けて立つ以外の、受け流し方とかいなし方とか、大人流の小粋な躱し方なんて知らないし、先回りしてやれる周到さも許容もないからと。それでのこんな構いだて。慣れ切ったりマヒしたりせぬううちはずっとずっと、同じ目線で通してやろうじゃんかと開き直っての鬼ごっこ。大人げないぞというカッコで、自分の側が受ける恥なんての、全然かえりみてないお兄さんなのかも知れなくて。

  「待てっ。」
  「待てないよんvv

 怒ってた筈のヨウイチくんが、でもだけど、いつの間にやら楽しげに笑いながら逃げ回ってる。いきなり始まり、しかもしかも。途中途中に銃声も入り混じる、賑やかだけれどとっても物騒なそれでもあったこの“鬼ごっこ”は、そのまま小一時間ほど続いてしまい、くどいようだが教頭先生のお怒りを招くほどもの“一大事件”へと発展するのだけれど。

  “このっくらいの騒ぎなんてのは、まだ平和な方だって。”

 事情通ならその誰もが、そんな風に感じて、むしろ微笑ましいと思った程度。そんな末恐ろしい坊やだという認識も新たに、今にも訪れんとしている次の季節がいよいよ待ち遠しい、泥門市の皆様だったりするのであった。
(…おいおい)






  〜Fine〜  06.2.02.〜2.03.


  *時事ネタは逃したくなくて、ついついこのシリーズで書いてしまいました。
   ええ、はい。
   ここんとこ、ルイヒルばっかがたて続いてるのは自覚しております。
   次は“アドニス”の予定ですんで、
   妙な進さんを頑張って書きたいと思ってます。
(こらこら)
   勿論、鳥籠〜も頑張りますので、
   どうか豆はぶつけないで下さいませです。
(ひぃ〜ん)

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