Little AngelPretty devil ~ルイヒル年の差パラレル

    “天使降臨? 小悪魔襲来?”
 



 暖冬暖冬と言われつつ、それでも“寒の入り”を過ぎると一気に平年並みに追いつかんという勢いで厳寒期の気候に突入し。その落差のせいで風邪を拾ったのか、それとも暖冬のせいで早まった、今世紀最大規模と予想されている花粉のせいなのか。鼻をぐずぐず言わせてマスクが手放せなくなるという人が増えたらしい。これでも医者の端くれだから、そういう情報はついつい習慣で優先的に拾ってしまうのだが、

  「拾ったって使う機会は当分ないだろうが。」

 常の淡白なお顔でスパッと言ってくれた兄上に、ま~なと肩をすくめて、冬の陽射しに明るく照らされた芝生が広がる、窓の外へと詰まらなさそうに視線を投げやる。遠くにかすかに響くは、エコーをまとった館内放送。清潔優先の明るい室内は、素っ気無いほどに明るく白く、それが余計に気分を滅入らせる。小じゃれた住宅街の一等地にある自宅 兼 職場の歯科医院は、只今“全面改装中”で、そんなせいで…医者だってのに他所様の病院に世話になってる身の上だし。

  “あ~あ、だよな。”

 何とも面白くない状態だが、だからと言ってマメに世話を焼いてくれている双子の兄貴にごねてもしようがない。同い年で同じ顔。いつだって自分以上に落ち着き払ってて、生真面目そうに見せていて実は…何とも掴みどころがない相手だから。八つ当たりをしたってあっさり言い負かされるか躱されるかってのがオチだと判ってる。深刻に同情されてもそれはそれでこの場の空気が意味なく重くなるだけだし、ある意味で自業自得な現状なのだというのも重々判っていると来て、
“…割り切り上手な合理主義者だってのは、こういう時に詰まらんねぇ。”
 もしかして それって“自画自賛”でしょうか。
(苦笑)
“看護婦さんたちの顔もほとんど覚えちまったしな。”
 外来通院&往診オンリーの個人医院と違って、此処は入院設備つきの大きな総合病院だけに。自分がいる整形外科病棟だけでも、20人近い人数の、若くて気さくでお元気な、結構ランクの高い看護婦さんたちがきびきびと勤務していらっしゃり。しかもしかも…微妙に休患期だったせいか、個室に入ったイケメン患者だってことで向こうさんの方でも話題になっているらしく。最初の2日で全部の顔触れが入れ替わり立ち代わり覗きに来て下さったものだから、
“あっと言う間に新鮮味が薄れちまったもんなぁ。”
 ………あんた何のために入院しとるんだ、こんの贅沢もんが。え? 休患期ってのは何だ、ですって? ああ、えっと。正式な言いようじゃありませんし、特に整形外科という診療科に限られるだろう話なんですが。手術に緊急性のない症状である場合とか、もしくは術後に連綿とした長期リハビリが必要な病状である場合など、それが学生さんだったりするのなら、一番間近い長期休暇中に入院加療しましょうというプランを立てる。むやみやたらと学校を休むのはよろしくないからで、中学生や高校生のバレーやバスケ、サッカーの選手が、夏休みを利用して膝の半月板の摘出とリハビリをというような話はよく聞きます。…それはともかく。
“退屈だよなぁ。”
 病状的には自宅に帰ってもいい程度のそれなのだが、改装の真っ最中で結構喧しいだろうその只中で動けないでいるのも鬱陶しいし、傷めたのは体だが気持ちの上でも安静に過ごせるに越したことはないんだしと。それで個室が空いているようなら入院加療させてほしいと、こっちから言い出したのが始まりだったものの。根が殊勝の反対、謙虚の真逆という性分なので、退屈という要素にだけはなかなか太刀打ち出来なくて往生する。
「猫をかぶるのは得意中の得意だろうが。」
 医者とは思えないほど筋骨逞しく、そのくせ洒落者という突飛な風体をしてはいるが、案外と行儀の良い、人当たりがよくって気さくなフェミニストの歯医者さん。日頃からそんな仮面をかぶり通しているのだから、いっそ此処でもそれで通せば良い。ほどよい緊迫感があって退屈しないんじゃないのかと、やっぱり斟酌のない無責任な言いようをする兄に、とうとう“がう”と牙を剥こうとしたらば、

  ――― とんとん…。

 外の廊下に接してる大扉をノックする音が、静かな室内にまで届いた。
「お得意さんか?」
「いや…おかしいな。」
 自分が此処へ入院していることを知ってる顔触れはそんなにいないから、午前中に押しかけた組だけで全部の筈なんだがと、こっちも怪訝そうに首を傾げる。看護婦さんならノックしたそのまま“金剛さ~ん、検温ですよ~”と入って来ように、そんな気配もない。まま、いいかとそっちへ向かった兄の背を見送り、
“…はぁあ。”
 またまたやるせなさげに溜息をついたところへ、

  「何だ、この部屋。
   看護人の控えの間もついてんのか? VIPルームじゃんか。」

 一丁前なんだな~と続いた伸びやかな声。それへと…情けない話、胸元がちょっとばかり躍った、しようのない大人であるこちらさんは。そろそろお察しですねの、

  「阿~含。見舞いに来てやったぜ。」

 病室の主役たるリクライニング機能付ベッドに横になっていた、パジャマ姿のドレッドヘアのお兄さんの名前を大威張りで呼ばわりながら。くせのある後ろ髪が跳ね上がった金髪に、お人形さんのような愛らしくも端正な風貌をした、それは小柄な男の子が、バリアフリーの引き戸を開いて元気よく入って来た。小さなお手々に抱えていたガーベラと霞草の花束を右手左手と持ち替えながら、迎えにと出た雲水さんに小粋なデザインのコートを脱がせてもらっていて、
「スキーに行って、脚折ったんだってな。」
「…すっぱり言うかい。」
「回りくど~く言ったって しょーがなかろ。」
 これも雲水さんに花束を預け、ぱたたっとベッドの脇まで歩を進めて来た所作は、体の寸が詰まっているので何とも子供子供していて愛らしいのに、一丁前に目許を眇めて見せたそのお顔は…大人がして見せる“窘め顔”そのものであり、

  “こういう時だけ表情が豊かだってのは、詐欺なんじゃねぇのかね。”

 まずは一本取られて、何だかなぁと不貞腐れたりして。コートの下からは、キャラメル色の地に黒のアーガイル柄のセーターに包まれていた細い肩や薄いお胸、胸元には大人っぽくもネクタイを結び、ストライプのシャツに目の詰んだツィードのスラックス。本日はアイビー調のお衣装で固めていた、子供服のモデルさんのような華奢で愛らしい肢体が現れて、
“さてはこのまま仕事かな?”
 冗談抜きに、時々アイドルさんとの写真集だのポスター撮りだのというアルバイトもこなしている坊やなので、お見舞いとはいえ、その途中に立ち寄ったのかなと思ったほど。おいおい、その前に訊くことがあるだろうがと、
「学校はどうしたんだ? 妖一。」
 備え付けのちょいと可愛いデザインの腰高なスツールを、カシャンとワンタッチで組み立てて、どうぞと勧めつつ尋ねた雲水へ、
「今日は休み。ウチのガッコ、春休みに部分改修するらしくてさ。」
 測量とかが入るんで、短縮授業の多い低学年は3学期ずっと、土日以外にも週一で休みが入ってるんだよな、と。本来、いくら はしっこい子でも、こうまで事情を把握し、しかも大人に説明までは出来なかろうことを、すらすらと口に上らせる辺りが物凄く。続けざまに、
「なんか化粧臭くないか?」
 柔らかそうな淡い色合いの髪の裾を、小さな肩の上でパタパタと振りながら、室内を見回して訊く彼へ、
「ああ。ついさっきまでファンクラブのお姉さんたちが大挙して来てたからな。」
 ふふんと笑って、ついと通ったお鼻をそびやかすような。歌舞伎で言うところの“見得”を切って見せる、なかなかお茶目な阿含お兄さんだったが、
「ファンクラブぅ?」
 怪訝そうに細い眉を顰めたお顔もなかなか堂に入った、相変わらずに子供離れしたところが満載の坊や。

 「歯医者のファンクラブなんか作ってどうすんだ。8020運動でも推進すんのか?」

 八十歳まで最低二十本は自分の歯を保ちましょう。これって達成するの難しいんですってねぇ。虫歯はなくとも、歯槽膿漏なんかでごっそりやられたりしますから。
「そうじゃなくって。」
 坊やだとて判っていて言ってるに違いないのにね。ついつい乗せられてしまうお兄さんなところが、

  “可愛い奴だよな。”

 どういう心境から出ている一言なのやら。表情は動かないままにそんなことを思いつつ、頂いた花束を洗い場の水桶へとつけがてら、手際よくパタパタと動き惜しみをしない人。小さなトレイにジンジャエールをそそいだスリムなグラスを載せて戻って来、妖一坊やに差し出している雲水さんであり、
「ありがとーvv
 きちんとお礼を言う坊やへ、
「…お前、雲水には行儀良いのな。」
 おやまあ、さっそくにも大人げない発言が。何を言い出すかねと苦笑した、作務服姿の兄上の傍らで、
「だって、雲水の兄ちゃんは優しーもん。」
 しゃあしゃあと言ってのけ、ちゃんとお椅子に座ってから、ストローに口をつける。昔っからこの兄弟に接する時、構ってくれるのは良いのだがすぐに調子に乗ってちょいと意地悪を仕掛けるのが阿含なら、それを窘めたり、窮地から坊やを掬い上げてやるのが兄上の役どころだったので、最終的には雲水の方にばかり懐いていた坊やであり。最近に至っては、わざわざ構いにやって来るのは阿含の方ばかりなので、たまにしか逢えない雲水に稀少性でも覚えるのか、並んでいれば…やっぱり兄上の方へとよく懐く坊やだったりするそうで。
“………狡い。”
 特に関心もなさそうな顔をしつつ、上手く立ち回りおってからにと感じたらしいが、こらこら、それこそ大人げないぞ。
(苦笑) それでもまあ、お使いでというならともかくも、自発的にお見舞いに来るなんて、こんな小さなお子様には思いつきもしなかろうこと。利発さから思いはしても、そうなればそうで退屈だろうにと思えば、わざわざの御足労はそれだけの思い入れもあってのことかもと気を取り直して、
「大体、何でお前が俺の入院を知ってるんだ。」
 …素直じゃないです、お兄さんたら。訊かれた坊やはというと、サイドテーブルへとグラスを置いて、
「阿含チ、今、家の改修してんだろ?」
 けろりと応じる。
「それを請け負ってるムサシから桜庭が話を聞いてサ。それで俺に“見舞って来い”って話が来た。」
「…何じゃそりゃ。」
 工務店の大工さんからアイドルさんへの伝言だったですか。相変わらずに不思議な交友関係で、一体どういう連絡網なんでしょうか。
(笑)
「桜庭がな、阿含は日頃余裕の構えでいる方だから、俺が行ってピリピリって緊張させてやれって。そしたら、新陳代謝が活発になって、骨の再生化も早まって、そいで治りが早まるかもしれないぞって。そりゃあもっともだって思ったから来てやった。」
「ほほぉ。」
 色々な業種の大人たちから、それぞれなりの愛情で可愛がられている坊やであり、そんな環境にいるせいで、おませな口利きや態度の方にも磨きがかかったと言えなくはなく。
「それにしても。スキーとかスノボとか得意だったクセにさ。なんで脚なんか折ったりしたんだ?」
 ラフの骨頂だろう、パジャマ姿のその下半身。長い御々脚の左の方を、純白の石膏を染ませたギプスに固められているがゆえ、入院なんてな仰々しい運びに陥っているお兄さんであり。その原因だと聞かされたウィンタースポーツの数々に、いかに長けている彼なのかをよ~く知っている坊やにしてみれば、
「カッパの川流れだな。」
「…お前、ムサシから ことわざ習うのはいい加減にやめろ。」
 年寄り臭いぞ。放っとけよ、センセとか母ちゃんのお友達には褒められんだよ。そんなやり取りを挟んでから、
「一人だったらこんな無様はしちゃあいないさ。」
 渋々ながら詳細を説明し始めるお医者様。自宅 兼 医院が改装中は、当然のことながら診察の方も一時お休み。そこでと、ファンクラブのマダムたちが誘い合わせて“お素敵なセンセーと白銀の世界で遊ぶスキーツアー”なるものを計画して下さり。年末からこっちは独身女性たちとのアバンチュールにかまけていたので、ここらで奥様方にもお愛想を振り撒いておこうかなと同行したところが…初心者だった某様のスキーが暴走し、それを捨て身で止めたその結果が“これ”だそうで。
「…人助けだなんて慣れないことすっからだ。」
「そこまで言うかい。」
 似合わね~と、可愛げのないお言いようをして下さる小悪魔くんだが、そぉっと伸ばした小さな手で堅いギプスに触れ、そのまま そおと撫でてくれるところはなかなか可愛らしい。
 
 

撫で撫で
 

 
“…ったく。”
 本質的には優しい子なのだ。いかにも我儘な子供のやりたい放題に見せておいて、実は…思わぬところで気を遣っていたと知らされるような運びが、これまでにもどれほどあったことか。この年齢で驚くほどに視野が広くて、色々なことへ詳しいだけでなく、大人顔負けの洞察力も持ち合わせていて。

  ――― 子供扱いされたくなければ、
       まずは自分の身の回りを完璧にこなし、その身を守り切れ。

 その父親から、一端
(いっぱし)に偉そうにしたけりゃ まずは足手まといになるなと、それこそ“対等な一人前扱い”を前提にされて育ったせいか、もっと小さい頃から独立心や克己心の強い子で。偉いね凄いねと型通りに褒められても、心からは喜んでないなと判る自分たちには、その懸命な一途さこそが愛惜しくって。今からこれじゃあどんな凄い人物になることかと、内心わくわくしながら見守って来たのにね。

  「…此処へは、どうやって来たんだ?」

 何となく。ついついという風を装って訊いてみた。自分から話を振ってどうするよと苦々しく感じつつ、でも…訊きたいような。そんな微妙なポイントで。
「どうって。バスん乗って来た。」
 けろりと応じ、それから。
「ルイは、まだガッコだ。」
 しっかり付け足し、にんまりと笑って見せる。こっちが過敏にもピンポイントでもって気にかけてるのを知っていて、そこで故意に名前まで持ち出した…という風にも取れなくはないし。若しくは、ただ単に年上のお兄さんを良いように顎で使っていることを、誰へでも自慢したいだけなようにも見えなくはなくて。

  「なあ。」
  「んん?」
  「何であんなのが気に入ってるワケ?」
  「あんなのって何だよ。」

 愛らしい容姿は玲瓏として冴え、大人顔負けの機知とウィットを持ち。子供のくせに憎たらしいほど察しがよくて賢くて。恐らくはあのバイク乗りのお兄さんの何倍も、頭の回転の早い子で。PCの取り扱い方や様々な雑学に物の道理というものへまで。そりゃあよく通じているその上に、演技力もあればそれらを駆使して築いた人脈だって半端じゃない。ただの頭でっかちじゃなく、人としての厚みというか“奥行き”というものまで、今からこれほど備えている、末恐ろしい小さな坊や。

  “だってのによ。”

 なんでまた…選りにも選って。あんな、どこにでも居そうな、不器用でお馬鹿そうなのに食指をそそられて懐いているかなと。妙に気持ちの不整合を感じてしまって落ち着けない。桜庭と仲が良いのは気にならない。華やかな容姿とソフトな人当たりにカモフラージュさせた内面に、結構強かなところもあるあの青年アイドルさんならば、坊やと対等に渡り合えるだろうから…少なくともマイナスにはならない筈で。頑迷で気の利かない進もまた、可愛げのない子供だと受け止めて、甘やかさないで馬鹿正直に真っ直ぐ向かい合うところが、坊やへは良い刺激になることだろうから、接することへの文句はないのだが。

  “あのお兄さんだけはちょっとなあ…。”

 危険だと何かが騒いでやまない。凡庸すぎるところがこれまでになかったタイプだから、それで関心が向いている坊やなのだろうか。育ちが良いくせに不良っぽくて。族の総長なんてな地位に立ってるくせに、子供に良いように振り回されていることを自分に許してもいて。世の中のモラルは一応でいいから守っとけ…な妖一が、試合を没収されかねない大切な時期なのに、自分らの仁義の順序の方を優先して大喧嘩した彼を理解出来ないと。そうと言いつつ…捨て置くでなく見限るでなく、困ったようなお顔をして見せた辺りから、こりゃあ不味いかなと思っていたのだが。だからと言って、まだまだ小学生の君だから。周到に準備を整えた上で掻っ攫うというのは、この自分には難しくはないことながら、だからこそ何とも大人げないような気もするし。(…と言いつつ、いつぞや横浜まで攫ってったのは、何処のどどいつだい。)
“深窓の令嬢が不良に惚れるってのとも違うしな。”
 早く治れとおまじないでもしてくれているのか、いつまでもギプス撫で撫でを続けてくれている可愛らしい坊やの、ちょいと伏し目がちになった甘くて稚いお顔に見とれつつ。困った方向性の恋路へと、今にも雪崩込まんとしかかっている坊やの行く末を案じている、こっちこそ見かけを裏切ってなかなかお優しい歯医者さんだったりするのであった。





            ◇



 今年のスーパーボウルはどことどこの対戦になるのかなどと、小一時間ほども他愛のない会話などに沸いてから、じゃあそろそろと席から立った坊やであり。帰りにはタクシーでも呼んでやろうかと雲水が申し出たところが、
「ううん。そろそろあっちも授業が終わる頃だから迎えに来させる。」
 ああそうですか。あまりに当然そうに言い切るものだから、毒気が抜かれ、じゃあなと手を振って病室から出てった小悪魔くんの残像へ、改めて“はぁあ”と溜息をこぼす歯医者さん。確かに楽しい時間を過ごせたが、去ってしまえばもっと味気無いから始末が悪いぞなんて、またまた大人げない駄々を胸の裡へふつふつと滾
(たぎ)らせかかっていたのだが。

  「…? 何だ、落書きされたんだな。」
  「え?」

 せっかくのお見舞いなんだからと、気を利かせて席を外していた雲水が、さっきまで坊やが腰掛けていたスツールをしまいがてらに目が行ったらしく、ギプスの側面を指さして見せ、
「そこからじゃあ読みにくいか。」
 サイドボードの引き出しから、手鏡を取り出すとそれに映して見せてくれたのが、一体いつの間に書かれたものだか、黒いサインペンで書かれた小さな文字列。

  《 早く治せよ。他の歯医者にかかる気はないからな。》

 まずは意味が飲み込めなくて、次には書かれたメッセージとそれを書いたらしき人物というのが、頭の中でどうしても一致してくれなくって。

  “うわぁ~~~。なんて似合わないことを………。”

 こらこら。
(笑)
「何てことをしやがるかな、まったくよ。」
 迷惑なことをしやがって。偉そうにしてたってガキはガキだよな。気の利いたジョークのつもりかな。ひたすら こきおろすような言いようを並べる弟へ、はいはいと適当に相槌を打ってやり、

  “判ったから、午後の検温までにはその情けない顔を何とかしろよ。”

 込み上げる嬉しさが塗りたくられてて何とも素直なもんじゃあないかと、こちらさんはきっちりと無表情の下へ苦笑を塗り潰している、雲水お兄さんのモノローグだったりするのである。


  ――― 子供に振り回されるってトコでは、
       問題のお兄さんといい勝負じゃあないですか。ねぇ?













   aniaqua.gif おまけ aniaqua.gif


  「いやぁ~、やっぱ芸能人ってのは図太さとか肝の座り方が違うよなぁ。」
  「はい?」

 いやに感慨深げになって首など振って見せたりするものだから、一体何事があったのかと、その周囲に集まったチームメイトの何人か。今日は例のおチビさんから呼び出しがかからなかったらしい総長さんは、背もたれのないベンチの座板へ一冊の雑誌を乗っけると、とあるページを開いて見せる。どちらかというと女性向けの大判グラビア月刊誌で、そこに掲載されていたのはインタビューを交えた特集であるらしく、大小のスナップ写真が何枚かと、記者とゲストの対談の模様を綴った記事とがきれいにレイアウトされているのだが、
「ほら、これだ。」
 総長さんが指さしたのは、片側1頁丸々という大きな写真。只今売り出し中の某アイドルさんへの今後の活動予定などをインタビューしつつ撮ったものとは別口なのだろう。どこか屋外で撮ったという開放的な雰囲気のもので、長いめの亜麻色の髪が陽に温められて、ますますと甘い色合いを強めていて。そんな彼が懐ろへと抱えてやっている、金髪の小さな男の子がこれまた何とも愛らしい。
「これが…どうかしましたか?」
「よく見なよ。チビの“うるうるお目々で上目遣い、指組み合掌つき”のおねだりだってのに。こんな強烈な“お願いvv”を平然と受け流せるんだぜ?」
 凄げぇよな~、俺だったら後ずさりしつつ ついつい流されるよな~。やたら感心している総長さんへ、
「…そうっすか。」
 それ以上の言葉が継げない。確かにね、この坊やは自分たちも知っている。生で間近で見てもいる。こんなもんじゃない、もっと可愛い愛くるしい子だってことも知っている。そんな子がこんな愛らしい仕草をしたらば、どんなに可愛いかも理解は出来る。でもさ、

  “腰砕けになるっすか。”

 そんなヘッドだってのも問題多々有りではと、思いはしても言い出せない、少々
(?)お気の毒な彼らだったりするのである。





  ~Fine~  05.1.26.~1.27.


  *恐らく、まだカミングアウトはしてないと思います。
(笑)
   一刻も早い方がいいのか、いっそ一生黙っててほしいのか。
   チームメイトの皆さん、どっちなんでしょうね?

ご感想はこちらへvv**

戻る