Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “閑話 〜これもあり
 



 スロースタートだった割にというか、だからこそというものなのか。今年もやっぱり、一昨年や昨年に引けを取らないくらい、あちこちで色々なことが記録的だったという、とんでもなく暑い日々の多かった夏休みも、過ぎてしまえばあっと言う間に明けてしまい、
「暑いのがピタッとどっか行くわけじゃねぇけどな。」
「そんでも朝晩は涼しくなったじゃねぇか。」
 そして今日は、朝からの雨催い。クシャミで起きたと二階から下りて行けば、お母さんが心配しておでこへ手のひらを伏せてくれたのだが。迂闊にも予想してない間合いだったし、あまりに唐突で思いがけなかったもんだから、一瞬、総身が凍ってしまった坊やだったのだとか。
『あれはねぇよな。フェイントだ。////////
 全くもうもう、母ちゃんもさぁ、いつまでも子供扱いすんのは辞めてほしいよな、なんて。照れ隠しだとありあり判る喧嘩腰という、いかにも判りやすい怒りようをして、今朝の出来事を語ってくれた坊やだったが、
“その程度のことで怒るところが可愛いってんだよな。”
 相手は母親で、しかも心配してくれてのこと。いっそノリでもって、たるんでも緩んでもいいのにね。心配かけてごめ〜んvvなんて言って ゴロゴロ甘えて見せて、そんなおふざけが出るようならばと安心させる手もあるのに。こんな判りやすくも感情をあらわにしているとはね。
“まあ、そこまでの周到さを発揮出来るともなりゃ、今度は末恐ろしいばっかだがな。”
 子供扱いされることへ引っ掛かってるところが、いっそ子供な証拠じゃねぇかなんて、その内心にて のほのほと苦笑している、相変わらずに親ばかな総長さんだったりするらしい。お言葉ですが、葉柱さん。その坊やは今の時点で十分に 末恐ろしいお子様です。
(笑)
“…おや?”
 という訳で。今日は朝から雨だったからと、バイクでのお迎えは見込まず、こちらも勝手知ったる路線バスにて賊学までやって来た、蛭魔さんチのヨウイチ坊やであり。部室よりも電波状態のいい昇降口で待機していた総長さん。そろそろ着くよという携帯への呼び出しコールを受けて、傘立てにあった誰のだか判らない置き傘をぽんっと開くと。今日ばかりはこの暑いのにという方向での大仰じゃあなかろう、くるぶしまでありそな白い長ランの裾を翻しもって。正門の少し先、賊学生たちが悪戯しまくり落書きしまくりなため、それは小まめに時刻表のところだけが真新しくなる煤けたバス停までをお出迎え。そんなにひどい降りでもない中、時刻表どおりに到着したバスのドアから、明るい髪色をした子供がぴょこりと降り立ち。頭の上へ差しかけられた傘の中、嬉しそうに“えへへぇvv”なんて笑って見せる。それこそまだまだ暑いってのに、Tシャツだけじゃあなく、薄い生地ながらオーバーシャツを重ね着しているところが、さりげなくお洒落な金髪の坊や。並んで歩き始めたお迎えのお兄さんがずば抜けて長身だから、余計にちょこりと小さく見えるし。なめらかな線で縁取られた腕も脚も、筋肉になんてまだまだ縁がなく、それはそれは華奢な肩も胸幅も女の子みたいに薄くって。
「…え?」
「あらvv
 通りすがりの女性たちが、ついつい眸を留め、お互いを肘で突々き合いながら、視線だけをいつまでも彼へと向け続けるのもいつものこと。可愛いわよねぇvv 子役とかモデルさんかしら? どっかの外国大使のお坊っちゃまかもvv 目許が印象的でvv あらスタイルがいいのよォvv 好き勝手言われるのにもとうに慣れたか、耳にも入らぬ様子で お澄まししているが。
“悪口だと案外きっちり拾って覚えてやがるのもまた、器用っちゃ器用だがよ。”
 これぞ正しく“地獄耳”という奴なのか。ウチの一年生辺りがうっかり口をすべらせたりした日にゃあ、しっかり聞いてて…翌日には親と同居の実家へデリヘル嬢が1ダースほど詰め掛けちゃったなんてな、ちょいと過激なお仕置きだってしかねないから怖い怖いと、ついつい首をすくめた葉柱さんだが、坊やの方はそんなこと、知ったこっちゃなかったようで。
「来週には、もう開会式だもんな。」
 この時期には毎度のご紹介なので くどいようだが、新学期が始まると同時にこちらもその幕が上がるのが、アメリカンフットボールの高校生選手権、秋季東京都大会で。ほぼ同じ時期にやはり盛り上がる、同じような団体球技のサッカーやラグビーに比べると…高校総体(インターハイ)やら秋の国体に、種目としてエントリーされてないあたりを考慮しても、まだちょっと学生レベルのそれとしてはメジャーと言い切れぬ競技ながら。近年の嗜好の多角化のこれも波及か、そこへ加えて、協会側の…少年まんがやフラッグフットの振興など子供にも入りやすい入口を広めた活動の成果か。プレイヤー数も観客数もなかなかの伸びであるとかないとか。
「そんでも、大学リーグほどの盛り上がりにはまだまだ遠いよな。」
 ルイはすぐにも大学に上がる身だから、もう通り過ぎちゃったトコのことになんだろけどよ。こちらさんもポンと開いた、少し小ぶりの可愛らしい傘。透明なビニール傘ながら、使い捨てには到底見えない、裾に近い縁をぐるりと、馬具だろうかベルトと金具が幾つも幾つも、絡まり合いながら流れてるような図柄がプリントされた小粋なの、くるんくるんと肩口に回しつつ、
「俺には“将来
さき”の話だからな。」
 真剣にもならぁと鹿爪らしいお顔になって見せて、それらしいお言いようを語る語る坊やでもあって。
「やっぱサ、学生スポーツでも、今時はスター・プレイヤーが出ねぇとな。」
 それも、華がある奴じゃねぇとダメなんだよな。例えば進の奴がどんなに人並み外れて強くても、実直・地味すぎて世間一般でまではなかなか騒がれねぇし。かといって華ならお任せだろ桜庭じゃあ、まだまだ“ゲームまで見たい”ってさせるほどには実力が付いて来てねぇし…なんてまあ。うっかり同意するのはどうかというよな評を、まだまだ薄いお胸を張って、しゃあしゃあと言ってのけちゃう小悪魔くん。
“…桜庭には ちと悪いが。”
 言ってることには筋が通っているからなぁと、総長さんが思ったほどに、単なる大人の真似、知ったかぶりじゃあないところが、やはりやはり恐ろしいお子様であり。
「まあ見てな。俺が高校生になった暁には、メディアを駆使してぱぁーっと盛り上げたその上で、凄っげぇ試合をガンガン披露して、日本の学生アメフトがこんなレベルになってたなんて嘘だろって、全国版スポーツ紙のデスクどもに一泡吹かせてやんだからよ。」
 ここだけを聞くと、子供らしい壮大なドリームなんだがな。
“こいつの場合、恐ろしいほどの手際を駆使出来っからなぁ。”
 何年後なんて言わずとも、今日明日にもやり遂げそうで怖えぇって、と。思わず大きな肩をすくめてしまった、総長さんだったりし。

  「? 何、やに下がってやがんだよ、ルイ。」
  「あ? やに下がってたか?」

 つか、どんな風なんだそりゃ。隙だらけになって、何か やらしーこと想像してやがるみたいな、だらしのねぇ顔をするこった。なぁ〜んだ、そりゃ。高校生なんだから、そんくらいの言葉や言い回しくらい知ってろよな、なんて。相変わらずのやり取りをぽんぽんと交しつつ、校庭を並んで歩く不思議な取り合わせの大小二つの影を、しめやかな雨脚だけが見送っております、九月の午後で。………ちなみに“やに下がる”の正確な意味合いは、得意になって(若しくは自惚れて)ニヤニヤすること、だそうですが。肩をすくめて“やれやれ”と思いつつ、実はにやにや笑っていたあたり。やっぱ“親ばか”には違いないです、総長サマ。(くすすvv





            ◇



 屋根のある渡り廊下で傘を畳んで、さあと着いたは特別棟。そのまま部室へ到着すると、結構な顔触れが既に集まって、何やらわいわいと沸いており、
「あ、ヘッド。」
「ルイさん、ちわっすvv」
「押忍っ。」
 こちらに気づいた面々から、様々に挨拶が飛んでくるのはいつもと一緒だが、何か…何だか空気が微妙に違うような。こっちへと向けられる視線に、微妙な何か。慌てふためきとか動揺が出てる奴もいりゃあ、何かしらを我慢しているその無理が、消せずに滲んでいる奴もおり。間違いなく共通しているのは、どいつもこいつも、自分たちの総長を、いつも以上にまじまじと眺めやってる気配がビンビン。
「…俺の顔に、何かついてんのかよ。」
 さすがにそういう空気には敏感な、半端なガンつけ くれてんじゃねぇよという、そっちの筋の頭目でもあるもんだから。さっきまでの親ばかな空気なんて何処へやら、一気にかなぐり捨てての“じろり…”という一瞥を振り向けた面差しの、まあまあ何とも怖いこと。何たって、ただ賊学カメレオンズの元主将ってだけじゃあない。泥門〜雨太の駅前繁華街を中心に、幹線道路沿いの一円を一手に仕切ってもいる族の頭目でもあるが故。気合いとか威勢でも相手をねじ伏せちまうのが、そっちの筋の基本だからね。
“いや、基本だからね…って言い方も どうかと。”
 そうと思いはしながらも、何か空気が違うなってのは、こちらもしっかり察してたらしい小悪魔坊や。その小ささを生かしてのこと、お兄さんたちの隙間、主に脇やら腕の隙間を縫うように、掻いくぐるようにして、視線を先へと延ばしてみれば。
「…メグさん?」
 さして広くはないけれど、それでも奥行きはある部室の窓辺。今は緑の葉っぱばかりなアジサイの茂みがしっとり濡れてる、小さな中庭の花壇が目先に望める、古くて煤けたサッシの傍ら。前から置き去りの机を幾つかくっつけ、テーブル代わりにしているスペースに、これも坊やにはお馴染みさんの姐御がいるのが見えたんだけれど、
「…っ!」
 その声に釣られ、やはりそっちを見やった総長さんが…ハッとして、それから。
「…え?」
 それからの動作が、まあまあ速かったこと速かったこと。さすがはカメレオンズの元キャプテンって面目躍如か。坊やが延ばした視線の軌跡そのままに、自慢の長い脚と腕、素早く踏み出し、そのまま伸ばしての瞬殺一閃。
“殺してないって。”
 あははvv それこそ、言葉の綾ですようったらvv なかなかの反射は真摯な集中をしたればこそ。よって、そんな勢いが…そのまま殺気立ってるような解釈も出来たか、進路に立ってた若い衆…もとえ、後輩たちが跳ね退くように道を空けもし、ずいと踏み出したその ほぼ一歩だけで到達出来たお兄さん。そこにいたお姉様のすぐ手元から、
「あ…っ。」
 制する間もあらばこそという素早さで、一気に搦め捕ったものがあり。
「何すんのよっ。」
 ご挨拶なしの“問答無用”という行為を受けて、そこはむっと来たのだろう。取り返そうとパイプ椅子から立ち上がるメグさんへ、
「何すんの、じゃなかろうが。」
 じろりとばかり。こちらさんも結構本気モードの三白眼が、強気の眼差しで睨
め返す。
「おおおっ。」
「こ、これはっ!
 片や、ここいら一帯を実力と男気で締めてまとめて3年目。大人の“本物”のそれもんさんたちへだって怖じけやしない、貫禄と腕っ節じゃあ誰にも負けねぇぜの葉柱ルイさんだったなら。それがどうした、あたしは曲がったことと女の腐ったような奴が大っ嫌いでねと。誰が相手だろうが、言うときゃ言うし、立つときゃ立つよと勇んで雄々しい、鉄火肌で知られたメグ姐さん。日頃から強気で、誰が相手でも別け隔てなく ポンポンと物を言うけど、その実は。男を立てるということをちゃんと知ってる姐さんと。ここ一番って時以外は“無駄吠え”しないのが ホンマもんの男だと、常に行動で体現し。女子供の多少のお茶目には、目くじら立てないでいる総長と。

  「それが何でまた、結構本気モードで睨み合ってんの?」

 奇しくもというか、成り行き上でというか。突然、竜虎相打つの構図になってるこの只中にあって。いつもの鋭さから言えば珍しいことに、どうやら唯一 事情がまるきり判らないままな金髪坊やだったのだが、

  「………あ。」

 どうやら問題の根源は、お兄さんの手の中にあるみたいだと、今ようやっと気がついた。自分が見つけて、だけれど、行動という瞬発力…と腕の長さでは惜しいかな、お兄さんに負けちゃったがため、先に素早く攫われちゃった“ブツ”。
「ルイ、それ。」
 声を掛けたが、応じてくれない。
「なあって。ルイ。」
 出遅れた分の距離を、ぱたた…と駆け寄って詰めたものの、
「…あ。」
 無造作に持ったままでいたのは丁度お兄さんの胸元で、近寄ればヨウイチ坊やでも何とか覗けそうだった、そんな高さにあったのに。間違いなく、坊やが近づいて来たのが判ってて、それで遠ざけようと…ひょいって、顔の近くまでわざわざ持ち上げた素振りを見たもんだから。

  「何だよ、それっ。」
  「何でもねぇよ。」
  「それじゃなくってっ!」
  「何だよ“それ”って訊いただろうが。」
  「俺が訊いたんは物のこっちゃねぇ、遠ざけた態度の方だっ。」

 おおう。今度はこっちとの鍔競り合いでしょうか。いきなりの“後門の虎・前門の狼”か。それとも“虎口を逃げて龍穴に入る”状態か。
(こらこら) こちらさんもまた、日頃は尻に敷かれて…もとえ、どんな悪たれを言われても怒らずに聞き流してやるほどに、総長さんがそりゃあ可愛がってる対象で。坊やの側が、姑息にも何かの威を借りたり笠に着たりしない、この年齢でここまで完成さすかというほど、すこぶるつきに自負の強い子だから、そこを見込んでというのが大きに理由ではあるけれど。それにしたって…コトと場合によっては、あのね? その原則も、そうそう貫徹されないかもで。
「わざわざ見せる必要がないからだ。」
「何でもないんなら、観念して見せろよっ!」
「さっきは物のことは訊いてねぇって言ったろが。」
「でも“それ”って何でもねぇんだろ? なら見せろ。」
「何だよ、新しい屁理屈か?」
「ルイの言ってることの方が、立派に無茶苦茶なんだってっ。」
 いつもの舌戦が始まってしまっても、聞く側もこうなると慣れたもの。残念ながら、今のやりとりはやっぱ。坊主の言い分の方が、巧妙ながらも正しいですと、胸の内にて拍手しちゃった部員が何人か。しかもしかも、

  「見せろっ!」
  「やだね。」
  「見せろってばっ!」
  「ごめんだね。」

 最初に睨み合ってたメグさんと、向かい合ったままながら。でもだけど、完全に会話の相手は交替しており。
「ルイっ!」
「ヤダっつっとろうがよっ。」
 駆け寄って来た坊やが、懐ろや脇へ取りついて“ねえねえ”と引っ張っても。爪先立ちで頑張って、えいっと手を伸ばして来ても。そこからムキになって遠ざけ続けた、総長さんだったりしたもんだから、
“…あららぁ。”
“そんなムキになるから余計に…。”
“火に油、だよな。”
“うんうん。”
 一歩間違や、これもまた立派な“痴話ゲンカ”で。大人げないのの等身大見本へ向けて、ちょっぴり呆れた一堂の前で、

  「…っ、こんのぉ〜〜〜っ!」

 とうとうキレたか、小さなお手々が背中を掴む。喧嘩の時のユニフォームも兼用の、晴れの衣装でもあるからか。座ることより立ち姿に華をという、タキシードのような“形式美”優先じゃあない、動きやすいように余裕のある仕立ての白ランは、着馴れての柔らかさで、坊やの握力でも十分掴みやすいと先刻承知だったらしくって。掴んだそのまま、なんとなんと…。
「あっ、こら…っ!」
「うるせっ!」
 文字通り、坊やの体重全てを掛けてだろう、思い切りのいい引きで。ぐい〜んっと後方へ引かれたことへ、はっとした時にはもう遅かった。
「おおうっ。」
「すげ…;」
 お暢気な歓声を上げてる周囲も周囲だが、気持ちは…判る。だって、あのね?
「………おい。」
「なに?」
 お兄さんからの“ちょっと待て・こら”という含みのある語調へ、気づいているやらいないやら。生返事を返したそのまま、お兄さんと同じ高さになった…いやいや、ちょっぴり上かもしんない目線で、そこから見上げた…大きめに引き伸ばされた一枚の写真をじっと。夜空の輝く星でも仰ぐよに、じっと見上げてる坊やだったりしたもんで。

  「なんだ。ルイの小さい頃の写真じゃんか。」
  「………まぁな。」

 湘南の別荘にも一杯あったじゃんか。ああ、あれと同んなじだ。けど、こっちのは…何でスカートはいてんだ? さぁな、おふくろの趣味だろよ。下のは? …こっちはまともだ。うん、でも何でか セナみたいに かーいいぞ? 目玉がデカかったからな。ああ、そんでフリフリの服が似合ってるんか〜vv
「メグんチにネガがあったんだと。」
「そ。整理してたら出て来てさ。デジカメ全盛の今時だろ? プリントしてくれるトコって、すぐにも無くなっちゃうんじゃないかって、ウチの母さんが慌ててね。」
 総長さんのお声の後をメグさんが引き継いで、
「そいで、結構あったルイの写真を届けといておくれって頼まれたんで、持って来たってワケ。」
 確かにデジカメ全盛ではあるけれど、全国の全部のお店がそういうサービスを一斉にやめちゃうとは思えないし、ネガからでもプリントアウト出来る複合プリンターとかはあるってのにネ。CDの凄まじい勢いの普及から、カーボンディスクのレコードをかけるターンテーブルの生産が止まったのと、全く同じことが起こるんじゃなかろうかって思ったらしいの。ウチの母さんてば そそっかしいでしょと、くすくす笑ったメグさんへ、
「何もガッコで、俺に見せる前に広げんでもよかろうが。」
 恨めしげな視線を向けた総長さんだったもんの、

  「あら、だって。こ〜んな娯楽は、やっぱ、みんなで分かち合わないと。」
  「娯楽…。」

 人で遊んでんじゃねぇよと、ぽつりと呟いたのが聞こえているやらいないやら。坊やは坊やで、
「…かわいいのな。」
 写真に夢中で見入っており、
「お前ね。」
 ついのこととて横を向きかければ、その頬に…半ズボンから伸びていた、それは柔らかな内腿がふわりとあたって。葉柱のお兄さん、少々どぎまぎ。
“しっかりしろ、俺。/////////
 そんなところに思わぬ 萌えどころがやって来ていたのは。こうなったらとの意を決し、よじよじと総長さんの背中に、手だけじゃ収まらず足まで掛けて。一気に“登って”のその結果。さすがに髪を掴むのは乱暴が過ぎると思ってのことか、頭回りに片腕を回して掻い込むよにして掴まりの、肩口に片足引っかけてやっと止まった坊やだったんでの、この仕打ちであり。人を足蹴にしやがってと、こうまでの傍若無人な無体さには…さすがに、一言言いたくなった葉柱だったか。それにしては、
「…そういやお前、木登り得意だったっけな。」
「まあな。」
 腰が引けてるぞ、総長さん。
(苦笑) 一方で、一気に木登り…ならぬ、葉柱登りが始まったことへの目撃者たち。この展開へ、一斉にどよめいた周囲の皆さんはといえば、
「凄げぇなぁ〜。」
「ああ。一気に登っちまえた坊主も大したもんだが、ぐらりとも揺れなかったヘッドもなかなか。」
 重量として抱えることが出来ても、その背へ背負えても、それとこれとはやはり別物。ちゃんと用意があった上で腰も入っていて、重心の移動もこなせて…という、覚悟あってのものとはまるきり違い。いきなりわしわし よじ登られるとなると、坊や自身の重さに加えて、下から上へという移動の動作からかかる、少なかない馬力だって加算されようからね。
「取り落とす訳にはいかない相手だから、その分の踏ん張りだっている訳だし。」
「そうそう。」
 でもまあ、そこんところは・ほれ。ああそっか。そうさね、特に意識して身構えずとも、自ずとvv 抱っこもおんぶも肩車も、日頃から馴れてる人たちなこったしねぇ…なんて。妙なところで周囲からの理解を集めてる、やっぱり困ったお二人さんであるようで。

  「これでもな、泥足で登んのは悪いかと思って、靴は脱いだぞ?」
  「…思いやりと気遣いをありがとよ。」

 このお話でもまた、やってなさい、ってところでしょうかね。どうでもいいけど、練習はいいんか、あんたたち。
「あっ、いっけね。」
「そうそう、練習だ練習。」
「今日は筋トレだからね。体操服で第二体育館へ集合。」
「おうっ。」
 秋雨もぬるくなりそな その原因は。若さの熱気か、それとも、
「いい加減に降りな。」
「やだっvv
 誰かさんたちの、相も変わらぬ痴話喧嘩のせいなんでしょうかねぇ。
(苦笑) この分じゃあ、当分は残暑も続くかもと。雨脚に弾けて躍るアジサイの青い葉たちが、くすくす笑ってるみたいでしたとさ。









 clov.gif おまけというか後日談 clov.gif


 仲がいいのは何も、年嵩なお友達ばっかのことじゃあない子ヒル魔くん。翌日のガッコでは、教室に入ってった途端、さっそくにも“ねえねえ聞いてよぉ”と駆けて来たのへ。苦笑混じりに捕まって差し上げたのが、
「進さんたらひどいんだよぉ?」
 その人のことでってのはお珍しくも。口元を尖んがらせての、いかにも怒ってますな顔になり、非難たらたらな言いようをし始めたちびセナくんで。小さな背中からランドセルを降ろしつつ、何がどうしたと。詳細を言うようにって、一端の大人っぽくも目顔で促せば、
「あのね? 進さんがね? ケータイの待ち受けにするって、セナのお顔写メで撮らしてってゆってネ?」
「…ほほぉ。」
「で、進さんのでチャパッて撮ったのはいんだけどォ。ちゃんと撮れたか、どんなお顔になっちゃたのか、セナにも観してってゆったのに、自分ばっかり観てて観してくれなくてサ。」
 ふわふかな髪を揺らしながらふりふりとかぶりを振りつつ、困っちゃうよねぇってそれらしい溜息を一つついたセナくんへ、
「………で?」
 どこで覚えたんだそんなもっともらしい仕草なんか…と、自分の日頃を知らないか、自覚はまったくないらしき金髪小悪魔坊やが、ちょいと呆れつつも先を促せば。
「んん?」
 って。ゆーの? 聞きたい?と、それこそもっともらしくも思わせ振りに、お話を溜めて見せたセナくんだったもんだから。………ホンマに何処で覚えて来たんだ、そんな一丁前な焦らし方まで。
(苦笑)
「………ほほぉ。」
 金茶色の眸の綺麗な、ちょっぴり力んだ目許を眇め、ムカッと来たらしき小悪魔くんの手が伸びて。デコピンされそになったんで、あわわと慌てたセナくん、素直に続きを語り出し。
「観たいのって、観してって、前とか後ろとかにぐるんぐるんって回って引っついてたら、あのね? セナじゃあ届かないくらいの上のほへ、ケータイ持ち上げちゃった進さんだったから。」
「うんうん。」
 あれあれ? それって?
「ぴょいってお背
せなに飛びついて、よいせよいせって登ってやったの。」
「………☆」
 おおう、それって…あんたもかい。
(笑)
「あ、お靴は脱いだんだよ? ホントだよ?」
 妙なところへ気を遣うとこまで同じでは、
「…ふ〜ん。」
 ますますツッコミようがなくって困ったヨウイチくんでもあったりし。後日になって、その現場に同座していたらしきアイドルさんへと確認を取れば、そうそう、あれは見ものだったよ〜と笑って言ってて。
『進は飛び抜けて頑丈ものだから、それがセナくんじゃあなくたって、人に“登られて”も足腰揺るがず、動じないのは今更だとしてもさ。』
 まずはお友達へのとんでもない言いようをご披露下さってから。
『進の側でも、途中からは登って来てるのを意識したろうから。思わぬ方へと引っ張られてコケないようにってさりげなく踏ん張ってもいたろうし。結局、おんぶよりも上、進の肩口へ片足引っかけた肩車態勢になっちゃったとこまで、上り詰めちゃったセナくんでね。』
 あれって、前後の展開ってのか流れってのも見てたから、その場ではただ可笑しかっただけだったけど。
『よくよく考えてみりゃ、あの構図ってのは物凄いことだよね。』
 あれは日頃からもそうやって遊んでるなと、それでも立ち姿勢でじゃあかなろうにと。そういう彼らだと前以て知ってた桜庭さんでさえ、呆気に取られちゃった展開だったらしくって。
『進が何かと人並み外れているのはともかく、セナくんも結構 運動能力高い方だったんだねぇ。』
 桜庭さんが感に堪えたようなお声を出したので、
『………。』
 自分も同じこと、総長さんを相手にやらかしたのは黙ってようと、こっそり思った坊やだったのは ここだけのお話です。
(苦笑)




  〜Fine〜  06.9.06.〜9.09.

  *副題、木登り子ザルというのはいかがでしょうか。
(笑)
   子ヒル魔くんのお耳に入ったら、
   当然のこと、思い切り蹴られることでしょね。(ぶるぶる…)
   実はこれも“拍手お礼”のネタだったのですが、
   グリグリといじってたら、思いの外、長くなってしまいました。
   九歳の子供っつったら、いくら小柄でも結構な存在で、
   それに足掛けて登られて、平気で立ってられるってのは、
   確かに…化け物並みの頑丈さと腰の強さ、なのかもです。

感想はこちらへvv**

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