Winter script
 

 

          



 いよいよの"クリスマスボウル"…全国高校選手権決勝を 12月21日に控えて、関東代表チーム・泥門デビルバッツの面々も、気合いの入ったトレーニングに日々励んでいる。昨年の後半からいきなりその頭角を現した、なかなか個性豊かなチームであり、その時の中核選手だった…天才投擲手・蛭魔や最強ライン・栗田、人間電算機の雪光に助っ人ながらも主力だった韋駄天・石丸などが抜けても、戦術のバリエーションの多さや、機転の利く鮮やかな試合構成は依然として白眉のそれで。関西の雄、K大付属を迎え撃つのに、何ら杞憂は無しという頼もしき布陣にて、関東大会にての前向き・上向きなテンションを保ちつつ、そろそろ調整主体の軽いメニューに切り替えた方がいい時期…なのである筈なのだが。

  「おらおらおら、声 出さんか、声っっ!」
  「ひぇええぇぇ〜〜〜っ。」

 毎日何か一つは かなりハードなメニューが組まれているトレーニングを続行中のレギュラーたちであり、今日はといえば"校外ロードワークコースを3巡"という苛酷なランニングが敢行されたから堪らない。しかも結構なペースで…殿
しんがり担当の"ペースメーカー"さんが物凄い馬力で追い立てるものだから、並のジョギングの数倍というハイペース。自転車などでの伴走ではなく、追い立て役のペースメーカーさんもしっかりと自分の足で走っているだけに文句も言えずで、

  "現役より何倍も元気なOBなんか嫌いだ…。"

 いやまったく、大変だねぇ。
(苦笑) その蛭魔さん。グラウンドへ戻って来るなり端からバタバタと崩れ落ち、ぜいはあと息切れしている面々を前に、
「よ〜し。そのままで聞け。」
 冬の乾いた空気の中へ、吐き出す息こそ白いそれだが、体はまるきり萎えてもおらず。つんつんと尖らせた金の髪も相変わらずに"悪魔的"なら、スレンダーな肢体に並々ならぬ気魄をたたえたお姿もまた、一見至って地味なジャージ姿だってのに"鬼コーチ"の威厳に満ち満ちており。竹刀や木刀ではなく、愛用のマシンガンをショルダーベルトにて肩から背負っているところは、いかにも"彼風"で…色んな意味で迫力がある。
「今日は練習試合を組んだから、正規メンバーは、10分休憩の後、フィールドに集合。残りはジャッジ担当と進行のフォロー。いいなっ。」
 これもまた相変わらずに、色んなコネをお持ちでいらっしゃるらしく。先輩さんの背後に待機なさっておられる練習試合のお相手さんたちはと目をやれば………、

  「…げっ★」
  「あれって、まさか…。」

 レギュラーでなくとも知ってるほどに有名な、しかも…ギョギョッとするよな恐持てな方々がずらり。
「ああ。大阪1位で決勝トーナメントへ勝ち上がり、関西大会の決勝でK大付属に僅差で負けた…C学院のレギュラーさんたちだ。」
 それはまた、遠方からご苦労様です。
「…じゃなくってっ。」
 あはは、すまん、すまん。そうですか、クリスマスボウルであたる相手とほぼ同格の強豪ですか。
「そんなぁ…。」
「単なる練習で当たる相手じゃないって。」
 そうですよね。いきなり本番さながらの緊張感の元でのシュミレーションって ですかい。負けたら一気に覇気も落ち込むかもだぞ。そんなこんなと困惑顔の部員たちへ、
「何を言うか。K大付属だって、お前らに負けた王城ホワイトナイツを相手に練習しとるかも知れんのだぞ?」
 ビビってどうするかと胸を張る蛭魔サマだが、

  "………いやいや、そんな練習してないって。"

 グラウンドを見下ろせる石段の上に ちょこんと座っていた…その王城のOBである誰かさんが、有り得ねぇ〜とばかり、ぶんぶんぶんと首を横に振っている。変装していてもそれが誰だか判る"アイシールド"さんが、
"…でしょうよね。"
 ははは…という乾いた笑いを頬に浮かべたのであった。それにしても、アイドルさんてば…今日はお仕事空いてたんでしょうか。
あはは

  「よぉ〜しっ、それじゃあ、第1クォーター、いくぞっ!」
  「ひやぁぁああぁぁ〜〜〜〜っっ。」


  ……… ご愁傷様です。






            ◇



 ハードなロードワーク直後の、これまたハードな練習試合は、それでも何とか"勝ち"という形にて終えられたが、相手のシビアな戦術や分厚い選手層にはかなり手を焼いてしまい。これを下したK大付属はどれほど強いものかと、皆して気合いを入れ直す。それからそれから、

  「特訓期間は今日で一応の終了とする。
   明日からは調整のメニューに移るが、だからと言って気を抜くな。
   体力の温存も、それをすぐにも立ち上げられなきゃ意味がねぇ。
   毎日それぞれに課せられてる自主トレを忘れんな。良いなっ?」

 ご隠居様からのありがたいお言葉が下されて、ハードな練習はやっとのことで幕を下ろした。そして………。







 少しばかりの時間が経過した、ここは雨太市の小早川さんチのダイニング。

  "ふにゃ〜〜〜。"

 高校生選手権の頂上決戦のタイトルにも冠されているほどに、いよいよのクリスマスで、いよいよの年の瀬だから。セナくんチのご両親は一層お忙しい身になっているらしく、主食の"ご飯"こそ夕飯に間に合わせて仕掛けて行ってくれているものの、今日はとうとう、煮付けなどの常備菜もお総菜も尽きていて。
"ああ、せめて補欠だってくらいは言っとけば良かったかな。"
 アメフト部に入ってるとは言ってあるが、主務と言ってマネージャーみたいな役回りだという説明しかしてはいない。簡単な練習には付き合うけど、主な仕事は選手のサポートだと言っておいたせいで、運動部に入ったのだという意識は持たれてはいないみたいで。
『ごめんね、ごめんね。』
 食べ盛りだろうし、難しい年頃な筈の子だと判っていながらも、優しいセナだからと つい。家事を任せることさえあるお母さんで。そして、さすがに"寂しい"と泣いちゃうことはないものの、こういう時にはやはり…堪えるものが少しはある。

  "お腹が空いたよう〜〜〜。"

 コンビニまで行ってお弁当買って来なくっちゃ。帰り道にも一軒あるにはあるのだけれど、そこは夕方には一気に品薄になるからって寄らなかったの。でもね、
"………ラーメンでも良いかな。"
 なんかもう、疲れちゃってて出掛けるのも億劫で。一眠りしたら少しはマシになるかな。でも…今 寝ちゃったら、そのまま朝まで起きれないかも………。キッチンのテーブルにへちょりと突っ伏して、そんなこんな考えていたら。

  ――― ピンポ〜ン♪

 毎度お馴染み、軽やかなチャイムの音が。
"え?"
 まさかまさか。まもりお姉ちゃんかも? お母さんに頼まれてとかで、ご飯作りに…は来てくれないよね。そんなに都合の良いことばっか、起こる筈がない。第一、まもりお姉ちゃんは、この試験休み中、受験用の集中講座を受けるとか言ってたもん。
「はぁ〜〜い。」
 よろよろと立ち上がり、ああ、コートまだ脱いでなかったやと、力なく笑いつつも土間に降りてサンダルを履きながらドアを開ける。宗教の人だったら追い返すのにエネルギーが相当要るんだよなと、げんなりしていたセナくんだったが、

  "………はい?"

 どうやらウチのドアは、時々幻を見せてくれる罪な代物と化したらしく。コンクリの打ちっ放しという小さなポーチと短いアプローチの先。胸高な門扉の向こう側に、大好きな人が立っている。お腹空いたのが吹っ飛ぶくらいに、にゃ〜んと ついついお顔がほころんじゃうほど好きで好きで堪らない人が、傍目には無表情のままにうっそりと、だがだがセナには穏やかそうな表情にて、見慣れた黒いコートを羽織って静かに佇んでいるのが見えて、

  「小早川。」

 ああ、低く響いて深みのある、あの人のそのまんまな お声までついてるよ、この幻……………じゃないってば。頬をつつく冷たい外気に、ハッと我に返って、

  「進さん?」

 どうしたんですか?と訊きながら、体が既に動いていて。アプローチを駆け寄ると、門扉の簡単なカンヌキをカシャンと開けた。すぐ傍らへと寄って来た小さなセナを見下ろして、大きな進さんは手袋をした手でぽふぽふと、セナのくせっ毛を撫でてくれて。

  「差し入れをな、持って来た。」
  「はい?」














          



 上がってもらった進さんは、見覚えのある大きめの風呂敷包みを下げていて。居間へとご案内したセナにそれを"どうぞ"と手渡した。開けても良いですか?と目顔で問うと、こくりと頷いた彼であり、

  「………わあぁvv

 中身はやはり3段重ねのお重箱で、上から、コロッケや白身魚のフライ、ふっくら照り焼きハンバーグにポテトサラダ。カリサクと香ばしそうな揚げ春巻きに、レンコンの土佐煮、キンピラゴボウ。高野豆腐と干し椎茸、タケノコ、サトイモ、ニンジンを上品に煮付けた"吹き寄せ"に、塩鮭と甘く煮た金時豆などなどと、まだまだ色々。最後の段には具がカラフルな巻き寿司がぎっしりと入っていて、まるで物凄く手を尽くした行楽用のお弁当のよう。
「これって…。」
 ワクワクと見開かれた大きな琥珀の瞳が、一途な期待でキラキラと輝いている。…あのね。いくら何でも、距離だって結構あるご自宅から運んで来て、意味なく見せびらかしに来ただけな進さんではなかろうて。
「どうぞ。」
 お食べなさいと優しく微笑ってくれた進さんに、
「〜〜〜〜〜っ! 嬉しいですうっvv
 一番上の蓋を抱えたまんまで、ぎゅうっと抱きついた瀬那くんであり。
「………っ。(うっ☆)」
 背中に回されたそんなセナくんの手の先にて。蓋の角っこで かいがら骨辺りをガツンと殴られてしまった進さんだったが…鉄面皮で良かったね。セナくんには気づかれてないみたいです。
(笑)





            ◇



 何しろハードな練習の後なので。そしてそして、実を言うと。ここ何日かはコンビニのお弁当やおむすびか、お湯だけでOKなカップめんで、3度のご飯を済ませていたので、
「美味しいですう〜〜〜vv
 それでなくとも進さんのお母様の、腕によりをかけた御馳走で。一人で食べるのはなんだか恥ずかしいからと、進さんにも取り皿を渡して、おみそ汁はセナくんが頑張って作って…と。二人で差し向かいの、変則的な晩ご飯となっていて。ご飯は美味しいし、目の前には大好きな人。何だか、うんとねvv 凄い幸せで、くたくたに疲れていたのも何もかも、一遍に吹っ飛んでしまったセナくんだ。
"でも、でもね。なんでかな。"
 んんん? 何ですか? お食事中に、そんな…ぽや〜んとしながら、お箸を ぐうで握って、しかもその先っちょを咥えていたりすると、
「…こら。」
 ほら。何故だか一瞬だけ見とれた進さんから
(ぷふふvv直しなさいって注意された。あややと慌てて持ち直しつつ、けどでも…あのねと。そんな進さんへ、
「あのですね。」
 きちんと自分の手前、食器棚の引き出しから掻き出して来たヒョウタンの形の箸置きにお箸を置いてから、
「どうして今日、僕がひもじい想いをしてるだろうって、進さんに分かったんですか?」
 しかも。これだけのお料理をお母様が作って、それを電車に乗って運んで来た進さんだったのだから。全てへの始まりの“スタート”となった頃合いは…かなり早い時間へと逆上る筈。それに、セナ本人は、お母さんがここのところ連日残業続きだというお話なんて、メールででも直接にも進さんへ話したことがない。なのに、どうして?
「ああ、それなら。」
 進さんもお箸を置くと、んんっと小さく咳払いをし、

  「謎のコーチXさんという人からメールがあった。」
  「……………はい?」

 なんですて? いつもは真ん丸くて大きい筈のセナの眸が、気持ち…世にも珍しい点目になってしまったが、進さんには気づかれなかったらしくって。
「小早川のご両親は、年末進行とかで目一杯忙しくなられるとのことで。毎日の食事を、もしかしたらインスタントな代物で適当に済ませているのかもしれないと心配なさっておいででな。そろそろ練習も山を越える。俺は栄養のある食事には詳しいだろうから、そういうメニューの食事を是非とも小早川に取らせてやってはもらえまいかと。」
「いえ、あの。………進さん?」
 内容は分かりましたが、その、いかにも怪しい“謎のコーチXさん”ってのは…。

  "…えっと、ですね。"

 表向きは“主務”の小早川瀬那くんが、実は“レギュラー選手”としてハードな練習をこなしていることとか、王城ホワイトナイツという他校のチームの選手だった進清十郎さんが、セナとこんなに仲良しさんであり、体の心配までしてあげるほど思い入れも深いと知っている人って、物凄く限られているんですけれど。
"もしかしてもしかすると、あのその…。"
 それって…あのお方では? セナがそうと訊きかけたところで、
「………ん?」
 ソファーの背もたれの向こう。ハンガーに掛けて壁へと吊るしたコートを見やった進さんは、まずはセナの方を見やり、それへと少年が了解の会釈を見せたのを確認してから、立ち上がるとポケットをまさぐった。メール用の着メロは、これもやはりセナがダウンロードしてあげたマーラーの交響曲。二つ折の携帯電話をぱかりと開き、液晶画面を見やった彼は…不意に眉を寄せ、それは分かりやすいまでの、いかにも怪訝そうな、いかにも腑に落ちないという顔をして見せて。
「…進さん?」
 無表情の多い彼のその"無表情"の微妙な違いがちゃんと読み取れるセナにしてみれば、背景に"どどん☆"と稲妻が閃いたくらいの…何かしら大きな衝撃を受けたというお顔だったものだから。一体どうしたんですかと心配して声を掛けたところが、

  「Xさんからのメールなのだが。」
  「………?」

 こちらへ向けて差し出された携帯。それを受け取ったセナが、

  「//////////っ!!」

 それはそれは分かりやすく真っ赤になり、そこへと追い打ちをかけたのが、

  「何故、こんなことまでご存知なんだろうな、Xさんは。」
  「いや………だから、ですね。////////

 届いたメールは…こんな一行。

  【 クリスマスボウルが終わるまで、くれぐれも睦み合いは我慢するのだぞ? 】

 ここまで知ってる人なんて、もうもう 世界中にあの人一人しかいない筈っ! マシンガンを肩に担いで にんまり笑ってる誰かさんのお顔がボンッと脳裏に浮かんだセナくんは、されど…どうして彼の人が"ここまで"知っているのかを進さんへどう説明したものか、そこに至るための言葉が見つからず、あうあうと恥ずかしそうに困ってしまうより他になかったのであったとさvv











  「妖一ってば、悪趣味〜〜〜。」
  「そっか? 大事なことだぜ?
   それに恐らく…進の奴には俺の正体、判ってなかろうしな。」
  「でもさ、あの二人のいちゃつき合い程度なら、
   励みになりこそすれ、そんなに影響とか出ないんじゃないの?」
  「…さあて、どうだかな。」
  「???」


  ――― 何はともあれ、決戦は目の前だっ!
(おいこら)




   〜Fine〜  03.12.18.〜12.20.


  *タイトルに深い意味はありません。
   ええ、ええ、ありませんとも。
   このお話を書き始めた日に、新しいカウンターを設置しようとしたのに、
   何度もスクリプトに関するエラーが出て、結局挫折したことなんか、
   全然 関係ありませんて。
おいおい

  *ともあれ、
   リアルタイムの"クリスマスボウル"直前に間に合って良かったです。
   どっちが勝つんでしょうねぇvv
   Xリーグはたまに放送するのに、こちらは中継がないのがちょっと残念です。
   さあ、次はクリスマスのお話だぞっと。

ご感想などはこちらへvv


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