Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ


   BMP7314.gif 謎めきの花 BMP7314.gif


        




 様々な青や藍の糸々を使って巧みに織り出した、それはそれはでっかくて見事な絨毯か緞帳を波打たせているかのような、視界の端から端までを埋め尽くす濃青の大海原が、きらきらとその波頭を光らせ始める。冴えた空気の中に一瞬息を引いた沈黙にも似た静寂が立ち込め、次の瞬間、サーッと淡い織りのカーテンを勢いよく引き開けるように金色の光が横合いから差して来て、
「…朝か。」
 見張り台にいた剣豪が、水平線から顔を出した太陽に気づいて、しばらく無言で向かい合う。今日もいい天気になりそうだ。ここ何日か安定した天候にも恵まれ、ついでに賊にも遭遇しない、至ってのんびりとした日々が続いている。魔海とまで呼ばれているグランドラインの只中にあっては、喜ぶべき平和と安息ではあるのだが、ぼんやりしていると日にちさえ忘れてしまいそうな暢気な日々は、戦闘担当の剣豪殿にとっては、さぞかし退屈極まりない毎日なのではなかろうか。………あ、どんな日でも何時間かは必ず昼寝してるから、忙しくても暇でも一緒かな?
おいおい
「ん?」
 眼下の甲板を見下ろせば、他のクルーたちが順次起き出してくるのが見て取れる。クルー内で一番の早起きであるコック氏が、朝っぱらからピシッとダークスーツに身を固めてキッチンへと入ってゆき、続いて狙撃手が甲板に出て来て“う〜〜〜んっ”と大きく伸びをする。その傍ら、大きなカルガモを連れて出て来たのが、長い髪をポニーテイルに結った東の国の皇女で、続いてパタパタと朝から元気そうな足音と共に出て来たのが、赤い山高帽子の小さなトナカイを肩車した船長殿だ。
「ゾロ〜〜〜っ! 何か見えるか〜〜〜っ!」
 朝のご挨拶もすっ飛ばし、大きな声でそうと訊くルフィへ、
「いやー、何も見えんぞーっ!」
 大声を返す。
「そっかっ!」
 応じてそのまま、錨を引き揚げる巻き上げ装置のある部屋へとペタペタ向かった彼だったが、その戸口で…チョッパーがぶつかりかけた鴨居にか細い両腕を突っ張って、
「るふぃ〜〜〜。」
 絞り出すような声をかけるものだから、
「あ、そっか。ごめんごめん。」
 何で急に前へ進めなくなったんだろかと顔を上げたルフィが、自分の頭上の状況を見て、小さな船医殿に謝った。ほのぼの、のほのほ、実にアットホームな朝の風景。欠伸しながら両の羽根を"う〜んっ"と伸ばしているカルガモに微笑みかけているビビの笑顔もいつも通りに穏やかだし、今日はゾロの代わりにと、引き揚げた錨を船端まで持ち上げているルフィの背中からずり落ちかけたチョッパーを、通りかかったウソップがほいっと受け止めてやっている呼吸もいつものもの。一通りの仕込みは済んだらしいサンジが、索具へ張られたロープをきしぎしと軋ませながら見張り台まで登って来て、
「おい、クソ剣士。目覚めの一杯だ。」
 モーニングコーヒーの入った、密閉蓋付きのマグカップを差し出した。口は悪いが気配りは完璧で、食事の面でクルーたちの健康を管理することを、無意識のうちに自分の義務のように思っているような節さえある男だ。先日来から仲間に加わった船医のチョッパーと、栄養学の意見交換なんてものをやっているところを見かけたりもする…のだが、途中から傍で聞いてたルフィ辺りにまぜっ返されて、気がつけば全然違う馬鹿話になっていたりもするのがご愛嬌。
「おう、悪いな。」
 カップを受け取ったゾロは、その代わりに…小さな淡いピンクの、どこかマーガレットに似た花を、金の前髪を鬱陶しく顔半分へ垂らしたコックさんの鼻先へひょいと差し出した。

〈まあ、これをワタクシに?〉
〈ああ。いつもありがとよ。キミは大事な人だからな。〉

 じゃあなくって。

 「………。」「………。」

 ああ、そんな。二人揃って声も出ないほどウケてくれなくても。
「…やめんか。」
「甲板まで落ちるかと思ったぞ、このクソ筆者。」
 なんだ、脱力してたのか。てっきり、肩を震わせて声も出ないくらい笑ってんのかと思ったわ。
おいおい 話を戻そう。差し出された1本きりの花を…筆者が戯れに書いたやりとりとは関係なく、ひょいっと受け取ったサンジは、
「へぇ〜、また来てたのか。」
 さして奇異には思っていないらしい、むしろどこか感心してでもいるかのような口調になって、そんな感慨を述べた。
「ああ、ついさっきな。」
 蓋を開けると立ちのぼるコーヒーの奥深い芳香。大きな手によく映えるマグを傾けて、熱いところを啜っている剣士は、その逞しい腕を、丁度海面から離れたばかりな朝日に差し向ける。
「向こうから来たぞ。そんで、それを落としてそのまま帰った。」
 どうやら、この花は誰か"来訪者"が運んで来たものであるらしく、
「う〜ん、一体どういうつもりなんだろな。」
 小首を傾げるコック氏に、
「さてな。」
 剣豪も"察しがつかない"という、たいそうあっさりとした返事を返した。
「これで5日目だが…せめて も少し寄ってくれて、一声なりとも鳴いてくれないと、チョッパーにも判らんとよ。」
 悪魔の実の"ヒトヒトの実"を食べて、人型に変化したり人語を理解出来るようになったトナカイのチョッパー。よって、彼には動物の言葉を通訳出来るという能力もあるのだが、一言も発しない相手の思うところはさすがに判らないらしい。





        




 双璧たちの会話の中心にあった花。大洋の只中ではまず見ることが適わないのが陸の動植物で、住環境が違うのだから当たり前だと言われればそれまでだが、
「カモメが飛んで来るってこと自体、訝
おかしい話なのよね。」
 今日はお寝坊さんだった航海士、この“ルフィ海賊団”随一の知将であるナミがその細い顎をしなやかな指で支えながら、もう一方の手でテーブルの上をトントンと小突いた。同じテーブルの上、彼女の白い手のすぐ先には、小ぶりなグラスへと生けられた花がある。全部同じ、例のピンクの小花で、計5本が茎の長さもばらばらに、そういうデザインになるようカットして組み合わさっているかのように、水へと差してある。ゾロが言っていたように、この花の贈り物は5日前から続いており、運んで来るのは一羽のカモメ。最初のうちは『可愛いこと♪』なんて暢気に受け止めていたのだが、こうも続くとさすがに“何か変だぞ”と思い、用心しだす顔触れがちゃんといる。
「こうまで陸から離れたところで、そんな小型の海鳥が生活出来る筈がないもの。」
 船にまといつく海鳥という図は、海のお話ではよく描かれてたりもするが、これらは陸や島に近い場合のみに見られる情景。いくら羽根があるからと言ったって、いつまでも飛んでる訳には行かず、休憩もせねばならないし眠る必要だってある。住み替え期の渡り鳥でもない限り、はたまた伝説に出て来るような巨大な怪鳥ででもない限り、大洋の空に鳥はまずは飛んではいない。…あの新聞配達の鳥って、どういうルートで飛んでるんでしょうね。いくら船から船へと渡り飛んでるとはいえ…疲れないのかな。少なくとも特別な訓練は受けてるよね、絶対。
おいおい
「でも、既に通過した島から来ているとは思えないし、これから向かう土地からだとしても…。」
 ビビが言いたいことは、ナミにも判る。このゴーイングメリー号は快調に航行中で、日々かなりの距離を進んでおり、毎朝の往復がこなせる範囲内に島や土地は既にない。先に停泊していた港からの客だとして、いくらなんでももう届かないだろうし、逆にこれから向かう先から…地図にない島か何処かから来ているとしても、だ。最初のひょんな来訪から既に5日も経っているのだから、とっくにこの船がその島が見えるところまで辿り着いている筈なのだ。横長な土地が航路に沿って平行に伸びていて、横合いからやって来ているカモメかも知れないという説も持ち出せはするが、この船へとやって来る方向に変化がない以上、その可能性もない。
「で、これって一体何の花なんだ?」
 やはりテーブルについていたウソップが訊いた相手はチョッパーで、何たって出来るだけ自然の薬草にて治療を施すネイチャー・ドクター。よって、草花や鉱物への造詣も深かろうと思ってのこと。訊かれた小さなトナカイさんは、抱えられていたルフィの膝の上から、
「キク科の珍しい品種で、トレスタっていう花だ。」
 そうと応じ、解説してくれる。
「薬効も多少はあるけど主には鑑賞用で、そのために改良された品種だから、自生してはいない筈だ。」
 さすがは博学…って、あれ?
「…自生してはいない?」
「改良品種ですって?」
 顔を見合わせたのがナミとビビ。あとの男どもは、
「なんだ? どうしたんだ?」
「何か判ったのか? ナミ。」
 キョトンとするばかりで始末に終えない。
「…あんたたち、少しは頭を使わないとボケるわよ?」
 ナミがため息混じりにそう言って、
「キャプテンに確認を取りたいわ。」
 おもむろにルフィへと向き直る。
「この花はね、何処かの船から運ばれて来ているものらしいの。問題のカモメが勝手にやっていることなのか、それとも…そのカモメを飼い慣らした誰かが、毎朝わざわざ空へと放ってやらせていることなのか、そこまではまだ判らないんだけれどね。この船とつかず離れずって距離で航行中の…東から来たなら少し前方ってトコかしら、そういう位置にある船から飛び立って、この船までやって来ては、この花を落として帰っていたってことになるのよ。」
 ナミの説明に、
「何でそんなことが判るんだ?」
 ルフィは相変わらず、要領を得ないことを言う。
"これでもかなり懇切丁寧に噛み砕いたつもりなんだけど…"
と、ナミは自分の額に指先を当てて、
「だから。チョッパーが今言ったでしょ? この花は自生してはいない種類の花だって。判る? 自然には生えてないの。誰か人が品種改良をした花だから、誰もいないところに自然に咲いてはいないの。百歩くらい譲って、栽培していた場所の周囲に種が飛んでそれから段々と群生地を広げた例があったとしても、ここは海の真ん中だからそういう例とはまず関係ないわ。」
「うんうん。」
 頷いてはいるが…ホントに判っているのだろうか。少々不安を覚えつつ、ナミは説明を続けた。ルフィだけでなく、周囲に集まっている他の男性陣たちにも、解いて聞かせる必要のある話だから、でもある。
「で。人間が育てたものでないと存在しない花だということは、逆に言えば、この花の傍らには必ず人間が居るの。こんな海の上で人が居るといえば、船に乗って移動中な人ってことになるでしょう?」
 そうと言ってから、
「まあ、ここはグランドラインだから? もしかして途轍もない距離を飛べるカモメだとか、背中一面に花を咲かせてる巨大な亀とかが居るのかも知れないけれど。」
 何があってもどんな生物が居ても、決しておかしくはないのがグランドライン。どんな揚げ足取りな"現実"が降りかかって来るやもしれないため、ナミも"そういう点もちゃんと考えの中に織り込んだのよ"と念を押してから説明を続ける。
「移動中の相手なら、カモメが毎朝こっちの船に届いても、にも関わらず私たちがなかなか相手に辿り着けなくても訝しくはないわ。後からついて来ているか、もしくは少し先を平行速度で進んでいるなら、いつまでもカモメの飛距離が届きながら、姿は見えて来ないのも無理はない。」
「う…?」
 ほらほら、理屈について来れなくなってきた。一番始めに脱落しそうなのはやはり船長さんだったらしく、段々と首が傾き出したのを感じ取り、
「と、ともかく。あたしが訊きたいのは、この船にくっついてるらしいその船をどうするのかってことなの。船足を遅らせる訳には行かないから、追いついてとっとと話をつける? それとも少しばかり迂回するコースを取って追い抜く?」
 何しろ彼らはアラバスタ王国への急ぎの航海中。のんびりしているように見えても、それは船の速度が由縁してのこと。少しでも早く王国へ到着したい彼らとしては、航路を逆行する訳には行かないのだ。
「その船ってのは、どういうつもりでこんなことさせてんのかね。」
 ふと、サンジがトレスタの花を見やりながら呟いた。聞き咎めたのはウソップで、
「どういうつもりって…何がだよ。」
「だから。万が一、バロックワークスの追っ手なら、こんな予告めいたことをするか? こっちにはナミさんっていう知恵者が居るんだぜ? あっさり見抜かれて逃げられちまうか、追いついて先制攻撃を仕掛けられるか。どっちにしたってこんな“前触れ”は得策とは言えねぇだろうがよ。」
「…そっか。」
 現に今、ナミがルフィにどっちにするかと持ちかけている。そのナミだが、
「あまり確率の高くないことだから断言は出来ないんだけれどもね。」
 少々口調をあらためて、
「んん?」
 依然として…まだどこか、話が半分ほど見えていないらしく、キョトンとしているルフィを見やって、
「これって、そのカモメが勝手にやってることだっていう公算が高いの。」
「何でだ?」
 こういう場での発言においては過ぎるほどに堅実なのが常なナミにはあるまじき一言が飛び出して。だが、彼女は至って真剣な顔つきでいる。
「先を行く船がこちらに何か用があるというのなら、船足を落とせば済むことだわ。こんな推測をさせて誘い出す罠だっていう可能性も捨て切れないけど、もう一つの“可能性”の方がね、一刻を争う代物だから、出来るだけ早く手を打ちたいのよ。」
 そんなことを言い出すナミの傍ら、ビビも息を詰めるようにしてルフィをじっと見つめていて、船長からの答えを…せめて日頃より早い“物分かり”を待っている様子。
「ここ何日か、そう…この花が届けられるよりずっと前から、気候は安定していて、潮の流れも穏やかだわ。だから、舵を取る人がいなくても、ある程度なら無事に速度を保ったままな航行が続けられるかもしれない。」
「…舵を取る人がいない?」
 日頃から現実主義者で通っている彼女にしては、あまりにも現実離れした言葉であったが、意外な言葉をつい繰り返したウソップへ大きく頷いて見せると、
「この花は、物を言えないカモメが私たちへ“ついて来て”って告げてたメッセージだったのかも知れないってこと。群れてもいない、だのに人懐っこいカモメと来れば、人間に飼われている公算が高い。そんなカモメが、一番近場にいる誰かへ関心を持ってもらいたがっている。そう考えるなら、そのメッセージを理解した者の義務として、急がなきゃいけないのよ。」







        




〈話は後よ。出来るだけ船足を速めるわ。オールも出して、それぞれ配置についてちょうだい。〉
 まだどこか話に納得が行かなくて腰の重い連中や、理解は出来たがそれこそ何重にも細工された巧妙な罠ではないのかと感じた剣豪のご意見などを一蹴し、力自慢たちを宥め賺
すかしたり鼓舞したりして幾刻か。その成果としてこれまでにはないほどの船足を披露したゴーイングメリー号は、こちらとそうそう変わらない大きさのとある船に追いついた。そのメインマストの天辺には、果たして…この5日間のずっと毎朝、ゴーイングメリー号へ来訪していたカモメの姿。一応は用心しながら近づいた船には何の動きもなく、接舷すると、
〈…やっぱり。〉
 ナミが、そしてビビが危惧したその通り、キャビンに数人ほどが倒れ伏している。伝染病などなら近づくことさえ危ないが、
〈そういう病気ではないよ。〉
 チョッパーが手際よく診て回って太鼓判を押した。
〈脱水症状を起こしてるだけだ。淡水化装置が壊れたんだな。しかもかなりの疲労状態にある。〉
 彼らは家族連れであるらしく、奥まった部屋には幼い子供。一番危ない容態だったが、チョッパーの調合した薬と適切な指示で何とか難を逃れられそうだとのこと。何とか意識を取り戻した一人に、後になって話を聞くと、彼らはその小さな子供の抱えた難病を治療してくれるかも知れないほどの凄腕の医者の噂を聞きつけて、こんな危険な航路へ漕ぎ出した一家なのだそうで、
〈だったら、もう少し後戻りすることになるけれど…。〉
 ウソップが淡水化装置を修理してやっている間に、チョッパーが師であるドクトリーヌ・くれはへの紹介状を書いてやり、旧ドラム王国へ向かうようにと、ナミが航路を事細かに説明してやった。ログポースがなくとも、時間と太陽の位置さえしっかり把握していれば大丈夫なようにと、特別仕様の海図も描いてやった。この航路に入ってからのずっと、着々と記録を積んで来たればこそ出来たアドバイスで、大人たちを2日ほど安静にさせ、栄養価の高い食事と特効性の高い薬とを与えてとりあえずの回復まで付き合い、さんざん感謝されて別れたのが今朝のこと。
「人助けする海賊ってのも、いっそ変わってて俺たちらしいのかね。」
 言わずもがなな言いようをするウソップへ、サンジが苦笑した。
「良いんじゃねぇの? 個性的でよ。」
 この3日ほど突然にばたばたと忙しかったのが幕を閉じた訳でもあって、上甲板に三々五々集まって"ぼへーっ"と寛いでいる皆へ、疲労回復に効くハニーサワードリンクを出している彼で、相変わらず見かけを裏切る働き者であることよ。大好きな蜂蜜味の飲み物だとあって、こくこくと一気に飲み干した船長さんは、
「ナミもナミだよな。よくもまあ、あんなちょびっとの手掛かりだけで、全部を正確に言い当てられたよなぁ。」
 花とカモメというヒントだけで、まだ見ぬ誰かの窮状まで見通せたナミの彗眼には恐れ入ると、感慨深げでいる様子。そんな彼へお代わりのグラスを差し出しながら、
「あのな…少しは色々考える習慣つけとかないと、どこぞのバカ剣士みたく、頭ん中まで筋肉まるけになっちまってからじゃ遅いんだぜ? ルフィ。」
「誰が"バカ"だと?」
 おお、すぐさまのこの反応とは、結構鋭いじゃん、ロロノアさん。

 それにしても…意外だったのは、いくらある意味で"SOS"発信だったとはいえ、そして、だとすれば海の人間なら無視しちゃならないとされていることだからとはいえ、超特急で助けに行くわよと有無をも言わせぬノリで男衆の尻を叩いたナミだったこと。
〈カモメを飼い慣らしているわ、愛らしい花を乗っけているわ…なんて、海賊では無さそうだと思ったからよ。〉
 それにしたって…と喰い下がった男どもにはそれ以上は語らなかった彼女だったが、
「…カルーがさ。」
「はい?」
 こちらでも金色のドリンクをゆったり味わっていたのが、後甲板の女の子二人と小さな船医殿。ナミがぽつりと呟いて、ビビが顔を上げ、チョッパーは…甲板に座り込んでいるカルーの羽根の間に埋もれて、くうくうと寝息を立て始めている。何だかんだ言っても一番忙しかったお医者様。注意の要った患者さんたちが手から離れた途端に気が抜けて、軽い疲労が押し寄せて来たのだろう。他に聞く者がいないからこそ口を開いたナミであるらしく、ビビもそぉっと周囲を見回してからナミの方へと注意を向ける。
「Mr.3たちとのごちゃごちゃの時に、カルーがあなたを庇ったって聞いててね。それを思い出しちゃったのよね、あのカモメが健気に花を運んで来たのへ。」
 どうやら、どうして今回とっても積極的に腰を上げた自分だったのかへの説明らしくって。
「何も企んでなんかいない。口が利けないのをもどかしく思いながら、懸命に主人を助けたがってたところが一緒で、それが何だか放っとけなくなったのよ。」
 無償の愛が為した行為…だなんて、どこぞの三流週刊誌が思いつきそうな言いようかもしれないが、自分に出来るぎりぎり限界なことを選んで、それこそ無心にやって見せたことがあまりにも健気で、それへついつい心動かされたナミだったらしくて。
「こういうことに出会うと、人間の尊厳だのなんのって偉そうに言ってちゃあいけないななんて思っちゃうわよね。」
「…そうですね。」
 ビビも何となく判るような気がする。自然界の原則である"弱肉強食"から脱却し、社会的弱者を強い者が守って相互理解を目指した平等な社会とやらを築いた結果、驚くほどのスピードで飛躍的に発展して来たのが人間ではあるが、同族を欲のために殺す生き物も人間だけだ。母国で起こっているクーデターとそれを操る黒幕しかり。色々な人間がいる中で、されど、
"この人たちに出会えて良かった。"
 ちょいと奇妙で、相変わらず計り知れないが、そうやって型にはまらない部分が、言葉なんていう枠の小さいものでは収まらない、広くて深くて温かい“らしさ”を体現していて心地いい。こんな頼もしい助っ人たちと帰還出来ることが、心から嬉しいビビ皇女でもあった。







   おまけ

「なあ、ゾロ。」
「ん?」
「この花見て、お前はどう思った?」
「ん〜。」
 ちょっと考えるような間合いがあってから、
「…花だな。」
 短い一言。なんだそりゃという突っ込みが入るかと思いきや、
「な〜んだ。俺と一緒じゃん。」
 にしししし…と、どこか満足そうに笑って見せるルフィであり、言葉足らず同士で通じるものがあるのか、はたまた、足りないままで誤解ともいう"理解"を納得し合っている彼らなのか。それとも、そこまで感受性のキャパシティ(容量)が足りない彼らであるのだろうか。
「…何なの、あの二人。」
「俺らとは共通語が違うのかも知れませんね。」
 さすがは一筋縄で行かない船長&クルーたちである。

 "一緒にしないでほしいよな。"

 …あらあら、これは誰の独り言なのかしら?







     〜Fine〜   01.10.13.


  *長い話の展開に飽きて、現実逃避に書いてみました。
   妙に理屈に走っている部分があるのは、
   長編の方の理屈回しの名残りです。(とほほ)
   それにしても…こういうことをやってては、
   あまり気晴らしになってないような気が…。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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