雨だれ


朝から雨だ。しとしとと途切れのない冷たい雨だ。
用向きが無いのを幸いに、外へは出掛けず居続けを決め込むことにした。
「………。」
雨が降るとルフィは何故だか窓の外ばかり見ている。
日頃からそんなにも構ってる訳じゃあない。
ともすれば放ったらかしで、
向こうからまとわりついてくるのがパターンだから、
そうと今まで気づかなかったほどこっちばかりが構われていたから、
なんだか却って気になった。
退屈だと、構ってくれろとじゃれついてくるかと思ったのに、
物の言えない仔犬みたいに、
黙りこくったまま、黒々とした大きな眸をじっと窓の外へと向けている。
そんな奴の、そっぽを向いてる頬の線ばかりが気になって、
こっちまで何だか雨に気を取られる始末だ。
「どうしたよ。」
とうとう我慢し切れずに声をかけると、
「え?」
今まで寝てたみたいに顔を上げて、やっと今日初めてこっちを見た。
「睨んでたって、そうは止まないぞ。」
「…うん。」
生返事をしながらまた窓の方を向くから、
「…ほら。」
やや手荒だったが、
背凭れを抱くようにして後ろ向きに座っていた
小さな椅子ごと抱えてこっちを向かせる。
構われるのは嫌いじゃないらしく、されるままになっていたが、
「なんだ? ゾロ。」
不審も感じず、素直にじっと見上げて来た眸と向かい合うことになって、
あらたまって訊かれるとちょっと困った。
強引にこっちを向かせといて今更だが、
まさか"こっちを向いてないのが気に入らない"とは
言えないじゃないか、大人げない。………と、
「…あ。」
不意にルフィが声を上げ、
背後になった窓を振り返るとこっちの腕を取って立ち上がる。
「ゾロ、早く早く。」
「…え?」
言葉少なに人を急かすと、
慌てて窓へと寄り、両開きの窓をバタンと開けて外へ首を突き出す。
雨はいつの間にか止んでいて、薄日が射し始めていた。
まだ霧のような名残りの残る湿った空気の中、
軒先から落ちてくる滴も気にせず、きょろきょろと空を見回していたルフィは、
ふと…口を薄く開け、それからいかにも嬉しそうに笑った。
「ほら、ゾロ。虹だ。」
「あ…。」
指さす先、遠い空に浮かぶ雲の端っこに、
うっすらと七色のリボンがかかっていて、
「止んだらすぐに探さないとな。
 必ず出る訳じゃないし、消えちゃうしさ。」
「…そうだな。」
どうやら、虹を見逃したくなくって雨を見やっていたらしい。
俺としては虹よりも
宝物でも見つけたようにちょっと誇らしげで嬉しそうな横顔を見やって、
"………まあ、らしいっちゃ、らしいのかな?"
自分の勘違いも引っくるめて、
ついつい苦笑が止まらない昼下がりだった。





                      〜Fine〜    01.9.18.


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