秘密の翠佩
 

 いささか唐突な話だが、我らが剣豪・ロロノア=ゾロ氏のファッションは、一歩間違えると鳶職のお兄さん方と紙一重なそれである。脛の部分を脚に細く添わせてすぼめた他はダボッとさせたズボンは、海外の一部の方々からは"足をいくらでも楽に上げられて、スパッツよりも機能的な服だ"と評価されているそうだが、それにしたってあれは『虎壱』謹製かも知れないし、ここ一番な時に手ぬぐいを頭に巻くところといい…。足元もあれは間違いなく安全靴だし。そして極めつけが、彼を象徴するカラーである緑色のアレ。そう、腹巻きだ。古来、鳶職や大工、大道芸人、流しの物売り、岡っ引きなど、身軽でなければならない種の職人さんたちが、腰や腹に厚手のさらしを巻いていたのが発達したものと思われ、だがそれは職人としての下履きが今ほど洋服的要素を取り入れていなかったがためのベルト代わりだったのではなかろうか。早い話が、ズボンほど立体裁断されてなかったパッチや股引、下馬がずり落ちないように巻いていたと。あと、所謂"腹掛け"が発達したものなのかも知れない。こちらはまんまお腹を剥き出しにしないようにと胸から腹へと当てていた前掛けで…って、なんで服飾史の講義をやってるかな、自分。
筆者が常々不思議だなぁと思っていたのは、あの腹巻きってどういう素材なのかなという点でして。だって、かなり重い筈の日本刀を3本も下げて全然縒れてないんですよ? お客さん。
おいおい そこで問題です。あの腹巻きに隠された秘密とは次のうちのどれでしょう。

  @実はしっかりした芯地が入っている、コルセット・タイプである。
           (案外と腰が弱いとか…。)
  A細い細い形状記憶合金で編まれている。
           (勿論、自分で夜なべして編んだ。)
  B目には見えない“てぐす”のサスペンダーで肩から吊っている。
           (なんか“見せブラ”みたいだが…。)
  Cその他

   (………チキッ☆)

 …判ったから、居合いに構えた三代鬼鉄の鯉口を切るのはやめたまえ。筆者の下らない御説はこのくらいにして、さあ皆さん、本編へ入りましょう。



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 今日も朝からいい日和で、航路は穏やか、潮風も穏やか。藍を呑んでゆったりうねる海と、蒼を含んで目映い空の二つの青を背景に、
「…ふあぁ〜〜〜あ。」
 いつもの指定席である舳先の羊頭の上で、背中と腕とを"これでもかっ"とばかり、大きく大きく伸ばして大欠伸をしていたルフィが、のけ反らせ過ぎて真後ろへと引っ繰り返りそうになりながら、今頃この上甲板に姿を現した剣豪に気がついた。遅れて来たのは朝食に使った食器を片付けるお手伝いの当番だったためで、これで結構あれこれと"当番"になっているものはある。毎日のものというと、風呂場の掃除や"潮汲み"がそれで、男共にのみ割り振られているそれに当たると、淡水化装置を一日分漕がねばならない。(あれってもしかして発電装置も兼ねてるのかなぁ? だったらウソップ凄いっ。)週に一度は甲板の大掃除もする。その時に修理点検が要りような箇所のチェックもする。サンジが居城としている台所回り以外の船のメンテナンスは、ウソップが日々それとなく見守ってはいるが、一人では何かと限度があるからで、おかげで我らが"ゴーイングメリー号"は…あれほどバキバキゴリゴリと削られ壊されても、愛らしい愛嬌たっぷりなその姿を健在なものとして留めていられるのである。話が随分と逸れたが、
「ゾロっ。」
 今日も元気な船長殿は、背後へ落ちかかった麦ワラ帽子を手で押さえながら、舳先からぴょいっと飛び降りてくると、何を思ったか朝っぱらから、長身な剣豪の胴回りにぴったりと抱き着くようにまとわりついた。頬を擦り寄せた大好きな温みに"ん〜〜〜♪"と御機嫌そうに顔をほころばせているのは良いとして(良いのか?)、腕が素早く伸びているばかりか、手が、指先がするりと滑り込んでいるところなぞ、今日は珍しく行動が早い大胆なお方である。そんな有り様を、今日はこちらに広げていたデッキチェアから見ていたナミが、
「…ルフィ、背中側は後ろに回った方が早いわよ?」
 新聞の陰からそんな風に助言する。逞しい剣豪の胴回りは結構ある。腰の後ろ側となると…ルフィの腕は伸びるから関係ないかな? けどまあ、男二人が真っ向から向かい合ってぴったりと引っついてる様は、いくら美形や偉丈夫のそれでも見ていて何とも暑苦しいし。
"…美形? 偉丈夫ぅ〜〜〜?"
 そんな、鼻先で嘲笑わなくても…ナミさんたら。とはいえ、何も朝っぱらからいちゃついている彼らな訳ではない。いくら Morlin.の書く話だからって、どの話でもそうそう同んなじ展開とは限らない。(…威張れることじゃあないぞ、自分?)単にゾロの腹巻きの中、折り返し部分をごそごそと手探りでまさぐっていたルフィであり、しばらくして、
「…あった。」
 指先に摘まみ出したのは、透明のセロファンに包まれた水色の小さなキャンディだ。"貰うぞ?"という目配せへ"いいよ"と頷くゾロで、だが、
「あんた、そんなもん持ち歩いてんの?」
 ナミが出て来たものへ呆れて見せる。何かを探していたところまではルフィが主格だったこともあって、微笑ましい範疇で見ていられたが、この結果にはさすがにちょっと物申したくなったのだろう。ルフィに贔屓をするのは剣豪一人とは限らない。何だかんだ言って、ナミもサンジやウソップも、無邪気な船長さんが可愛くってしようがなく、彼に頭が上がらない点では剣豪殿とおっつかっつなのだ。それはともかく、
「どっかで貰って忘れてたんだよ。俺は食わんからな。お前も食うか? 探せばまだあるかも知れんぞ?」
 けろりと応じたゾロであり、
「要らないわよ、そんな暑っ苦しいトコに入ってたアメなんて。」
 眉を顰めてそんな言いようをするナミの真横を通りながら、ルフィは早々に包みのセロファンを取ってキャンディを口の中へと放り込んでいる。ナミさんの言いようも判らんではないが、それより何より…よく知ってたなぁ、船長。そんなもんが入ってるって。
「ソーダ味だぞ。」
 はいはい、良かったこと。


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 船の中央、メインマストが聳える主甲板では、朝食が済んだ直後からウソップがあちこちを点検して回っており、
「おっと。何だなんだ、こりゃあ。索具が切れかけてんじゃねぇか。さてはサンジだな。昨日ここいらでジャガ芋のまとめ剥きをしてやがったしなぁ。途中から曲芸みたいな切り方して、ビビやナミを喜ばせてやがったし。」
 帆を張り、マストを支えるロープから、
「こっちは何だ? こんな深く刻まれてるってことは、さてはゾロめ、こないだの戦闘で刀を空振りやがったな。」
 船端や甲板の傷に至るまで、それはきっちりとしたメンテナンスを怠らない。何たってこの船は、他のクルーの皆が家庭のようなものとかホームグラウンドだとか思っている以上に、ウソップにとって大切な宝物だ。幼なじみ…ではないが、とっても仲の良かったお嬢様。生まれ故郷でウソップとの再会を待っているカヤから、海への冒険に旅発つその船出に事寄せてプレゼントされたもの。荒くたい乗組員たちの限度を超えた行動と途轍もない冒険の数々のせいで、あちこち頻繁に壊されまくっているが、それでも原型を留めていられるのは、先にも述べたが彼の丁寧で手厚いメンテナンスあってのことなのだ。目につく損傷を前にしてさっそく座り込むと、傷には削って充填剤を詰めて補強をし、割れたり裂けたりしている部位には板を当ててやはり補強をする。物によってはごっそり総取っ替えという修理だってこなすが、日々の点検で見つかる程度のものへは小さな加工で充分…と思っていたらば、
「これは…。」
 少し大きめのカボチャほどだろうか、船端にぼっこり抉れた箇所を見つけた。しかも、姑息にも樽を手前に置いて隠してあった。そんなことをしても無駄だのに…ということで、
「…ルフィか。」
 腹が立つより呆れてしまう。手でやったか、それとも体がぶつかったか。どっちにしてもこれだけの穴が抉れたということは、
"…怪我はしなかったのかな。今朝見た限りでは変わりなかったよな。"
とそう思うところが、彼もまたルフィへは甘い。本人へは"ボケてんじゃねぇよっ"などと容赦なく突っ込みを入れるが、同い年とは思えない幼さや天真爛漫なところが憎めないし、自分の矜持を…海賊への夢を初対面の身ですんなり理解してくれたことが始まりなせいもあろう。
「こりゃあ、この差し渡し全部を取り替えた方が良いが…。」
 その大きさや滑らかな反り具合の角度などは、大波から受ける衝撃を受け止め、拡散または吸収するよう、微妙に計算されてあった筈。だが、あいにくとそこまで大きな予備材はない。次の寄港地で補充するかと、ここへもとりあえずの補強に取り掛かる。抉れたことで剥き出しになった、前もっての表面加工が施されていない内側の材質は、雨風に殊更弱い。そこを外的環境から保護するべく、弾力のある板で覆って塞ぐ。長めの大クギで板をとんとんと打ち付けていたウソップだったが、
「…ありゃ。あと一本なんだがな。」
 手探りだったところをわざわざ覗いてみた道具箱。だが、やはり大クギはもうない。
「倉庫にあったかなぁ。一番使う長さだからなぁ。」
 だからこそ日頃から持ち歩いてもいるほどで、もしかしたら在庫も底をついていたかも。どうしたもんかと唸っていると、
「どうした、ウソップ。」
 上甲板から降りて来たゾロが声をかけて来た。
「ああ、ちょっとな。クギが足んねぇんだよ。ここんとこにあと一本打ち込みゃあ終わりなんだが。」
 ウソップが鼻で…もとえ、顎で指し示した船端を見て、
「………。」
 剣豪殿の表情が少々引きつりかかったところを見ると、どうやらルフィよりは彼にこそ、この破損に対する"身に覚え"があるらしい様子。
「ま、良いけどよ。始終見回って、板が外れねぇように気をつけてりゃ済むんだから。」
 済んだこと、起こってしまったことは、後から何を言っても始まらないし仕方がない。そういう考え方を教えてくれたのもルフィであり、いつもいつもそれを適応するほどとことん温厚なウソップではないものの、今回は"ま・いっか"モードで諦める…もとえ、収めるつもりだったらしい。………と、
「…まあ、待て。」
 ゾロがそう言って、片手を腰に当てた。いや…角度の関係でそう見えた。で、
「この長さで良いのか?」
 ざらっと大きな手のひらに掴み出して見せたのは、丁度ウソップが求めていた長さ・太さの大クギが十数本。新品同様で銀色の輝きが何とも眩しい。
「…どっから出したんだ、お前。」
「まあ、良いじゃねぇか、そんなこと。修理、ご苦労さん。」


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 サンジが使っているのはほとんどがステンレスの洋包丁で、和包丁のような鋼の刃がついているタイプではない。よって、使う前後に棒状のグラインダーで研ぐ。だが、
「…っ、チッ。切れねぇじゃねぇかよ。」
 包丁の切れ味は冗談抜きに料理の味を左右する。一に、鈍った包丁は料理人の作業のリズムを崩す元となるからで、二には、科学的な分析でも、切口が潰れた食材からは旨みが逃げるので切れ味は良いに越したことはないとの報告がなされている。店頭販売&通信販売ブームで、フードプロセッサーとかスライサーとかが出回っているが、ハンバーグだのギョウザだの、元から材料を潰す調理をする料理でない限りは、やっぱり包丁で刻んだ方が美味しいのだ、マドモアゼルたち。ゆ・あんだすたん?
おいおい …で、咥えた煙草を唇の端っこにおっ立てて、サンジが眉の巻いていない側同士をくっつかんばかりに寄せているのはおいおい、今一つ切れ味が復活しない包丁に焦れてのこと。どうも昨夜辺りからどいつもこいつも切れ味が鈍っていて、棒状のグラインダーで研ぎながら、試し切りにと並べたトマトをさっきからスパスパとスライスしている彼であり、見た感じでは鏡のように真っ直ぐ平らな見事な切り口なのだが、ご本人の手ごたえとしてはどこか不満ならしい。
「…このクソ包丁がよ。」
 どれも長年に渡って愛用して来た品だ、信頼はしている。だが、時間の経過による摩滅とかいう風化には逆らえないということか。
"っても、せいぜい10年かそこらだぜぇ? クソジジイの愛用品ならともかくよ。"
 う〜〜〜ん、どうなんでしょう。金属ってどのくらい保つんだろう。コンクリートなんかは数十年って言いますでしょ? 中の鉄筋が錆びて酸化したりすればもっと早い。でも手入れの良いステンレスなら、かなり保つ筈ですよねぇ。………と、そこへ、
「どうした。」
 開け放たれた扉からのそっと入って来たのは剣豪殿だ。水を飲みに来たらしく、流しへ真っ直ぐやって来たが、そのすぐ傍で、手にした包丁と睨めっこしているコックさんを不審に思ったのだろう。
「別に。」
 剣豪さんの口利きや態度が悪い訳ではないが、ついついぶっきらぼうに応じている。いつものことだ。何が気に食わないと言って…挙げれば限
きりがないから割愛するが、とどのつまり、男に愛想を振り撒くなんてそんな非生産的な事が出来るかいというところか。そんな応対をしたものの、彼の目が、ふと、ゾロの腰に留まった。そこにあるのは3本の刀。時々甲板で手入れをしている剣士殿で、懐紙で湿気や埃、油脂分を拭うだけの簡単な点検ぽい手入れのみならず、本当に"たまに"ながら自分で研いでもいる様子。(日本刀といえば、時代劇などで粉をはたいて紙で拭くという手入れがよく出て来るが、あれは細かい研ぎ粉をまぶしているので、そうそう頻繁にやると逆に刀を傷めるらしい。…閑話休題それはともかく。)
「…そうだ。おい、ゾロ。」
「ああ?」
「お前、砥石持ってたよな。」
「ああ。」
「ちょっち、貸してくれんかな。こいつら、一度しっかり研いでおきたくてよ。」
 ステンレスの洋包丁は果たして砥石でごしごし研いでも良いものなのだろうか。…ちなみにウチの母は調理師だったが、洋包丁だろうが和包丁だろうが文化包丁だろうが、出刃だろうが牛刀だろうが菜切りだろうが柳刃だろうが、どれもぴっかぴかに研いで使っていた。そうしょっちゅうは不味いだろうが、一カ月に一度くらいは研いでも良いのかも。
「構わんが、変なクセはつけてくれるなよ?」
 いつもならここで"何で俺が"とひとしきりの悶着があったりするのだが、このコック氏からの"頼まれごと"というのが珍しかったせいだろう。特に眉を顰めることもなく、
「ほら。」
 いきなりこの場で取り出したから、
「………おい。」
「ん?」
「お前、いつも持ち歩いとるのか?」
「何だよ。使いたくねぇのかよ。」
「あ、いや、借りるけどよ…。」
 レンガの大きさをご存知だろうか、マドモアゼルたち。ああ、大きいのから小さいのまで色々あるか。じゃあ、虎屋の羊羹の桐箱…って、もっと判らんて。8センチ×8センチ×25センチくらいはある重たい石の塊りを、両の手が空いていた彼がどこから出したのか。
「……………ありがとな。後で返すわ。」
「ああ、いつでも良いぞ。」

  ………謎は深まるばかりでございます。



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 今日の後甲板は珍しく静かだ。久し振りにカルガモのカルーの羽根を手入れしていたビビで、大丈夫だとは思うが埃やら羽根につく菌などが舞い上がると吸い込むかもしれないからと、ナミには前方の上甲板に移ってもらってのこと。これがなかなか馬鹿に出来なくて、死に至りかねない症例の報告もある"オウム病"というのがあるほどだから、決して大仰な気遣いではない。それと…決して日頃気兼ねしているつもりはないのだが、たまにはカルーと二人?きりという時間を持ちたかったせいもある。穏やかな波の音をBGMに、他愛のないことを話しかけながら、帽子やらゴーグルやら、沢山着込んでいる装備を一つ一つ丁寧にカルーから外してやっていたビビは、
「あら?」
 鞍のベルトが腹のところで擦り切れかけていることに気がついた。これまで様々な冒険や激しい活劇を一緒に乗り越えて来たその中で、知らない間にこうまで傷んでしまっていたのだろう。こんな形で気づいて良かった、知らずに乗っていたら落ちていたかも。カルーにだって怪我をさせたかもと、ホッとしつつも、
"でも…。"
 これからが問題だ。柔順で愛らしい外観の愛玩動物なだけでなく、カルーは一種のパートナー。そう…例えば彼がサラブレッドだったらどうだろう。乗り回されるだけが"役目"ではなかろうが、それでもその特徴が失われてしまっては、これからも続くだろう数々の冒険の中、乗ることが出来ず手綱を引いて連れ歩くことになる。機動力は半減するだろうし、それより何より、今まで"一心同体"だったスキンシップも激減する。
"次の寄港地といったって…。"
 こんな凝ったものを置いているかどうかは判らない。修理してもらうにしても同じだ。馬具の一種ではあるが、乗用の生き物がいる土地とは限らない。慣れないものの修理となると時間だってかかろう。
「………。」
 どうしたものかと、小首を傾げるカルーと顔を見合わせて考え込んでいると、
「どうしたよ。」
「え? あ、Mr.ブシドー?」


           ◇

「そんで今度はカルーの鞍を出しちまうのか?」
 先回りをして言い出すルフィに大きく頷いて見せ、
「おうよ。…で、最後には、自分の昼寝用にって、こ〜んなでっかい羽根布団出したりしてな。」
 両手を頭上で目一杯広げるウソップであり、その場にいた全員がどっと沸く。あ、いや一人だけは、船端に寄り掛かったままながら、眉間を思い切りしかめていて、笑ってはいなかったが。
「お前ら、人をどっかのネコ型ロボットと一緒にすんじゃねぇよ。」
 おいおい、ゾロさん。何で知ってるんだ、そんなもんを。上天気の主甲板の真ん中で繰り広げられていたのは、ウソップの久々のデタラメ話。ゾロの腹巻きから次々に色んなものが出て来る展開がやたら可笑しくて、ルフィとビビが素直に声を上げて笑っている傍で、ナミだけはゾロが肴にされているのが可笑しくて笑っていた。一見、気難しそうで恐持てのする印象が拭えない剣豪殿だが、そういえば不思議とウソップは彼をさほど怖がらず、威圧されずにいる。言いたいことは言うし、時折ルフィ並みの無茶を言う彼に突っ込みだって入れている。仲間だから当たり前と言われればそれまでだが、ほぼ初対面の時からこうだったような。(俺たちは本物の海賊なんだぜ?と脅かしたところはともかく。)今にも噛みついて来そうな目付きで睥睨しもするが、実はさして怖い人間ではないと、その本性を読まれているということだろうか。
「随分とにぎやかだな。」
 そこへ姿を現したのは、キッチンで午後のデザートの仕込みに入っていたサンジだ。エプロン姿のままなところを見ると、まだ仕込みの最中らしいが、そんな状態でこんなところまで出て来るとは珍しい。まだ尾を引いていてクスクスと微笑っている麗しきマドモアゼルたちにこちらもにっこりしつつ、その奥で憮然としている剣豪に用があるらしく、
「おう、ゾロ。さっきも借りたが、すまん、もっかい砥石貸してくれんか。ペティナイフを研ぐの忘れてた。」
「おう。」
 言われて…ゾロが腹巻きから掴み出したのは、カマボコ板ほどの小さめのものとは言え立派な砥石だったから、

  「…え?」「ウソ。」「ありゃりゃ?」「おいおい。」

 皆がぎょっとした。さっき披露されたバカ話は、あくまでもウソップが面白おかしく組み立てたホラだ。であるにも関わらず、そこに出て来たのと同じ砥石を、まさか本当に持ち歩いているゾロだとは…普通思わないって。
「なあなあ、じゃあ釘は? カルーの鞍は? でっかい布団は?」
 ルフィが身を乗り出してワクワクと訊いたが、間髪入れずに歯軋りもので怒鳴り返されている。
「そんなもん、入っとらんわっ!」
 そりゃそうだ。
「ちぇ〜っ。」
「な〜んの話だ? 一体。」
 唯一、話が見えないでいるサンジがキョトンとし、知らなくて良いと言わんばかりにムッとして見せているゾロが、ふと、
「…あ、けど、待てよ。」
 凭れていた船端から身を浮かした。そしてそのまま、自分で問題の腹巻きの前の部分の折り返しを手前に引っ張って覗き込んだものだから、
「おいおい、まさか…。」
「まさか、よねぇ。」
 何が出るやらとついつい息を飲む面々が見守る中、
「ほれ、こんくらいなら入っとるぞ。」
 摘まみ出したかわいらしいピンク色のキャンディを、ぽ〜んと放って寄越した彼で、
「やりぃ。」
 ナイスキャッチで受け止めたルフィには、それだけでも話の落ちとしては満足らしく…でも他の皆さんにはいかがなもんでしょうか。

 「…こらこら、筆者。」
 「また書き逃げかい。」


        〜Fine〜  (01.8.21.〜8.22.)

    カウンター600番 キリ番リクエスト
           Jeaneサマ  『ゾロの腹巻き』



 *タイトルに苦労しました。
  (佩ってのはどちらかと言えば"帯・ベルト"なんですがね。)
  まさか『なにが出るかな?』とするワケにもいかんし。
おいおい
  UPするのに、思いの外、時間が掛かったのは、
  事件や出来事に絡ませにくい題材なのが難しかったからです。
  …勢いの人だったのね、自分。
  とりあえず、何だか今回からペースダウンして行きそう。
  もう"早い"って言わせないぞっ、うん。
  (こらこら、意味判って言ってるかい?)

  こういうギャグもの(…になっているんだろうか?)も
  書いちゃうぞということで、Jeane様へ。
  ………こ、今度こそ怒られるかな?
ドキドキ

    


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