賀正

「飲みすぎだ、ルフィ」
「うや?」
年越しの宴会の最中、やがて年が明けると屠蘇へと変わるが、現在はまだ、ただの宴会での酒だ。余り得意ではないが、甘い酒を船員達に薦められ、気付くと何杯も重ねている。とろんと眦を赤くするルフィに、ゾロは小さくため息をついた。
「ぞ〜ろ〜」
「くっつくな」
「あそぼ〜」
「うるせえ、酔っ払い」
「つめてえ〜な〜」
「あのなあ」
その両腕を伸ばして、座り込んでいるゾロの背中にまとわりついてくる。思わずゾロはその腕を掴みあげた。
「あっちい。マジ飲み過ぎだ」
「そーかー」
ひゃはははと笑いながら、ルフィは腕を捕まれたままその背中へと頬を擦り付けた。
「おし、このまま外へ出ろ」
「しまいには何を言い出すんだ?」
「ぞーろー、おんぶーっ」
「ちょっとゾロ、ソイツ外で酔い覚まして来てよ」
「ああっ!?」
「悪酔いしそうだからな」
「外気は結構いいぞ!」
「クソゴムの担当はお前だ」
「何だよー。一緒はいやなのかよー」
「だからそういうんじゃなくてな」
「船長さんもそう言っていることだし、そうしたら?」
全員に促され、背中に張り付いたままのルフィへとその腕を回す。どこか乗せられた気がしたが、どちらにしろ誰に言われても、確かにこんな役割をふられる立場を誰かに譲る気など毛頭無かった。


 夜の外気は容赦ない冷たさを持っていた。甲板の上は恐らく零下の気温になって来ているのだろう。吐く息が白く物質を持つかのように動いていく。
「あ、雪だ」
それまでゾロの背中が暖かいのか、酔った勢いで気持ちが良いのか、彼の後頭部へと額を擦り付けて笑っていたルフィの温みが不意に離れ、そんな言葉が背後から投げられた。
「本当だな」
ふわり、ふわりと少しずつ降ってくるその雪に、ルフィはゾロの背中に乗ったまま、天へ向かって麦わらを差し出した。さっきまで被っていたその帽子には温もりが残っていたのか、触れた途端に、何もそこには存在していなかったかのようにその存在を消していく。
「何やってんだ?」
「雪、捕まえてる」
「…相変わらず、何でも手に入れたがるヤツだな」
「おおう、オレは海賊王だからな!」
「そーかよ。……さみぃから、戻るぞ」
「まだダメだ! 積もってねぇっ!」
「何だとー? 積もるまで待てってのか」
 やがて、うっすらと白く周囲が染められた頃、麦わらの中にも同じ色が敷き詰められた。満足そうにルフィはゾロの背中で、その麦わらを大事そうに持った。
「ほれ、見ろ!」
「へえへえ」
「きれーだなー」
「そうだな」
その瞬間、勢いよくドアが開き、大きなクラッカーの弾ける音が聞こえた。振り向くとデッキから、サンジとウソップが手にたくさんのクラッカーを持って、順次にそれを鳴らしていく。こんな時にはこの二人の息はマジメにぴったりだったりする。隣にはナミがチョッパーを笑いながら抱え、ロビンがその後ろへ静かに控えている。
「あけまして、おめでとーっ」
「年明けたぞーっ」
「うわ、クソさびいっ、お前ら雪降ってんのに、いつまで外にいるんだっ」
「早く戻りなさいよ、いくらバカ二人でも風邪引くわよ、酔い覚ましどころじゃないわ」
口々、好き勝手な言葉を甲板にいた二人に投げつけて、さっさと暖かで明るいキッチンへと戻っていく姿を呆然と眺めた。するり、と力の抜けたゾロの腕から、ルフィは降りた。
「サンキュー、ゾロ。楽しかった!」
「じゃあ、満足してくれたようだし、戻るか」
「ああ」
麦わらをなるべく自分の体から放し、体温が伝わらないよう体勢をとったルフィに、ゾロは小さく笑った。そのままこの寒空の下でも剥き出しだったその二の腕を掴み、引き寄せついでに、改めて抱き寄せる。
「…雪溶けるだろ、バカゾロ」
言葉とは裏腹にえへへーと言う、どこか呑気そうな笑い声が聞こえてくる。腕から肩を包まれた暖かみに、頬に一瞬で紅が差す。
「今年は一番に声をかけたヤツ、ゾロじゃなかったもんな」
妬いたんだろ、と言いながら笑うルフィに、肯定の言葉は言えなかったが、それでもその沈黙が逆に雄弁に物語る。
「おめでとーだな、ゾロ」
「ああ、おめでとう」
新しい年も、何があっても構わない。出来ればこの温もりの側に変わりなく在る事が出来ますように。




 +お正月のご挨拶という事でDLFとなさってらしたため、
  大急ぎで頂いてきてしまいましてvv
  ありがとうございますvv
  ほろ酔いルフィが可愛いですvv
  SAMI様にはたいそう長いこと構って頂いておりまして。
  お忙しい方なのに、本当にありがたいことだと、
  感謝してやみません。
  繊細で情景描写の素晴らしい、お話の数々も大好きです。
  これからもどうかよろしくお願い致します。

SAMIさまのサイトErde.さんはコチラ→**


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