your voice
 


欲しいものは、ひとつ。
食べた事のない御馳走とか。
初めて訪れた島の冒険とか。
触り心地のいい毛布とか。
何か素敵な物とか。
ずっと目指している夢とか。
望めば多分欲は尽きないんだけど。
自分の誕生日に「何が欲しい?」って聞かれて、欲しいと思うのは本当に。
たったひとつなんだ。






自分の誕生日ってのは、なんだか1日中むず痒い。
上手に説明出来ないんだけど、色々と意識してしまったり内緒ごとが見えても見ない振りしてみたり。
まず朝の挨拶からして違いがあるから。
普段は「おはよう」だけなのに、誕生日はそれに加えて「おめでとう」って。
それ自体が妙に気恥ずかしい。
ただ生まれただけの日なのに特別なんていうのは、自分の誕生日には到底思えない。
他人の誕生日の方がずっと特別だって思える。
ゾロの時はそう思ったから。
祝われるより祝う方が好きな性分のせいか。
だから今日も例に洩れずにむず痒い。
背中の、ちょうど肩から手を回しても脇から手を伸ばしても届かないような微妙な位置。
どこでも届く手なのに届かない場所がむず痒い。
まったく気分的なものなんだけど。
「おはようルフィ、そしておめでとう」
最初のおめでとうはウソップだった、小さなお手製のクラッカーを鳴らして中途半端に派手な感じがウソップらしくて笑った。
「おはよう、おめでとう。祝いは夜だから朝食から少ないとか云うなよ」
2番はサンジ、朝食の皿を並べつつ。
「おはよう。今日は誕生日ね、おめでとう」
「おはようルフィ、誕生日おめでとう」
続けざまにナミとチョッパーが云う。
やっぱりむず痒い、嬉しいのに。
「船長さん、おはよう。お誕生日なんですってね、おめでとう」
ロビンが微笑む。
「・・ありがとうな」
やっぱり朝からそういうコトを云われるのはむず痒い、けれど。
皆が口々に祝ってくれるのに、一番祝って欲しいと思う相手はいない。
「ゾロは?」
さして広くない食堂の中を見回す、見当たらない。
「あいつな、見張りで寝てないからそのまま寝るってさっき出て行ったよ。ルフィ、会ってないのか?」
頂きます、と挨拶したあとウソップが云う。
「・・・会ってない」
部屋から食堂までの道程、動線は僅かしかないのに。
すれ違った様子。
「ゾロ、すごく眠そうだったから多分昼食も怪しいわよ」
ナミが笑う。
「食べてから寝てもらった方がこっちの手間も省けるんだけどな」
食事絡みだとサンジはとても嫌そうに。
「そっか・・・」
正直、拍子抜け。
みんなに祝ってもらえるのはとても、とても嬉しい事だけれど。
一番祝って欲しい相手はゾロなんだけど。
寝ずに一晩見張りやってたから眠いのは仕方がない、クジで決めた見張りの順番でゾロが昨日だったのも仕方がない。
でも、残念で仕方がない。
って思うのも仕方がない。
「まあ、昼過ぎにでも起こしてみろって。ゾロだってお前の誕生日ってことは忘れていない筈だから」
がっかりしてるのを見越してかウソップが隣で笑う。
「そうだよな。おう、そうする。俺が起こす」
励ます言葉が嬉しくて、消沈した気持ちがちょっと浮上。
「お前が起こしたらゾロなんて1発で起きるだろ、がつんと起こしてメシ食わせてくれ」
給仕の終わったサンジが座る。
「おう、頑張る」
自分の誕生日に祝って、励ましてもらって。
なんかいい立場だな、俺。
「では、いただきまぁっす」
食事に取り掛かる、いないゾロのことを少しだけ気に止めながら。







昼食が終わって、ちょっと一服して。
「うしっ」
ひとつ気合いを入れて、部屋に向かう。
外の明るさと比べると暗い室内、小さな寝息。
覗いて確認する、ソファの上のゾロの姿。
上から射す光にもまったく微動だにせず、ただひたすら眠る。
ぴょん、と飛び下りる。
他人の気配があっても最近のゾロはあまり起きなくなってる、以前は近付いただけで即目を覚ましたりなんてこともあったのに。
鈍くなったのか、平和ボケなのか。
判らないけれど自分の近くで無防備になるゾロはちょっと嬉しい。
頑に自分を武装していたゾロが自分に身を任せてくれてるのを知るみたいで。
木の床にぺたり、と足音。
ゾロに近付く。
眠っている時のゾロの睫の影が好きだ。
ちょっと潜められたゾロの眉間の皺が好きだ。
近寄りつつ色々と眺める、無防備になった分だけ観察出来るのも嬉しい。
ぺたり、ぺたり。
見下ろす自分の影がゾロの顔から肩に写る。
「ゾーロ」
呼んでみる。
「ん・・あ?」
半分寝惚けたみたいな声で返事。
「ゾロ、昼過ぎたぞ。そろそろ起きろ」
指を伸ばして、皮だけの頬を軽く抓る。
「・・・まだ昼かよ。もうちょっと寝かせてくれよ」
薄く目を開けて光にまた強く目を瞑る。
明るさから逃げるみたいにごろりと背を向ける。
「もうちょっとってどのくらいだ?」
寝返りを打って空いた場所に座る。
背中から覗き込んで、聞く。
「・・・夕方まで」
ぽつりと呟く声は、もう睡眠状態。
「だったら、俺に一言だけ云ってから寝ろ」
眠たい気持ちは良く判るから、せめて欲しい言葉を。
それだけを。
「・・・何をだ?」
手の甲で目を擦って、こっちを見る。
薄目はまだ視点があってない。
「今日は何の日だ?」
「今日・・・?」
ただでさえ記念日に疎いのに、寝惚けてたらきっと判らないだろうとタカを括って。
「今日・・・」
もう一度呟いて、手がゆっくりと伸びる。
ゾロの脇に抱えられるように、ぎゅっと締め付けられる。
眠そうな顔が至近距離。
普段より高い体温が肌に馴染む。
「・・・おめでとう」
小さく呟いた声、その言葉。
「覚えてたのか・・・?」
欲しい言葉だったけど、嬉しい気持ちより前に意外と思う気持ちが出た。
「・・・それだけは忘れねえよ」
寝惚けた顔で、口許だけをにいっと笑みのカタチにして。
「ありがと」
遅れて来た嬉しい気持ちは爪先からじんわりと全身を暖める。
痺れみたいに広がる。
「ありがと」
「・・・・」
2回目の言葉はもう届いていなかった、すーっと深い呼吸が近くで聞こえる。
本当に云ってから寝てしまった。
律儀なゾロが嬉しくて可笑しくて、抱えられた体勢のまま声を殺して笑った。







夜は恒例のように甲板で祝いの宴。
アルコールに強くない自分の誕生日は酒より食事、次々と運ばれる食事をガンガン食べた。
プレゼントと言葉、そして祝いを忘れてただの宴会に成り下がった状態で楽しむ。
夜は長い、けれど宴席は短い。
勝手に酔いつぶれたメンツと片付けに入ったサンジとロビン、最後に残るのは大概自分とゾロ。
「・・・ゾロは眠たくないのか?」
結構な量を飲んでいる筈なのに、いまだ飄々と飲み続ける。
「さっきまで寝てたのに眠くなるかよ。ルフィは?」
「ちょっと眠たいかな」
最初に少しだけ飲んだ酒が気持ち良く回っている。
沢山食べて飲んで、楽しい自分の誕生日。
ごろり、と甲板に寝転がる。
空の星が綺麗に見える。
「ここで寝てもいいぞ。まだ当分起きてるから」
額に触れる指先、ひやりと冷たい。
「ん・・・どうしよっかな」
多分目を閉じたらすぐに眠れると思う、けれどそれはちょっと惜しい気がする。
誕生日、ゾロと2人きり。
「・・好きにすればいい」
見上げるゾロが酒を呷る。
「なんか勿体無いんだって・・・」
「勿体無い?」
ごとり、と瓶を置く。
「すっげえ楽しくて気持ちイイから、このまま寝るのがなんか勿体無い」
「・・・そうか」
静かに笑う。
「だから、このまま、ちょっとここでごろごろしてる」
ゾロに近付くみたいにごろり、と転がる。
左足に顔が当たる。
「ゾロ・・・」
「なんだ?」
額に触れていた指が頬に触れる。
冷たさが気持ち良い。
「もっかい、云って欲しいんだけど」
「何をだ?」
「誕生日おめでとうって」
寝惚けて云ってくれた言葉、ちゃんと云うのが聞きたい。
「・・・あ、・・それな・・」
空いた手で首の辺りを掻いて、周りを見回す。
寝ている奴等はちょっと離れている、起きている2人は食堂で喋っている。
「・・・ルフィ」
頭を傾がせて、キスするみたいな位置で。
「おう」
笑う。
「・・・誕生日、おめでとう」
ゆっくりと小さく呟く言葉。
「しししし」
云われてる自分より多分云っているゾロの方が照れている。
顔にそう描いてある。
「これでいいか?」
近い位置でそっぽ向く。
照れてるのを隠そうとする、その態度がもう照れてる。
「おう、ありがと。御馳走様」
笑ってから首に手を回す。
ぎゅっと近付く。
「お礼のチューだ」
唇でなく頬に、ひとつ。
こっちを向いていないから。
「・・・礼はそれだけか?」
照れた表情を残したまま、こっちを向く。
にやりとひとつ、笑う。
意図する事は良く見えるし良く判る。
下心有ります、と描いてあるし。
「足りないか?」
最近は小さな駆引きは必須、以外と楽しいし。
「足りないな」
きっぱりと返す男らしさが可笑しい。
「じゃあ、お礼にもひとつチュー」
笑って、唇に触れるだけのキス。
「・・・どうだ?」
「本音を云えば足りないけど、まあいいか。誕生日だし」
間近で笑う、一緒に。
そういうことが一番のプレゼントだって、思う。
そしたら毎日がお祝いみたいじゃないか。
また、嬉しくなる。
「・・・今日はしないのか?」
寝転がったままの身体は、ゆっくりと眠りに近付いてくる。
「したいのはやまやまだけど、お前、もうかなり眠たいだろ」
「バレてる?」
またひとつ笑う。
「すぐわかるって。目が眠そうだ」
指先がこつんと額を小突く。
「気持ち的にはしたいんだけど、御指摘通りもう眠たい。残念だけど・・・また明日?」
「また明日、だな」
「あ、ダメだ。明日の夜、俺、見張り」
「だったら明後日だな」
苦笑。
「・・・それだったら無理に起きてでもヤりたいなあ」
「無理すんな。自分の誕生日くらい大人しく寝ろ」
こつんと小突く指先が目許を塞ぐ。
「このまま寝てもいいからな」
優しい声、優しいキス。
「・・・そうする」
指先より暖かい掌の温度がゆっくりと眠りを後押しするみたいに感じる。
本当はまだ惜しい気持ちもあるんだけど、もういいやって気持ちになる。
そう思える程ゾロの固い掌が気持ち良い。
「・・・ありがと」
身を離したゾロに聞こえるかどうか判らないけれど、小さく呟いた。
良い誕生日だったなあ。
しみじみと呟いて、意識を手離した。





HAPPY BIRTHDAY,LUFFY!!!



ルフィ誕生日記念のお話でした。本当に当日にアップになりました(苦笑)
しかも、異様に甘いわなんかゾロ贔屓っぽい話だわで、果たして、本当に
この話がルフィの誕生日の話か自分でも判らなくなりました(笑)でも誕生
日祝いです、そう念じて書きました(笑)相変わらず意味不明な話ですが、
DLFです。よろしければお持ち帰り下さい。今月末までDLFとして置いて
置きますのでどうぞどうそ(笑)読んでくれて、誠に有り難うございます。



20040505


*このところ、ご無沙汰しまくっている不義理者ですのに、
 頂けるものは頂いてしまう。
 海賊よりも性質(たち)が悪いかもです。(ううう。)
 でもでも、ヒヨシ様の書かれるお話の繊細さには、
 どうしたって手が伸びてしまうというもので。
 大切に読ませていただきますね? ありがとうございましたvv


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