11*10

 

 「あらルフィ、怪我したの?」
 ナミがルフィの右の二の腕の傷に気づき、声をかけた。 
 「さっき、壁から出てた釘で引っ掻いたんだ」
 ちら、と自分の傷に目をやってそう答えたルフィへのナミの感想は簡潔だった。
 「どんくさいわね」
 「んー。ちょっと考え事してたんだ」
 眉根を寄せてそう言ったルフィがふとナミの方を見ると、彼女はなぜか上を見上げている。
 「なんかあんのか?」
 「雨の気配はないけど、海王類とか降ってきたら困ると思って」
 「??」
 「で?珍しく何を悩んでるのよ」
 腕を組んで先を促すナミに、ルフィはまた困った顔をした。
 「ゾロの誕生日のプレゼント、何あげたらいいかな?」
 「ああ…」
 言われてようやく合点がいった。
 明日はゾロの誕生日である。
 そのプレゼントについて悩んでいて、怪我をしたというわけか。
 「一応、チョッパーに診て貰いなさいよ」
 「んー。めんどいからいい」
 実際、いつもルフィが戦いの中で負う傷に比べればかすり傷のようなものだ。
 だからナミもそう厳しく言う気はあまりなかった。
 が、ふとナミの目がちかりと動いた。
 「だめよ。釘の傷って危ないんだから」
 そういうと、ずるずるとルフィを食堂へ引きずりこむ。
 「チョッパー、消毒液と包帯ちょうだい」
 食堂にはコックと船医がいた。
 サンジは夕飯の支度、チョッパーはそれを見て包丁さばきに歓声を上げていた。
 「えぇ?!怪我したのか!!」
 「ナミさん、怪我したんですか?!」
 途端目の色を変えた二人に、ナミはぱたぱたと手を振ってルフィをイスに座らせる。
 「こいつよ、コイツ」
 「なんだ」
 「あ!ホントだ。よし、任せろ!」
 プカーと煙を吐いたサンジとは逆に、職業意欲を燃やしていそいそとカバンを持ってくるチョッパーに、ナミは言った。
 「あのねチョッパー、ちょっと私にやらせてもらえない?」
 「え?!ナミさんが手当するんですか!!」
 「え?」
 「えー?ナミがすんのかー?」
 最後に抗議の声を上げた怪我人は、うっさい!とはたかれ、サンジにもこのクソ罰当たり!と蹴られた。
 「それでね、チョッパーはウソップとロビンを呼んできて欲しいの」
 「いいけど…」
 「ゾロは寝てるだろうから放って置いていいから」
 「じゃあ、これ。包帯と薬な」
 そう言うと、ぽてぽてと部屋から出ていった。
 「俺もナミさんに手当してもらいたいなぁー」
 「はいはい。頭割れたら縫ってあげるわよ」
 そう言いながら、ナミはてきぱきとルフィの傷口を消毒し、包帯を巻いていく。
 「みんなになんか用があんのか?」
 「そうよ。ちょっと動かないの!」
 多分チョッパーがここにいたら、包帯の巻き方間違ってるぞ、と言っただろう。
 くるくると綺麗に巻かれた包帯は、しかし最後になぜかリボン結びにされた。
 「…なーナミ。これなんか変じゃないか?」
 「いーのよコレで」
 ルフィは首を傾げたが、ナミが普通にしているので納得してしまった。
 「おい、ルフィ」
 「んー?」
 「コレ喰っとけ」
 ドン!とテーブルの上に皿が置かれ、ルフィはぱぁっと顔を輝かせた。
 「いいのかっ?!まだ夕飯じゃねぇよな?」
 「おう。喰え」
 ガツガツと食べ始めたルフィの横で、ナミがサンジに笑いかけた。
 「察しがいいわね、サンジくん」
 「もっちろんですよ〜ナミさん〜〜」
 そうこうしている間に、ウソップとロビンとチョッパーが来た。
 ウソップとロビンは部屋に入ると、ナミをちらりと見、ナミがウィンクを返す。
 ウソップは長い溜息を吐き、ロビンはクスクスと笑う。
 チョッパーがルフィの包帯の巻き方に首を傾げたが、ロビンにシーっと合図されとりあえず黙っておくことにした。
 「ねぇ、ルフィ」
 「んー?」
 ルフィが食事を終わらせた頃合いを見て、ナミが切り出した。
 「さっきのゾロのプレゼントのことだけど」
 「あー。何がいいかな」
 思い出した途端、むーっと眉根を寄せるルフィにナミが笑っていった。
 「ゾロに言ってきなさいよ。『何あげればいいか分からなくて困ってる』って」
 「それがいいんじゃないかしら。本人に聞くのが一番よね?」
 ふふ、と笑ってロビンもナミの意見に賛成を示す。
 「そーだな。それが一番だ。な?」
 ウソップに同意を求められて、よく分からないまま勢いでチョッパーが頷いてしまう。
 「そーいう事だ。行って来い」
 「…そーか?うーん。そーか!じゃあ行ってくる!!」
 最初は皆を見回して不思議そうな顔をしていたルフィだが、最後には嬉しそうに笑って食堂から出ていった。
 そうしてルフィが男部屋へ入った音がすると、皆はふーーと息をはいた。
 「なんだよ、明日じゃなかったのか?」
 まずウソップが愚痴を言い出した。
 「だって丁度いいと思ったから。いいじゃない上手くいきそうだし」
 「メシも喰わせたから、多分平気だろうし」
 「あ!もしかしてこの間決めたやつの事か?」
 「まぁ、ゾロは夕食抜きになっちゃうけど、あいつはルフィ目の前にしてメシ!とか言わないでしょ」
 「ふふ、こういうのもいいわね」
 「…今日はザコ寝か…」
 つまり。
 実は皆で前々から決めていたゾロの誕生日プレゼントを一日早く渡すことになった、ということだった。


 「ゾロ!」
 トン、と上から男部屋に下りてすぐの大声に、ゾロはソファの上でごそりと身じろぎした。
 「ゾロ!」
 もう一度呼ばれ、ゾロは眉間に皺を作りながらも片目をちらりと開けてルフィを見た。
 「ん…。夕飯か」
 「そうじゃなくてな」
 ルフィは、ソファから体を起こしぼりぼりと首の後ろを掻いているゾロの傍まで行く。
 「ナミが聞けって」
 「あぁ?
 ゾロは体を起こしてソファにあぐらをかき、ルフィを見上げた。
 「ゾロの欲しいもの!ゾロ明日誕生日だろ!」
 「あー。そうだったか」
 「そうだった!」
 ルフィはぶんぶんと首を縦に振り、なんで忘れてんだ!とゾロを軽く睨んでいる。
 「つーか、ルフィ」
 それには答えずに、ゾロが眉根を寄せて切りだした。
 「一体なんだ?そりゃ」
 自分の腕の包帯を指さして言うゾロに、ルフィは簡単に答えた。
 「ああ、これナミが」
 「…あいつかよ…」
 くったりと脱力した様子のゾロをルフィは不思議そうに見つめていたが、気を取り直して再びゾロに問う。
 「ゾロ!人の話聞いてんのか?!」
 「ああ、聞いてる」
 そう言いながら、右手でルフィを招くようにするゾロに、ルフィは大人しく寄っていく。
 ゾロはそのままひょいとルフィを引き寄せ、トンと自分の膝の上に座らせた。
 背中をゾロの胸に預ける格好になり、ルフィは振り返ってゾロの顔を見る。
 「ん?」
 「一日早く貰うぞ」
 「でもゾロ、あげるもんが決まってねェんだ」
 「勝手に貰うから心配すんな」
 そう言い、ぎゅと後ろからルフィを抱き締めると、左頬に軽く口付けた。
 「??」
 特に拒むわけでもなかったが、話がよく分からずにルフィは首を傾げている。
 その間にゾロはルフィの右腕の包帯のリボンをほどいてしまっていた。
 「なんだ、本気で怪我してたのか?」
 包帯を全てほどいて、傷があるのを見て、ゾロがそう言った。
 「別にこんくらい平気だって言ったんだけどなー」
 「で、この結び方か」
 床にほどいた包帯を落とすと、ゾロは溜息をついた。
 落ちたそれを見て、ルフィは首を傾げる。
 「勝手に取ったら、ナミ怒らねェかな」
 「むしろ、取れって事だろ」
 「?」
 意味が分かっていないルフィにそれ以上説明をしてやらずに、ゾロはうっすらと血の浮いた傷口に唇で触れた。
 「ゾロ、プレゼントは…」
 「これから貰うから、黙ってろ」
 「…これが?」
 「……」
 「じゃあ、ゾロ」
 「あぁ?」
 「ハッピーバースディ!!」
 「…おう」

 

 
END
 



  ■うわーい。恥ずかしい!!
   ゾロル久しぶりに書いたのですが…難しかったです(汗)
   そしてとっても恥ずかしかった(爆)
   でも、ゾロの生誕お祝い出来てよかったよかった。
   つか、ありがちネタを突き進む自分。あー…。
   何はともあれ、ゾロ19歳(笑)の誕生日おめでとう!
   ちなみにフリーですので、よかったらどうぞ(いないか欲しがる人)


 *いました、欲しがる人vv(笑)
  花南サマのトコのゾロルはさりげなくえっちぃところがツボでございますvv
  最近は学校の方がお忙しそうで、
  大変でいらっしゃるのに、きっちりUPなさってましたvv
  おさすがですぅvv
  という訳で攫わせて頂きましたvv
  ゾロに美味しく頂かれてしまうのですね、ルフィ。
  私もお話、美味しくいただきますです。
  ありがとうございましたvv


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