最近、大きくなれる事を忘れちゃってる自分が居るんだ。
何でだろうって考えてみたら、結構簡単に答えが出て来て。
その答が凄く素敵だったから、俺はエッエッと笑って、少し高い空を見上げた。
〜◇〜
パチっと大きな瞬きをして、真夜中に目が覚めた。
何の夢を見てたのかは判らないけど、すぅ…と糸を引かれる様に目が覚めた。
途端に、コロン…とハンモックから転げ落ちて、背中を思い切り打ってしまった。
口と背中を押さえて、周りをキョロキョロ見回す…良かった、皆気が付かなかったみたいだ。
「…どうしよう…眠れないよぉ」
ソファに寝転がって、木目の天井を見上げていたら、段々と目が覚めて来た。
こんな変な時間に目が覚めちゃったら…もう眠れないや。
薄暗い部屋の中、カチカチ動く時計の針は、朝の四時半…起きるのには早いし、二度寝するには中途半端。
俺は、そぅ…と忍び足で部屋を横切り、マストをよじ登って、甲板に出る。
冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだら、完全に目が覚めちゃった…でも何だか、気持ちが良い。
夜明け前の海は、全部の音を吸い込んで、風の音も聞えない。
夕暮れ前の海も綺麗だけど、夜明け前の海も綺麗だな…空と海の間に、もう少ししたら、綺麗な線が走るんだ。
深呼吸して大きく伸びをすると、見張り台の上に綺麗な碧色の髪が見えた…ゾロだ。
そう云えば、今日の見張り当番は、ゾロだったっけ…ちゃんと起きてるのかなぁ。
見張りの最中、時々本気で寝込んでて、ナミやサンジに怒られてるし…眠ってたら起こしてあげようっと。
「見張り役の、見張り番だ」
腕をぐるんぐるん回して、見張り台によじ登る。
時々、強い風が頬を撫でて、背中がブルっと震える…やっぱり朝は寒いなぁ…風邪引いてないかなぁ…ゾロ。
まぁゾロは、びっくりする程頑丈だから、大丈夫かなぁ…ドラムで寒中水泳する位だし。
小さく鼻を鳴らしながら登って行くと、見張り台からゾロが、びっくりした顔を覗かせた。
「何やってんだ、チョッパー」
「ゾロ? 起きてたんだ」
「…はぁ? 何云ってんだ、お前」
ゾロは見張り台から身体を乗り出して、俺なんか一抱えの腕を伸ばしてくれる。
俺のズボンを大きな掌でギュッと掴んで、軽々楽々と引き上げてくれた…相変わらずの力持ち。
呆れた様にゾロは白く染まる息を吐き出しながら、俺の座る場所を作ってくれた。
俺の特等席、ゾロの膝の上…いつもはルフィの特等席だけど、今はぐっすり眠っているから、俺だけの特等席。
嬉しくて笑いながら見上げると、ゾロはバシっと俺の帽子を叩いて、思い切り頬を抓り上げた。
「…いひゃいよ〜」
「お前なぁ…登って来るんだったら、デカくなって来いよ」
「?」
「そんなちびっこい身体で上がってたら、危ないだろうが。落っこちても知らねぇぞ」
「…ごめんなさい」
でも、俺が登って来た事は全然、怒らないんだよね。
膝の上に座り込んだ俺を背中から抱え込む様にして、帽子の上に顎を乗せて、ゾロは溜息を吐き出す。
「流石、ぬくいなぁ…お前」
「ゾロ…きつい…」
「あぁ、悪ぃ」
本当に寒かったのかな、思い切り抱え込まれて、息が止まりそうになっちゃった。
深呼吸を繰り返す俺を、面白そうに抱き直して、ゾロは双眼鏡で水平線を見詰める。
俺も、ウソップに俺専用に作って貰った小さな双眼鏡を取り出して、同じ様に水平線を見詰めた。
…もうすぐ朝が来るね。
空の縁が、綺麗な透明な蒼になって行く…海の向うから、朝が来るよ。
「チョッパー、お前さ」
「何?」
「自分が、デカくなれる事、時々忘れてねぇか?」
「…そうかな」
「そうだろ」
ゾロは尤もらしく頷いて、俺の額をごつい指で弾いた。
そして今度は、息が詰らない様に力を和らげて、俺の身体を抱え込む…やっぱり寒かったのかなぁ。
ゾロ、いつも腹巻きしてるし…意外とお腹が弱いのかな?
「ナミの蜜柑の収穫手伝う時も、チビのままだし」
「…」
「本棚の一番上の奴、デカくなれば簡単な癖して、サンジに頼んでるし」
「…あ」
「荷物持ちする時だって、そうだろ。ウソップと一緒にフラフラして」
「…あ…そうかも」
そう云えば、ロビンと初めて水汲みに行った時も…俺、小さいままで行ったかも。
満タンの水で重たくなった樽を、小さな身体のままで運んだっけ…ロビンに笑われたけど。
大きくなったら、あんな樽位、楽に運べるのに…何でだろう。
腕を組んで、じぃ…と考え込んでみる。
膝の上で、ピクリとも動かなくなった俺に、ゾロは溜息を吐き出して、キラキラ煌く水面を見下ろした。
段々と白んで来る空を見上げて、朝の陽に揺れるゾロの髪を見上げて、あっと気が付いた。
最近、大きくなれる事を忘れちゃってる俺…小さい身体で、皆を見上げている俺。
…何でだろうって考えてみたら、結構簡単に答えが出て来て、ストンと胸の中に落ちて来た。
その答が凄く素敵だったから、俺はエッエッと笑って、少し高い空を見上げた。
高い高い空の下、綺麗に揺れる碧の髪に、透明な蒼い目。
オレンジ色の笑顔に、あったかい掌、夜色の横顔に、太陽みたいな背中。
俺は…蒼い空の下、眩しい位に煌く、その色が大好きだから…いつも見上げて歩いてるんだ。
「…チョッパー?」
「忘れてる訳じゃないけど、大きくならなくても、良いかなぁって思うんだ」
「…そっか」
「うん」
エッエッと笑って頷くと、ゾロは苦笑を浮かべて、俺の帽子を指で弾いてくれた。
夜明けの空の下、大きく見上げた空の端で、綺麗な碧色が揺れていた。
*コチラも船医殿のBD作品vv
しかも剣豪と一緒のチョッパーです。
朝を迎える海の上の黎明が、冬の冷たい空気ごと、
ひたひたと感じられるようなお素敵な作品です。
ありがたく頂戴いたしましたvv
一條様のサイト『HEAVENS DOOR』さんはコチラ→■***

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