はじまりの日 *開設1周年&3万打突破御礼DLF*
 



「なぁ、航海日誌見せて」
「え? 急にどうしたのよ、ルフィ?」
「ん〜…ちょっと」


“ここ最近、ルフィの様子がオカシイ”
そう進言したのは、この船一番のブレーン・航海士のナミさんだった。




「オカシイって…どこがですか?」
「あのルフィが“航海日誌を見せろ”だなんてオカシイわよ。 普段、この船がどこを進んでるのかすら興味を示さないっていうのに…」
「また、ただの気紛れとかじゃないんですかね」
「私もそうだと思ったの、一度は。 でもね、ここのところ毎日なのよ」
「毎日? …ここ最近、何も変わった事ないですよね」
「ええ。 針路を変更したワケでもないし、日誌に書くような事自体何も起こってないわよ…変でしょ?」


ナミに真剣な顔で言われて、ふとサンジは首を捻った。


「でも、元気はありますよ。 ご飯だって、普段と変わらず食ってますし」
「そうだけど…」
「ウソップやチョッパーとオヤツの取り合いなんかもしてましたし…」
「でもね〜…」


 多分、この船で船医のチョッパーに次いでクルー達の事をよく観察しているのが、このサンジだ。チョッパーは、船医として当然クルー達の健康管理に取り組んでいるが、サンジはクルー達の体調を見て献立を考えたり・・と、細やかに気を配っているのだ。そのサンジもルフィの変化に気付かなかった。
“本当に変化があったのか? ナミさんの意見に反論するつもりはないが、見落としはないはずだ…”
と、さすがに苦い顔をした。


「あら、まただわ」
「何、ロビン?」
「どうかしたんですか?」


 ロビンはよく船内の至る所に目を咲かせては、キッチンにいながらにして外の状況に目を配っている。今もどうやらどこかに咲かせた目で、何かを見たようだ。


「船長さん…なんだか考え事をしているみたい」
「ルフィが考え事?」
「しきりに頭を捻っているのよ。 何か唸り声も上げてるみたいだし…さっきからずっと」
「そりゃオカシイですね…どう考えても」


 さっきまでルフィの異変について半信半疑だったサンジは、その一言でアッサリと自説を捻じ曲げた。
“考えるよりまず行動”なルフィである。
 考え事なんて、ルフィがするはずがないのだから。


 では、何故?



「ゾロと喧嘩でもしたのかしら?」
「してねぇよ」
「あら、剣士さん」


 いつの間に入ってきたのか…ゾロはナミの台詞に少しばかりムッとした顔を向けた。


「コソコソと人の悪口ばっか言ってんじゃねぇよ」
「でも、ルフィの様子がオカシイとなると…あんたが一枚咬んでるんじゃないかって思うのは当然でしょ? 何か心当たりない?」
「あ゛? ルフィがオカシイって…別にどっこもオカシクねぇぞ?」
「アンタ、分かんないの? なんとなく変じゃない!」
「俺の前じゃ、至って普段どおりだがな…」
「アンタはどうしてそんなに鈍いの? 信じらんない!!」


 ゾロは、真剣にルフィの心配をしているナミに不穏な視線を投げかける。どうやら本当に見当が付かないどころか、思い当たる節もないらしい。やがて“考えても仕方ない”と思ったのか、ぼりぼりと後頭部を掻くと、テーブルの上に大きなバスケットを置いて出て行った。


「何よ、このバスケット」
「あ〜…さっきルフィにオヤツを入れてやったんですよ」
「キレイに食べちゃったようね…」
「ええ、食欲はあるんですけどね〜…」


 さて、どうしたもんだか・・と、溜息を1つ。ルフィの様子が“オカシイだけ”ならまだ良い。ただ問題は、そういう時には何かと面倒な事に巻き込まれるのが常なのだという事だ。


一体どんな星の下に生まれたもんだか―――トラブルメーカーな船長で。トラブルを引き寄せるのか引き起こすのか、どちらにしろ普段と様子が違う時は要注意だ。今までの経験からしてロクな事がない。

  変な思いつきは止めてもらいたい。
  迷惑を被るのはたくさんだ。
  出来れば被害は小さい方が良い。

 そこまで考えてサンジとナミはゾロに望みを託した。ゾロの事だ、きっとさっきの話が気にはなっているはずだ…他ならぬルフィに関する事なのだから。何某かの探りを入れて、ついでに何とか努力もするだろう。少し楽天的かもしれないが、2人はとりあえずもう1つ深い溜息を漏らす。


 ロビンは2人の心のうちを覗いたかのように、クスクスと小さく笑った。







「おい、ルフィ」
「ん? なんだ、ゾロ?」


 案の定、ゾロはルフィが気になって、羊頭に跨るルフィに声をかけた。具合が悪ければ寝かしつけないと…などと、親父のような心持ちで。


「どうしたんだ? 深刻な顔しちゃって」
「ルフィ、お前…具合が悪いのか?」
「あん? 別に?」
「じゃあ、何か悩みでもあるのか?」
「んなもん、ねぇよ」


一方ルフィは、そんなゾロの言葉にもキョトンとした顔で答えるのみで、別段変わったところは無いようだ。


「やっぱりアイツらの気のせいか…?」
「なぁ、それよりさ…ゾロ、寝よ?」
「は?」
「俺、昼寝すんだ。 お前も寝ろ」
「なんだよ…命令か?」
「船長命令だ!!」


 何一つ変わった所どころか、いつもと同じニッカリ笑顔のルフィは、ゾロに飛びつくと返事も待たずにそのまま運んでもらおうと身体の力を抜く。それを当然のように受け留めたゾロは、男の割に軽くて細くて柔らかい身体を慈しむように抱きしめた。潮風に当たっても艶をなくさない黒髪からは、いつもと同じ潮の香りがして。ふんわりと甘い匂いがするのは―――さっき山盛りのパンケーキを食べたからだろう。


「変わんねぇな、お前」
「んん? そうか?」
「ああ、出会った頃と一緒だ。 その笑顔も、この匂いも」
「ししし。 ゾロは変わったぞ」
「そうか?」
「うん…出会った頃からカッコよかったけどな、もっとカッコよくなった!」
「そうかい…ありがとよ」


 陽だまりになっている場所を探し、船の縁に凭れてルフィを膝の上に抱え直す。さわさわと風に嬲られる髪を手櫛で梳くように撫でると、ルフィは嬉しそうに胸に頬を摺り寄せてくる。


「変わんねぇけど、変わったよな」
「なんだ、それ? ワケ分かんねぇ」
「心根は変わんねぇけど…器は大きくなったと思う」
「そうか?」
「あぁ…出会った頃よりずっと、海賊王に近付いてんじゃねぇか?」
「ししし。 ゾロのお蔭だ」


 ジッと見つめ返してくる漆黒の瞳に、ゾロは面食らったように瞬きをした。


「なんで俺のお蔭なんだ? そりゃお前の力だろうが」
「ゾロがいてくれたからだ」
「ルフィ…?」
「もうすぐだぞ」
「もうすぐって…何が?」
「内緒」
「おい、それじゃあ意味が…―――」



 意味が分からなくて顔を覗きこんだゾロが見たものは、ルフィの幸せそうな寝顔だった。







 そんなこんなの数日間だった。“少し様子がオカシイ”ルフィは、心配するクルーを余所に平然としていた。危惧していた不測の事態も起こらず、平穏に時は過ぎる―――そんな昼下がり。


 ルフィはコッソリとキッチンに忍び込んだ。サンジしかいない事を確認してから、みんなに気付かれないように慎重に。


「なぁ、サンジ…お願いがある」
「なんだ? えらい神妙な顔して…」
「あのな? 頼むから、理由を聞かずにご馳走を作ってくれ」
「は? 理由を聞かずにって…言えない事なのか?」


 様子がオカシイと気付いてから数日間―――サンジはサンジなりにルフィに気を配っていた。決定打はないものの、やはりオカシイと思っていただけに、その申し出には首を傾げずにはいられなかった。


「ほんとだったら、俺が黙ってコッソリとやりたいトコなんだけど…俺、ご馳走なんか作れねぇし…頼むよ」
「そりゃ良いけどよ…パーティ用のご馳走で良いのか?」
「うん! サンジのメシは何だって美味いからな! サンジに任せる」
「ほい、了解。 んでもよ〜…俺には理由を教えてくれよ。 気になんだろーが」
「ダメ。 みんな集まった時に言うから―――」


 いつになく神妙な顔のまま、そうお願いされてしまうと、それ以上は訊けなくて。サンジは“楽しみに待ってろ”と言ってルフィの頭を撫でた。







「まぁ、すごいご馳走じゃない…どうしたの?」
「いや、それが…分からないんです」
「あら、コックさん…どういう事?」
「誰か誕生日なのか?」
「いや、チョッパー…それはないな」
「ルフィから、何か話があるらしいんですけど…それ以外の事は俺にも―――」


 一足先にキッチンに顔を出したナミ・ロビン・チョッパー・ウソップは、テーブルの上のご馳走を見て次々と疑問を投げかける。訊かれた方のサンジも理由を知らないのだから、どうにも埒が明かない。

 やがて首を捻るみんなの元に、満面の笑みを湛えたルフィがゾロを引き連れて意気揚々と顔を出した。


「お待たせ〜。 んじゃ、始めるか!」
「おいおい…なんだ、このお祭り騒ぎは?」
「ゾロも知らないの?」
「何が?」


 てっきりゾロは知ってるものだとばかり思っていたので、みんなはますます首を傾げた。

   みんなに内緒にしなければならない―――お祝い事?

 そんなみんなをぐるっと見回してニッカリ笑うと、ルフィは大声で叫んだ。



「今日で、麦わら海賊団結成1周年だぞ!」
「「「「「「へ…?」」」」」」
「今日は、初めてゾロに出会った日―――つまり海賊団結成の記念日だ」


 唖然とするクルー達を前に、それはそれは嬉しそうにニッコリとルフィは笑う。


「ちょっと〜…何よ、それ…結局はゾロと出会った記念日なんでしょ?」
「ったく、内緒だっつっといて…そんなノロケに付き合わされたのか、俺は?」
「違うぞ!! そんなんじゃねぇぞ!!」


 不服の声を漏らしたサンジとナミにびしっと指をさして、ルフィは踏ん反り返り言い放つ。


「ゾロを仲間に引き入れた日、初めて海賊の名乗りを上げたんだからな。 正真正銘結成1周年だ!」


   その瞳は普段の輝きに満ちた瞳で―――いつものルフィそのままだった。


「はいはい…ゴチソウサマ」
「だぁーっ…アホくせぇな、おい」
「ふふふ。 剣士さんあっての船長さんですものね」
「結局ノロケじゃん」
「すげーな! すごい日なんだな、今日は!」


 アホくさいと呆れるやら、それでも微笑ましいと思ってしまうやら…やっぱり羨ましいと思うやら。クルー達は、何とも複雑な顔をした。


「お前…よく日にちまで覚えてたな…」
「すげーだろ!」
「でも不思議よね…ルフィに日付の概念があるなんて」


 そう―――海の上にいるのだから、日付の感覚も無ければ時間の感覚も無い。ついでに言ってしまえば、グランドラインにいる今では季節の感覚すらないのだ。よくそんな状況でありながら覚えていたものだ。


「お前が記念日なんて乙女ちっくな事に拘るとはな〜」
「覚えてたというより、偶然気付いたんだ」
「あん?」
「この前の島に着いた時な、メシ食ってる時にカレンダー見たんだ。 そしたらそろそろだったから」
「それで航海日誌で日にちの確認をしてたのね」
「そうだぞ」
「なんだ…オカシイって気にして損したわ」


 ふむふむ…と、みんながそれぞれに納得した頃、ゾロだけが首を捻っていた。


「どうしたんだ、ゾロ?」
「だから…そもそも、よく日にち自体を覚えてたな」
「あぁ、ゾロに会うちょっと前にメシ食ったんだけどな…その時、たまたまカレンダー見たから」
「それも、たまたまか?」
「おう! 俺、端っからカレンダーなんか見る習慣ねぇもん」
「そりゃまた偶然だな」
「だから、すげーんだって!!」


 あの時、偶然ゾロに出会わなかったら―――今の俺はなかったかもしれない。麦わら海賊団も、全くの別もんになってたかもしれない。


   でもな、最近思うんだ。


 あの時、もし出会ってなかったとしても―――俺達はきっとどこかで巡り会う。偶然ではなく、それは必然。


   俺達は、出会うべくして出会ったんだから。



「船長さんとっては、忘れちゃいけない大切な日なのね」
「おう!」
「やっぱりノロケなんじゃないのよ…バカみたい」
「俺に言うなよ、知るかっ!」
「よ〜し! ウソップ特製花火でも、派手にぶっ放すかぁ!!」
「宴だ! 宴だ!!」
「ま、とにかくご馳走も出来てる事ですし…始めますか」



「「「「「「「おう!!」」」」」」」



 今日ははじまりの日。全ての歯車が回り始めた記念すべき日。



   全てに感謝と祝福を―――




サイト開設1周年記念DLFです。

いつもご贔屓いただきまして、ありがとうございます!
おかげさまで、開設1周年を迎える事となりました。
なんだかあっという間の1年でしたが、その間、お友達もたくさん出来まして有難い事です。
呆れずのお付き合いに感謝です。
今後も相変わらずのサイトであり続ける事と思いますが、どうか温かい目で見守ってやってください(願)

アンケで一番人気だった原作ベースで書かせていただきました。
宜しければお持ち帰りくださいませ。

2005.02.09up


  *お言葉に甘えて頂戴してきましたですvv
   風邪でノックダウンされてしまい、UPが遅れましたが…。
   クルーたちの呆れようが目に浮かびます。
   ゾロと出会った日がまんま海賊団結成の日vv
   これにはホント、やられましたですvv
   kinako様、ありがとうございました。
   大切に読ませていただきますね? ではでは。

kinako様のサイト『heart to heart』さんはコチラ→***


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