大好きな君に
 


 ポカポカしていた春の日差しから、少しキリッとした初夏の日差しに変わってきて…。そろそろ半袖シャツも出しとかないと…なんて所帯染みた事を暢気に考えていたら、嵐はやってきた。


「ゾロは今日一日、俺の言う事聞くんだぞ!」
「はぁ?」


1人暮らしのゾロの家に度々やってくる幼馴染みのルフィは、開口一番そう言ったかと思うと、さも当たり前のような顔をして、いつものように冷蔵庫を漁るのだった。


「なんで、俺がお前の言う事を聞かなくちゃならないんだ?」
「だって俺、誕生日だもん」
「誕生日…?」

おやっ?・・とカレンダーを見れば…5月5日…


“あぁ、そういえば…”


「ゾロ…今、“あぁ、そういえば”って思ったろ?」
「う゛っ」
「ひでぇ!! ずっと一緒にいたくせに忘れんなよな〜…こんな大事な日なのによ〜」
「俺だって、毎日忙しいんだよ…コンパやら…コンパやら…コンパで」
「ゾロ、コンパばっかじゃん!!」

ルフィはムッとした顔でゾロにゲンコツを一発くれてやった。



ゾロは、19歳の大学2年。ルフィは、今日で18歳の高校3年。
2人は家が隣同士の幼馴染み。
そしてそして…
誰にも言ってないけれど、ゾロはルフィの、ルフィはゾロの初恋の人だった。
誰にも…というのは、相手にも…という事で…
お互い相手の気持ちを聞かされていないので、そうとは知らずにいるのだけれど…



去年の春、大学に進んだゾロは家を出て1人暮らしを始めた。それまでは、ルフィが学校から帰るとゾロの部屋に直行するのが常だったのに…最近は、休みの日にしか会えない。実家から電車で3駅の所だけれど…学生の身では、何かと平日は忙しいのだ。
ルフィには部活があるし、ゾロは…というと…
新入生歓迎コンパだか、サークルの新人獲得コンパだとか…とにかくコンパばっかりで。
なので、休みの日には普段会えない分を取り戻すかのように、朝からルフィがゾロの家を襲撃する。
ところが休みだと思って遊びに来ても、ゾロは寝てる事が多い。


“この前来た時なんか…女の人が泊まってたんだ…(男もいたけど…)”


ルフィは、ゾロだけがどんどん大人になっていくみたいで嫌だった。いつまでもお前の相手なんかしてられないって言われてるみたいで…。


“だから、今日は自分の誕生日なのを良いことに、ゾロをちょっと困らせてやろうと計画してるんだ”


ルフィはゾロに気付かれないようにニッと笑った。



「で? 何をすれば良いんだ?」
「おっ、ゾロ…物分かりが良いな〜。 反論はナシなのか?」
「良いよ、別に。 お前の誕生日くらい、望みどおり祝ってやる」
「ほんと!?」

“あんまりアッサリと快諾されてもな〜…調子狂うんだけど…”

ルフィは意外な展開に、内心ちょっと焦った。

“困らせてやろうと思ったのに…それとも大人の余裕ってヤツかな…”


「じゃあ…今日は、ケーキを食べるぞ!」
「いつも食ってんだろ」
「良いの! 駅前のケーキ屋に一緒に行くんだぞ?」
「はいはい」

“うわっ、へっ・・って笑った! バカにしてんだな、ちきしょー…”


「それから、映画を観に行くんだぞ!」
「何観る?」
「ゾロの嫌いなホラー映画!」
「ホラーが嫌いなのは、お前だろうが…トイレに行けなくなるんじゃねぇの?」
「うっさい、バカ!!」

“うわっ、今の笑い…ふふんって感じだった! やっぱりバカにしてやがったな…”


「それから、ご飯食べに行くんだ!」
「何食いたい?」
「肉!!」
「んじゃ、焼肉食いに行くか」
「う…うん」

“うわっ、余裕でやんの! なんだよ、その物分かりの良い大人な態度は?”


「それから…」
「何か欲しいモノがあったら買ってやるよ」
「う…うん…」
「それから?」
「それから…」

“くそーっ! 困らせてやろうと思ったのに…全然困ってねぇよ・・ゾロのヤツ。 すっげー悔しい…”


「他には無いのか?」

“うわっ、何っその、何でも言ってくれたまえ・・って素振りは!?”


「…無い」
「なんだ、遠慮すんなよ」
「良い…もう別に…」
「なんだよ…自分から張り切って言い出したくせによ〜」

“なんか…俺ばっかりガキで、嫌になってきた…”


「何かあんだろ? 顔に書いてあるぞ?」
「う゛っ…」

“なんだよ…顔に書いてあるって…。 書いてあるのか、俺!?”


「ほんとは、何かあるんだろ? 一番言いたい事」
「一番…言いたい事…」
「お前、昔から隠し事が下手だからな」

“俺が一番言いたい事…・・”


「ゾロ…絶対言う事聞いてくれんのか?」
「あぁ、二言は無い」
「んじゃ…」
「うん…」

“これ言ったら…絶対困ると思うんだけど…”


「ゾロ…キスして」
「え?」

“ほら、困ってる…”


「小さい時してくれたみたいな…頬っぺたとか、おでことかじゃなくて…」
「なくて…?」

“どうしよ…言うのヤメようかな…。 でも、ここまで言っといて今更のような気もするし…”


「………」
「どうした? ちゃんと言ってみろよ」
「も、良い…」

“やっぱ言えない…。言ったら、今までどおりの俺達でいられなくなってしまうかもしれない…”


「なんだ? ハッキリしろよ…お前らしくねぇな〜」

“困った顔を見てやろうと思ったのに…。 ゾロ、余裕でカッコいいんだもんよ…ずりぃ”


「じゃあ、俺のしたい所にキスするからな」
「へ?」


ビックリして顔を上げたら…唇を塞がれた―――


「ゾロっ…えぇっ!?」
「何、慌ててんだよ? 頬っぺたでも、おでこでもなければ…唇しか思い付かなかったし」
「………」
「俺もしたいと思ったし…」
「ゾロ…」


ゾロは、ルフィの手をそっと引くと、自分に向き合うように膝の上に座らせた。小さい頃から、いつもこうやってゾロの膝の上に座ってて…親達はよく笑ってた。この頃は、俺が大きくなったからってしてくれなくなってたのに…
それでも、小さい頃からの癖は染み付いているもので…ルフィはゾロの胸に凭れると、ぐりぐりと頬を擦り寄せた。


“ガキの頃と一緒だ…”

「ゾロ…今、“ガキの頃と一緒だ”って思ったろ?」
「相変わらず鋭いな…」


ゾロは小さく溜息をつくと、ルフィの顔を覗きこんで言った。


「俺…、ほんとはお前から離れる為に家を出たんだ」
「え…」


ルフィは目の前が真っ暗になった気がした。

“毎日会いたい。 いつも一緒にいたいと思ってたのは、俺だけ…?”


「なんで!? 俺の事…そんなに鬱陶しいのか・・?」
「お前が好きだから…」
「え…?」
「お前が好きで…傍にいると触れたくなるから…」
「ゾロ…」


そう言って…
髪を撫でられて、抱きしめられて、唇を塞がれて―――


嬉しいのか切ないのか怒りたいのか…いろんな感情が綯い交ぜになって、涙がボロボロと流れ出た。



「お前…昔から、俺の考えを読むようなトコあったしな。 いつか気付かれるんじゃないかってヒヤヒヤしてたし」
「俺…分かんなかった…」
「そのうち俺の一方的な想いで、お前を傷付けてしまうと思ったから…」
「俺、ずっとゾロが好きだったのに…」
「ルフィ…」
「嫌われたくないから…ゾロへの気持ち…ずっと隠してたのに…」


ずっとずっと好きだったのに…
2人して随分遠回りをしたみたいだ―――



「なぁ、ゾロ…。 誕生日だから、何でも言う事聞いてくれるんだよな?
「あぁ、他に何をすれば良いんだ?」
「キスして」
「うん」
「いっぱいして?」
「うん」
「あと…いっぱい“ぎゅっ”てしてくれる?」
「喜んで」


そう言って、2人で顔を見合わせて笑った。



5月5日。
俺の誕生日。
お互いがお互いの特別になれた日。


大好きな君に HAPPY BIRTHDAY




なんともありがちなお話ですいません;;;
こんな物で宜しければ、お持ち帰りくださいませです。

2004.05.01up


  *いやん、なんてかあいらしい人たちなんでしょうかvv
   BDのお部屋開設のその日に実は頂戴していたという、
   手の早い奴でございましてvv
   こちら様のルフィはとにかく腕白で可愛いんですようvv
   kinako様、ありがたく頂戴いたしましたよんvv
   大切に読ませていただきますね? ではではvv

kinako様のサイト『heart to heart』さんはコチラ→***


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