アイシテル。


昼下がり。ポカポカと。
散歩の途中で見つけた辺り一面の花畑。
わりと背の高いその花畑の先には、大きな木とその枝に吊られたブランコ。
それを見つけ子供のようにはしゃぐルフィ。
「ゾロ!ブランコ、乗るか?」
「・・・俺は良いからお前乗れよ。」
「そっか?じゃあ、オレ乗るぞ?」
「ああ。」
漕ぐたびに楽しそうなルフィの声。
穏やかな太陽の光はルフィを優しく包み込み、
温もりはゾロに睡魔を届ける。

そろそろ物資も寂しくなり立ち寄ったこの島。
しかし、殆どの店が閉められていた。
定休日と言ったところだろうか。
おかげで目的だった物資補給もできず。
“遊ぼうよ”と語りかけているような太陽と、どこまでも続く青い空に
じっとしている事などできるはずがないルフィ。
昼食後、ルフィにせがまれたゾロは散歩に付き合っていた。

うとうと、と。
ルフィの声に交じって聞こえてくる聞き慣れない少年の声と、
近くで聞こえる二人以外の足音。
「・・・う・・ん?」
立ち上がった時。
“ボテッ”
今まで、花の影になっていたゾロが急に立ち上がったので
走って来た人物とぶつかりそうになる。
普段の鍛錬から視野の片隅に入ったその存在に敵意がない事と
ゾロを避けて転びそうになっている事が確認でき、とっさに自分の胸に飛び込ませていた。
「大丈夫か?」
「は、はい!す、すみません!・・・あの。・・・あなたは・・あなたは大丈夫でしたか?」
「あぁ。俺は大丈夫だ。」
「お姉ちゃん。何やってんだ?」
「?」
振り向くとそこには、10歳になるかならないかくらいの少年が立っていた。
聞き慣れない声の主はどうやらこの少年らしい。
ニヤニヤしながら
「何、抱き合ってんだよぉ。」
最近の子供はおませさん。
「な、何を言ってるの!転びそうになったところを助けていただいたのよ!へ、変な事言わないの!」
全く意識していなかったのに余計な一言で思わず赤面してしまう二人。
「顔、赤いぞぉ!」
子供は正直である。もう、お手上げ状態。
「こら!馬鹿な事ばかり言ってないの!お昼にも戻らないで・・・母さんが心配してるわよ!」
「ごめんなさぁい。あのお兄ちゃんと遊んでたんだ。」
少年の指差す先には、麦わらを深々とかぶり少し俯き気味のルフィ。
「そう。良かったわね。でも、もう帰りましょうね。」
「はぁい。・・・お兄ちゃーん!またねぇ!」
そう叫んでルフィに手を振っている。ナルキの姉はルフィに向かって頭を下げ
「ありがとうございました。」
と、ゾロにお礼を言うとナルキの手を引いて帰って行った。
いつもなら、元気よく手を振り返しそうなルフィなのにピクリとも動かない。
今は少年の声すら届いていないようだ。嫌な予感がする。
「どうした?ルフィ。」
「・・・・・。」
「また、会えるさ。」
「・・・・・。」
「どこか痛いところでもあるのか?」
「・・・・・。」
「何か言えよ!」
「・・・ここが・・・。」
「ん?」
「・・・ここら辺が、何だか・・・変。」
胸を叩きつけている。ゴムの体は叩きつけられたところで痛みを感じないだろうが
その様子はひどく痛々しく、見ていられない。
「やめろ!」
慌てて腕を掴む。掴まれたルフィは何も言わずゾロにしがみついてきた。
やけに小さく感じられるその体は少し震えていて・・・泣いているようだった。
大きな胸と優しい腕はそれをそっと包み込む。
「・・・どうしたんだ?」

「・・・・・。」
何て言えばいいんだ。
思っていることは一杯あるのに・・・
ナルキの姉ちゃん・・・綺麗で、細くて、柔らかそうで、良い匂いがしそうで、
なんだか・・・なんだかふわふわしてて。
ゾロにぴったりだったような気がする。
ゾロは強くて、かっこ良くて、優しくて・・・・。
ナルキの姉ちゃんはゾロを好きになったかな。
ゾロは・・・ゾロはナルキの姉ちゃんの事どう思ったのかな。
やっぱり好きになったのかな。
だから、顔、赤くしてたのかな。
嫌だな。
ゾロのこと、大好きなのに・・・
あんなの見たくなかった。
ゾロが女の人とくっつくところなんて見たくなかった。
なんだか泣きたくなるし、胸の辺りは変になるし。
オレよりふわふわしてる女の人の方が良いに決まってるって思えちゃうし。
ゾロにギュってしてもらったら涙が止まらなくなるし。
こんな泣き虫、嫌いかな。オレを置いてどっか行っちゃうかな。
「・・・嫌だ・・・」
「ん?」
「・・・嫌だから。オレ。」
何言ってるんだろ、オレ。これじゃ、何も伝わらない。伝わるわけないよ。
「分かってる。」
「え?」

予感的中。
ゾロは分かっていた。
ナルキに手を振れないでいるルフィが何を考えていたか。
不覚にも顔を赤らめてしまった事が更にルフィを不安にさせてしまった事も。
要らぬ心配をさせている事も。
自分の思いを上手く言葉にできずにいる事も。
「分かってるよ。ごめんな。」
「・・・・分かってる?」
「ああ。分かってる。心配するな。」
「・・・だって・・・」
「俺を信じられないのか?」
ルフィは“ブンブン”と首を横に振った。
ゾロのことはいつだって信じている。
どんな時も傍にいてくれるし。
不安な時、何かに負けそうになる時
自分が何も言わなくたって分かってくれていて
そっと優しく抱きしめてくれるから。
ゾロの大きな胸と優しい腕は自分の不安を全て忘れさせてくれたから。
ただ、納得がいかなかった。
こんな事が起こる度に、きっと、泣いてしまいゾロを困らせてしまう自分を
いつまでも好きでいてくれると思えないから。
いつか、ふわふわした女の人を好きになってしまうのではないかと思えたから。
「でも・・・。」
「俺は。」
ルフィの声にゾロの声が重なる。
言わなくてはならない言葉がある。
これから先、何度こんな思いをするか分からない愛しい人に。
それで安心できるなら、何度でも言える。
「俺は、お前で一杯だから。」
「え?」
「俺は、お前で一杯だから、心配するな。」
「・・・オレ、一杯、一杯、泣くかもしれないよ。」
「かまわない。」
「ずっと、オレの傍にいてくれる?」
「いる。」
「ずっと、好きでいてくれる?」
「ずっと、ずっと愛してやる。」
「本当?」
「ああ。」
「・・・ゾロッ!」
「・・って、おい。こら。やめろって。ルフィ!」
「ゾロ。大好き!」


大丈夫。
不安に思うことなんて何もない。
ずっと、ずっと。
傍にいるから。
ずっと、ずっと。
アイシテルから。


       
* end *


 2000HIT踏んでくださったMorlin.様からのリクエスト。
 「あらぬやきもちを焼いてしまうルフィ」
 謎です。謎だらけです。ちんぷんかんぷんです。
 しかも「アイシテル」はかなり寒いです。
 書いてて寒いし恥ずかしいし。
 カエル、
 「アイシテル」なんて言われたことないから、どんなタイミングで
 使う言葉なんだろうと考えてしまいました。
 好き?って聞かれてるのに愛してやるって答えるゾロもどうかと・・・
 文章を作るのって難しいです。
 あっちこっち消したり加えたりしてたらわけ分からなくなってしまって
 もう、えい!とUPしてしまいました。
 赤ペン先生が欲しくてたまらない今日この頃です。(泣)
 Morlin.様、2000HITリクありがとうございました。
 相変わらずの駄目っぷりです。
 辛口のコメントお待ちしてます。(ドキドキ)


 *もうもう、凄い凄い嬉しいですっ!
  ありがとうございますっ!
  だから言ったじゃありませんか。(誰に?)
  カエル様の作品って、心模様への繊細な描写がうっとりもので、
  それで一遍に好きになってしまったMorlin.なんだって。
  常に向上したいって思ってて頑張ってるカエル様が、
  Morlin.はとってもとっても大好きですよ?

  あ、大きに迷惑かもしれないわね。(あははは…。)

  そして、カエル様のファンの皆さんと共に、
  またまたキリ番を狙ってやろうと目論む迷惑者なのでした。
  これからもお付き合い下さいませネ?

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