鼻先を掠める甘い匂いと、カリカリと云う楽しげな音で眼が醒めた。
抜ける様に高い秋の蒼空の下、自由気侭に麦藁帽子と桜色の帽子が揺れていた。
懐かしい甘い匂いは、どうやら二人の元から漂って来る様だ。
大きな欠伸を繰り返しながら近寄ると、二人は足音に気が付いたのか。
頬を丸く膨らませながら、満面の笑顔で振り向いた…凄く楽しそうな顔につられて笑う。
無邪気な子供の顔で、何を話していたのか…足にしがみ付いて来る小さな船医の頭を、そっと撫でる。
「何、してんだ?」
しゃがみ込むと、船医はトナカイの癖に、リスの様に頬を丸くし、にっこりと笑う。
隣でルフィは、同じ様に頬を丸めながら、しししっと季節外れの夏の笑顔を浮かべて、俺の肩を突付いた。
振り向くと、ぺろっと幼い舌を見せて笑う…其の舌の上には、小さくなった飴玉が転がっていた。
「飴玉」
「ん?」
「サンジがくれたんだよ。大人しくしとけって」
周りを見渡せば、ルフィとチョッパー以外の奴の姿が見えない。
どうやら俺が寝ている間に、近くの島に上陸したらしい…どうしても目立ってしまう俺達を残して。
そして、退屈な留守番をさせる代わりに、飴玉を置いていったらしい…何処迄も甘やかしてるなぁ…そう想うけど。
「サンジが戻って来る迄、キッチンに入ったら行けないんだ」
「は?」
「ちゃんと貼り紙、貼ってあるぞ」
「…俺もかよ」
「うん、だってもう、お酒の買い置きが無いって云ってたよ、サンジ」
そう笑いながらチョッパーが手渡したのは、水の入った蒼い瓶。
仕方ねぇな…と想いながらも、少し温くなった水を、一口飲み、溜息を吐き出す。
カランカランと手に握り締めた缶を振る…懐かしい赤色の絵模様の缶の中には、まだ沢山の飴玉が残っている様だ。
不器用な指で、かたい蓋を開けようとするのに溜息を吐きながら、缶を取り上げ。
代りに蓋を開けて、ルフィとチョッパーの掌に、飴玉を転がす。
「綺麗だろ」
「そうだな」
「甘いし、美味いぞ」
二人の掌の上、赤や緑、オレンジに黄色、白に透明、桃色、色鮮やかな飴が、踊る様に転がって行く。
ガリガリと音を立てて、飴を噛み砕いたルフィは零れそう笑顔を浮かべて、碧色の飴を取り。
真似る様にガリガリ音を立てたチョッパーは、薄い桃色の飴を口にした。
余り食べさせるのも良くないか…と、二人の掌の上の飴玉を缶の中に戻していると、そう云えば…とルフィが首を傾げた。
「ゾロ、あんまり飴とか食わねぇよな」
「うん、サンジのお菓子も食べないよね」
「勿体ねぇよなぁ…美味いのに」
「仕方ねぇだろ、甘いモンが苦手なんだよ」
「そっか」
甘いモン食べると、凄く嬉しいし、楽しいのになぁ…と。
がっかりと肩を落す二人に、苦笑を浮かべ、其の頭をグシャグシャと掻き回す。
頬を膨らませた二人に、思い出す様に缶の蓋を開け、中から白色の飴玉を取り出し、陽に翳す。
「うわっ…俺、其れ嫌いだ」
「俺も。何か苦手だぁ」
「そっか? 此れ位なら、何とか食えるんだけどな」
口の中に放り込むと、懐かしい味が口の中に広がって、思わず苦笑が零れる。
何とも云えない表情を浮かべる二人の額を指で弾き飛ばして、ぺろっと白い飴玉を見せる。
「…薄荷って云うんだよ、此れは」
「ハッカ?」
「…何だよ…残ってるの、全部此ればっかじゃねぇか」
「だって苦手なんだから、仕方ねぇだろ」
カラカラと、懐かしい甘い音を噛み締めながら、小さく笑った。
*オフラインの方でもご活躍中のお忙しい身でありながら、
やはり着々とお仕事のお早い一條様。
剣豪BDのDLF作品も、順調にUPなさっておいでですvv
缶に入ったドロップは、何となく懐かしいアイテムですよね。
ちなみに、私の思い出では、チョコ味のを妹と取り合った記憶がvv
ありがたく頂戴いたしましたvv
一條隆也様サイト『HEAVEN'S DOOR』へ**

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