■ 粉雪 ■

船医と料理人

美味しい昼食が済んだ後。

何時も元気なルフィは、早速釣りを始めて。
其の隣には相変わらず眠そうな顔のゾロが居て。
ウソップは、甲板に怪しい道具を広げて、奇妙な実験。
ナミは、部屋に篭って航海日誌を書いてる。
多分、ロビンも一緒かな…ナミとロビンの話は難しくて。
傍に居るのは楽しいんだけど、やっぱり難しくて。
だから、俺はサンジの居るキッチンに潜り込む事が多かった。

サンジの指が、綺麗なお菓子を作ったり。
俺の嫌いなキノコが、美味しい料理に変ったり。
そんなドキドキを見るのが、凄く楽しいんだ。

ドラムに居た時は、ケーキなんか食べた事無かったから。
ドクターもドクトリーヌも、甘いモノが見るのも嫌で。
こんなに美味しいケーキやクッキーがあるなんて、知らなかったんだ。

「サンジ?」

午後のキッチンには、甘い匂いが漂っていた。
鼻をピクピクさせながら扉を開けると、サンジが忙しそうに動き回ってる。
振り向いたサンジは、腕に銀色のボールを抱えてて、シャカシャカ掻き回してる。

「チョッパー? お菓子はまだだぞ?」
「うぅん、違うよ。良い匂いがするなって想って」

白いクリームを泡立てるサンジの手の中を覗き込んで、笑う。
火の点いてない煙草を咥えたサンジは、シャカシャカ、クリームを泡立てる。
笑いながら、手を休ませないサンジの腕の中、白いクリームが綺麗に溶けて行く。

「今日のお菓子は、何?」
「本日は、新鮮な苺たっぷりのケーキです」
「苺?」

想わずサンジの足にしがみ付いてしまうと、サンジは嬉しそうに笑った。

大好きな苺のケーキ。
サンジが作ってくれるのは、何でも美味しいけど、一番好きなのが、苺のケーキ。
零れ落ちそうな位に苺が敷き詰められたケーキ、其の上には白い粉砂糖が降っていて。
苺の酸っぱさと、粉砂糖の甘さが口の中で、ふんわり広がって行くんだよね。
何時も最後には、ルフィと苺の取り合いになっちゃって、サンジやゾロに怒られるんだけど。

「俺、何か手伝う事ある?」
「ん?」
「お手伝い、したいんだ」
「じゃぁ、此のクリーム、泡立ててくれるか?ツノが立つ位で良いから」
「うん」

もうケーキのスポンジは、オーブンの中で焼き上がりを待つだけで。
美味しい匂いが、鼻先を掠めて行くから、ピクピクさせてしまう。
後は、飾りつけ…あのふかふかのスポンジが、凄い綺麗なケーキに変るんだよね。
クリームをシャカシャカ泡立てて、ピンとツノが立ったら完成。
スポンジも焼き上がって、取り出した途端、ほかほかの良い匂いを漂わせてる。

「此れからが、本番だぞ」
「うん」

此れだけでも充分に美味しそうだけど、此れからもっと美味しくなるんだ。
サンジの手が、魔法使いみたいに、スポンジを飾って行って、キラキラ光るケーキに変る。

サンジは、慣れた手付きでスポンジを、薄く四枚に切り分けて。
表面に薄く、甘いジャムを塗り付けて、薄切りにした苺を敷き詰めて行く。
もうヒトツのスポンジにはクリームを塗って上から重ねて、順番にサンドイッチして。
で、俺が途中から手伝ったクリームで、ペンキ屋さんの様に周りを綺麗に塗り固めて行く。
ふかふかのスポンジが、真っ白なお化粧をしたら、表面の凸凹をナイフで綺麗に整えて、苺の盛り付け。

「チョッパー、やっても良いぞ」
「本当!?」

ケーキの上に乗るのを待ち構えてる、綺麗に光ってる苺を、順番に並べて行く。
サンジが並べると、苺は本当に乱れも無く、タイルみたいに敷き詰められて行くんだけど。
俺が並べて行くと、どうしても不格好になってしまう。
サンジは、完成したケーキの形を想像しながら、苺の数も計算して並べて行くんだって。
何処から見ても、綺麗な形になる様にバランスを考えたり、調整したり。
ケーキを一つ作るのに、物凄く色んな事を考えてるんだって。

「ガタガタになっちゃうよ」
「大丈夫だって」
「折角、サンジが綺麗にしてたのに」
「此れで、充分だって」

綺麗なケーキを壊しちゃう感じがして、恐る恐る見上げると、サンジは嬉しそうに笑ってて。
スポンジを塗り固めたクリームの残りを、先を切った袋に詰め込んで、にゅっと押し出して、縁を飾って行く。
小さな花弁を幾つも作り上げて行って、もうすぐ完成…苺の上に甘い蜜を塗って、そして最後の仕上げ。
「ほら、チョッパー」
「ん?」
「こうやって、振ってみな」

小さな篩の中には、甘い匂いの粉砂糖。
そっと降り掛けると、白い砂糖がハラハラと苺の上に降り積もって行く。
赤い苺が綺麗に、染まって行く…まるで。

「雪みたいだね」
「チョッパー?」
「砂糖、雪みたいだね」

ハラハラと降る砂糖の雪は、甘いケーキの上に優しく降り積もって。
甘い匂いのする雪に笑うと、サンジも嬉しそうに笑って、優しく頭を撫でてくれた。



今日のお菓子は、少し不格好な苺のケーキ。
だけど何時もよりも、苺がいっぱい飾られてて、白い粉砂糖もいっぱいで。
でも、結局最後はルフィと喧嘩になっちゃって、ゾロとサンジに怒られたんだけど。

…でも何時も以上に美味しかったんだ。

  〜Fine〜

  *Morlin.様よりリクエスト、サンジ君とチョッパーのケーキ作り。


 *なんと“数時間”という短時間で書いていただきました。
   しかも、またまた本来なら権利なかったのに。
   いつもいつも私なんかの我儘を優しく叶えて下さる一條様。
   もしやあなたは、福の神では?(…想像力貧困な奴/笑)
   サンチョパを書かせたら右に出る者はいないと、
   あえて言い切らせていただきます。
   もうもうチョッパーが可愛いし、サンジさんのお母さんぶりがvv
   本当にありがとうございましたvv
   大切にしますvv

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