誕生日のアメ *おまけ*


5月5日、子供の日。
3間後はあいつの誕生日だ。
誕生日…っつってもどうすりゃいいんだ…。



「全員そろったわね?」
あいつの誕生日が一週間に迫ったある夜。
ナミがあいつの誕生日に何かプレゼントを用意しようとのことだった。
そして今日はそのための会議らしい…。

この船ではもうお決まりとなっている誕生日会。
一番初めに言い出したのは、ルフィだった。
ちょうどナミの誕生日が近かったことを知ったルフィが
「みんなで祝おう〜!!!」と言ったのだった。
そのころはまだ、この海賊団も4人で
やっとでかい船で海を進めるようになった頃だった。
その時のナミはもちろん、あのアーロンのことは隠して
まだ「仲間」ではなく「手を組む」という形だった。
それでもあいつはいつものようにニコニコ笑って、そんなことを言ったのだ。
その時ナミは、嫌そうな顔をして「何言ってんのあんた?」と言っていた。
その頃の俺には、そんなことする必要はないと思っていた。
が、我侭なウチの船長は、ししししっと笑って
「いいからやろうぜ〜!」と言って勝手に宴会を始めちまった。

あの頃は気が付かなかったが、あの時のルフィの言葉は
ナミにとって、ものすごい嬉しい言葉の一つだったらしい。
「手を組む」から「仲間」になった今だから
心から笑って、ちゃんと一緒に祝いたいのだそうだ。
しかも、今回はあいつの誕生日…。
ナミだけではなく、他の奴ら全員もあいつの笑顔を見ていたいから
それぞれ、それのためにかなりはりきっているらしい。

「料理はサンジくんにまかせたわvv」
「は〜いvvナミさ〜んvv」
「ウソップは…」
次々と話がとんでいる中、チョッパーだけが俯いて小さくなっていた。
「どうした?」
俺の質問で、他の奴らもそんなチョッパーに気付いた。

「…あ、あのさ!!」
ものすごい必死な顔をして、切羽詰った声を出すチョッパーに
全員がなんだ、なんだと耳を傾けた。
「…ぷ、プレゼントってどんな物やればいいんだ!!?」
「へ?プレゼント?」
「うん…」
聞いてみれば、プレゼントは貰ったことしかないらしく
しかも、いつも頭にのせている帽子がそれだという。
自分が貰って嬉しかった帽子が、プレゼントになると考えたらしいが
あいつの頭の上にはすでに赤髪の野郎から貰った麦わら帽が陣取っている。
どんな物をあげたらルフィが喜ぶのか、チョッパーには分からなかったらしい。
「そうねぇ〜」
ナミが何やら考えているみたいだったが、いい予感がしないのは気のせいだろう
か。
「ん!決めた!飴よ!」
「飴?」
ナミの言葉に意味が分からなかったのは俺だけではなかったようだ。
そして、その予感が気のせいではなかったのは次の言葉で分かった。
「そう!ルフィの誕生日プレゼント!一人ずつあいつに飴をあげるのよvv」




「やっぱこれじゃ駄目か?」
手のひらにのせた、赤い銀紙に包まれた小さなひとつの飴を見ながら一人呟く。
一週間前に決まった、飴のプレゼント。
あいつは甘い菓子が大好きだし、皆から貰ったとあればさらに喜ぶだろう。
それはいいのだ、あいつの喜ぶ顔を見るのは悪い気がしない。
むしろずっと見ていたいぐらいだ。
が、自分が買ってきたこのビー玉ぐらいの大きさしかない飴。
まあ、何をやっても食いもんだったら喜ぶだろうが、
誕生日プレゼントにこれは、さすがのあいつもガッカリくるだろう。

ひとつだけなんて…そんなつもりはなかったのだ。
でかいビンに溢れるぐらい詰まったやつなんかを買えばいいと思っていたのだ。
だが、金が無かったのと、あの女や子供ばかりが集まった空間…。
それに耐えられなくて、早くここから出よう…、と
きびすを返そうとして、ふと目に止まった小さな飴の山。
その中から一つ掴んで、店の番に金を払って、おつりも貰わぬまま帰ってきた。

そして今、手のひらにのっている飴を眺めながら
せめて手いっぱいに掴んで来れば…などと考えている自分がなんとも情けない。
船はこんな俺の事情を知るわけもなく、風をうけて進んでいる。
そして、あいつの誕生日も後3日。
「こんな小せぇ飴玉だけ一個貰っても嬉しいわけねぇーよな」
そう言葉に出してみると、こんな飴玉に首を捻っている自分を見つけて
もうどうでもいいような気がしてきた。
「…食っちまうか」
あいつにやるわけにもいかないし、捨てるのも勿体無い。
甘い物は好きではないが、まぁ、たまにはいいか。
銀紙の端を引っ張って、中身を取り出すと、中に入っていた飴は
銀紙の色とは違って、薄く色がついた透明な飴だった。
それをつまんで口の中にいれると、やっぱり甘い味が広がって少し顔をしかめた

「…りんごか?」
口の中に広がったのは、甘酸っぱいりんごの味だった。
ガキの頃はこんな物をよく好んで食べたな、と思い出して苦笑した。
口の中で溶けていく飴の代わりはもう無い。

「はぁ…どうすっかな」
ため息をまたついて、閉じていた目を開けると、いつの間に来ていたのか
俺の前でしゃがんでいるルフィと目が合った。
「どうした?」
口の中の飴を少し邪魔に思いながら、
当たり前のように俺の膝の上に座ったルフィに話しかける。
すると少し怒ったような表情を見せたルフィが、ゾロ!と俺の名を読んだ。
こいつの機嫌を損ねるようなことはしていないぞ?と自分の行動を思い出してみ
る。
そして、やっぱり怒ったような顔をするルフィはこう言った。
「ゾロだけお菓子食ってる!!おれにもよこせ!!」
あぁ。これのことか…匂いで分かんのか?さすがルフィ…。
しかし、やりたくてもこれ以外は何もない。
だが、目の前には口をへの字にしてるルフィ。
「…まぁ、いいだろ」
「へ?くれんのか!!」
俺の言葉に、飴が貰えると思ったのか、パアッと明るい顔になるルフィに
少し怪しい笑みを浮けべて、喜んでいるルフィの顎をクッと上に向かせる。
「ゾロ?早くおれにも…!!」
早く!と鳥の雛のようにあんぐり開ける口を、俺ので塞いでやった。
もちろん雛に餌をあたえるために。
「んっ!…ん…はっ……」
逃げられないように頭の後を掴んで、腰を力を入れてぐっと抱く。
りんご味の飴をルフィの口に入れてやりながら、味を楽しんでゆっくりと離れた

「……」
「嬉しいだろ?」
ニヤッと笑って、息を切らして真っ赤な顔をしているルフィに
耳元でボソボソ言ってやると
さらに顔を赤くして、俺を弱々しく押して離れようとする。
そんなルフィの反応がおもしろくて、声を殺して笑った。
「飴だよ、飴。美味いだろ?」
「!!…アメ?」
「そう、飴。他に何かあるのか?」
「!!……なにもないよ!リンゴ味だ!」
「ははははっ!」
「笑うな!!バカゾロ!もう知らん!!」
一つでも買ってきてて良かったか?
そんな馬鹿なことを考えながら、ポカポカ俺を叩いて抵抗しているルフィを
また、しっかり抱きしめて。
そろそろと首にまわったルフィの細い腕にまた笑いを殺して。
随分と自分勝手だが、愛が詰まってるから。
なんて全く自分らしくないことを言い訳にして。
「プレゼントはこれでいいか?」
「?…うん?」
今度はちゃんと買ってやるから、もっとたくさん…山ほど買ってやるから。
でも今回はこれで勘弁してくれなんて。




  Happy Birthday ルフィ




end


*恋蘭サマのサイト『Frower Robot』にて掲載されました、
 船長BD企画小説へのオマケ篇ですvv
 もうもう、相変わらずにラブラブな二人でしょう?
 こんなに可愛らしいお話を下さって、本当にありがとうございますvv



恋蘭様サイト『Flower Robot』へGO!⇒***


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