まーむ様サイト『Spring』より
  おめでとうのキスを


空は快晴、波は穏やか。
風は爽やかに今日も賑やかな海賊船の上を通り過ぎる。

5月5日は、この元気な船の船長の誕生日。
今日の日は当の本人の口からではなく、
気は強いがなかなかに気のつくこの船の航海士が夕べの食卓で知らせた。


「明日はね、ルフィの誕生日よv」
「ええっそうなのかっ?!」
「あんたが驚いてどうすんの」
「なんでナミそんなこと知ってるんだ?」
「なんでだったかなー。あ、そうだ。ルフィがあたしの名前の由来を聞いてきたときだわ。その時にあたしも聞いたのよ、お付き合いで。」
「付き合いかよっ」
「さっすがナミさん!よく気がつくな〜〜〜♪」
「まあね。聞いてた?そこの腹巻っ」
「どーしてそこでオレが出てくるんだよ!!」


そんなわけで、通常でも十分賑やかなこの船は、
朝から船長を取り囲んでお祝いの言葉が振りまかれていた。
誕生日だからといって、航海中の船の上、何ができるわけではないが。
大好きな船長に誰も彼もが張り付いて、祝いの気持ちを言葉で、態度で表していた。
「おお、ありがとなっ!!」
誰にも分け隔てなく嬉しさを体いっぱいに表して答えるルフィ。
その太陽のような笑顔に、誰もが共に居られる事をココロから喜んで。
交し合う笑顔。
そんな風景をいつもと変わらぬ場所で変わらぬ態度で過ごす剣士。
いつもより、ほんのちょっとだけ眉をしかめて。
面白くない。
面白くないぞオレは。
船首の対面の位置に、壁に寄りかかって。
誰が見てもそう思ってる事が知れるその寝姿。



しばらくすると、皆思う存分祝えたと満足したのか
それぞれの場所に散っていったようで。
静かな波の音だけが聞こえてくるようになった。
時折それに混じって、ウソップがカナヅチを振るう音。
キッチンからガチャガチャと食器の触れ合う音。
そのいつもの音に誘われるようにゾロが眠りに落ちそうになった頃。




ドカっ。
「ぐっ・・・」
突然の衝撃。
前屈みになって重みの正体を何となく分かりつつも見上げると。
偉そうな顔をして踏ん反り返ってるルフィがいた。
大きな目をぱちくりしていたかと思うと、にっこり笑って。
「しししし!」
「てめぇ・・・・」
「ゾロ!!キスしてくれ!!」
突然の要求。
「・・・・は?」
「あのな、キス!!」
「てめぇはいきなり何を言い出すかと思えば・・・」
早く早くと両足をばたつかせてひざの上で跳ねるルフィを丸っきり理解出来ずに動揺するゾロ。
ルフィの大きな目に対抗するように目を見開いて。

キスって言ったか?
キスって・・・おい。
全くついていけない。相手の理解を得ようとして話していないルフィには。
自分の体験と意見だけを伝えるその話術を理解するには、毎度の事ながら限りなく想像力と野生の勘が必要なのだけど。
キス?あまりにも非日常的なその単語に。
目がついその目の前の唇に行ってしまって。
真っ赤になる。


「うわっゾロ真っ赤だぞ?!どうかしたのか?」
「てめぇのせいだろが!!何でそんなこと言い出してんだって聞いてるんだ!」
「えーだって、他の皆はしてくれたぞ?」
「・・・・・は?」
「あのな、おめでとうだからって」


フレンチなキスがあることを知らない生真面目なゾロは
知らず頭の中にルフィとクルーたちとのキスシーンを想像して。
特にコックとの場合を想像して。
額に青筋が浮き出るほどの怒りを覚える。
赤くなったり怒り出したり忙しいゾロの様子を不思議に思いながらも、だんだん焦れて来たルフィは体全体で訴えだした。
「ゾロ!!!」
「はっ?!」
「なんだゾロは!!オレにおめでとうのキスすんのが嫌なのか?」
「あ?いや、そういうわけじゃなくって・・・」
腹の上のルフィの存在を忘れてたゾロは、ルフィが怒り出したのを見て慌てた。
この船長は怒らせるとまずい。
何を言っても聞かなくなる。
何よりもこのまま自分だけキスをしないで終わってしまうのはとてもまずい。
まずいというか、勿体無い。
なんでそう思うのかまでは本人も気づいていないところなのだが。
「わ、悪かった、ルフィ怒るな」
「んじゃキスするか?」
「する」
「んじゃ」
はい、どうぞ、とばかりにそのとても年相応には見えない可愛らしい顔をぐっと近づけてきた。
ゾロの目の前にいっそう近づいたルフィの顔。
いつも見ているのにこれからキスをする、という気持ちで見ると、何とも恥ずかしくって。
思わず逸らしたくなるのだけど。
何故か余計に凝視してしまう。
その黒い瞳、柔らかそうな頬、赤い唇。
鼓動が跳ねて、心臓が口から飛び出そうな程だと、ゾロは自覚しながら吸い寄せられるように自分の顔も寄せていく。
「ルフィ・・・目、瞑ってくれ・・・」
「目?ん、こうか?」
不思議そうな声で答えながらも、素直に瞼を閉じたルフィのあまりの可愛らしさに
さらに鼓動を速めながら。
ゾロはその肩を引き寄せて赤い唇にそうっと
触れるだけのキスをした。



肩を離してルフィの顔を見て、ゾロは驚く。
真っ赤になってる。
あの、ルフィが。
大きな目を見開いて、何か言いたげに口を動かすのだけど、言葉にならないようで。
もぞもぞとひざの上で身動ぎまでして。
まるで。
初めてキスしたみたいに。
恥らってるみたいに。




おかしい。
今「皆としたからゾロもしてくれ」って言ってこなかったか?こいつ。
そう思っていたら、ルフィがようやく落ち着いたのか口を聞いた。
「ゾロ・・・お前オレのこと好きなのか?」
「え・・・?・・・・ルフィ、ちょっと聞くが」
「なに?」
「皆としたキスって・・・どこにしたんだ?」
途端に背後から空気を揺るがすほどの爆笑が聞こえてきた。
それも複数の。
ゾロが冷や汗を流しながら振り返ると、思ったとおり。


「ぶわっはっはっは!!やっぱり〜〜!!!」
「あのハゲ、分かってないと思ったんだよなーーー!!」
「ぎゃははははっ!!あ、あ、あの顔!!ひィ〜〜〜〜!!!」
「お、おいお前ら・・・止せよ・・・(船が壊れるから)」
ナミとサンジが床をのた打ち回りながら爆笑している横で、ウソップとチョッパーがおろおろしている。
「てめぇら・・・・・」
もう怒りと恥ずかしさで続ける言葉もないゾロ。
「何だ、やるか?てめぇが勝手に勘違いしたんだろが」
「そうよう。誰もルフィを仕掛けたわけじゃないわよ?
ちゃんと皆でお祝いしてるときに起きてなかったあんたが悪いんじゃない」
ぐっ。
確かにそうなんだが。
「まあ。もうそのくらいにしたら?剣豪さん本気になっちゃうわよ?」
「はぁ〜いロビンちゃんv」
「そうね、修理費も馬鹿にならないしね〜あー面白かった!」
二の句が継げずにただ怒りに肩を震わすゾロを気の毒に思ったのか
船が壊れたら面倒と思ったのか助け舟をだすロビン。
大笑いしてすっきりしたのか上機嫌な二人と恐怖に震える二人を従えてキッチンに去っていった。


ギャラリーがいなくなってそういえば、と膝の上の人物に目をやると。
いまだぼーーっとしているルフィがそのままチョンと座っていた。
「あー・・・ルフィ、すまねぇ・・・」
あまりにいつもと様子の違うルフィに、思わず謝るゾロ。
その声に、ルフィはゆっくりと顔を上げてゾロの顔を見る。
「あの・・・ルフィ?」
「ゾロ・・・・」
「なんだ・・・?」
「あのさ。なんか今の・・・」
固唾を呑んでルフィの言葉を待つゾロ。
自分は確かにルフィに好意を持っている。
それは以前から自覚のあるところだが、まさかキスをするとは思わなかった。きっとルフィもそうだろう。
男からのキスなんて。
きっとルフィは嫌だったのだろうな。
そう思って気まずい気持ちでいると。
「今のさ、気持ちよかった!!」
「!?」
「ゾロ、もっかいしてくれ!!」
「い・・いいけどよ・・・でもお前・・・」
「もっかい!!」
「はい」

今度は。
勘違いじゃない。
ルフィも、自分も望んでのキス。
ゾロはひとつ深く深呼吸をすると、その柔らかな頬を大きな手のひらでゆっくりと包み
自分から瞼を閉じたルフィに顔を寄せる。
甘い呼吸が交じり合うほど近づくと、僅かにルフィの項が震える。
躊躇してるのかとその表情を伺えば、ほんのり赤みを指した目元が優しげで。
勇気を出してその桜色の唇に、大事に大事に自分の唇を合わせた。
「おめでとう」と「スキ」の想いを乗せて。

ゆっくりとお互いに離れて、顔を見合う。
途端に火を噴いたように真っ赤になる二人。
「な、なんかすげードキドキするっ!!どうしてだゾロ?」
ドキドキしてるのはお前だけじゃないと思いながらも、その正直な様子に思わず笑みが零れる。
「な、ゾロお前もドキドキしたか?初めてだオレ、こんなの!」
興奮して手足をバタつかせるルフィの体を引き寄せ、軽く抱きしめる。
「分かるだろ?ほら」
「・・・うん。ドキドキしてる。二人分」
少し戸惑いながらも、答えて背中に回された細い腕に、愛しい思いが溢れて来て、少し焦るゾロ。
自分の気持ちに気がついたのは、たぶんこれが最初だろう。
愛しい気持ち。
少し幼いルフィが自分と同じ気持ちかどうか確かめるのはまだ早いと、そっとその体を離して。
「誕生日おめでとう、ルフィ」
「ありがとう!!」
誕生を喜び合う。
生まれてきたから出会えたのだから。
触れ合いに満足したのか、元気にゾロの膝から飛び上がり、腕を引き上げる。
「ゾロ、メシだぞ、食いに行こう!!いつもより豪華なんだって!」
「そうか」
緩んだ顔を引き締めないとな。
悪魔たちの餌食になっちまう。
そう思って気持ちを入れ替えようとしているゾロに、頭から水を掛ける様な言葉が聞こえてきた。
先立って楽しげにピョンピョン跳ねるように歩いていたルフィの口から爆弾発言。
「他の奴とも口でしてみよーーかなっ?!気持ちいいかなーー?」
「何ーーーーっ?!わーーーっ待てっルフィっ!!!」
猛ダッシュ。

誕生日に。
ゾロの船長お守りメニューに新たに「恋愛講座」が設けられた。




                                    END


前々から通わせて頂いておりましたまーむ様のサイトからの“強奪品”でございますvv
キスにも色々あるって知らないウブなんだか大胆なんだか、
きっと前者なのでしょう剣豪のらしさが可愛いvv(笑)
しかもしかもちゃんと両思い前提で、真っ赤になるルフィもこれまた可愛いvv
初めてカキコさせていただいたばかりで作品を強奪してくる、
なんとも図々しい奴ですが、
この愛らしくもピュアなお話を前にして、どうしても手が止まらなかったのですよ。

これからはお伺いしたらちゃんとご挨拶できるいい子になります。
どかどか、この我儘をお許し下さいませですvv

まーむ様サイト『Spring』へ**

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