クーラー


起きてろって言ったのに。
寒いくらいにクーラーが効いた殺風景な部屋で、ベッドにきちんとくるまっている恋人は、電話でオレが「遊びに行くから寝るなよ」と言ったことに対し「あぁ」と答えなかっただろうか。
いや、答えた。
この間、古典の授業で習った「反語」をこんな所で使うことになるなんて。
ため息をつきながら、コンビニで買ってきたスナック菓子の袋を開ける。
うす塩味。
床で食うなっていつもはうるさいけれど構うもんか。
寝てるやつが悪いんだ。
ベッドに寄りかかって、規則正しく聞こえてくる寝息を耳に、きっとゾロはちょっとのことで起きることはないんだろうけれど、なぜかテレビのリモコンを選ぶのは気が引けて、ゾロの枕元に置いてある単行本を手にとった。
宮本武蔵。
笑えた。
好きそうだ。
開いたまま置いてあるってことは読んでる途中で睡魔に襲われたんだろう。
その場所を抑えてページを進めてみるが普段、教科書以外の活字を見ることのないオレは眩暈を起こした。
閉じる。
あぁ、閉じちゃいけなかったんだっけ。
まぁいいや、寝てるやつが悪いんだ。
「宮本武蔵」を元に戻して、ためしに名前を呼んでみると珍しいことに反応があって、寝返りをうったゾロは薄目を開けた。
「…寒ィ」
「クーラー効きすぎだもん」
「んー…」
「寝るなっつったのに、何で寝てんだよ」
薄目はもう閉じてしまっていて、けれど答えは「…眠かったから」ときちんと返ってきた。
怒る気も失せてきて、ばすんと乱暴にベッドに腰かけると、今度は向こうから名前を呼んできて振り返ると、オレと自分の間にできたスペースをぽんぽん叩いていた。
「…」
それに従う。
ころりと横になると腕がかぶさってきてオレを抱き寄せる。
「…冷てェ」
「だから、クーラー効きすぎなんだって、ここ」
ゾロは無言だった。
クーラーの動く音だけが響く。
それからゾロの心臓の音も聴こえてきて、それの所為じゃないだろうけれど体温は上がってゆく。
ゾロもオレの頭の上で。
「ぬくい」
「オレ抱き枕じゃないんだけど」
「んー」
言ってるのに足まで絡めてきて、制止するのを笑ったのが1回きり、ゾロは本格的に夢の中。
身動きできないオレは、どうせ何をしたってゾロは起きないんだろうけれど、仕方なく恋人の胸に頭を寄せる。
体温は上がる、瞼は自然、重くなってくる。
「うす塩味、湿気るなぁ」
オレは微笑まじりで呟いて、目を閉じた。



   〜Fine〜


*文が長ったらしい。
 Morlin様へ リクありがとうございました★
 うたた寝じゃないし抱き枕なのかも微妙ですが、
 頑張りました。


*7000hit『ルフィを抱き枕にうたた寝してしまうゾロ』
 という、いかにも甘いお話をリクエスト致しましたところ、
 こぉんなに可愛い“いちゃいちゃゾロル”を書いて下さいました。
 宮本武蔵っ!
 いかにもゾロが読んでそうですねvv(笑)
 もしかして、勉強する時は度の軽いメガネかけてるタイプのゾロなのでしょうか?
 うあ〜〜〜、素敵だなぁvv
 そして、さりげなく甘えているゾロと、
 しょうがないなぁと言いつつ、
 内心では凄っごく嬉しそうなルフィのアツアツぶりがもうもうツボですvv
 如月サマ、本当にありがとうございます!
 大切に読ませていただきますね?


如月弥生サマのサイト『SEA SKY』へGO!**

back.gif