「しーっ」
ルフィは草むらにしゃがんだまま、ゾロの方を向いて、唇に人差し指を立てた。
ゾロは黙ったまま、なるべく音を立てないよう、そこに座り込む。
ルフィは口元だけ嬉しそうに緩ませて、まるい手をぐぐぐと伸ばす。
手の先には黄緑色の大きなバッタ。
「・・・・・・あっ」
あと一歩、というところで、ルフィの手の中からスルリと抜けてしまう。
「おまえ、へたくそなんだよ」
バッタよりも濃い緑色の短い髪を、ボリボリと掻いてゾロは言う。
「うるせー!ゾロの虫かごなんかカラッポじゃん!」
ルフィはそう言って、自分の虫かごを見せる。
中には小さなカマキリが一匹。
「あっおまえ!いつの間に!」
負けず嫌いのゾロは、大きな声で言う。
その様子を見て、ルフィは勝った!とばかりに、ニカッと笑う。
「あー喉乾いた。ゾロ、俺の家でジュース飲もう。暑い」
「おまえ勝ち逃げか!」
「あーあちー」
「話聞けっ」
ルフィは小学2年生。
ゾロは小学3年生。
当たり前のように毎日遊んで、笑って、ケンカして。
そんな、幼馴染。
「ただいまー」
「ただいまー」
泥んこの2人が、元気いっぱいルフィの家に帰って来た。
「あーおかえりー」
クーラーのきいた部屋から、涼しげな顔をしてきたのは、ルフィの兄のエース。
「おまえはまた虫とりか・・・よく飽きねェな。で、ゾロ。おまえは“ただいま”じゃなくてお邪魔します、だろ」
ゾロはヘヘヘ、と照れくさそうに笑う。
エースも一緒に少し笑って、さっきまで読んでいたのであろう、厚い本をパタンと閉じ、麦茶でも飲むか?と言った。
「俺カルピスがいい」
泥まみれのTシャツを脱いで、ルフィが叫ぶ。
「へいへい」
エースはコップを2つ取り出して、冷蔵庫を開ける。
「なあなあエース!見てくれよ!今日の収穫!」
「んー?」
テーブルの上に、ルフィの虫かごがコトと置かれる。
「またバッタかよ・・・ていうかおまえがつかまえて帰ると、死んじまうんだからな」
「うるせー!死んだりしねェ!」
「あのなぁ・・・いつも俺が外に逃がしてやってんだぞ?ホラ、カルピス」
ゾロはいただきまーす、と言って、水滴のついたコップを握りしめる。
抜け駆けはズルイんだぞ、と言ってルフィも飛びつく。
「誰もとったりしねェから、ゆっくり飲め」
ゴクゴクと一生懸命にカルピスを飲む2人に苦笑しながら、エースが言う。
「虫とり、ね・・・」
エースは、狭そうにピョンピョン跳ねているバッタを見る。
中学1年生のエースには、毎日泥んこになって、虫とりをして遊んでいるルフィとゾロの気持ちは分からないようだった。
「虫とりだけじゃねェ。今日は探検もした!」
先にカルピスを飲み終わったゾロが得意気に言う。
どっちも変わらねェけどな、と小声で言って、エースは部屋にひっこんでしまった。
「エースは俺達がガキだから外で遊ぶのが好きなんだって言うけど、エースはもっとちっちぇー頃から、部屋で本ばっか読んでた」
「ふーん」
ルフィはよいしょ、と背伸びして、2つのコップをシンクに入れる。
それから、たすの引き出しを開けて、Tシャツを2枚取り出す。
「はい、ゾロ。泥だらけだからこれ着ろ」
ゾロはありがとな、と言って、今着ているものを脱いでそれに着替える。
「よし!また遊びに行くぞ!」
「次はなんの勝負だ?」
「ゾロは勝負ばっかでつまんねェ!次は海賊ごっこだ!」
バタバタと大きな声で叫びながら、2人は再び家を飛び出した。
「・・・・・・ルフィ」
ある日の真昼間。
エースは、図書館で借りた本をすべて読み終え、新しい本を借りに出掛けようとした時の事だった。
休日だというのにも関わらず、ルフィは部屋でゴロゴロしていた。
ゴロ寝が決して嫌いなわけでもないが、こうして明るく晴れた休日は、必ずと言っていいぐらいゾロと遊びに行くのに。
「珍しいな」
「・・・・・・うん」
ルフィは寝転がったまま、ダルそうに答える。
「ゾロは?」
「知るか、あんなやつ!」
急にルフィはガバッと起き上がり、怒った声で言う。
エースは軽く溜息をついて、
「またケンカか?」
と言った。
小さな口喧嘩のようなものは毎日だけど、大抵はすぐに忘れて遊びに行くはずなのに。
「ケンカじゃねェ・・・ゾロが悪いんだ」
「ったく、おまえはいつもそうやって・・・」
エースは殺気立っているルフィの隣に座る。
「で?どういう成り行き?」
「ゾロは、もう俺と遊んでくれないんだって」
これは驚いた。
エースは目をまるくして聞く。
「ゾロが?」
「うん。俺はまだ2年生でガキだから」
「・・・・・・ふんふん」
「ゾロはもう3年生で、俺と遊ぶのは幼稚なんだって」
クラスメートに、2年生と遊んでるってからかわれたな・・・
エースは心密かにそう思った。
「ゾロなんか嫌いだ」
ルフィはポツリと言った。
「俺、今日誕生日なのに」
ムカツク。
ゾロは畳にゴロリと寝転がって、心の中で思う。
――――――ゾロ、2年生の子と遊んでるの?ガキだね。
クラスメートのくいなは楽しそうに笑う。
「・・・・・・あいつ」
くいなとは、仲がいいのか悪いのか、ゾロ自信もよく分からないけど、とにかくいつもからかってくるから、あんまり好きではないかもしれない。
い草の匂いが、ふんわりする。
でも、今頼れるのはあいつしかいない。
そう思ってゾロは立ち上がり、くいなの家に向かった。
いつもと同じ探検コースも、楽しくて仕方がない虫とりも、公園のジャングルジムでやる海賊ごっこも。
1人でしても全然つまらなかった。
ルフィはブランコに腰掛けると、キィキィと鎖が軋む。
と、ゾロの姿を遠くに見つける。
ルフィは立ち上がり、ゾロの方へ走って行く。
やっぱり、ゾロと遊びたい、一緒にいたい。
1人って、こんなにつまらないって分かったんだ。
その瞬間、ルフィの目をかすめた黒い髪。
黒い綺麗なショートヘアーの女の子と、ゾロは一緒にいた。
白い花が咲く夢のような花畑に。
不器用に、でもゾロは恥ずかしそうに笑っていた。
ルフィはなんとなく悔しくなって、家に走って帰った。
「ルフィ、おいルフィ」
クッションに突っ伏しているルフィに、エースが声を掛ける。
「おまえいい加減機嫌直せ」
何時間もルフィがそうしたまま動かないので、エースもイライラしてきたらしく、怒鳴りつけるように言う。
「だって・・・」
やっと顔を上げて、ルフィはボーッとした表情のまま、虚空を見つめている。
エースが困り果てていると、玄関のチャイムが鳴った。
「ゾロかもな」
「・・・ゾロだったら、チャイムなんか鳴らさねェよ」
そう言って、ルフィはまたクッションに顔を突っ伏してしまった。
エースは横目でチラリとルフィを見て、玄関に向かった。
「はい」
ドアを開けると、エースの予想通り、ゾロがそこにいた。
何かを背中に隠し持っている。
「ルフィいますか」
敬語など使って、少しかたい口調でゾロが言う。
「あーいるよ、なんか打ちひしがれてるけど?」
エースはくくっと笑って、上がるか?と聞いた。
ゾロがどうしようかなーという顔をしていると、ルフィがひょっこり顔を出した。
「ゾ、ゾロ!」
うっかり目が合ってしまったらしく、ルフィは動揺する。
「まーあとは仲直りでもなんでも勝手にやってくれ」
エースはヤレヤレ、と言った感じで玄関を後にした。
「・・・・・・ゾロ」
ルフィは玄関に歩いて行って、少しだけ背の高いゾロを見上げた。
「俺とはガキだから遊ばねェんじゃないっけ?」
ゾロは、こくん、と頷いた。
「じゃー帰れよ、他の子と遊んでたらいーじゃん」
「そうじゃなくて」
ゾロは恥ずかしそうに下を向く。
「これ、誕生日」
ずっと後ろにまわしていた手をスッと出して、シロツメクサで作った花冠を、ルフィの頭の上にファサリと乗せた。
「俺はガキとは遊ばねェ・・・けど」
ぽかん、と口を開けているルフィにゾロは言う。
「おまえ、今日で七歳だから、いい事にしてやる」
「・・・・・・じゃあ」
ルフィは嬉しそうに花冠に触れ、
「今から遊びに行こう!」
と、ゾロの腕を引っ張った。
「おう!」
ゾロも楽しそうに笑って、ルフィの後について行った。
「なあ、ゾロって不器用なのにこんなのよく作れたなー」
「うるせェ」
「でもうれしーぞー!」
不器用な指先で作られた、シロツメクサの花冠は、ルフィの七歳の証です。
愛川様のサイトでは、船長お誕生日記念に連日SSをUPなさってるそうで、
さっそく伺ってDLさせていただきましたvv
幾つもある中から、つい選んだのが“ちびバージョン”というところに、
Morlin.の病のほどが伺えてもきますが。(笑)
無邪気で呑気で元気元気で、けどでも子供なりの屈託はあるらしくって。
お子様なりのすれ違いとか、ちょっぴり張っちゃった見栄みたいなのとか。
何とも言えない愛らしさが堪りませんっ!(危ないぞ、こら/笑)
物凄く年が違うお若い愛川様なのですが、
でもでもやはり、作品、覗かせていただくのは辞められません。
これからもどうかよろしくお願い致しますvv
愛川いちご様サイト『VERY CURE』へ**

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